呼吸系疾患分野|胎児・新生児肺低形成(平成24年度)

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1. 概要

胎児・新生児肺低形成とは、肺胞や気管支・肺葉などの数やサイズの減少を伴う肺の発育形成不全のことをいう。正常肺の発育を阻害する他の胎児異常に伴って二次的に発症するものが多いが、特発性の発生も知られている。肺低形成は、しばしば新生児の死因となったり、死産においても時に認められる。肺低形成の度合いを評価するものとして、肺重量の減少、肺容積の減少、肺DNA量の減少、肺胞数の減少などがある。剖検例では一般に、肺重量/体重比が0.012以下の場合を肺低形成としている。

2. 疫学

肺低形成の発生例は、年間200〜300例程度と推定されるが詳細は明らかではない。原因疾患として先天性横隔膜ヘルニアによるもの、先天性嚢胞性肺疾患によるもの、胎児胸水によるもの、胎児尿路閉塞性疾患によるもの、羊水過少によるものなどがあるが、各疾患における発生頻度は明らかでない。

3. 原因

本症の多くは他の胎児異常に伴い二次的に発症する。その原因の一つは、先天性横隔膜ヘルニアにおける腹腔内臓器や、先天性嚢胞性肺疾患における嚢胞性病変、胎児胸水などによって、胎児肺が圧迫されるためである。また本症は、胎児尿路閉塞性疾患における巨大に拡張した膀胱と、高度の羊水過少によっても生じる。胎児呼吸様運動によって生じる胎児肺に対する圧刺激は、チロシンキナーゼ受容体や成長因子、レチノイン酸シグナル伝達経路を介し、肺の発育を促進させるとされる。すなわち、胎児肺が周囲からの圧迫や羊水過少のために、呼吸様運動を抑制されることで肺低形成が発生すると考えられる。

4. 症状

肺低形成の主たる症状は、さまざまな重症度の呼吸障害である。患児は、しばしば酸素投与、人工呼吸、一酸化窒素吸入療法、膜型人工肺などを含めた呼吸補助を必要とする。呼吸不全のために出生直後に死亡する例も稀ではない。

5. 合併症

原因疾患と関連してた様々な合併奇形を伴う場合がある。新生児遷延性肺高血圧症は本症のよく知られた合併症である。高条件の人工呼吸に伴って気胸を発生することも多い。長期間の羊水過少による胸郭圧迫変形を伴う場合もある。長期の合併症としては、慢性肺障害や循環不全、成長発育障害、精神発達障害などがある。

6. 治療法

治療は、出生前の治療、出生時の場所とタイミング、出生後の治療に大別される。肺低形成が最も高度な症例は胎児治療の適応となる。胎児治療として先天性嚢胞性肺疾患では嚢胞内の液を排出するための嚢胞-羊水腔シャント術が、胎児尿路閉塞性疾患では膀胱-羊水腔シャント術が行われている。先天性横隔膜ヘルニアにおいても、胎児鏡下気道閉塞術が試みられる。特に肺低形成のリスクの高い胎児については、高度医療が可能な施設で計画分娩することが必要である。出生後には酸素投与が必要な患児も多く、より重症例では高頻度振動換気や一酸化窒素吸入療法、膜型人工肺などの高度医療を行わなければ救命できない。

7. 研究班

胎児・新生児肺低形成の診断・治療実態に関する調査研究班