サルコイドーシス(指定難病84)

さるこいどーしす
 

(概要、臨床調査個人票の一覧は、こちらにあります。)

○ 概要
 
1.概要
サルコイドーシスは原因不明の多臓器疾患であり、若年者から高齢者まで発症する。発病時の臨床症状が多彩で、その後の臨床経過が多様であることが特徴の1つである。肺門縦隔リンパ節、肺、眼、皮膚の罹患頻度が高いが、神経、筋、心臓、腎臓、骨、消化器など全身のほとんどの臓器で罹患する。以前は検診で発見される無症状のものが多く自然改善例も多かったが、近年は自覚症状で発見されるものが増加して経過も長引く例が増えている。乾酪壊死を伴わない類上皮細胞肉芽腫の証明があれば組織診断群となるが、組織生検による診断が得られない場合には臨床診断群又は疑診群となる。肺、心臓、眼、神経、腎臓など生命予後・機能予後を左右する臓器・組織では、十分な治療と管理が必要である。
 
2.原因
原因は不明とされているが、疾患感受性のある個体において、病因となる抗原によりTh1型細胞免疫反応(IV型アレルギー反応)が起こり、全身諸臓器に肉芽腫が形成されると考えられている。原因抗原としてプロピオニバクテリア(アクネ菌)、結核菌などの微生物が候補として挙げられており、遺伝要因としてヒト白血球抗原(HLA)遺伝子のほか、複数の疾患感受性遺伝子の関与が推定されている。
 
3.症状
発病時の症状は極めて多彩である。検診発見の肺サルコイドーシスなど無症状のものもあるが、近年は有症状のものが増えている。
サルコイドーシスの症状には、「臓器特異的症状」と「(臓器非特異的)全身症状」とがある。臓器特異的症状は、侵された各臓器によって引き起こされる咳・痰、ぶどう膜炎、皮疹、不整脈、息切れ、神経麻痺、筋肉腫瘤、骨痛などの様々な臓器別の症状であり、急性発症型のものと慢性発症型のものがある。全身症状は、臓器病変とは無関係に起こる発熱、体重減少、疲れ、痛み、息切れなどである。これら全身症状は、特異的な検査所見に反映されないために見過ごされがちであるが、症状が強いと患者のquality of life(QOL)が著しく損なわれることになる。
 
4.治療法
現状では原因不明であり根治療法といえるものはなく、肉芽腫性炎症を抑える治療が行われる。症状軽微で自然改善が期待される場合には、無治療で経過観察とされる。積極的な治療対象となるのは、臓器障害のために日常生活が障害されている場合や、現在の症状が乏しくても将来の生命予後・機能予後の悪化のおそれがある場合である。全身的治療薬は、副腎皮質ステロイド薬が第一選択となる。しかし、再発症例、難治症例も多く、二次治療薬としてメトトレキサートやアザチオプリンなどの免疫抑制薬も使用されている。局所的治療は、眼病変、皮膚病変ときに呼吸器病変に対して行われる。
 
5.予後
予後は
一般に自覚症状の強さと病変の拡がりが関与する。臨床経過は極めて多様であり、短期改善型(ほぼ2年以内に改善)、遷延型(2年から5年の経過)、慢性型(5年以上の経過)、難治化型に分けられる。無症状の検診発見例などでは自然改善も期待されて短期に改善することが多いが、自覚症状があり病変が多臓器にわたる場合には、慢性型になり数十年の経過になることもまれではない。肺線維化進行例や拡張型心筋症類似例など、著しいQOLの低下を伴う難治化型に移行するものもある。
 
○ 要件の判定に必要な事項
1.患者数(令和元年度医療受給者証保持者数)
14,950人
2.発病の機構
原因となる抗原物質に対するTh1型遅延アレルギー反応の結果として肉芽腫が形成される。
3.効果的な治療方法
未確立(根治的な治療法はなく、副腎皮質ステロイド薬や免疫抑制薬などの対症療法にとどまる。)
4.長期の療養
必要(慢性炎症性疾患であり、一部の症例で進行性、難治症例となる。)
5.診断基準
あり(学会で認定された基準あり)。Definite(組織診断群)、Probable(臨床診断群)ともに指定難病の対象とする。
6.重症度分類
学会及び班会議で検討した新分類において重症度IIIとIVを公費助成の対象とする。
 
○ 情報提供元
「びまん性肺疾患に関する調査研究班」
研究代表者 浜松医科大学内科学第二講座 教授 須田隆文
 
 
<診断基準>
Definite(組織診断群)とProbable(臨床診断群)を指定難病の対象とする。
 
A.臨床症状
呼吸器、眼、皮膚、心臓、神経を主とする全身のいずれかの臓器の臨床症状あるいは臓器非特異的全身症状
l臓器非特異的全身症状:慢性疲労、慢性疼痛、息切れ、発熱、寝汗、体重減少
l呼吸器:胸部異常陰影、 咳、痰、息切れ
l眼:霧視、飛蚊症、視力低下
l神経:脳神経麻痺、頭痛、意識障害、運動麻痺、失調、感覚障害、排尿障害、尿崩症
l心臓:不整脈、心電図異常、動悸、息切れ、意識消失、突然死
l皮膚:皮疹(結節型、局面型、皮下型、びまん浸潤型、苔癬様型、結節性紅斑様型、魚鱗癬型、瘢痕浸潤、結節性紅斑)
l胸郭外リンパ節:リンパ節腫大
l筋肉:筋力低下、筋痛、筋肉腫瘤
l骨:骨痛、骨折
l上気道:鼻閉、扁桃腫大、咽頭腫瘤、嗄声、上気道狭窄、副鼻腔炎
l外分泌腺:涙腺腫大、唾液腺腫大、ドライアイ、口腔内乾燥
l関節:関節痛、関節変形、関節腫大
l代謝:高カルシウム血症、尿路結石
l腎臓:腎機能障害、腎臓腫瘤
l消化管:食欲不振、腹部膨満、消化管ポリープ
l肝臓:肝機能障害、肝腫大
l脾臓:脾機能亢進症状(血球減少症)、脾腫
l膵臓:膵腫瘤
l胆道病変:胆道内腫瘤
l骨髄:血球減少症
l乳房:腫瘤形成
l甲状腺:甲状腺機能亢進、甲状腺機能低下、甲状腺腫
l生殖器:不妊症、生殖器腫瘤
 
B.特徴的検査所見
1.両側肺門縦隔リンパ節腫脹(Bilateral hilar-mediastinal lymphadenopathy:BHL)※1 
2.血清アンジオテンシン変換酵素(ACE)活性高値または血清リゾチーム値高値
3.血清可溶性インターロイキン-2受容体(sIL-2R)高値
4.67Ga シンチグラフィ又は18F-FDG/PETにおける著明な集積所見
 ①心臓のみ  ②「心臓のみ」ではない
5.気管支肺胞洗浄液のリンパ球比率上昇、又はCD4/CD8 比の上昇※2
※1.両側肺門縦隔リンパ節腫脹とは両側肺門リンパ節腫脹又は多発縦隔リンパ節腫脹である。
※2.リンパ球比率は非喫煙者で20%、喫煙者で10%、CD4/CD8は3.5を判断の目安とする。
 
C.臓器病変を強く示唆する臨床所見
1.呼吸器病変を強く示唆する臨床所見
画像所見にて、①又は②を満たす場合
①両側肺門縦隔リンパ節腫脹(BHL)
②リンパ路である広義間質(気管支血管束周囲、小葉間隔壁、胸膜直下、小葉中心部)に沿った多発粒状影又は肥厚像
2.眼病変を強く示唆する臨床所見
眼所見にて、下記6項目中2項目以上を満たす場合
①肉芽腫性前部ぶどう膜炎(豚脂様角膜後面沈着物、虹彩結節)
②隅角結節またはテント状周辺虹彩前癒着
③塊状硝子体混濁(雪玉状、数珠状)
④網膜血管周囲炎(主に静脈)及び血管周囲結節
⑤多発するろう様網脈絡膜滲出斑又は光凝固斑様の網脈絡膜萎縮病巣
⑥視神経乳頭肉芽腫又は脈絡膜肉芽腫
3.心臓病変を強く示唆する臨床所見
各種検査所見にて、①又は②を満たす場合(表1参照)
①主徴候5項目中2項目以上が陽性の場合
②主徴候5項目中1項目が陽性で、副徴候3項目中2項目以上が陽性の場合
 

表1.心臓病変の主徴候と副徴候

(1)主徴候
a)高度房室ブロック(完全房室ブロックを含む。)又は致死性心室性不整脈(持続性心室頻拍、心室細動など)
b)心室中隔基部の菲薄化又は心室壁の形態異常(心室瘤、心室中隔基部以外の菲薄化、心室壁の局所的肥厚)
c)左室収縮不全(左室駆出率50%未満)又は局所的心室壁運動異常
d)67Ga シンチグラフィ又は18F-FDG/PETでの心臓への異常集積
e)ガドリニウム造影MRIにおける心筋の遅延造影所見
(2)副徴候
a)心電図で心室性不整脈(非持続性心室頻拍、多源性あるいは頻発する心室期外収縮)、脚ブロック、軸偏位、異常Q波のいずれかの所見
b)心筋血流シンチグラフィ(SPECT)における局所欠損
c)心内膜心筋生検:単核細胞浸潤及び中等度以上の心筋間質の線維化

付記.18F-FDG/PETは、非特異的に心筋に集積することがあるので、長時間絶食や食事内容等の撮像条件の遵守が必要である。
 
D.鑑別診断
以下の疾患を鑑別する。
①原因既知あるいは別の病態の全身性疾患:悪性リンパ腫、他のリンパ増殖性疾患、がん、ベーチェット病、アミロイドーシス、多発血管炎性肉芽腫症(GPA)/ウェゲナー肉芽腫症、IgG4関連疾患、ブラウ症候群、結核、肉芽腫を伴う感染症(非結核性抗酸菌感染症、真菌症)
②異物、がんなどによるサルコイド反応
③他の肉芽腫性肺疾患:ベリリウム肺、じん肺、過敏性肺炎
④巨細胞性心筋炎
⑤原因既知のブドウ膜炎:ヘルペス性ぶどう膜炎、HTLV-1関連ぶどう膜炎、ポスナー・シュロスマン症候群
⑥他の皮膚肉芽腫:環状肉芽腫、環状弾性線維融解性巨細胞肉芽腫、リポイド類壊死、メルカーソン・ローゼンタール症候群、顔面播種状粟粒性狼瘡、酒さ
⑦他の肝肉芽腫:原発性胆汁性胆管炎
 
E.病理学的所見
いずれかの臓器の組織生検にて、乾酪壊死を伴わない類上皮細胞肉芽腫が認められる。
 
<診断のカテゴリー>
Definite(組織診断群):A、B、Cのいずれかで1項目以上を満たし、Dが除外され、Eの所見が陽性のもの
Probable(臨床診断群):
1) Aの1項目以上があり、Bの5項目中2項目以上であり、Cの呼吸器、眼、心臓病変3項目中2項目を満たし、Dが除外され、Eの所見が陰性のもの※
2) 心臓限局性(臨床診断群): Aの心臓以外の臨床症状が陰性、B―4―①が陽性、C―3の(1)主徴候a)、b)、c)、d)、e)のうちd)を含む4項目以上が陽性、Dが除外され、Eの所見が陰性のもの※
  ※「Eの所見が陰性のもの」とは、やむをえず組織生検が未施行のものも含む
 
 
 
<重症度分類>
重症度IIIとIVを公費助成の対象とする。
次の3項目によるスコアで判定する。
 
1.臓器病変数  
1又は2臓器病変    1
3臓器病変以上     2
(ただし、心臓病変があれば、2とする)
 
2.治療の必要性(全身ステロイド薬、免疫抑制薬)
治療なし        0
必要性はあるが治療なし 1
治療予定又は治療あり  2
 
3.サルコイドーシスに関連した各種臓器の身体障害の認定の程度
身体障害なし      0
身体障害3級又は4級  1
身体障害1級又は2級  2
 
合計スコアによる判定
合計スコア 1     重症度 I
合計スコア 2     重症度 II
合計スコア 3又は4  重症度 III
合計スコア 5又は6  重症度 IV
 
※診断基準及び重症度分類の適応における留意事項
1.病名診断に用いる臨床症状、検査所見等に関して、診断基準上に特段の規定がない場合には、いずれの時期のものを用いても差し支えない(ただし、当該疾病の経過を示す臨床症状等であって、確認可能なものに限る。)。
2.治療開始後における重症度分類については、適切な医学的管理の下で治療が行われている状態であって、直近6か月間で最も悪い状態を医師が判断することとする。
3.なお、症状の程度が上記の重症度分類等で一定以上に該当しない者であるが、高額な医療を継続することが必要なものについては、医療費助成の対象とする。
 

令和6年4月1日

情報提供者
研究班名 びまん性肺疾患に関する調査研究班
研究班名簿 
情報更新日 令和6年4月(名簿更新:令和5年6月)