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慢性血栓塞栓性肺高血圧症

まんせいけっせんそくせんせいはいこうけつあつしょう

(認定基準、臨床調査個人票の一覧は、こちらにあります。)

1)概要

a.定義
慢性血栓塞栓性肺高血圧症(chronic thromboembolic pulmonary hypertension:CTEPH)は、器質化した血栓により肺動脈が慢性的に閉塞を起こし、肺高血圧症を合併し,臨床症状として労作時の息切れなどを強く認めるものである。本症の診断には、「右心カテーテル検査による肺高血圧の存在診断」とともに、他の肺高血圧をきたす疾患の除外診断が必要である。
更新時には、肺動脈血栓内膜摘除術例においては、肺高血圧症の程度は改善していても、手術日の記載があり、更新時において肺換気・血流シンチグラム所見(換気分布に異常のない区域性血流分布欠損(segmental defects)が,血栓溶解療法又は抗凝固療法施行後も6カ月以上不変あるいは不変と推測できる)ないしは胸部造影CT所見(造影CTにて、慢性化した血栓による変化として, 1. mural defects,2. webs and bands,3. intimal irregularities,4. abrupt narrowing,5. complete obstruction の5つのうち少なくとも1つが証明される)のいずれかの所見を有することが必要である。
非手術例の更新時には、肺血管拡張療法などの治療により、肺高血圧症の程度は新規申請時よりは軽減していても、内科的治療継続が必要な場合に認める。

原因不明の肺高血圧症に対するアプローチとCTEPHの位置付け
(中西宣文,他 肺高血圧症治療ガイドライン.日本循環器学会 2012年改訂版, p.43より引用)
b. 疫学
「呼吸不全に関する調査研究班」による調査では、CTEPHの患者数は2,140名(2013年度)である。

c. 病因・病態
日本において、急性例および慢性例を含めた肺血栓塞栓症の発生頻度は、欧米に比べ少ないと考えられている。剖検輯報にみる病理解剖を基礎とした検討でも、その発生率は米国の約1/10と報告されている。米国では、急性肺血栓塞栓症の年間発生数が50~60万人と推定されており、急性期の生存症例の約0.1~0.5%がCTEPHへ移行するものと考えられてきた。しかしその後、急性例の3.8%が慢性化したとも報告され、急性肺塞栓症例では、常にCTEPHへの移行を念頭におくことが重要である。
血管閉塞の程度が肺高血圧症の要因として重要で、多くの症例では40%以上の閉塞を認めるが、肺血管の閉塞率と肺血管抵抗の相関は良いとは言えない。血栓反復、肺動脈内での血栓の進展が関与していることも考えられており、さらに、(1) PAHでみられるような亜区域レベルの弾性動脈での血栓性閉塞、(2) 血栓を認めない部位の増加した血流に伴う筋性動脈の血管病変、(3) 血栓によって閉塞した部位より遠位における気管支動脈系との吻合を伴う筋性動脈の血管病変など、small vessel disease の関与が示唆されている。またわが国では女性に多く、深部静脈血栓症の頻度が低いHLA-B*5201やHLA-DPB1*0202と関連する病型がみられことが報告されている。これらのHLAは急性例とは相関せず、欧米では極めて頻度の少ないタイプのため、欧米例と異なった発症機序を持つ症例の存在が示唆されている。
d. 症状
主要症状及び臨床所見は、① 労作時の息切れ、② 急性例にみられる臨床症状(突然の呼吸困難、胸痛、失神など)が、以前に少なくとも1回以上認められている。③ 下肢深部静脈血栓症を疑わせる臨床症状(下肢の腫脹及び疼痛)が以前に少なくとも1回以上認められている。④ 肺野にて肺血管性雑音が聴取される。⑤ 胸部聴診上、肺高血圧症を示唆する聴診所見の異常(Ⅱ音肺動脈成分の亢進など)が挙げられる。
e. 治療
本症に対し有効であることがエビデンスで確立されている治療法としては、肺動脈血栓内膜摘除術がある。しかし近年我が国では手術適応とされなかった末梢側血栓が主体のCTEPHに対し、カテーテルを用いた経皮経管的肺動脈拡張術(balloon pulmonary angioplasty:BPAまたはpercutaneous transluminal pulmonary angioplasty:PTPA)の有効性が発表されつつある。さらに、手術適用のない末梢型あるいは術後残存あるいは再発性肺高血圧症を有する本症に対して、可溶性グアニル酸シクラーゼ刺激薬であるリオシグアトが用いられる。CTEPHの治療方針では、まず正確な確定診断と重症度評価を行うことが必要である。次いで病状の進展防止を期待して血栓再発予防と二次血栓形成予防のための抗凝固療法を開始する。抗凝固療法が禁忌である場合や抗凝固療法中の再発などに対して、下大静脈フィルターを留置する場合もある。低酸素血症対策、右心不全対策も必要ならば実施する。さらに、重要な点は、本症の治療に習熟した専門施設へ紹介し、肺動脈血栓内膜摘除術または経皮経管的肺動脈拡張術の適応を検討する必要がある。前者が優先されるが、末梢病変例、高齢者や他臓器疾患合併などのハイリスク例、患者が手術を希望しない例などを中心に後者の選択をする。末梢病変例や術後残存肺高血圧例に対しては、リオシグアトの投与を考慮する。また、その他の肺血管拡張薬が有効な場合もある。
f. ケア
CTEPHは、肺動脈の血液の流れが障害される病気であり、必ず心臓(右心室;肺へ向かう血液を送り出す心臓の部屋)に負担がかかっている。右心室の壁が厚くなり、右心室の大きさが拡大し、右心室の機能が低下するため十分な血液が送り出せなくなる。さらに右心室が拡大するため、左心室の大きさが相対的に小さくなる。CTEPHに必ず伴う合併症は、心不全(右心不全)である。但し、潜在的な右心不全(症状がまだでない)という段階から、明らかに症状が出現する場合まで、程度は様々である。この心臓の機能低下を回復させる、ないしは進行を遅らせる治療法が「肺血管拡張療法」「在宅酸素療法」になる。専門医とよく相談をして、ケアを継続する必要がある。
g. 食事・栄養
水分/塩分の過剰摂取は心臓に負担をかける可能性もある。
h. 予後
CTEPHには過去に急性肺血栓塞栓症を示唆する症状が認められる反復型と、明らかな症状のないまま病態の進行がみられる潜伏型がある。比較的軽症のCTEPHでは、抗凝固療法を主体とする内科的治療のみで病態の進行を防ぐことが可能な例も存在する。しかし平均肺動脈圧が30mmHgを超える症例では、肺高血圧は時間経過とともに悪化する場合も多く、一般には予後不良である。一方、CTEPHに対しては手術(肺動脈血栓内膜摘除術)によりQOLや予後の改善が得られる。また、最近では非手術適応例に対してカテーテルを用いた経皮経管的肺動脈拡張術も開始され、手術に匹敵する肺血管抵抗改善が報告されている。手術適用のない例に対して、肺血管拡張薬を使用するようになった最近のCTEPH症例の5年生存率は87%と改善がみられている。一方、肺血管抵抗が1000〜1100dyn・sec・cm-5を超える例の予後は不良である。

2)診断

① 診断基準
<診断基準>
CTEPHは、器質化した血栓により肺動脈が慢性的に閉塞を起こし、肺高血圧症を合併し、臨床症状として労作時呼吸困難などを強く認めるものである。本症の診断には、右心カテーテル検査による肺高血圧の診断とともに、他の肺高血圧をきたす疾患の除外診断が必要である。

(1) 検査所見
① 右心カテーテル検査で
1. 肺動脈圧の上昇(安静時の肺動脈平均圧が25mmHg 以上)
2. 肺動脈楔入圧(左心房圧)が正常(15mmHg 以下)
② 肺換気・血流シンチグラム所見
換気分布に異常のない区域性血流分布欠損 (segmental defects)が、血栓溶解療法又は抗凝固療法施行後も6カ月以上不変あるいは不変と推測できる。推測の場合には、6カ月後に不変の確認が必要である。
③ 肺動脈造影所見
慢性化した血栓による変化として、1. pouch defects、2. webs and bands、3.intimal irregularities、4. abrupt narrowing、5. complete obstruction の5 つのうち少なくとも1 つが証明される。
④ 胸部造影CT所見
造影CTにて、慢性化した血栓による変化として、1. mural defects、2. webs and bands、3. intimal irregularities、4. abrupt narrowing、5. complete obstruction の5つのうち少なくとも1つが証明される。

(2) 参考とすべき検査所見
① 心エコー
1. 右室拡大、中隔の扁平化
2. 心ドプラ法にて肺高血圧に特徴的なパターン又は高い右室収縮期圧の所見(三尖弁収縮期圧較差40mmHg 以上)
3. TAPSE(三尖弁輪収縮期偏位)の低下
② 動脈血液ガス所見
1. 低炭酸ガス血症を伴う低酸素血症 (PaCO2 ≦ 35Torr、PaO2 ≦ 70Torr)
2. AaDO2 の開大(AaDO2 ≧ 30Torr)
③ 胸部X 線写真
1. 肺門部肺動脈陰影の拡大(左第Ⅱ弓の突出、又は右肺動脈下行枝の拡大:最大径18㎜以上)
2. 心陰影の拡大(CTR≧50%)
3. 肺野血管陰影の局所的な差(左右又は上下肺野)
④ 心電図
1. 右軸偏位及び右房負荷
2. V1でのR≧5㎜又はR/S>1、 V5でのS≧7㎜又はR/S≦1

(3) 主要症状及び臨床所見
① 労作時の息切れ。
② 急性例にみられる臨床症状(突然の呼吸困難、胸痛、失神など)が、以前に少なくとも1回以上認められている。
③ 下肢深部静脈血栓症を疑わせる臨床症状(下肢の腫脹及び疼痛)が以前に少なくとも1回以上認められている。
④ 肺野にて肺血管性雑音が聴取される。
⑤ 胸部聴診上、肺高血圧症を示唆する聴診所見の異常(Ⅱp(II)音の亢進,Ⅲ/Ⅳ音,肺動脈弁逆流音,三尖弁逆流音のうち、少なくとも1つ)がある。

(4) 除外すべき疾患
以下の肺高血圧症を呈する病態は、CTEPHではなく、肺高血圧ひいては右室肥大・慢性肺性心を招来しうるので、これらを除外すること。
1. 特発性または遺伝性肺動脈性肺高血圧症
2. 膠原病に伴う肺動脈性肺高血圧症
3. 先天性シャント性心疾患に伴う肺動脈性肺高血圧症
4. 門脈圧亢進症に伴う肺動脈性肺高血圧症
5. HIV 感染に伴う肺動脈性肺高血圧症
6. 薬剤/毒物に伴う肺動脈性肺高血圧症
7. 肺静脈閉塞症、肺毛細血管腫症
8. 新生児遷延性肺高血圧症
9. 左心性心疾患に伴う肺高血圧症
10. 呼吸器疾患及び/又は低酸素血症に伴う肺高血圧症
11. その他の肺高血圧症(サルコイドーシス、ランゲルハンス細胞組織球症、リンパ脈管筋腫症、大動脈炎症候群、肺血管の先天性異常、肺動脈原発肉腫、肺血管の外圧迫などによる二次的肺高血圧症)

(5) 認定基準
以下の項目をすべて満たすこと。
①新規申請時
1) 診断のための検査所見の右心カテーテル検査所見を満たすこと。
2) 診断のための検査所見の肺換気・血流シンチグラム所見を満たすこと。
3) 診断のための検査所見の肺動脈造影所見ないしは胸部造影CT所見を満たすこと。
4) 除外すべき疾患のすべてを除外できること。
5) 手術予定例ならびにBPA(PTPA)施行予定例については予定月を記載すること。
②更新時
手術例ならびにBPA(PTPA)施行例とそれ以外の例に大別をして更新をすること。
1) 手術例ならびにBPA(PTPA)施行例
a) 手術日あるいはBPA初回施行日の記載があること。
b)診断のための検査所見の肺換気・血流シンチグラム所見ないしは胸部造影CT所見ないしは肺動脈造影所見のいずれか有すること(前回より重症度を上げる場合は必須とする)。
c) 右心カテーテル検査所見または参考とすべき検査所見の中の心臓エコー検査の所見を満たすこと。
d) 除外すべき疾患のすべてを除外できること。

2) 非手術例
リオシグアト等の肺血管拡張療法などの治療により、肺高血圧症の程度は新規申請時よりは軽減もしくは正常値になっていても、治療継続が必要な場合。
a) 診断のための検査所見の肺換気 ・ 血流シンチグラム所見、 胸部造影CT所見ないしは肺動脈造影所見のいずれかを有すること(前回より重症度を上げる場合は必須とする)。
b) 右心カテーテル検査所見または参考とすべき検査所見の中の心臓エコー検査の所見を満たすこと。
c) 除外すべき疾患のすべてを除外できること。

② 重症度分類
NYHA心機能分類と、WHO肺高血圧機能分類をもとに作成した研究班の重症度分類を用いて、Stage 2以上を対象とする。

NYHA 心機能分類
Ⅰ度:通常の身体活動では無症状
Ⅱ度:通常の身体活動で症状発現、身体活動がやや制限される
Ⅲ度:通常以下の身体活動で症状発現、身体活動が著しく制限される
Ⅳ度:どんな身体活動あるいは安静時でも症状発現

WHO 肺高血圧症機能分類(WHO-PH)
Ⅰ度:身体活動に制限のない肺高血圧症患者
普通の身体活動では呼吸困難や疲労、胸痛や失神などを生じない。
Ⅱ度:身体活動に軽度の制限のある肺高血圧症患者
安静時には自覚症状がない。普通の身体活動で呼吸困難や疲労、胸痛や失神などが起こる。
Ⅲ度:身体活動に著しい制限のある肺高血圧症患者
安静時に自覚症状がない。普通以下の軽度の身体活動で呼吸困難や疲労、胸痛や失神などが起こる。
Ⅳ度:どんな身体活動もすべて苦痛となる肺高血圧症患者
これらの患者は右心不全の症状を表している。
安静時にも呼吸困難および/または疲労がみられる。
どんな身体活動でも自覚症状の増悪がある。

新規申請時 自覚症状 平均肺動脈圧(mPAP) 肺血管抵抗(PVR) 安静時・室内気PaO2 (Torr) 肺血管拡張薬使用
Stage 1 WHO-PH/NYHA I mPAP ≥ 25 mmHg     使用の有無に係らず
Stage 2 WHO-PH/NYHA II mPAP ≥ 25 mmHg   PaO2 ≧ 70torr 使用の有無に係らず
Stage 3 WHO-PH/NYHA II mPAP ≥ 25 mmHg   PaO2 < 70torr 使用の有無に係らず
WHO-PH/NYHA II mPAP ≥ 25 mmHg     使用あり
WHO-PH/NYHA III~ IV mPAP ≥ 25 mmHg     使用の有無に係らず
Stage 4 WHO-PH/NYHA III~ IV mPAP ≥ 30 mmHg     使用の有無に係らず
Stage 5 WHO-PH/NYHA I~IV   PVR ≥ 1,000 dyn.s.cm-5(12.5 Wood Unit)   使用の有無に係らず
自覚症状、mPAP、PVR、安静時・室内気PaO2、肺血管拡張薬の項目すべてを満たす最も高いStageを選択

(更新時)
更新時 自覚症状 心エコー検査での三尖弁収縮期圧較差(TRPG) 右心カテ施行時の平均肺動脈圧(mPAP)、肺血管抵抗(PVR) 肺血管拡張薬またはHOT使用
Stage 1 WHO-PH/NYHA I       使用の有無に係らず
Stage 2 WHO-PH/NYHA II     使用の有無に係らず
Stage 3 WHO-PH/NYHA II~IV TRPG < 40 mmHg mPAP < 25 mmHg 使用あり
  WHO-PH/NYHA II TRPG ≥ 40 mmHg mPAP ≥ 25 mmHg 使用の有無に係らず
Stage 4 WHO-PH/NYHA III~IV TRPG ≥ 40 mmHg mPAP ≥ 25 mmHg 使用の有無に係らず
Stage 5 WHO-PH/NYHA I~IV   PVR ≥ 1,000 dyn.s.cm-5(12.5WU) 使用の有無に係らず
  WHO-PH/NYHA III~IV TRPG ≥ 60 mmHg   使用の有無に係らず
自覚症状、TRPG、mPAP、PVR、肺血管拡張薬またはHOT使用、の項目すべてを満たす最も高いStageを選択

(参考)
三尖弁収縮期圧較差(TRPG)の値は、更新時に心カテを施行した場合には、可能であればその値を使用する。

※なお、症状の程度が上記の重症度分類等で一定以上に該当しない者であるが、高額な医療を継続することが必要な者については、医療費助成の対象とする。

3)治療 治療指針

原則として血栓再発予防と二次血栓形成予防のための抗凝固療法が選択され、急性増悪例を除き血栓溶解療法は無効である。さらに抗凝固療法が禁忌である場合や抗凝固療法中の再発などに対して、下大静脈フィルターを挿入・留置する。WHO/NYHA-II以上では、付着血栓の近位端が主肺動脈から区域動脈近位部にある例では、外科治療(肺動脈血栓内膜摘除術)が推奨される。一方、区域枝や亜区域動脈に限局する血栓症例は手術適応外となり、カテーテル治療やリオシグアトによる肺血管拡張療法が行われる。さらに、区域を主体とした血栓で、高齢、合併症、患者が手術を希望しない例においてもカテーテル治療や肺血管拡張療法が考慮されるが、その評価は定まっていない。術前に造影CT検査、肺動脈造影で血栓の部位や非閉塞部位の血管病変を正確に評価することが外科治療の効果をあげる上で重要である。

内科治療
血栓再発予防と二次血栓形成予防のための抗凝固療法が第一選択となる。さらに、手術非適応および術後残存、再発肺高血圧本症において、可溶性グアニル酸シクラーゼ刺激薬であるリオシグアトの大規模比較試験の結果、6分間歩行距離、肺血管抵抗の有意な改善が示され、適応承認された。他、肺動脈性肺高血圧症に準じた血管拡張薬のボセンタン、クエン酸シルデナフィル、PGI2持続静注、ベラプロストナトリウムの投与を行い、有効例の報告もみられるが、その有用性についての明確なエビデンスはなく研究段階である。一方、血管拡張療法が使用されて以後、本症の予後が改善したとする報告もみられる。血管拡張療法の適応としては、WHO/NYHA-II以上の症例で、末梢血栓例や重症例で手術を施行しない例、合併症を有したり本人が手術を希望しない例、手術後に肺高血圧症が残存する例が挙げられる。また、肺血管抵抗高値例において、術前使用も試みられているが、その評価は定まっていない。多くの症例では低酸素血症を呈するため、在宅酸素療法を含めた長期酸素吸入療法が適応となる。この他、右心不全に対して利尿薬等の投与もなされる。

カテーテル治療
CTEPHに対しては肺動脈血栓内膜摘除術が現時点で唯一根治が期待できる治療法であり、その適応が満たされていれば、最も推奨される治療法である。しかしながら、外科的に到達困難な区域や亜区域に限局する血栓を有する例や併存疾患等のために手術の適応とならない場合、肺血管拡張薬を用いた内科的治療が実施されているのが現状であるが、その有効性は限られている。このような現状を踏まえ、BPAの適応は、基本的には手術の適応がなく、内科的治療を行っても効果不十分な症例となる。熟練度が大きく成績に影響するため、本症のカテーテル治療に精通した施設での施行が推奨される。

外科治療
肺動脈血栓内膜摘除術は、原則としてNYHA/WHO Ⅲ度以上が適応とされているが、低酸素血症が高度の例では、QOLの改善を目的としてClass Ⅱ度の例も適応となる場合がある。肺動脈血栓内膜摘除術は、器質化血栓の近位端が主肺動脈から区域動脈近位部にある、 いわゆる中枢型CTEPHがよい適応である。しかし手術適応は手術担当施設の経験によって左右され、その決定は手術を多く経験している施設で行われることが必要である。中枢側の血栓量に相応しない著明な肺血管抵抗高値を示す例や、区域動脈や亜区域動脈に限局する末梢型CTEPHは、手術は困難であると考えられている。高齢者や他臓器に障害を有する例、患者が手術を希望しない例は手術の適応となりにくい。

4)鑑別診断

鑑別診断のためのアプローチ方法を図で示す。

図. 肺高血圧症の診断アプローチ
BGA:動脈血液ガス分析、RHC:右心カテーテル検査、PAWP:肺動脈楔入圧、PVR:肺血管抵抗、PEA:肺動脈血栓内膜摘除術(Definitions and diagnosis of pulmonary hypertension. (M. Hoeper) J Am Coll Cardiol 62(Suppl), D42-50, 2013.より引用、日本語翻訳)

1) 特発性又は遺伝性肺動脈性肺高血圧症
肺動脈性肺高血圧症を呈する基礎疾患(併存症)をチェックして、それらの除外ができた場合には、特発性又は遺伝性肺動脈性肺高血圧症と診断可能である。

2) 膠原病に伴う肺動脈性肺高血圧症
それぞれの膠原病の診断基準に合うかどうかをチェック

3) 先天性シャント性心疾患に伴う肺動脈性肺高血圧症
心臓エコー検査でシャント性心疾患の有無をチェック

4) 門脈圧亢進症に伴う肺動脈性肺高血圧症
腹部エコー検査で門脈圧亢進症を示唆する所見があるか否かをチェック

5) HIV感染に伴う肺動脈性肺高血圧症
血液検査でHIVが陽性か否かをチェック

6) 薬剤誘発性の肺動脈性肺高血圧症
服薬歴をチェック

7) 左心系疾患による肺高血圧症
心臓エコー検査で左心系疾患をチェック

8) 呼吸器疾患及び/又は低酸素血症による肺高血圧症
呼吸器疾患が基礎疾患としてあるか否かをチェック

9) 慢性血栓塞栓性肺高血圧症
肺血流スキャンで、区域性欠損があるか否かをチェック

10) その他の肺高血圧症
サルコイドーシス、ランゲルハンス細胞組織球症、リンパ脈管筋腫症、大動脈炎症候群、肺血管の先天性異常、肺動脈原発肉腫、肺血管の外圧迫などによる二次的肺高血圧症をチェック

5)本疾患の関連資料・リンク

呼吸不全に関する調査研究班HP  http://kokyufuzen.umin.jp/
呼吸不全に関する調査研究班(巽浩一郎、他). 肺動脈性肺高血圧症(PAH)および慢性血栓塞栓性肺高血圧症(CTEPH). 日本呼吸器学会雑誌 48: 551-564, 2010.

情報提供者
呼吸器系疾患調査研究班(呼吸不全に関する調査研究)


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情報提供者
研究班名 呼吸不全に関する調査研究班
研究班名簿   
情報更新日平成26年12月27日