カルニチン回路異常症(指定難病316)

かるにちんかいろいじょうしょう
 

(概要、臨床調査個人票の一覧は、こちらにあります。)

○概要
 
1.概要
カルニチンサイクルを構成する酵素である、カルニチンパルミトイルトランスフェラーゼ1(CPT1)、カルニチンパルミトイルトランスフェラーゼ2(CPT2)、カルニチン/アシルカルニチントランスロカーゼ(CACT)及びカルニチンをミトコンドリア内に輸送するカルニチントランスポーター(OCTN2)の先天的な欠損により、長鎖脂肪酸のミトコンドリア内への転送が障害される。その結果、脂肪酸代謝が十分行われなくなり、エネルギー産生の低下を引き起こす。臨床病型として、新生児期発症型、乳幼児期発症型、遅発型に分類される。
 
2.原因
CPT1欠損症は、CPT1A遺伝子、CPT2欠損症はCPT2遺伝子、CACT欠損症はSLC25A20遺伝子OCTN2異常症はSLC22A5遺伝子の変異によって生じるが、同じ遺伝子変異でも未発症例や重症例があることなど、病態が未解明である部分が多い。
 
3.症状
カルニチン回路異常症の共通した症状として、意識障害・痙攣、嘔吐、横紋筋融解、体重増加不良、代謝性アシドーシス、肝機能障害に加え、各臓器への脂肪蓄積、肝機能不全に伴う脳症・低ケトン性低血糖・高アンモニア血症、筋力低下、心筋症など症状は多岐にわたる。
本症はタンデムマスを用いた新生児マススクリーニングにおいて、症状が出る前(発症前)に発見されることもある。
 
4.治療法
根治的な治療法は確立しておらず、対症的な治療にとどまる。
マススクリーニングで見つかった際には食事間隔の指導、中鎖脂肪酸トリグリセリドの使用、L-カルニチンの投与などによる急性発作予防が主である。
急性期の治療:ブドウ糖を中心とした輸液、L-カルニチンの投与(OCTN2欠損症では必須であり大量投与を行い、その他は低カルニチン血症の場合に考慮)、高アンモニア血症の治療(アルギニン、フェニル酪酸ナトリウム、安息香酸ナトリウムなど)、各種ビタミン剤、ベザフィブラート(CPT2欠損症などで報告例あり)などの投与を行う。
慢性期の治療:L-カルニチン内服(OCTN2欠損症では必須であり大量投与を行う)、許容空腹時間の厳守、血糖モニタリング、栄養管理(高炭水化物、低脂肪食)、中鎖脂肪酸の摂取、シックデイの際の早期医療介入、運動制限など永続的な管理が必要である。
成人期の治療:成人期も基本的な病態の変化はなく、L-カルニチンの内服(OCTN2欠損症では必須であり大量投与を行う)、定期的な通院、運動制限、シックデイの際の早期医療介入、妊娠時期の血糖や肝機能のコントロールなどを行う必要がある。
 
5.予後
本疾患の自然歴は明らかでない部分が多く、定見は得られていない。最重症例の予後は不良である。乳幼児期発症例についても迅速に適切な治療が行われない場合は生命予後・神経学的予後ともに不良である。学童期以降になると急性代謝不全によって死亡することは少なくなると推測されるが、筋症状などのコントロールは容易ではない。
 
○要件の判定に必要な事項
1.  患者数(令和元年度医療受給者証保持者数)
100人未満
2.  発病の機構
不明(CPT1A遺伝子、CPT2遺伝子、SLC25A20遺伝子、SLC22A5遺伝子が発症に関与するが、病態は未解明である。)
3.  効果的な治療方法
未確立(対処療法のみで根治療法は確立していない。)
4.  長期の療養
必要(臨床的に安定していても酵素異常は継続しており、疾病が潜在しているので生涯にわたり経過観察、検査、食事療法を必要とする。また、重大な障害を残すこともある。)
5.  診断基準
あり(研究班が作成し、学会が承認した診断基準)
6.  重症度分類
日本先天代謝異常学会による先天性代謝異常症の重症度評価を用いて中等症以上を対象とする。
 
 
○情報提供元
・ 厚生労働科学研究費補助金難治性疾患等政策研究事業(難治性疾患政策研究事業)「新生児スクリーニング対象疾患等の先天代謝異常症における生涯にわたる診療体制の整備に関する研究」班
研究代表者 熊本大学大学院 教授 中村公俊

・新生児マススクリーニング対象疾患等診療ガイドライン2019

 
 
 
<診断基準>
Definite、Probableを対象とする。
 
A.臨床症状 
1.意識障害、けいれん
新生児期発症型、乳幼児期発症型でみられる。急激な発症形態から急性脳症、ライ様症候群と診断される場合も多い。
2.骨格筋症状
主に遅発型でみられる。横紋筋融解症やミオパチー、筋痛、易疲労性を呈する。感染や飢餓、運動、飲酒などを契機に発症することが多く、症状が反復することも特徴である。また一部には妊娠中に易疲労性などがみられる症例もある。
3.心筋症状
新生児期発症型で、心不全、致死的な不整脈などがみられることがある。また、一部は成人期にも発症が報告されており、肥大型、拡張型のいずれの病像も呈しうる。
4.呼吸器症状
新生児期発症型を中心として多呼吸、無呼吸、努力呼吸などの多彩な表現型を呈する。
5.消化器症状
特に乳幼児期発症型において、嘔吐を主訴に発症することがある。
6.肝腫大
新生児期発症型、乳幼児期発症型で多くみられる。病勢の増悪時には著しい腫大を認めることもあるが、間欠期には明らかでないことも多い。
7.その他
新生児期発症型の一部の症例では先天奇形(小頭症、耳介変形などの外表奇形、多嚢胞腎、肝石灰化、多小脳回)などを呈する場合もある。
 
B.検査所見
1.一般血液・生化学的検査所見
低~非ケトン性低血糖、肝逸脱酵素上昇、高CK血症、高アンモニア血症
ただし、低ケトンとはケトン体値が正常や軽度上昇という意味ではなく、低血糖、全身状態の程度から予想される範囲を下回ると考えるべきである。強い低血糖の際に尿ケトン体定性で±~1+程度、血中ケトン体が1,000µmol/L程度であれば、低ケトン性低血糖と考える。血中ケトン体分画と同時に血中遊離脂肪酸を測定し、遊離脂肪酸/総ケトン体モル比>2.5、遊離脂肪酸/3ヒドロキシ酪酸モル比>3.0であれば脂肪酸β 酸化異常が疑われる。
2.カルニチン分画(血清)
CPT1欠損症:遊離カルニチンが高値(70µmol/L以上)
CPT2欠損症・CACT欠損症:アシルカルニチンが高値(20µmol/L以上)
OCTN2異常症:遊離カルニチンが低値(20µmol/L以下)
3.アシルカルニチン分析(ろ紙、血清)
CPT1欠損症以外のカルニチンサイクル異常症を疑った場合、 ろ紙血アシルカルニチン分析ではなく、血清アシルカルニチン分析を優先して行う。CPT1欠損症では、ろ紙血でのアシルカルニチン分析を優先する。

CPT1欠損症:ろ紙血アシルカルニチン分析で、遊離カルニチン(C0)の上昇と長鎖アシルカルニチン(C16,
C18)の低下。
CPT2欠損症・CACT欠損症:血清アシルカルニチン分析で長鎖アシルカルニチン(C16, C18, C18:1)の上昇と(C16+C18:1)/C2比の高値、C14/C3比の高値。
OCTN2異常症:血清アシルカルニチン分析で遊離カルニチン(C0)の低値。
4.末梢血リンパ球や培養皮膚線維芽細胞などを用いた酵素活性測定や機能解析
酵素活性の低下やウェスタンブロット法での蛋白量の低下を認める。また、培養リンパ球や培養皮膚線維芽細胞を用いたin vitro probe assayでは、培養上清のアシルカルニチンを分析することによって、細胞の脂肪酸代謝能を評価する。in vitro probe assayでは疾患特異的なアシルカルニチンプロファイルを確認でき、診断意義は酵素活性に準じる。
 5.尿中遊離カルニチン分画排泄率
OCTN2異常症と二次性カルニチン欠乏症との鑑別には尿中遊離カルニチン排泄率が有用であり、同時期に採取した血清及び尿を用いる。本疾患では、尿中遊離カルニチン排泄率が2−10%をこえる。保因者の一部は罹患者とオーバーラップすることもある。この検査はカルニチン内服下やFanconi症候群に代表される尿細管障害を有する病態では評価ができないので注意が必要である。

尿中遊離カルニチン排泄率:
尿中遊離カルニチン☓血清クレアチニン/血清遊離カルニチン☓尿中クレアチニン
 
C.鑑別診断
神経筋疾患:筋ジストロフィー、皮膚筋炎、ミトコンドリア病など
中枢神経疾患:急性脳炎/脳症(インフルエンザ脳症含む)など
肝疾患:急性肝炎など
内分泌疾患:高インスリン血症
 
D.遺伝学的検査
CPT1欠損症:CPT1A遺伝子(11q13.3に局在)の変異を認める。
CPT2欠損症:CPT2遺伝子(1p32.3に局在)の変異を認める。
CACT欠損症:SLC25A20遺伝子(3p21.31に局在)の変異を認める。
OCTN2異常症:SLC22A5遺伝子(5q31.1に局在)の変異を認める。
 
<診断のカテゴリー>
Definite:
(1)  発症前型以外ではAのうち1つ以上+Bの4又はDのうち1つ以上 

(2)  新生児マススクリーニング等による発症前型においては、Bの4又はDのうち1つ以上 

なお、OCTN2異常症ではBの4の代わりに、Bの5で明らかな異常所見を認めた場合にも診断確定してよい。

Probable:
(1)  発症前型以外ではAのうち1つ以上+Bの2又は3のうち1つ以上
(2)  新生児マススクリーニング等による発症前型においては、Bの2又は3のうち1つ以上

Possible:
(1)発症前型以外ではAのうち1つ以上+Bの1のみ認めるもの
(2)新生児マススクリーニング等による発症前型においては、Bの1のみ認めるもの
 
<重症度分類>
先天性代謝異常症の重症度評価(日本先天代謝異常学会)を用いて中等症以上を対象とする。

点数

I

薬物などの治療状況(以下の中からいずれか1つを選択する)

a

治療を要しない

b

対症療法のために何らかの薬物を用いた治療を継続している

c

疾患特異的な薬物治療が中断できない

d

急性発作時に呼吸管理、血液浄化を必要とする

II

食事栄養治療の状況(以下の中からいずれか1つを選択する)

a

食事制限など特に必要がない

b

軽度の食事制限あるいは一時的な食事制限が必要である

c

特殊ミルクを継続して使用するなどの中程度の食事療法が必要である

d

特殊ミルクを継続して使用するなどの疾患特異的な負荷の強い(厳格な)食事療法の継続が必要である

e

経管栄養が必要である

III

酵素欠損などの代謝障害に直接関連した検査(画像を含む)の所見(以下の中からいずれか1つを選択する)

a

特に異常を認めない        

b

軽度の異常値が継続している    (目安として正常範囲から1.5SDの逸脱)  

c

中等度以上の異常値が継続している (目安として1.5SDから2.0SDの逸脱)      

d

高度の異常値が持続している    (目安として2.0SD以上の逸脱)

IV

現在の精神運動発達遅滞、神経症状、筋力低下についての評価(以下の中からいずれか1つを選択する)

a

異常を認めない         

b

軽度の障害を認める  (目安として、IQ70未満や補助具などを用いた自立歩行が可能な程度の障害)

c

中程度の障害を認める (目安として、IQ50未満や自立歩行が不可能な程度の障害)   

d

高度の障害を認める  (目安として、IQ35未満やほぼ寝たきりの状態)    

V

現在の臓器障害に関する評価(以下の中からいずれか1つを選択する)

a

肝臓、腎臓、心臓などに機能障害がない

b

肝臓、腎臓、心臓などに軽度機能障害がある
(目安として、それぞれの臓器異常による検査異常を認めるもの)

c

肝臓、腎臓、心臓などに中等度機能障害がある
 (目安として、それぞれの臓器異常による症状を認めるもの)

d

肝臓、腎臓、心臓などに重度機能障害がある、あるいは移植医療が必要である 
(目安として、それぞれの臓器の機能不全を認めるもの)

VI

生活の自立・介助などの状況(以下の中からいずれか1つを選択する)

a

自立した生活が可能     

b

何らかの介助が必要      

c

日常生活の多くで介助が必要  

d

生命維持医療が必要     

総合評価

IからVIまでの各評価及び総点数をもとに最終評価を決定する。

(1)4点の項目が1つでもある場合    

重症

(2)2点以上の項目があり、かつ加点した総点数が6点以上の場合  

重症

(3)加点した総点数が3-6点の場合  

中等症

(4)加点した総点数が0-2点の場合   

軽症

注意

診断と治療についてはガイドラインを参考とすること

疾患特異的な薬物治療はガイドラインに準拠したものとする

疾患特異的な食事栄養治療はガイドラインに準拠したものとする

 
 
※診断基準及び重症度分類の適応における留意事項
1.病名診断に用いる臨床症状、検査所見等に関して、診断基準上に特段の規定がない場合には、いずれの時期のものを用いても差し支えない(ただし、当該疾病の経過を示す臨床症状等であって、確認可能なものに限る。)。
2.治療開始後における重症度分類については、適切な医学的管理の下で治療が行われている状態であって、直近6か月間で最も悪い状態を医師が判断することとする。
3.なお、症状の程度が上記の重症度分類等で一定以上に該当しない者であるが、高額な医療を継続することが必要なものについては、医療費助成の対象とする。

令和6年4月1日

情報提供者
研究班名 新生児スクリーニング対象疾患等の先天代謝異常症の成人期にいたる診療体制構築と提供に関する研究班
研究班名簿 研究班ホームページ
情報更新日 令和6年4月(名簿更新:令和5年6月)