脂肪萎縮症(指定難病265)

しぼういしゅくしょう
 

(概要、臨床調査個人票の一覧は、こちらにあります。)

○ 概要
 
1.概要
脂肪萎縮症は全身性あるいは部分性に脂肪組織が消失する疾患で、脂肪組織の消失とともに重度のインスリン抵抗性糖尿病や高中性脂肪血症、非アルコール性脂肪肝炎など様々な代謝異常を発症する予後不良な難治性疾患である。脂肪萎縮そのものに対する根治療法は開発されていないが、脂肪萎縮に伴うインスリン抵抗性を中心とする代謝異常に対しては、レプチンの有効性が証明され、レプチン製剤が適用となる。
 
2.原因
脂肪萎縮症には遺伝子異常による先天性のものと、自己免疫などによる後天性のものが存在し、そのそれぞれに全身の脂肪組織が欠如する全身性脂肪萎縮症と、下肢などの特定の領域に限局して脂肪組織が消失する部分性脂肪萎縮症が存在する。先天性脂肪萎縮症の原因遺伝子は、AGPAT2、BSCL2、CAV1、PTRF各遺伝子のホモ接合体変異又は複合ヘテロ接合体変異が知られているが、脂肪萎縮のメカニズムについては不明なものが多い。後天性の多くは自己免疫異常によるものと考えられており、後天性全身性脂肪萎縮症は、脂肪組織の減少・消失が出現する以前にしばしば皮下脂肪織炎や若年性皮膚筋炎、若年性関節リウマチなどの膠原病の合併が認められるが、こちらもその詳細は明らかでない。
 
3.症状
脂肪萎縮症では脂肪組織の減少に伴いインスリン抵抗性を特徴とする糖尿病を発症する。強いインスリン抵抗性のため従来の糖尿病治療薬ではコントロールが困難で、糖尿病性網膜症や腎症、神経障害を高頻度に合併する。また著明な高中性脂肪血症や非アルコール性脂肪肝も認められる。血中中性脂肪濃度の著しい上昇は、しばしば急性膵炎をひき起す。非アルコール性脂肪肝も重度であることが多く、肝硬変への進展もしばしば認められる。インスリン抵抗性は高インスリン血症をもたらし、さらに骨格筋肥大や心筋肥大をはじめとする臓器腫大や黒色表皮腫をもたらす。これはインスリンが有している細胞増殖作用や成長促進作用に加えて、インスリンとインスリン様成長因子受容体とのクロストークによる機序が考えられている。これに関連して先天性脂肪萎縮症では、小児期の発育速度は早いが骨端閉鎖の時期も早く、成人症例では先端巨大症様の外観を呈する。さらに女性症例では多嚢胞性卵巣症候群や高アンドロゲン血症を呈し、月経異常や多毛症、外性器肥大が高頻度に認められる。後天性部分性脂肪萎縮症のうち、抗HIV治療薬の使用や骨髄移植後では皮下脂肪組織の消失が認められ、C3補体価の低下では上半身の脂肪組織の消失を合併する。
 
4.治療法
現在のところ脂肪萎縮そのものに対する治療法は無い。このため脂肪萎縮症に対する治療は美容上の問題に対する形成外科的手術や代謝合併症に対する対症治療に限られている。脂肪萎縮症に伴う高血糖、高中性脂肪血症に対してはレプチン製剤が適用となっている。レプチンは脂肪組織から分泌されるホルモンであり、脂肪組織の減少に伴う血中レプチン濃度の低下が脂肪萎縮症でみられる糖脂質代謝異常の主因であると考えられている。実際、レプチン治療により脂肪萎縮症の糖尿病や高中性脂肪血症、脂肪肝が劇的に改善することが報告されている。
 
5.予後
脂肪萎縮症患者は糖尿病合併症以外にも、高中性脂肪血症からくる急性膵炎や肝硬変、肥大型心筋症が死因となることが多く、平均寿命は30~40歳と言われ、極めて予後不良である。
 
○ 要件の判定に必要な事項
1. 患者数(令和元年度医療受給者証保持者数)
100人未満
2. 発病の機構
不明(先天性では遺伝子異常、後天性では自己免疫異常が主に関与すると考えられている。)
3. 効果的な治療方法
未確立(代謝合併症に対してはレプチン製剤が有効。)
4. 長期の療養
必要(現在のところ脂肪萎縮そのものに対する根治療法が無いため。)
5. 診断基準
あり(研究班作成の診断基準あり。)
6. 重症度分類
重症例を対象とする。
 
○ 情報提供元
「難治疾患等克服研究事業「脂肪萎縮症に関する調査研究」」
研究代表者 自治医科大学 准教授 海老原健
 
 
<診断基準>
Definiteのみ対象とする。

脂肪萎縮症の診断基準
A.先天性全身性脂肪萎縮症
出生直後より全身の脂肪組織の消失が認められ、下記の1及び2を満たす場合をDefinite(確定)とする。
1. 以下の1)又は2)を満たすこと
1)  MRI T1強調画像にて全身の皮下脂肪組織、腹腔内脂肪組織の消失を認めること。
2)  血中レプチン濃度が低下しており(男性0.6ng/mL未満、女性1.9ng/mL未満)、かつ食欲が亢進しインスリン抵抗性*及び糖脂質代謝異常(症)**が認められること。
* HOMA-IR (空腹時血糖値mg/dL×空腹時インスリン値µU/mL/405) ≧ 2.5
** 糖脂質代謝異常(症)は、以下の①~④のいずれかが確認されたうえで、かつ⑤を満たす場合とする。
① 早朝空腹時血糖値126mg/dL以上
② 75gOGTTで2時間値200mg/dL以上
③ 随時血糖値200mg/dL以上
④ HbA1c 6.5%以上
⑤ 血中中性脂肪値150mg/dL以上
2.神経性食思不振症等の拒食症、悪性疾患や慢性疾患に伴う悪液質が除外されること。

B.後天性全身性脂肪萎縮症
出生時には脂肪組織の異常が認められないが、その後、全身の脂肪組織の消失が認められ、下記の1及び2を満たす場合をDefinite(確定)とする。
1. 以下の1)又は2)を満たすこと
1) MRI T1強調画像にて全身の皮下脂肪組織、腹腔内脂肪組織の消失を認めること。
2) 血中レプチン濃度が低下しており(男性0.6ng/mL未満、女性1.9ng/mL未満)、かつ代謝異常の発症前から脂肪の萎縮があり、脂肪萎縮とともに食欲が亢進しインスリン抵抗性*及び糖脂質代謝異常(症)**が認められること。
* HOMA-IR (空腹時血糖値mg/dL×空腹時インスリン値µU/mL/405) ≧ 2.5
** 糖脂質代謝異常(症)は、以下の①~④のいずれかが確認されたうえで、かつ⑤を満たす場合とする。
① 早朝空腹時血糖値126mg/dL以上
② 75gOGTTで2時間値200mg/dL以上
③ 随時血糖値200mg/dL以上
④ HbA1c 6.5%以上
⑤ 血中中性脂肪値150mg/dL以上
2.神経性食思不振症等の拒食症、悪性疾患や慢性疾患に伴う悪液質が除外されること。

C.家族性部分性脂肪萎縮症
思春期前後に四肢の皮下脂肪組織の消失が認められ、下記の1、2、3の全てを満たす場合をDefinite(確定)、1、2のみを満たす場合をPossible(疑い例)とする。
1.MRI T1強調画像にて四肢の皮下脂肪組織の消失を認めること。
2.神経性食思不振症等の拒食症、悪性疾患や慢性疾患に伴う悪液質が除外されること。
3.LMNAPPARGAKT2ZMPSTE24CIDECPLIN1のいずれかの遺伝子にヘテロ接合体変異又はPSMB8遺伝子にホモ接合体変異あるいは複合ヘテロ接合体変異をみとめること。
なお、LMNAPPARGAKT2ZMPSTE24CIDECPLIN1の変異による場合には常染色体顕性遺伝(優性遺伝)形式をとることから、しばしば家族内発症が認められる。
D.後天性部分性脂肪萎縮症(抗HIV治療薬や骨髄移植後等による薬剤性又は二次性の場合は除く)
出生時には脂肪組織の異常を認められないが、その後、四肢の皮下脂肪組織や上半身の脂肪組織の消失が認められ、下記の1、2、3の全てを満たす場合をDefinite(確定)、1、2のみを満たす場合をPossible(疑い例)とする。
1.MRI T1強調画像にて四肢の皮下脂肪組織あるいは頭頸部を含む上半身の脂肪組織の消失を認めること。
2.神経性食思不振症等の拒食症、悪性疾患や慢性疾患に伴う悪液質が除外されること。
3. C3補体価の低下を認めること。
   ※後天性部分性脂肪萎縮症のうち抗HIV治療薬や骨髄移植後等の薬剤性又は二次性によるものは医療費助成の対象としない。

<重症度分類>
Aを認め、B、C、Dのいずれか1つを認める場合を重症例とし、対象とする。

A.HOMA-IR(空腹時血糖値mg/dL×空腹時インスリン値µU/mL/405)≧ 2.5

B.以下のいずれか1つを満たす
1.早朝空腹時血糖値126mg/dL以上
2.75gOGTTで2時間値200mg/dL以上
3.随時血糖値200mg/dL以上
4.HbA1c 6.5%以上

C. 空腹時インスリン値30µU/mL以上

D. 血中中性脂肪値 150mg/dL以上

※診断基準及び重症度分類の適応における留意事項
1.病名診断に用いる臨床症状、検査所見等に関して、診断基準上に特段の規定がない場合には、いずれの時期のものを用いても差し支えない(ただし、当該疾病の経過を示す臨床症状等であって、確認可能なものに限る)。
2.治療開始後における重症度分類については、適切な医学的管理の下で治療が行われている状態であって、直近6か月間で最も悪い状態を医師が判断することとする。
3.なお、症状の程度が上記の重症度分類等で一定以上に該当しない者であるが、高額な医療を継続することが必要なものについては、医療費助成の対象とする。
 

令和6年4月1日

情報提供者
研究班名 ホルモン受容機構異常に関する調査研究班
研究班名簿 
情報更新日 令和6年4月(名簿更新:令和5年6月)