HTLV-1関連脊髄症(HAM)(指定難病26)

えいちてぃーえるぶい-1かんれんせきずいしょう

(概要、臨床調査個人票の一覧は、こちらにあります。)

1. 「HTLV-1 関連脊髄症(HAM)」とはどのような病気ですか

HAMは、成人T細胞白血病(ATL)の原因ウイルスであるヒトT細胞白血病ウイルス1型(HTLV-1)感染者の一部に、進行性の両下肢麻痺、排尿排便障害を示す、日本で発見された疾患です。HTLV-1というウイルスはヒトのリンパ球に 潜在感染 し、授乳や性交渉を介して伝搬します。HTLV-1の感染者は全国に約100万人いるといわれていますが、その大多数はHTLV-1による病気を起こすことなく、生涯を過ごします。しかし、一部の人ではHTLV-1に感染したリンパ球が、脊髄で慢性的な 炎症 を引き起し、それにより脊髄が傷害されるために、両下肢のつっぱり感、歩行困難、しびれ感、排尿困難や便秘などの症状が現れます。また、これらの症状は、次第に進行していきます。

2. この病気の患者さんはどのくらいいるのですか

2010年に全国 疫学調査 が行われ、全国で約3000名の患者がいると推定されています。患者は西日本、特に九州・四国、沖縄に約半数が存在し、ATLの分布とほぼ一致しています。この調査では、以前の調査に比べ九州では減少傾向がみられますが、人口の集中する東京や大阪、名古屋などの大都市圏で患者の比率が増加しており、全国への拡散傾向が見られます。世界的には、HTLV-1感染者、ATLの分布と一致してカリブ海沿岸諸国、南アメリカ、西南アフリカ、南インド、イラン内陸部などで患者が多く確認されており、これらの地域からの移民を介して、ヨーロッパ諸国、アメリカ合衆国などに拡散し、現在では、世界的に患者が存在することが報告されています。

3. この病気はどのような人に多いのですか

血液検査でHTLV-1抗体が陽性という結果が出た人、すなわちHTLV-1に感染している人がHAMを発症しますが、HTLV-1に感染しているすべての人がHAMを発症するわけではありません。1987-1988年に実施された全国調査をもとに計算された、抗体陽性者が生涯にHAMを発症する可能性は0.25%、すなわち400人に1人と極めて低い確率といえます。男女比はおよそ1:2-3と女性に多く、複数の遺伝的要因や感染しているHTLV-1のウイルスのタイプにより、発症頻度に差がある可能性が報告されています。また、多くは中年以降にHAMを発症しますが、10代、あるいはそれ以前の発症と考えられる患者も存在します。HAM患者は、体内のHTLV-1ウイルス量が増加しており、HTLV-1ウイルス量が多い人はHAMになりやすいと考えられます。

4. この病気の原因はわかっているのですか

HTLV-1への感染が要因となり、ウイルスが体内で増加するとHAMになりやすくなります。しかし、なぜHTLV-1感染者の一部にのみ発症するのか、その 機序 (原因)はわかっていません。

5. この病気は遺伝するのですか

遺伝しません。HTLV-1は、母乳を介して、あるいは性交渉を介して(主に男性から女性へ)感染するため、家族内の複数の人に発症することはあります。また、免疫応答に関連する複数の遺伝的要因がHAMの発症に関与していることが報告されているため、HAMを発症しやすいという体質がある可能性があります。

6. この病気ではどのような症状がおきますか

自分で気づく症状の第一は、徐々に進行する歩行障害で、まず両下肢のつっぱり感のために足がもつれて歩きにくくなります。また、走ると転びやすく、階段の上り下りは、はじめは下りにくさを感じます。両下肢の筋力低下が出現すると、特に大腿や腰回りに力が入りにくく、つっぱり感も加わって、すばやくスムーズな動きができなくなります。病気が進むと大腿部が持ち上がらず、階段の上りも困難になります。下肢のつっぱり(痙性)が強い場合は、筋肉の硬直やけいれんを伴い、自分では膝・足関節や股関節を曲げることが困難になります。逆に、ちょっとした刺激で反射的に関節が屈曲し、転倒の原因になることもあります。歩行障害が進行すると、片手杖、両手杖、さらに車椅子が必要になります。
また、下半身の持続するしびれ感や痛みなど、感覚の異常も発症の早期からよく起こります。時に触覚や温痛覚の低下がみられますが、運動障害に比べて軽度にとどまることが多く、はっきりと感覚の低下を自覚している人は少ないかもしれません。自覚的に異常の無い方でも、神経内科の診察で足首部での 振動覚 低下がしばしばみられます。
両下肢の症状と並んで、早期から自覚される症状として排尿障害や便秘などの自律神経症状があります。排尿障害の症状としては、トイレに行ってもまたすぐにトイレに行きたくなる頻尿や、全部出し切れずに残った感じがする残尿感、尿意があってもなかなか出ない排尿困難、尿意を感じたら我慢できずに漏れてしまう尿失禁などがみられます。時に、歩行障害の症状が軽くても、頻尿や繰り返す膀胱炎で泌尿器科を受診し、HAMと診断されることもあります。また頑固な便秘や残便感は、あまりHAMと関連している症状として自覚されませんが、多くの患者で認められます。そのほか、進行例では 起立性低血圧 や下半身の発汗障害なども認められ、発汗低下による鬱熱のため、夏場に微熱、倦怠感が続き、適切な室温管理が必要となることもあります。また、男性ではインポテンツがしばしばみられます。

7. この病気にはどのような治療法がありますか

HTLV-1ウイルスの増殖を抑制して、脊髄の 炎症 を抑制できるような 抗ウイルス療法 が最も理にかなった治療法といえます。残念なことに、HTLV-1ウイルスが体内で増殖することを抑えする薬は今のところ使える状況にはありません。しかしながら、脊髄の炎症を抑制して症状を軽減したり進行を遅らせたりする効果がある薬はあり、その代表的なものにステロイド剤があります。ステロイド剤の内服により約7割の患者で何らかの治療効果が見られており、その治療により髄液の炎症レベルを減少させることがわかっています。ステロイド剤は、他の感染症の誘発、糖尿病の悪化、骨粗鬆症による骨折などの副作用が少なからず見られ、長期の服用は副作用を予防することが重要ですが、一方で中止によりしばしば 再燃 がみられています。
その他の薬に、インターフェロンαがあり、唯一 保険適用 となっている薬剤です。インターフェロンα治療後にHTLV-1ウイルス量がやや減少していることがわかっていますが、長期的な有効性は明らかではありません。インターフェロンαを使用する場合は、うつ症状や肝障害、白血球減少などの副作用に注意が必要です。
下肢の痙性、すなわちつっぱりに対しては、継続的なリハビリテーションが推奨されます。特にリハビリテーションは大切で、腰回りの筋力増強やアキレス腱の伸張により、歩行の改善効果が得られます。また、排尿障害や便秘などに対する対症療法も重要で、特に残尿が多い場合は早めに自己導尿を検討することが、腎臓を守るために有効です。

8. この病気はどういう経過をたどるのですか

下肢のつっぱり感、歩行時の足のもつれなどが初発症状となることが多いですが、頻尿、尿閉など膀胱直腸障害やしびれ感が初発症状のこともあります。通常は 緩徐進行性 で慢性に経過しますが、進行が早く数週間で歩行不能になる例もみられ、特に高齢での発症者に進行が早い傾向があります。また重症な例では両下肢の 完全麻痺 、体躯の筋力低下による座位障害で寝たきりとなります。一方で、運動障害が軽度のまま長期にわたり症状の進行がほとんどみられない患者もみられます。

9. この病気は日常生活でどのような注意が必要ですか

歩行や立ち上がり時の転倒は、大腿骨頸部の骨折などで寝たきりになるきっかけとなってしまいますので、十分な注意が必要です。また、尿路感染の繰り返しや、 褥瘡 などにも注意が必要です。症状の進行を予防し、筋力を維持するためにも定期的にできるリハビリテーションを積極的に取り入れましょう。他のHTLV-1関連疾患(ぶどう膜炎、シェーグレン症候群、ATLなど)の併発の可能性もありますので、医療機関での定期的な受診が必要です。

10. この病気に関する資料・関連リンク

1)HTLV-1情報サービス
HTLV-1総合対策事業の一つとして開設されたウェブサイト(http://htlv1joho.org/)でわかりやすく解説されています。またこのサイトでは、HAMの小冊子(題名:HAMと診断された患者さまへ)がダウンロードできます( http://htlv1joho.org/img/general/illustration/haml.pdf)。
2)HAM患者登録サイト(HAMねっと)
HAMの研究班により運営されているHAM患者専用の登録サイトです(http://hamtsp-net.com/)。HAMねっとに登録することで、HAMに関する最新の治験情報や研究の進捗状況、講演会の開催情報などを得ることができます。

また、HAM患者会のホームページでもいろいろな情報を入手できます。
1)HAM患者会「アトムの会」
https://www.smile-ribbon.org/blank-4
2)長崎・佐賀HAM患者会ひまわり
http://hamnagasaki.web.fc2.com/

情報提供者
研究班名HAMならびに類縁疾患の患者レジストリを介した診療連携モデルの構築によるガイドラインの活用促進と医療水準の均てん化に関する研究班
研究班名簿 研究班ホームページ
情報更新日令和元年6月