脳表ヘモジデリン沈着症(指定難病122)

のうひょうへもじでりんちんちゃくしょう
 

(概要、臨床調査個人票の一覧は、こちらにあります。)

○ 概要
 
1.概要
脳表ヘモジデリン沈着症は、鉄(ヘモジデリン)が脳表、脳実質に沈着し、神経障害を来す疾患である。小脳、脳幹など後頭蓋窩や脊髄を中心に中枢神経系にびまん性・対称性に病変が生じるタイプ(古典型)と、限局性(例:一側の前頭葉など)に生じるタイプ(限局型)の2種類があり、通常は前者を指す。古典型の臨床症候として感音性難聴、小脳失調を高度に認める。一部には、脳動脈瘤、脳動静脈瘻、アミロイド血管症、腫瘍、外傷、脳脊髄液減少症、脊柱管内の嚢胞性疾患・硬膜異常症などの合併を認め、原因疾患と考えられることもあるが、明らかな関連疾患を見いだせない場合が多い。
 
2.原因
脳動脈瘤、脳動静脈瘻、アミロイド血管症、腫瘍、外傷、脳脊髄液減少症、脊柱管内の嚢胞性疾患・硬膜異常症などの合併を認め、原因疾患と考えられることもあるが、明らかな関連疾患を見いだせない場合が多い。鉄沈着、ヘモジデリン沈着、フェリチン沈着と神経変性へ繋がる機序の解明が必要で、タウやシヌクレインの異常凝集を惹起する可能性もある。
 
3.症状
古典型臨床症候(古典型)
1.感音性難聴、2.小脳失調、3.脊髄症(歩行障害、排尿障害、しびれなど様々)
4.認知機能障害
注:1か2が初発症状(あるいは1か2で気付かれる)であることが圧倒的に多い。
MRIを満たすが神経症候がない場合あるいは1から4以外の症候だけの場合は非典型例として別に記載する。限局型に特徴的な症候は明らかでない。
 
4.治療法
現在のところ、特異的な治療法がないが、上記の原因と考えられる疾患が存在するときは、それに対する治療を考慮する。ただし、神経症候が改善するかどうか不明。キレート剤、ステロイド剤の効果があるとする報告もあるが確立されていない。難聴に対して人工内耳埋め込み術の可能性も検討される。
 
5.予後
緩徐進行性で、日常生活動作の障害は著しく障害される。
 
 
 
 
 
○ 要件の判定に必要な事項
1.  患者数
100人未満
2.  発病の機構
不明(持続性出血と神経変性)
3.  効果的な治療方法
未確立(対症療法のみである。)
4.  長期の療養
必要(緩徐進行性である。)
5.  診断基準
あり(研究班作成の診断基準)
6.  重症度分類
modified Rankin Scale(mRS)、食事・栄養、呼吸のそれぞれの評価スケールを用いて、いずれかが3以上を対象とする。
 
○ 情報提供元
「脳表ヘモシデリン沈着症の診断基準の構築と調査に関する研究班」
研究代表者 埼玉医科大学国際医療センター 神経内科・脳卒中内科 教授  高尾昌樹
 
 
<診断基準>
 
古典型を対象とする(非典型例及び限局型は対象外とする。)。
 
診断のカテゴリー
古典型の診断には臨床症候の1から4のいずれかを認め、画像診断の1を満たすことが必須条件である。
 
臨床症候(古典型)
1.感音性難聴
2.小脳失調
3.脊髄症(歩行障害、排尿障害、しびれなど様々)
4.認知機能障害
注:1か2が初発症状(あるいは1か2で気付かれる)であることが圧倒的に多い。画像診断の1を満たすが神経症候がない場合あるいは1から4以外の症候だけの場合は非典型例とする。
限局型に特徴的な症候は明らかでない。
 
画像診断
現在臨床的に診断を行うためには、MRIによる診断に依拠する以外なくMRIで発見されることも多い。
1.MRIのT2強調画像、T2*強調画像において脳や脊髄の表面を縁取る明瞭な低信号をびまん性、対称性に認める。特に小脳、脳幹など後頭蓋窩に優位に分布する。脳神経や脊髄にも認められ、脳、脊髄には限局性萎縮を伴うことが多い。
2.原因疾患として脳動脈瘤、脳動静脈瘻、アミロイド血管症、脳及び脊髄腫瘍、外傷、脳脊髄液減少症、脊柱管内の嚢胞性疾患、硬膜異常症などの合併が報告されていることから、それらを検索する撮像方法を適宜考慮する。
3.ただし、2に挙げた疾患を原因とする限局性のヘモジデリン沈着症(例えば一側前頭葉のみなど)がみられることがあるが、1でいうところの対称性、びまん性のヘモジデリン沈着症とは区別する。
注:MRIの撮像方法
1.ヘモジデリン沈着症を描出するため頭部、脊髄のT2強調画像、T2*強調画像あるいは可能であればSWIが必要。
2.随伴病変(原因疾患)の検索のため、頭部の造影T1強調画像、MRA、脊髄の(脂肪抑制)T2強調画像、造影T1強調画像、MR又はCTミエログラフィ-、脊髄血管造影:脊髄血管病変、硬膜異常の評価なども重要(脊柱管内及びその周辺に、硬膜の先天性、後天性病変を検索する。病態は様々であるが、脊髄クモ膜下腔あるいはこれに連続する硬膜外腔の異常な限局性拡張が特徴である)。
 
脳脊髄液検査
赤血球数の上昇、総蛋白上昇、鉄上昇、フェリチン上昇が報告されているので検討を要する。
 
 
 
<重症度分類>
modified Rankin Scale(mRS)、食事・栄養、呼吸のそれぞれの評価スケールを用いて、いずれかが3以上を対象とする。
 

日本版modified Rankin Scale(mRS)判定基準書

modified Rankin Scale

参考にすべき点

全く症候がない

自覚症状及び他覚徴候が共にない状態である

症候はあっても明らかな障害はない:
日常の勤めや活動は行える

自覚症状及び他覚徴候はあるが、発症以前から行っていた仕事や活動に制限はない状態である

軽度の障害:
発症以前の活動が全て行えるわけではないが、自分の身の回りのことは介助なしに行える

発症以前から行っていた仕事や活動に制限はあるが、日常生活は自立している状態である

中等度の障害:
何らかの介助を必要とするが、歩行は介助なしに行える

買い物や公共交通機関を利用した外出などには介助を必要とするが、通常歩行、食事、身だしなみの維持、トイレなどには介助を必要としない状態である

中等度から重度の障害:
歩行や身体的要求には介助が必要である

通常歩行、食事、身だしなみの維持、トイレなどには介助を必要とするが、持続的な介護は必要としない状態である

重度の障害:
寝たきり、失禁状態、常に介護と見守りを必要とする

常に誰かの介助を必要とする状態である

死亡

 
日本脳卒中学会版
 
食事・栄養(N)
0.症候なし。
1.時にむせる、食事動作がぎこちないなどの症候があるが、社会生活・日常生活に支障ない。
2.食物形態の工夫や、食事時の道具の工夫を必要とする。
3.食事・栄養摂取に何らかの介助を要する。
4.補助的な非経口的栄養摂取(経管栄養、中心静脈栄養など)を必要とする。
5.全面的に非経口的栄養摂取に依存している。
呼吸(R)
0. 症候なし。
1.肺活量の低下などの所見はあるが、社会生活・日常生活に支障ない。
2.呼吸障害のために軽度の息切れなどの症状がある。
3.呼吸症状が睡眠の妨げになる、あるいは着替えなどの日常生活動作で息切れが生じる。
4.喀痰の吸引あるいは間欠的な換気補助装置使用が必要。
5.気管切開あるいは継続的な換気補助装置使用が必要。
 
 
※診断基準及び重症度分類の適応における留意事項
1.病名診断に用いる臨床症状、検査所見等に関して、診断基準上に特段の規定がない場合には、いずれの時期のものを用いても差し支えない(ただし、当該疾病の経過を示す臨床症状等であって、確認可能なものに限る。)。
2.治療開始後における重症度分類については、適切な医学的管理の下で治療が行われている状態であって、直近6か月間で最も悪い状態を医師が判断することとする。
3.なお、症状の程度が上記の重症度分類等で一定以上に該当しない者であるが、高額な医療を継続す
ることが必要なものについては、医療費助成の対象とする。

平成27年7月1日

情報提供者
研究班名 運動失調症の医療水準、患者QOLの向上に資する研究班
研究班名簿 研究班ホームページ
情報更新日 令和4年3月(名簿更新:令和5年6月)