神経フェリチン症(指定難病121)

しんけいふぇりちんしょう
 

(概要、臨床調査個人票の一覧は、こちらにあります。)

○ 概要
 
1.概要
神経フェリチン症は、フェリチン軽鎖遺伝子変異に関連する多彩な神経症候を数十年にわたり認める疾患である。頭部MRIでは基底核病変を反映してT2延長と短縮が混在する所見を呈するとされ、病理学的には変異フェリチン軽鎖、正常フェリチン軽鎖および重鎖が、神経細胞体及び核内、グリア細胞核内に蓄積する。
 
2.原因
フェリチン軽鎖遺伝子変異により発症する遺伝性疾患とされている。脳内神経細胞、グリア細胞に変異したフェリチンだけでなく、変異フェリチン軽鎖、正常フェリチン軽鎖および重鎖が蓄積する。
フェリチン蓄積に伴う神経細胞死やあるいは神経症候との関わり、なぜ極めて長期間にわたり緩徐に進行するのかなど、不明な点が多い。
 
3.症状
振戦、小脳失調、錐体路徴候、錐体外路徴候、認知障害などが、極めて長期間にわたり様々な程度で出現することが特徴
 
4.治療法
現在のところ、特異的な治療法がない。
 
5.予後
緩徐進行性であり、長期的には日常生活動作が高度に障害される。
 
○ 要件の判定に必要な事項
1.  患者数
100人未満
2.  発病の機構
不明(遺伝子変異による)
3.  効果的な治療方法
未確立(対症療法のみである。)
4.  長期の療養
必要(進行性である。)
5.  診断基準
あり(研究班作成の診断基準)
 
 
6.  重症度分類
Barthel index 85点以下を対象とする。
 
○ 情報提供元
「神経フェリチン症の診断基準の構築と調査に関する研究班」
研究代表者 埼玉医科大学国際医療センター 神経内科・脳卒中内科 教授  高尾昌樹
 
 
<診断基準>
 
Definiteを対象とする。
 
概念
神経フェリチン症は、フェリチン軽鎖遺伝子変異により、変異フェリチンと正常フェリチンからなる封入体が、神経細胞やグリア細胞を中心に蓄積し、不随意運動などの錐体外路症候、小脳失調、錐体路徴候、認知機能障害を長期にわたり認める疾患である。頭部MRIで両側大脳基底核の変性所見(特に嚢胞性変化)が特徴的である。
 
臨床症候
1.ジストニア及び不随意運動(コレア、振戦、アテトーゼ)などの錐体外路症候を主体とする。
2.小脳失調、錐体路徴候、認知機能障害、精神症状や、時に自律神経症候を認めることがある。
3.10歳代から60歳代で発症する(10歳未満で発症の報告はない。)。
4.症状は数十年にわたり緩徐に進行し、様々な程度で出現する。
5.一般に常染色体優性遺伝形式をとるが、家族歴が明らかでない場合がある。
(参考)血清フェリチン値の低下を指摘する報告もある。
 
画像診断
1.頭部MRIのT2強調画像やT2*強調画像において鉄沈着を反映する低信号が淡蒼球、被殻、視床、歯状核、黒質、赤核、大脳皮質などに広範に認められる。
2.両側大脳基底核に認められる脳脊髄液にほぼ等しい信号強度を示す空洞形成(嚢胞性変化)は、本症にかなり特徴的である。
3.T2強調画像やT2*強調画像において、淡蒼球の低信号の内部に高信号をみるいわゆるeye-of-the-tiger徴候を認めることもあるが、パントテン酸キナーゼ関連神経変性症など他の鉄沈着を伴う神経変性疾患にも認められ、また正常加齢においても類似の所見が見られることがあるので慎重な評価が必要である。
4.鉄沈着による低信号は、T2強調画像よりもT2*強調画像、磁化率強調画像の方が明瞭となることが多く、本症を疑う場合は積極的に撮影することが推奨される。
 
病理診断
基底核において神経細胞、グリア細胞の細胞質や核内にフェリチンの沈着による封入体を認める。それ以外に、大脳や小脳の皮質、白質にも同様の所見を認める。
 
遺伝子診断
フェリチン軽鎖遺伝子変異を確認することでDefiniteとする。
 
 
 
<重症度分類>
Barthel index 85点以下を対象とする。

 

質問内容

点数

食事

自立、自助具などの装着可、標準的時間内に食べ終える

10

部分介助(たとえば、おかずを切って細かくしてもらう)

全介助

車椅子からベッドへの移動

自立、ブレーキ、フットレストの操作も含む(歩行自立も含む)

15

軽度の部分介助又は監視を要する

10

座ることは可能であるがほぼ全介助

全介助又は不可能

整容

自立(洗面、整髪、歯磨き、ひげ剃り)

部分介助又は不可能

トイレ動作

自立(衣服の操作、後始末を含む。ポータブル便器などを使用している場合はその洗浄も含む)

10

部分介助、体を支える、衣服、後始末に介助を要する

全介助又は不可能

入浴

自立

部分介助又は不可能

歩行

45m以上の歩行、補装具(車椅子、歩行器は除く)の使用の有無は問わず

15

45m以上の介助歩行、歩行器の使用を含む。

10

歩行不能の場合、車椅子にて45m以上の操作可能

上記以外

階段昇降

自立、手すりなどの使用の有無は問わない

10

介助又は監視を要する。

不能

着替え

自立、靴、ファスナー、装具の着脱を含む

10

部分介助、標準的な時間内、半分以上は自分で行える

上記以外

排便コントロール

失禁なし、浣腸、坐薬の取扱いも可能

10

ときに失禁あり、浣腸、坐薬の取扱いに介助を要する者も含む

上記以外

10

排尿コントロール

失禁なし、収尿器の取扱いも可能

10

ときに失禁あり、収尿器の取扱いに介助を要する者も含む

上記以外

 
 
 
 
※診断基準及び重症度分類の適応における留意事項
1.病名診断に用いる臨床症状、検査所見等に関して、診断基準上に特段の規定がない場合には、いずれの時期のものを用いても差し支えない(ただし、当該疾病の経過を示す臨床症状等であって、確認可能なものに限る。)。
2.治療開始後における重症度分類については、適切な医学的管理の下で治療が行われている状態であって、直近6か月間で最も悪い状態を医師が判断することとする。
3.なお、症状の程度が上記の重症度分類等で一定以上に該当しない者であるが、高額な医療を継続す
ることが必要なものについては、医療費助成の対象とする。

平成27年7月1日

情報提供者
研究班名 神経変性疾患領域の基盤的調査研究班
研究班名簿 研究班ホームページ
情報更新日 令和3年9月(名簿更新:令和4年7月)