コフィン・シリス症候群(指定難病185)

こふぃんしりすしょうこうぐん
 

(概要、臨床調査個人票の一覧は、こちらにあります。)

○ 概要
 
1.概要
コフィン・シリス症候群(Coffin-Siris症候群)は、1970年にCoffinとSirisにより初めて報告された先天異常症候群であり、重度の知的障害、成長障害、特徴的な顔貌(疎な頭髪、濃い眉と睫毛、厚い口唇など)、手足の第5指の爪及び末節骨の無~低形成を主徴とする疾患である。
 
2.原因
ほとんどが孤発例であるが、家族例や同胞例の報告も散見されるため、常染色体優性遺伝、常染色体劣性遺伝の両方の遺伝形式が想定されている。常染色体優性遺伝形式をとる原因遺伝子として、SMARCB1SMARCA4SMARCE1ARID1AARID1BPHF6SOX11が同定されている。そのうちSMARCB1SMARCA4SMARCE1ARID1AARID1Bはクロマチン再構成因子として知られるSWI/SNF複合体のサブユニットをコードし、本症候群の病態にSWI/SNF複合体異常が深く関与すると考えられている。
 
3.症状
重度の精神発達の遅れ、成長障害、特徴的な顔貌(疎な頭髪、濃い眉と睫毛、厚い口唇など)、手足の第5指の爪及び末節骨の無~低形成を主徴とし、心疾患を合併する。
 
4.治療法
てんかんに対しては必要に応じて薬物療法、心疾患に対しては必要に応じて手術や薬物療法を行う。
 
5.予後
主に難治性てんかんの併存及び合併する心疾患により生命予後が左右される。
 
 
 
○ 要件の判定に必要な事項
1.  患者数
100人未満
2.  発病の機構
不明(ただし、疾患責任遺伝子としてSMARCB1SMARCA4SMARCE1ARID1AARID1BPHF6SOX11の7遺伝子が報告されている。)
3.  効果的な治療方法
未確立(対症療法のみ。)
4.  長期の療養
必要(症状が不可逆的変化もしくは進行性である。)
5.  診断基準
あり(研究班作成の診断基準あり。)
6.  重症度分類
以下の1)~3)のいずれかを満たす場合を対象とする。
1)難治性てんかんの場合
2)先天性心疾患があり、薬物治療・手術によってもNYHA分類でII度以上に該当する場合。
3)気管切開、非経口的栄養摂取(経管栄養、中心静脈栄養など)、人工呼吸器使用の場合。
 
 
○ 情報提供元
「コフィン・サイリス症候群の分子遺伝学的解析と診断・治療法の開発研究班」
研究代表者 横浜市立大学 准教授 三宅紀子
「国際標準に立脚した奇形症候群領域の診療指針に関する学際的・網羅的検討」
研究代表者 慶應義塾大学 小崎健次郎
 
 
<診断基準>
確定診断例、臨床診断例を対象とする。
原因遺伝子(ARID1A遺伝子、ARID1B遺伝子、SMARCB1遺伝子、SMATCA4遺伝子、SMARCE1遺伝子、PHF6遺伝子、SOX11遺伝子等)のいずれかに変異を認めればコフィン・シリス症候群と診断が確定する。変異を認めない場合もあり、乳・幼児期よりAの大基準を全て認めれば臨床診断する。
 
A.臨床症状
大基準:
1.第5指爪と末節骨の低~無形成
2.発達遅滞、知的障害
3.顔貌上の特徴
特徴の強い(coarseness)顔貌を呈する場合もあれば(古典型/A型)、それほど特徴の強くない場合もある(バリアント型/B型)が以下を参照。
・濃い眉毛と長い睫毛~薄く細く弓状の眉毛
・幅広い鼻梁・鼻先
・厚い上下口唇を伴った幅広い口〜薄い上口唇
 
小基準:
4.外胚葉系の異常(多毛、濃い眉毛、長い睫毛、頭髪は薄い)
5.成長障害(小頭症、子宮内発育遅延、低身長、体重増加不良、反復性感染症)
6.臓器異常(先天性心疾患、摂食障害、胃腸の異常、泌尿器の異常、脳奇形とけいれん、視覚異常、難聴)
 
B.遺伝学的検査
ARID1A遺伝子、ARID1B遺伝子、SMARCB1遺伝子、SMATCA4遺伝子、SMARCE1遺伝子、PHF6遺伝子、SOX11遺伝子に変異を認める。
 
 
 
 
 
 
<重症度分類>
1)~3)のいずれかに該当する者を対象とする。
1)難治性てんかんの場合:主な抗てんかん薬2~3種類以上の単剤あるいは多剤併用で、かつ十分量で、2年以上治療しても、発作が1年以上抑制されず日常生活に支障をきたす状態。(日本神経学会による定義)
 
2)先天性心疾患があり、薬物治療・手術によってもNYHA分類でII度以上に該当する場合。
NYHA分類

 

I度

心疾患はあるが身体活動に制限はない。
日常的な身体活動では疲労、動悸、呼吸困難、失神あるいは狭心痛(胸痛)を生じない。

II度

軽度から中等度の身体活動の制限がある。安静時又は軽労作時には無症状。
日常労作のうち、比較的強い労作(例えば、階段上昇、坂道歩行など)で疲労、動悸、呼吸困難、失神あるいは狭心痛(胸痛)を生ずる。

III度

高度の身体活動の制限がある。安静時には無症状。
日常労作のうち、軽労作(例えば、平地歩行など)で疲労、動悸、呼吸困難、失神あるいは狭心痛(胸痛)を生ずる。

IV度

心疾患のためいかなる身体活動も制限される。
心不全症状や狭心痛(胸痛)が安静時にも存在する。
わずかな身体活動でこれらが増悪する。

NYHA: New York Heart Association
 
NYHA分類については、以下の指標を参考に判断することとする。

NYHA分類

身体活動能力
(Specific Activity Scale:SAS)

最大酸素摂取量
(peakVO2

I

6METs以上

基準値の80%以上

II

3.5~5.9METs

基準値の60~80%

III

2~3.4METs

基準値の40~60%

IV

1~1.9METs以下

施行不能あるいは
基準値の40%未満

 
※NYHA分類に厳密に対応するSASはないが、
「室内歩行2METs、通常歩行3.5METs、ラジオ体操・ストレッチ体操4METs、速歩5~6METs、階段6~7METs」をおおよその目安として分類した。
 
3)気管切開、非経口的栄養摂取(経管栄養、中心静脈栄養など)、人工呼吸器使用の場合。
 
 
 
※診断基準及び重症度分類の適応における留意事項
1.病名診断に用いる臨床症状、検査所見等に関して、診断基準上に特段の規定がない場合には、いずれの時期のものを用いても差し支えない(ただし、当該疾病の経過を示す臨床症状等であって、確認可能なものに限る。)。
2.治療開始後における重症度分類については、適切な医学的管理の下で治療が行われている状態であって、直近6か月間で最も悪い状態を医師が判断することとする。
3.なお、症状の程度が上記の重症度分類等で一定以上に該当しない者であるが、高額な医療を継続することが必要なものについては、医療費助成の対象とする。

平成27年7月1日

  • American Journal of Medical Genetics Part C (Seminar in Medical Genetics) 166C(Kosho T, Miyake N編)が本症候群の特集号になっており、最新の詳細かつ包括的知見が得られる。
情報提供者
研究班名 患者との双方向的協調に基づく先天異常症候群の自然歴の収集とrecontact可能なシステムの構築班
研究班名簿 
情報更新日 令和3年9月(名簿更新:令和5年6月)