巨大静脈奇形(頚部口腔咽頭びまん性病変)(指定難病279)

きょだいじょうみゃくきけい(けいぶこうくういんとうびまんせいびょうへん)
 

(概要、臨床調査個人票の一覧は、こちらにあります。)

○ 概要
 
1.概要
巨大静脈奇形(頚部口腔咽頭びまん性病変)は、頚部・口腔・咽頭の全領域にびまん性連続性に発症する巨大腫瘤性の静脈形成異常である。
静脈奇形は胎生期における脈管形成の異常であり、静脈類似の血管腔が増生する低流速の血液貯留性病変である。先天異常の一種と考えられるが、学童期や成人後の後天的な発症も少なくない。従来「海綿状血管腫」「筋肉内血管腫」「静脈性血管腫」等と呼ばれてきたが、血管腫・脈管奇形の国際学会であるISSVA(International Society for the Study of Vascular Anomalies)が提唱するISSVA分類では、「静脈奇形」に統一されている。単一組織内で辺縁明瞭に限局するものから、辺縁不明瞭で複数臓器にびまん性に分布するものまで様々な病変があるが、びまん性巨大病変は難治で多種の障害をひきおこす。病状は加齢、妊娠、外傷などの要因により進行し、巨大なものでは血液凝固異常や心不全に至る。
なかでも頚部口腔咽頭びまん性巨大静脈奇形は、気道圧迫、摂食・嚥下困難など生命に影響を及ぼし、さらに重要な神経、血管や主要臓器と絡み合って治療困難であり、進行に伴い血液凝固異常や心不全、致死的出血などを来すことから、他の病変とは別の疾患概念を有する。
静脈奇形の治療法としては主に外科的切除と硬化療法が選択されるが、巨大静脈奇形(頚部口腔咽頭びまん性病変)では完全切除は頚部・口腔・咽頭の重要機能の喪失につながりうるため不可能で、部分切除は致死的大量出血につながり、硬化療法は治療効果が限定的かつ一時的で悪化につながる場合もある。巨大静脈奇形(頚部口腔咽頭びまん性病変)は、高度難治性に進行し、大量出血や心不全による致死的な病態もあるため、対症療法も含めて生涯にわたる長期療養を必要とする。
 
2.原因
先天性病変。胎生期における脈管形成の異常とされているが、発生原因は不明である。
 
3.症状
巨大静脈奇形(頚部口腔咽頭びまん性病変)は先天性病変であることから発症は出生時から認めることが多いが、乳児期では奇形血管の拡張度が少なく、小児期での症状初発も稀ではない。女性では月経や妊娠により症状増悪を見る。自然消退はなく、男女とも成長や外的刺激などに伴って症状が進行・悪化する。進行に伴い、奇形血管内結石、血液凝固障害、疼痛、感染などが増悪し、高度の感染、出血、心不全は致死的となる。気道狭窄による呼吸困難の症状を呈し気管切開を要するが、前頚部に病変がある場合には気管切開すら困難となる。摂食・嚥下困難、顎骨の変形・吸収・破壊、骨格性咬合不全、閉塞性睡眠時無呼吸、構音機能障害を来す。皮膚や粘膜に病変が及ぶ場合は軽度の刺激で出血・感染を繰り返す。顔面巨大病変を伴う場合には腫瘤形成・変色・変形が顔面の広範囲にわたることにより高度の醜状を呈し、就学・就職・結婚など社会生活への適応を生涯にわたり制限される。
 
4.治療法
静脈奇形一般の保存的治療として、血栓・静脈石予防としてアスピリンなどの投与が行われることがある。血管拡張抑制のために弾性ストッキングなどを用いた圧迫療法があるが、巨大静脈奇形(頚部口腔咽頭びまん性病変)では圧迫自体が呼吸・咀嚼・嚥下などの機能を阻害しかねない。また圧迫自体で疼痛増悪を来す場合もあり、継続困難となる場合が多い。血液凝固異常に対しては抗腫瘍剤投与や放射線照射は無効とされ、低分子ヘパリンなどの投与が行われる。日常的な疼痛や感染などの症状には、鎮痛剤・抗菌薬などによる一般的な対症療法が行なわれる。
侵襲的治療の主なものは硬化療法と切除手術である。薬物療法や放射線照射に有効性は認められていない。硬化療法は多数回の治療を要し、巨大静脈奇形(頚部口腔咽頭びまん性病変)では、硬化剤が頚静脈などを介して急速に大循環に流出するため治療効果が限定的かつ一時的で、むしろ悪化や心停止などにつながる場合もある。
巨大静脈奇形(頚部口腔咽頭びまん性病変)での完全切除は頚部・口腔・咽頭の重要機能の喪失につながりうるため不可能で、部分切除は術中止血困難でかつ慢性的血液凝固障害が播種性血管内凝固症候群(DIC)に移行するため、術中術後出血ともに致死的となる。
 
5.予後
巨大静脈奇形(頚部口腔咽頭びまん性病変)は成長と共に病変が増大し、時間経過に伴い成人後も進行する。呼吸・嚥下・摂食・構音・疼痛・醜状などの重大な機能障害が進行し、高度の感染、出血、心不全は致死的となることなどから、社会的自立が困難となる。硬化療法、切除術などのあらゆる治療を単独もしくは複合的に用いても完治は望めず、病状の一時的制御にとどまる。進行性かつ難治性で、生命の危険に晒されうる疾患であり、対症療法も含めて生涯にわたる長期永続的な病状コントロールを必要とする。
 
○ 要件の判定に必要な事項
1.  患者数
約200人
2.  発病の機構
不明(脈管の発生異常と考えられている。)
3.  効果的な治療方法
未確立(硬化療法、切除術。効果は一時的で難治性である。)
4.  長期の療養
必要
5.  診断基準
あり(研究班作成、日本形成外科学会、日本IVR学会承認の診断基準あり。)
6.  重症度分類
あり(重症度分類において、①~④のいずれかを満たすものを対象とする。)
 
○ 情報提供元
「難治性血管腫・血管奇形・リンパ管腫・リンパ管腫症および関連疾患についての調査研究班」
研究代表者 聖マリアンナ医科大学放射線医学講座 病院教授 三村秀文
 
<診断基準>
 
巨大静脈奇形(頚部口腔咽頭びまん性病変)の診断は、(I)脈管奇形診断基準に加えて、後述する(II)細分類診断基準にて巨大静脈奇形(頚部口腔咽頭びまん性病変)と診断されたものを対象とする。鑑別疾患は除外する。
 
(I)脈管奇形(血管奇形及びリンパ管奇形)診断基準
軟部・体表などの血管あるいはリンパ管の異常な拡張・吻合・集簇など、構造の異常から成る病変で、理学的所見、画像診断あるいは病理組織にてこれを認めるもの。
本疾患には静脈奇形(海綿状血管腫)、動静脈奇形、リンパ管奇形(リンパ管腫)、リンパ管腫症・ゴーハム病、毛細血管奇形(単純性血管腫・ポートワイン母斑)及び混合型脈管奇形(混合型血管奇形)が含まれる。
 
鑑別診断
1.血管あるいはリンパ管を構成する細胞等に腫瘍性の増殖がある疾患
例)乳児血管腫(イチゴ状血管腫)、血管肉腫など
2.明らかな後天性病変
例)一次性静脈瘤、二次性リンパ浮腫、外傷性・医原性動静脈瘻、動脈瘤など
 
(II)細分類
②巨大静脈奇形(頚部口腔咽頭びまん性病変)診断基準
 
画像検査上、頚部・口腔・咽頭の全ての領域にびまん性連続性に病変を確認することは必須である。1の画像検査所見のみでは質的診断が困難な場合、2あるいは3を加えて診断される。巨大の定義は患者の手掌大以上の大きさとする。手掌大とは、患者本人の指先から手関節までの手掌の面積をさす。
 
1.画像検査所見
超音波検査、MRI検査、血管造影検査(直接穿刺造影あるいは静脈造影)、造影CT検査のいずれかで、頚部・口腔・咽頭の全ての領域にわたってびまん性かつ連続性に、拡張又は集簇した分葉状、海綿状あるいは静脈瘤状の静脈性血管腔を有する病変を認める。内部に緩徐な血流がみられるが、血栓や石灰化を伴うことがある。
2.理学的所見
腫瘤状あるいは静脈瘤状であり、表在性病変であれば青色の色調である。圧迫にて虚脱する。病変部の下垂にて膨満し、拳上により虚脱する。血栓形成の強い症例などでは膨満や虚脱の徴候が乏しい場合がある。
3.病理所見
拡張した血管の集簇がみられ、血管の壁には弾性線維が認められる。平滑筋が存在するが壁の一部で確認できないことも多い。成熟した血管内皮が内側を覆う。内部に血栓や石灰化を伴うことがある。
 
 
<重症度分類>
①~④のいずれかを満たすものを対象とする。
①modified Rankin Scale(mRS)、食事・栄養、呼吸のそれぞれの評価スケールを用いて、いずれかが3以上を対象とする。
 

 

日本版modified Rankin Scale (mRS) 判定基準書

modified Rankin Scale

参考にすべき点

まったく症候がない

自覚症状及び他覚徴候がともにない状態である

症候はあっても明らかな障害はない:
日常の勤めや活動は行える

自覚症状及び他覚徴候はあるが、発症以前から行っていた仕事や活動に制限はない状態である

軽度の障害:
発症以前の活動が全て行えるわけではないが、自分の身の回りのことは介助なしに行える

発症以前から行っていた仕事や活動に制限はあるが、日常生活は自立している状態である

中等度の障害:
何らかの介助を必要とするが、歩行は介助なしに行える

買い物や公共交通機関を利用した外出などには介助を必要とするが、通常歩行、食事、身だしなみの維持、トイレなどには介助を必要としない状態である

中等度から重度の障害:
歩行や身体的要求には介助が必要である

通常歩行、食事、身だしなみの維持、トイレなどには介助を必要とするが、持続的な介護は必要としない状態である

重度の障害:
寝たきり、失禁状態、常に介護と見守りを必要とする

常に誰かの介助を必要とする状態である

死亡

 
日本脳卒中学会版
 
 
食事・栄養 (N)
0.症候なし。
1.時にむせる、食事動作がぎこちないなどの症候があるが、社会生活・日常生活に支障ない。
2.食物形態の工夫や、食事時の道具の工夫を必要とする。
3.食事・栄養摂取に何らかの介助を要する。
4.補助的な非経口的栄養摂取(経管栄養、中心静脈栄養など)を必要とする。
5.全面的に非経口的栄養摂取に依存している。
呼吸 (R)
0.症候なし。
1.肺活量の低下などの所見はあるが、社会生活・日常生活に支障ない。
2.呼吸障害のために軽度の息切れなどの症状がある。
3.呼吸症状が睡眠の妨げになる、あるいは着替えなどの日常生活動作で息切れが生じる。
4.喀痰の吸引あるいは間欠的な換気補助装置使用が必要。
5.気管切開あるいは継続的な換気補助装置使用が必要。
 
②聴覚障害:以下の3高度難聴以上
0.25dBHL 未満(正常)
1.25dBHL以上40dBHL未満(軽度難聴)
2.40dBHL以上70dBHL未満(中等度難聴)
3.70dBHL以上90dBHL未満(高度難聴)
4.90dBHL以上(重度難聴)
※500、1000、2000Hzの平均値で、聞こえが良い耳(良聴耳)の値で判断。
 
③視覚障害:良好な方の眼の矯正視力が0.3未満。
 
④以下の出血、感染に関するそれぞれの評価スケールを用いて、いずれかが3以上を対象とする。
 
出血
0.症候なし。
1.ときおり出血するが日常の務めや活動は行える。
2.しばしば出血するが、自分の身の周りのことは医療的処置なしに行える。
3.出血の治療ため一年間に数回程度の医療的処置を必要とし、日常生活に制限を生じるが、治療によって出血予防・止血が得られるもの。
4.致死的な出血のリスクをもつもの、または、慢性出血性貧血のため月一回程度の輸血を定期的に必要とするもの。
5.致死的な出血のリスクが非常に高いもの。
 
感染
0.症候なし。
1.ときおり感染を併発するが日常の務めや活動は行える。
2.しばしば感染を併発するが、自分の身の周りのことは医療的処置なしに行える。
3.感染・蜂窩織炎の治療ため一年間に数回程度の医療的処置を必要とし、日常生活に制限を生じるが、治療によって感染症状の進行を抑制できるもの。
4.敗血症などの致死的な感染を合併するリスクをもつもの。
5.敗血症などの致死的な感染を合併するリスクが非常に高いもの。
※診断基準及び重症度分類の適応における留意事項
1.病名診断に用いる臨床症状、検査所見等に関して、診断基準上に特段の規定がない場合には、いずれの時期のものを用いても差し支えない(ただし、当該疾病の経過を示す臨床症状等であって、確認可能なものに限る。)。
2.治療開始後における重症度分類については、適切な医学的管理の下で治療が行われている状態であって、直近6か月間で最も悪い状態を医師が判断することとする。
3.なお、症状の程度が上記の重症度分類等で一定以上に該当しない者であるが、高額な医療を継続することが必要なものについては、医療費助成の対象とする。

平成27年7月1日

情報提供者
研究班名 難治性血管腫・脈管奇形・血管奇形・リンパ管奇形(リンパ管腫)・リンパ管腫症および関連疾患についての調査研究班
研究班名簿 研究班ホームページ
情報更新日 令和5年11月(名簿更新:令和5年6月)