筋型糖原病(指定難病256)

きんがたとうげんびょう
 

(概要、臨床調査個人票の一覧は、こちらにあります。)

○ 概要
 
1.概要
糖原病は、先天的なグリコーゲンの代謝異常症で、大きく肝型、筋型の病型に大別できる。しかし酵素発現の臓器特異性から、肝臓、筋肉以外の他臓器の障害が臨床症状として並存していることもある。
肝型では低血糖、肝機能障害、成人期に肝硬変、肝腫瘍を呈するものもある。筋型では急性症状として横紋筋融解症、ミオグロビン尿症などを来し、腎不全に陥る症例もある。また老年期では筋力低下(進行性)を示すものもある。
筋型糖原病の好発病型はII、III、V、VII型で、全体の90%を占めている。その他の希な筋型病型として0型、IV型、IX型、ホスホグリセリン酸キナーゼ(PGK)欠損症、X型、XI型、XII型、XIII型、XIV型、XV型がある(筋型糖原病対応表参照)。
 
2.原因
先天性のグリコーゲン代謝に関わる酵素異常症で、それぞれの酵素蛋白をコードする遺伝子異常が同定されている。
 
3.症状
筋症状:運動時筋痛、筋硬直、横紋筋融解症、ミオグロビン尿症、筋力低下、筋萎縮、心筋障害など
合併症状(一部の病型において):知的障害、てんかん、小奇形、黄疸、肝腫大、不整脈、突然死など
 
4.治療法
現在では根本的な治療法はない。病態に応じた対症療法として、II型(ポンペ(Pompe)病)では酵素補充療法が可能となり、生命予後が飛躍的に改善した。V型(マッカードル(McArdle)病)でビタミンB6療法が日本人で2例有効な報告がある。その他経験的にアラニン、カルニチン、ATP、ショ糖、コーンスターチなどの投与がされているがエビデンスはない。 
 
5.予後
好発病型: 
II型(ポンペ(Pompe)病)では生命予後は改善したが、症例によっては筋力低下が著明で、呼吸器装着の症例も多い。III型(コーリー(Cori)病)では心筋障害を伴う例では予後が不良で死にいたる。V型は一部進行性の筋力低下、あるいは乳児期に死亡する致死型もある。
稀な病型:
0型では突然死、IV型では致死型が、PGK欠損症では知的障害、てんかん、進行性筋力低下、報告されている。X~XV型は筋症状が主体であり、比較的予後は良好である。
 
 
○ 要件の判定に必要な事項
1.  患者数
推定約3,000~6,000人
2.  発病の機構
不明(遺伝子異常による。)
3.  効果的な治療方法
未確立(対症療法が主体で根本的な治療法の開発ができていない。)
4.  長期の療養
必要(進行性、致死的、重大な合併症をもつものがある。)
5.  診断基準
あり(日本先天代謝異常学会作成の診断基準あり)
6.  重症度分類
先天性代謝異常症の重症度評価(一部修正)を用いて、中等症以上を対象とする。
 
○ 情報提供元
研究代表者 常葉大学保健医療学部 教授 杉江秀夫
 
 
<診断基準>
Definiteを対象とする。
 
1.臨床病型(対応表参照)
①発作性に筋症状を示す型
(V型、VII型、IXd型、PGK欠損症、XIV型、XI型)
②固定性筋症状を示す型(0型、II型、 III型, IV型、XII型)
 
2.主要症状
①発作性に筋症状を示す型では運動不耐、運動時有痛性筋痙攣、ミオグロビン尿症。強い短時間の等尺性運動で運動不耐、筋痛、有痛性筋痙攣が生じる。
②固定性筋症状を示す型では持続するあるいは進行する筋力低下を認める。
 
3.その他の特徴的症状又は随伴症状
①V型では運動を続けるうちに、突然筋痛や有痛性筋痙攣が軽快し再び運動の持続が可能となる“セカンドウィンド現象”を高率に認める。
②VII型では溶血を認めることがある。
③PGK欠損症では溶血を認める。精神遅滞を伴う場合がある。
④XII型では溶血、精神遅滞を伴う場合がある。
 
4.参考となる検査所見
血清CK値高値。発作性筋症状出現時には血清CK値は著明に上昇する。ミオグロビン、血清尿酸、BUN, クレアチニンの上昇。
溶血所見、高ビリルビン血症、網状赤血球の増加(VII型、PGK欠損症、XII型)
 
5.診断の根拠となる特殊検査
阻血下前腕運動負荷試験又は非阻血下前腕運動負荷試験で、乳酸・ピルビン酸が上昇しない。(前値の1.5倍未満の乳酸上昇を異常とするが、アンモニアを同時に測定し、アンモニアが上昇しない場合には、負荷が十分にかかっていないと判断する必要がある。)
組織化学検査:生検筋組織化学では筋漿膜下にグリコーゲンの蓄積を認める。V型ではホスホリラーゼ染色が陰性である。
参考
前腕運動負荷試験で、II型とIXd型では乳酸の反応は正常である。XI型ではピルビン酸の著明な上昇に関わらず、乳酸の上昇がない。
 
6.Definite(確定診断)のための検査
①遺伝子検査:V型の日本人好発変異(Phe710del)を同定した場合にはV型と診断する。
②酵素活性測定:生検筋の解糖系酵素測定で低下を証明する。PGK欠損症では赤血球でも測定可能である。
③日本人好発変異以外の遺伝子検査
 
7.鑑別診断
脂肪酸代謝異常症、ミトコンドリア異常症
 
8.診断のカテゴリー
Definite:酵素診断又は遺伝子診断をしたものをDefiniteとする。
Possible:主要症状及び臨床所見の項目のうち、運動不耐、運動時有痛性筋痙攣、筋力低下が存在し、阻血下(非阻血下)前腕運動負荷試験で乳酸が上昇しない例を筋型糖原病疑診とする。
 
筋型糖原病対応表

 

病型

Synonym

症状

低下酵素活性

原因遺伝子

0型

 

運動時失神、運動不耐

グリコーゲン合成酵素

GYS1     

II型

ポンペ(Pompe)病

筋力低下、心筋障害、肝腫大

酸αグルコシダーゼ

GAA 

III型

コーリー(Cori)病

筋力低下、運動不耐、肝腫大。低血糖、心筋障害、心不全

脱分枝酵素

AGL

IV型

アンダースン(Andersen)病

新生児死亡、呼吸障害、筋力低下、

分枝酵素

GBE1

V型

マッカードル(McArdle)病

運動不耐、筋痛・筋硬直、横紋筋融解症
筋力低下

筋ホスホリラーゼ

PYGM

VII型

Tarui病

運動不耐、筋痛・筋硬直、横紋筋融解症

ホスホフルクトキナーゼ

PFKM

IXd型 

 

運動不耐、筋痛・筋硬直、横紋筋融解症

ホスホリラーゼキナーゼ

PHKB

PGK
欠損症

 

運動不耐、筋痛・筋硬直、横紋筋融解症、知的障害、てんかん、進行性筋力低下

ホスホグリセリン酸キナーゼ

PGK1

X型

 

運動不耐、筋痛・筋硬直、横紋筋融解症

ホスホグリセリン酸ムターゼ

PGAM2

XI型

Kanno病

運動不耐、筋痛・筋硬直、横紋筋融解症

乳酸脱水素酵素

LDHA

XII型

 

運動不耐、筋痛・筋硬直、横紋筋融解症、黄疸、発達遅滞

アルドラーゼ

ALDOA

XIII型

 

運動不耐、筋痛・筋硬直、横紋筋融解症

エノラーゼ

ENO3

XIV型

 

運動不耐、筋痛・筋硬直、横紋筋融解症、糖鎖修飾異常

ホスホグルコムターゼ

PGM1

XV型

 

筋力低下、不整脈

グリコゲニン1

GYG1

 
 
 
<重症度分類>
中等症以上を対象とする。

 

先天性代謝異常症の重症度評価(日本先天代謝異常学会)を一部修正

点数

I

薬物などの治療状況(以下の中からいずれか1つを選択する)

a

治療を要しない

b

対症療法のために何らかの薬物を用いた治療を継続している

c

疾患特異的な薬物治療が中断できない

d

急性発作時に呼吸管理、血液浄化を必要とする

II

食事栄養治療の状況(以下の中からいずれか1つを選択する)

a

食事制限など特に必要がない

b

軽度の食事制限あるいは一時的な食事制限が必要である

c

特殊ミルクを継続して使用するなどの中程度の食事療法が必要である

d

特殊ミルクを継続して使用するなどの疾患特異的な負荷の強い(厳格な)食事療法の継続が必要である

e

経管栄養が必要である

III

酵素欠損などの代謝障害に直接関連した検査(画像を含む)の所見(以下の中からいずれか1つを選択する)

a

特に異常を認めない

b

軽度の異常値が継続している    (目安として正常範囲から1.5SDの逸脱)  

c

中等度以上の異常値が継続している (目安として1.5SDから2.0SDの逸脱)      

d

高度の異常値が持続している    (目安として2.0SD以上の逸脱)

IV

現在の精神運動発達遅滞、神経症状、筋力低下についての評価(以下の中からいずれか1つを選択する)

a

異常を認めない         

b

軽度の障害を認める  (目安として、IQ70未満や補助具などを用いた自立歩行が可能な程度の障害)

c

中程度の障害を認める (目安として、IQ50未満や自立歩行が不可能な程度の障害)   

d

高度の障害を認める  (目安として、IQ35未満やほぼ寝たきりの状態)    

V

現在の臓器障害に関する評価(以下の中からいずれか1つを選択する)

a

肝臓、腎臓、心臓などに機能障害がない

b

肝臓、腎臓、心臓などに軽度機能障害がある
(目安として、それぞれの臓器異常による検査異常を認めるもの)

c

肝臓、腎臓、心臓などに中等度機能障害がある
 (目安として、それぞれの臓器異常による症状を認めるもの)

d

肝臓、腎臓、心臓などに重度機能障害がある、あるいは移植医療が必要である 
(目安として、それぞれの臓器の機能不全を認めるもの)

VI

生活の自立・介助などの状況(以下の中からいずれか1つを選択する)

a

自立した生活が可能

b

何らかの介助が必要

c

日常生活の多くで介助が必要

d

生命維持医療が必要

総合評価

IからVIまでの各評価及び総点数をもとに最終評価を決定する。

(1)4点の項目が1つでもある場合    

重症

(2)2点以上の項目があり、かつ加点した総点数が6点以上の場合  

重症

(3)加点した総点数が3-6点の場合  

中等症

(4)加点した総点数が0-2点の場合   

軽症

注意

診断と治療についてはガイドラインを参考とすること

疾患特異的な薬物治療はガイドラインに準拠したものとする

疾患特異的な食事栄養治療はガイドラインに準拠したものとする

 
附則
「発作性ミオグロビン尿症/横紋筋融解症」発症例の扱い:
過去1年間における頻度及び症状により下記のように分類し、ⅠからⅥまでに加え、当該附則の各評価及び当該附則の点数も加えた総合点をもとに最終評価を決定する。 
 

a 発症はない 0
b 発症は1回 2
c 2回以上再発、又は腎透析を要する発作を1回以上 4

 
※診断基準及び重症度分類の適応における留意事項
1.病名診断に用いる臨床症状、検査所見等に関して、診断基準上に特段の規定がない場合には、いずれの時期のものを用いても差し支えない(ただし、当該疾病の経過を示す臨床症状等であって、確認可能なものに限る。)。
2.治療開始後における重症度分類については、適切な医学的管理の下で治療が行われている状態であって、直近6か月間で最も悪い状態を医師が判断することとする。
3.なお、症状の程度が上記の重症度分類等で一定以上に該当しない者であるが、高額な医療を継続することが必要なものについては、医療費助成の対象とする。


平成27年7月1日

情報提供者
研究班名 新生児スクリーニング対象疾患等の先天代謝異常症の成人期にいたる診療体制構築と提供に関する研究班
研究班名簿 研究班ホームページ
情報更新日 令和4年3月(名簿更新:令和5年6月)