歌舞伎症候群(指定難病187)

かぶきしょうこうぐん
 

(概要、臨床調査個人票の一覧は、こちらにあります。)

1. 「歌舞伎症候群」とはどのような病気ですか

特徴的な顔貌をもつ 先天性 疾患の一つです。歌舞伎症候群と名付けられたのは、切れ長の目が特徴で、下眼瞼外側1/3が外反(裏返って眼瞼が外にめくれている様子)していて、歌舞伎役者の化粧(隈取(くまどり))を連想させることから、この名前がつけられています。

2. この病気の患者さんはどのくらいいるのですか

神奈川県の先天疾患モニタリングの結果から推定された発症率1/32,000が、1988年に報告されて以来、この発症率が信じられています。

3. この病気はどのような人に多いのですか

歌舞伎症候群は、遺伝子の変異によって発生していると考えられています。そして、その遺伝子の変異は、どのような人にも等しく発生する可能性があって、病気になりやすい人、なりにくい人がいるとは考えられていません。

4. この病気の原因はわかっているのですか

原因となる遺伝子が、2つわかっています。KMT2D遺伝子(以前は、MLL2といわれていました)とKDM6A遺伝子です。ただし、この2つの遺伝子に変異が無くて歌舞伎症候群と診断される患者さんが10〜15%いますので、その患者さんについては、原因は不明のままです。KMT2D遺伝子とKDM6A遺伝子は、他の遺伝子が働くか働かないかを調整している遺伝子のようで、色々な症状が起こってくるのは、遺伝子の働きをうまく調整できないことによると考えられています。これらの遺伝子の遺伝学的検査は保険収載されています。遺伝学的検査を受ける際には、医療機関受診と遺伝カウンセリングが必要です。

5. この病気は遺伝するのですか

どちらの遺伝子が関与しているかによって異なります。お子さんの歌舞伎症候群の原因がKMT2D遺伝子の変異である場合には、その弟妹が歌舞伎症候群として産まれてくることは稀です。将来、患者さんの子供がおなじく歌舞伎症候群である確率は50%です。一方で、KDM6Aが原因の場合には、基本的には男性が罹患しますが、X染色体の不活化の偏りによって、女性で症状が出る場合もあります。母親が保因者の場合、弟妹も罹患する可能性があります。男性患者の娘は保因者になりますが、息子には遺伝しません。遺伝について、ご不安な点がある場合、臨床遺伝専門医などの 遺伝カウンセリング を受けられることをお勧めいたします。

6. この病気ではどのような症状がおきますか

まず診断する際に特徴的なのは顔貌で、下眼瞼外側1/3の外反・切れ長の眼瞼裂、外側1/3が疎な弓状の眉、先端がつぶれた鼻、短い鼻中隔、突出した大きな変形した耳介です。また、手掌側の指先が渦巻きの指紋(渦状紋)でないにも関わらず少し盛り上がっている(finger pad)ことが特徴として挙げられています。
生活していく上で患者さんの負担となる症状としては、様々な程度の知的障害、側弯などの脊柱の異常、繰り返して起こる中耳炎、難聴、心血管系の奇形、口唇裂・口蓋裂、消化器異常、けいれん、内分泌異常、接触の問題などが知られています。

7. この病気にはどのような治療法がありますか

遺伝子の変異が原因ですので、根本的に治療することはできません。歌舞伎症候群の患者さんに発生しやすい病状は、上述のようにある程度は分かっていますので、その症状に一つ一つ対処していくことになります。

8. この病気はどういう経過をたどるのですか

合併症は先に述べたとおり多様で、症状の差異や重症度は個人差が大きいようです。身長は低身長で推移することが多いです。知的障害の程度は、軽度から中等度であることが多いですが、非常に重度の方も、逆に知的障害を認めない方もいます。独歩や発語ができる平均的な年齢は20か月前後とされています。けいれんは、薬物療法でコントロールできることが多いようです。その他の合併症については、通常の対応を個々に行っていく必要がありますが、その対処法に本疾患特有の考慮を強く求めないといけないということはないようです。寿命については、未だはっきりとしたことは分かっていません。合併症の程度が関係するとはいえ、今後の検討が待たれます。

9. この病気は日常生活でどのような注意が必要ですか

歌舞伎症候群は上述のように数多くの合併症を伴う可能性があることが示唆されます。本症と診断されたら、先ずは主治医に相談して合併症を持っていないかどうかを調べていただきましょう。もし、いくつか合併症があれば、専門の先生に定期的に診ていただく必要があります。同一疾患であっても合併症の種類、その程度は個人差がありますので、個々人の状況にあった医療におけるフォローが必要です。それ以外に身長・体重などの発育及び発達については留意する必要があります。発達の遅れが気になるようなことがあれば、リハビリを含めての療育を検討します。学校の選択についてや、卒業後のことについては本人の状況に最も適した場所を選択する必要があります。

10. 次の病名はこの病気の別名又はこの病気に含まれる、あるいは深く関連する病名です。 ただし、これらの病気(病名)であっても医療費助成の対象とならないこともありますので、主治医に相談してください。

該当する病名はありません。

11. この病気に関する資料・関連リンク

http://grj.umin.jp/grj/kabuki.htm

 

情報提供者
研究班名 患者との双方向的協調に基づく先天異常症候群の自然歴の収集とrecontact可能なシステムの構築班
研究班名簿 
情報更新日 令和5年1月(名簿更新:令和5年6月)