クリッペル・トレノネー・ウェーバー症候群(指定難病281)

くりっぺるとれのねーうぇーばーしょうこうぐん
 

(概要、臨床調査個人票の一覧は、こちらにあります。)

1.クリッペル・トレノネー・ウェーバー症候群とは

クリッペル・トレノネー・ウェーバー症候群は、1本の上肢または下肢のほぼ全体、またはそれ以上の範囲にわたる混合型脈管奇形(毛細血管奇形、静脈奇形、動脈奇形、動静脈奇形、動静脈瘻、リンパ管奇形を含む)が存在し、四肢の大きさや形に左右差が生じる疾患です。クリッペル・トレノネー・ウェーバー症候群という呼び方は、遅い血流病変である静脈奇形やリンパ管奇形に患部の肥大を伴うクリッペル・トレノネー症候群と速い血流病変である動静脈奇形に患部の肥大を伴うパークス・ウェーバー症候群といった二つの症候群を合わせた呼称の病名です。
脈管奇形は、血管・リンパ管に生じる 先天性 の構造異常と機能障害の疾患です。母体の中で胎児の組織が作られる時期に、血管やリンパ管に発生異常・分化異常が生じることで、脈管奇形は発症します。しかし、その原因についてはほとんど解明されていません。
脈管奇形は病変を構成する脈管成分よって、毛細血管奇形、静脈奇形、動脈奇形(動静脈奇形、動静脈瘻)、リンパ管奇形に分類されています。脈管成分ごとに脈管の太さ、脈管のネットワークの形状、病変部に流れる液体(血液またはリンパ液)の流速、が大きく異なるため、その病状も大きく異なります。また脈管奇形の構成成分と症状の重さに合わせて医師は治療方法を選択しています。このような理由から脈管奇形はその構成する脈管成分よって分類されています。
混合型脈管奇形とは、このような脈管奇形を数種類合併して発症している症例のことをいいます。

2.この病気の患者さんはどのくらいいるのですか?

どのくらいの患者さんがいるのか実数はわかっていませんが、まれな病気です。日本では、平成25年度に厚生労働省難治性疾患克服研究事業「難治性血管腫・血管奇形についての調査研究班患者実態調査および治療法の研究」による全国の医療施設を対象とした全国実態調査が行われ、198人の患者さんの情報が集まりました。その結果、日本でのクリッペル・トレノネー・ウェーバー症候群の患者は約1500人と推測されています。

3.この病気はどのような人に多いのですか?

発症率に男女差はありません。初期は無症状のこともあり、症状を呈する半分以上は5歳未満で発症します。本症候群は治療に抵抗性であることが多く、生涯にわたる継続的管理を必要とします。

4.この病気の原因はわかっているのですか?

脈管の発生異常・分化異常と考えられています。患者さんの病変部組織の体性遺伝子の変異が、クリッペル・トレノネー症候群ではPIK3CA体性遺伝子、パークス・ウェーバー症候群ではRASA1遺伝子で見つかっています。

5.この病気は遺伝するのですか?

家族内発生の報告はありますが、非常にまれなケースです。

6.この病気ではどのような症状がおきますか?

クリッペル・トレノネー・ウェーバー症候群の症状として、地図状のポートワイン母斑(赤アザ)、拡張した蛇行静脈、リンパ管機能不全による腫脹があります。さらに上肢下肢の大きさや輪郭に左右差が生じる片側肥大という症状を呈します。生まれつき手足の指に形態異常を合併することもあります。これらの症状は加齢・成長に伴って増悪することが知られています。脚長差が高度になると歩行に支障をきたしたり、姿勢が悪くなったりします。また患肢に強い疼痛が生じることもまれではありません。四肢の小さな傷から細菌感染を引き起こし、四肢全体が腫れることがあります。血栓の形成と融解が繰り返しおこるため四肢の循環状態がそのたびに変わり、不定期に症状の増悪・ 寛解 を繰り返すことがあります。
本症候群の脈管奇形は、病状が進行した場合に血液の凝固機能や血行動態にも影響を及ぼし、感染、出血や心不全などにより致死的な病態に至ることもあります。

7.この病気にはどのような治療方法がありますか?

病的過成長に対する根治的治療法は無く、脚長差に対して下肢補高装具や外科的矯正手術(骨端線成長抑制術、骨延長術)が行われます。大きさや輪郭の修正には病変切除などの減量手術などが行なわれます。血液凝固能異常や貧血に対しては内服治療が行われます。さらに、クリッペル・トレノネー症候群では、PIK3CAを含むPI3K-Akt-mTOR経路の体細胞活性化変異を分子標的としたmTOR阻害薬であるシロリムスの内服治療も有効であることが分かってきています。なお、本症候群へのシロリムス内服療法の有効性と安全性に関しては、国内で現在検証中の段階です。保険診療ではなく、一般的に普及している治療法にはまだなっていません。
各脈管奇形に対してはその構成脈管により治療方法が異なります。個々の患者さんの体格や患部の輪郭に合わせた弾性着衣による圧迫療法、切除手術、 硬化療法 、塞栓術などが用いられています。これらの治療によって本邦では脈管奇形の病状が高率に改善・維持されていることが 疫学調査 でわかりました。しかし本症候群の巨大脈管奇形病変(一肢のまたはそれ以上の全体に及ぶ)は生涯にわたる継続的管理を必要とします。

8.この病気はどういう経過をたどるのですか?

本症候群の脈管奇形病変と片側肥大は生下時から幼児期に気づかれ、加齢・成長に伴って少しずつ増悪します。病状が進行すると疼痛、皮膚潰瘍、出血、リンパ漏、感染などを合併します。混合型脈管奇形に含まれる構成成分(毛細血管奇形、静脈奇形、動脈奇形、動静脈奇形、動静脈瘻、リンパ管奇形)によって罹患する病状が異なりますので、生活の質に影響を与えるような重大な病状はそれぞれの症例によって異なります。

9.この病気は日常生活でどのような注意が必要ですか?

脈管奇形全般において、①体重増加に伴って身体全体の血液量が増えたとき、②患部の血液の流れがうっ滞したとき、③感染を合併したため急に病変が大きくなったりしたときに、病状が悪化することがあります。
暴飲暴食を避け体重をコントロールする・性交時避妊を心掛け意図しない妊娠を避ける・適度に水分を摂取し脱水状態を避ける・弾性ストッキングを装着する・長時間足を動かさず同じ姿勢を維持することを避ける(長時間座るときは適度に足を動かす)・快便をこころがけ長時間トイレでいきむことは避ける・患部の清潔を保つ・患部皮膚の保湿を心掛けるなどが挙げられます。病態と生活様式を考慮して担当医とよく相談することおすすめします。

10. 次の病名はこの病気の別名又はこの病気に含まれる、あるいは深く関連する病名です。 ただし、これらの病気(病名)であっても医療費助成の対象とならないこともありますので、主治医に相談してください。

クリッペル・トレノネー症候群
パークス・ウェーバー症候群
CLOVES症候群

11. この病気に関する資料・関連リンク

【関連資料】
日本血管腫血管奇形学会
http://plaza.umin.ac.jp/~jssva/index.html
 
血管腫・脈管奇形・血管奇形・リンパ管奇形・リンパ管腫症診療ガイドライン2022
https://issvaa.jp/wp/wp-content/uploads/2023/05/5a0c3123c7066f4f0f6978789816197b.pdf
 
国際血管腫・血管奇形学会(ISSVA)
http://www.issva.org/
 
血管腫・血管奇形IVR研究会
http://www.marianna-u.ac.jp/avm/
 
混合型脈管奇形の会
http://www.myakkankikei.com/
 
血管腫・血管奇形の患者会
http://www.pava-net.com
 
血管奇形ネットワーク
http://kekkankikeinw.web.fc2.com/

 

情報提供者
研究班名 難治性血管腫・脈管奇形・血管奇形・リンパ管奇形(リンパ管腫)・リンパ管腫症および関連疾患についての調査研究班
研究班名簿 研究班ホームページ
情報更新日 令和5年11月(名簿更新:令和5年6月)