ウィルソン病(指定難病171)

うぃるそんびょう
 

(概要、臨床調査個人票の一覧は、こちらにあります。)

1. ウィルソン病とは

肝臓や脳など全身の臓器に銅が蓄積して、障害をきたす病気です。
銅は体に必要な微量金属ですが、臓器に過剰に蓄積すると障害をきたします。

2. この病気の患者さんはどのくらいいるのですか?

発症頻度は3万人~3万5千人に1人と言われています。したがって、現在、日本の1年間の出生数は約80~90万人ですので、毎年約25~30人の患者さんが出生していることになります。適切な治療を早期から受けていると、生涯を全うすることが可能ですので、仮に患者さんが70歳まで存命していると仮定すると、全国で約2,000人前後おられることになります。

3. この病気はどのような人に多いですか?

遺伝によって発症する病気ですので、食生活や生活習慣が原因になることはありません。男女差もありません。ご兄弟にウィルソン病の患者さんがおられる場合は、ウィルソン病である確率は高くなります。

4. この病気の原因はわかっているのですか?

細胞内から細胞外へ銅を輸送する銅輸送蛋白(ATP7B)の遺伝子変異が原因です。ATP7B遺伝子の変異によりATP7B蛋白が働かなくなり、細胞に銅が蓄積します。

5. この病気は遺伝するのですか?

遺伝します。遺伝形式は 常染色体潜性遺伝(劣性遺伝) です。すなわち、ご両親は 保因者 で、その子供は4分の1の確率で患者さんになります。保因者の方は、症状もなく全く問題がなく、治療も必要ありません。ウィルソン病の患者さんの兄弟・姉妹の方は確率的に4人に1人は患者さんの可能性があります。発症前の場合、患者さんかどうかは調べてみないと解りません。

6. この病気ではどのような症状が起きますか?

症状はさまざまです。症状・障害臓器から①肝型、②神経型、③肝・神経型、④その他に分けられています。それぞれについて簡単に説明します。

①肝型: 黄疸 、腹痛、嘔吐、浮腫、腹満、 全身倦怠感 、食欲不振、出血などの症状がみられます。経過も様々で、慢性肝炎、急性肝炎、肝硬変、急性肝不全、 劇症 肝炎などの経過を取ります。
②神経型:神経症状としては、いわゆるパーキンソン病様の症状(歩行障害、うまくしゃべれない、よだれ、手が震える、物をうまく呑み込めない)がみられます。精神症状としては、意欲低下、集中力低下、突然の気分変調、性格変化などでうつ病、統合失調症、不安障害、 妄想 性障害、解離性障害などと誤診されることもあります。
③肝・神経型:肝機能異常と上記の神経・精神症状の両方がみられる場合です。
④その他:血尿、腎結石、蛋白尿、関節炎、心筋症などの症状が初発症状の場合もあります。

また、発症する年齢も様々です。一般に肝型は4歳以降、神経型・肝神経型は8歳以降に発症しますが、成人になって(例えば30歳以降でも)初めて症状が出現する患者さんもおられます。
たまたま調べた検査で肝機能異常が見つかり、精査して本症患者と診断される場合があります。発症前型と呼ばれており、症状がなくても治療が必要です。

7. 治療法はありますか?

経口薬による有効な治療法があります。現在、酢酸亜鉛、塩酸トリエンチン、D-ペニシラミンの3種類の飲み薬があります。大切なことは、空腹時(食事との関係:食前1時間以上前、食後2時間以降)に服用することです。特に塩酸トリエンチンとD-ペニシラミンは空腹時に服用しないと効果がありません。治療は生涯必要です。どの薬を選択するかは、病型や病状により異なります。発症前に診断された患者さんも診断後治療が必要です。
劇症肝炎、肝不全、重度の肝硬変では、肝移植が行われます。肝移植後はウィルソン病の治療は不要です。

8. この病気はどういう経過をたどるのですか?

きっちり薬を服薬しておれば、肝障害は改善します。神経症状も徐々にですが、多くの患者さんで改善します。通常の日常生活・社会生活が可能となります。問題は怠薬です。症状がなくなれば、つい薬を飲み忘れする患者さんがおられます。数日の飲み忘れでは、すぐに症状が悪くなることはありませんが、飲み忘れが続くと、死に至る肝不全や 重篤 な回復不可能な神経障害をきたすことがあります。薬をきっちり服用することが、極めて大切です。
最近、肝型の患者さんでは肝細胞がんを発病する恐れがあると言われています。定期的に腹部超音波などの検査を受けるのが望ましいと思われます。

9. 日常生活での注意

銅の多い食品(表1:レバー、牡蠣、たこ・いかなどの甲殻類、チョコレートなど)は食べるのを控えるほうがよいでしょう。生涯、絶対食べてはいけないというほどではありません。治療開始1年位はできるだけ食べないで、肝機能の状態を見ながら、その後は少し(週に1回以下)は食べても問題ないと思われます。特に、D-ペニシラミン、トリエンで治療受けておられる患者さんはできるだけ銅の摂取は控えるほうがよいと言われています。
 
表1 食品中の1回常用量で銅含有量の多い食品

食品名

常用量・目安量(g)

常用量中銅量(mg)

レバー(豚)

50

0.50

牡蠣

むき身 中5粒、50

0.45

たこ

足1本、150

0.45

いか

中1/2杯、125

0.43

干しエビ

大さじ1杯、8

0.41

さつまいも

1本、180

0.32

板チョコレート(ミルク)

1枚、50

0.28

小豆(こしあん)

1/2カップ、120

0.28

豆腐(絹)

1/2カップ、150

0.23

ピュアココア

大さじ1杯、6

0.23

スパゲッティ(乾)

一人前、80

0.22

めし(精白米)

茶碗1杯、200

0.20

アーモンド

12粒、20

0.20

5訂増補食品成分表より抜粋

10. 次の病名はこの病気の別名又はこの病気に含まれる、あるいは深く関連する病名です。 ただし、これらの病気(病名)であっても医療費助成の対象とならないこともありますので、主治医に相談してください。

肝レンズ核変性症

11. この病気に関する資料・関連リンク

全国規模のウイルソン病友の会(http://www.jawd.org/)があります。
ウイルソン病友の会の連絡先
メールアドレス:tomo-kai@jawd.org
電話・ファックス:0287-24-3977です。

【用語解説】

銅:人に必須の微量金属です。成人男性の1日の銅の摂取推奨量は約1mgです。体内ではエネルギー産生やカテコラミン合成に必要です。欠乏すると貧血、骨粗しょう症などの障害を起こします。一方、細胞に過剰に蓄積しても細胞障害を起こします。
 
常染色体潜性遺伝(劣性遺伝):人の染色体数は46本ですが、そのうち常染色体(44本)は母由来と父由来が対になっています(対立遺伝子といいます)。潜性遺伝(劣性遺伝)とは、対になった2本の遺伝子の両方に変異がある場合に発症し患者さんになります。
 
保因者:対立遺伝子の1つに変異があり、もう1つには変異がない場合を保因者といいます。ウイルソン病では保因者は発症することはなく、治療は必要ありません。保因者同士から子供が生まれると、4分の1の確率で患者さんが生まれます。
 
解離性障害:以前はヒステリーと言われていました。神経症の1つで、外的事情や刺激に対する不快感情の反応として、過度な精神的あるいは身体的反応が起こることを言います。

 

情報提供者
研究班名 新生児スクリーニング対象疾患等の先天代謝異常症の成人期にいたる診療体制構築と提供に関する研究班
研究班名簿 研究班ホームページ
情報更新日 令和5年1月(名簿更新:令和6年6月)