嚢胞性線維症(指定難病299)

のうほうせいせんいしょう
 

(概要、臨床調査個人票の一覧は、こちらにあります。)

○ 概要
 
1.概要
嚢胞性線維症(膵囊胞線維症cystic fibrosis:CF、システィック・ファイブローシス)は、cystic fibrosis transmembrane conductance regulator(CFTR)を原因分子とする全身性の疾患である。気道内液、腸管内液、膵液など全身の分泌液/粘液が著しく粘稠となり、管腔が閉塞し感染し易くなる。典型的な症例では、胎便性イレウスを起こし、膵臓が萎縮して膵外分泌不全による消化吸収不良を来たし、呼吸器感染を繰り返して呼吸不全となる。汗中の塩化物イオン濃度の高値は特徴的な所見であり、診断に用いられる。
 
2.原因
CFTR遺伝子の変異を原因とする。CFTRタンパクは全身の管腔臓器の主要な陰イオンチャネルである。CFでは、CFTRの機能低下により、気道、腸管、膵管、胆管、汗管、輸精管の上皮膜/粘膜を介するクロライド(塩化物イオン)と水の輸送が障害される。そのため、管腔内の粘液/分泌液が過度に粘稠となり、管腔が閉塞し感染し易くなり、多臓器の障害を来す。これまでに報告された遺伝子変異は1,900種類を超え、人種や国により多様である。同じ遺伝子変異を持つ患者でも、障害される臓器及び重症度が異なり、病態形成の機序には不明な部分が多い。
 
3.症状
1)典型的な症例では、生直後にしばしば胎便性イレウスを起こす。その後、膵外分泌不全による消化吸収不良を来たし、気道感染症を繰り返して呼吸不全となる。汗腺の塩化物イオンの再吸収が障害されるため、汗の塩分濃度が高くなる。障害される臓器と重症度は様々であるが、単一臓器のみが障害される患者もいる。
2)胎便性イレウスは、国内のCF患者の40~50%に見られる。粘稠度の高い粘液のために胎便の排泄が妨げられ、回腸末端部で通過障害が生じる。
3)呼吸器症状は、ほぼ全例のCF患者に見られる。出生後、細気管支に粘稠度の高い粘液が貯留し、病原細菌が定着すると細気管支炎や気管支炎を繰り返し、呼吸不全となる。膿性痰の喀出、咳嗽、呼吸困難を来す。ムコイド型緑膿菌の持続感染が特徴である。
4)膵外分泌不全は、CF患者の80~85%に見られる。タンパク濃度の高い酸性の分泌液で小膵管が閉塞し、次第に膵実質が脱落する。変化は胎内で始まり、典型的な症例では2歳頃に膵外分泌不全の状態になり、脂肪便、栄養不良、低体重を来す。画像所見は、膵の萎縮あるいは脂肪置換を呈することが多い。
5)胆汁うっ滞型肝硬変が、国内のCF患者の20~25%に見られる。
 
4.治療法
1)現在のところ根本的な治療法は無く、呼吸器感染症と栄養状態のコントロールが中心となる。生涯治療を継続する必要がある。肺移植や肝移植が必要となる場合が多い。
2)2011年以降、欧米で大きな治療効果があった3剤、高力価の消化酵素薬、気道内の膿性粘液を分解するドルナーゼアルファ吸入液、トブラマイシンの吸入薬により、予後の改善が期待されている。
3)胎便性イレウスに対しては、高浸透圧性造影剤の浣腸が行われるが、手術が必要となる場合も多い。
4)呼吸器症状の治療は、肺理学療法(体位ドレナージ、タッピング)、去痰薬、気管支拡張薬の組み合わせにより喀痰の排出を促進させ、呼吸器感染を早期に診断し適切な抗菌薬を使うことが基本である。ドルナーゼアルファは、気道内の膿性粘液中のDNAを分解することにより喀痰を排出し易くする。高張食塩水(6~7%)の吸入も喀痰を排出し易くする。緑膿菌感染を早期に検出し、早期に治療することが大切である。
5)膵外分泌不全には膵酵素補充療法を行う。気道の慢性感染症と咳そうによる消耗が加わって、栄養不良となることが多い。充分な量の消化酵素製剤を補充して、健常な子供よりも30~50%多いカロリーを摂る必要がある。栄養状態が良好になると肺機能が改善する。
6)最近、ヨーロッパ人に多い一部の遺伝子変異について、根本的な治療薬が開発され治療効果があると報告されている。しかし、日本人の遺伝子変異はヨーロッパ人とは異なるので、治療薬開発のために研究班として遺伝子解析と変異タンパクの機能解析を進めている。
 
5.予後
2014年10月現在までに95症例(男性46例、女性49例)のデータが蓄積されており、平均生存期間は約20年である。ただし、症例数の多い欧米で開発された治療法の発達・普及により予後の改善が見込まれ、成人症例の増加が予想される。
 
○ 要件の判定に必要な事項
1.  患者数
100人未満
2.  発病の機構
不明(CFTR遺伝子の変異が主な原因であるが、病態形成の機序に不明な部分が多い。)
3.  効果的な治療方法
未確立(対症療法のみである。)
4.  長期の療養
必要(進行性であり、生涯治療を継続する必要がある。)
5.  診断基準
あり(研究班作成の診断基準あり。)
6.  重症度分類
重症度Stage分類を用いてStage-3以上を対象とする。
 
○ 情報提供元
「嚢胞性線維症」  研究代表者 近畿大学医学部 主任教授 竹山宜典
 
 
<診断基準>
Definite、Probableを対象とする。
 
嚢胞性線維症の診断基準
 
A.臨床症状
1.  膵外分泌不全
2.  呼吸器症状(感染を繰り返し、気管支拡張症、呼吸不全を来す。ほとんどの症例が慢性副鼻腔炎を合併する。粘稠な膿性痰を伴う慢性咳嗽を特徴とする。)
3.  胎便性イレウス
4.  家族歴
 
B.検査所見
1.        汗中塩化物イオン(Cl)濃度
異常高値:60mmol/L以上
境界領域:40~59mmol/L (生後6か月未満では30~59mmol/L)
正常:39mmol/L以下(生後6か月未満では29mmol/L以下)
2.        BT-PABA試験:70%以下、又は便中エラスターゼ:200 µg/g以下を膵外分泌不全とする。
 
C.鑑別診断
以下の疾患を鑑別する。
びまん性汎細気管支炎、若年性膵炎、原発性線毛機能不全、シュバッハマン・ダイアモンド症候群
 
D.遺伝学的検査
CFTR遺伝子の変異
 
<診断のカテゴリー>
Definite:
1)汗中塩化物イオン濃度の異常高値に加え、特徴的な呼吸器症状を示すもの。
2)汗中塩化物イオン濃度の異常高値に加え、膵外分泌不全、胎便性イレウス、家族歴のうち2つ以上を示すもの。
3)臨床症状のうちいずれか1つを示し、2つの病的なCFTR変異が確認されたもの。
Probable:
1)汗中塩化物イオン濃度の異常高値に加え、膵外分泌不全、胎便性イレウスのいずれか1つを示すもの。
2)汗中塩化物イオン濃度が境界領域であり、特徴的な呼吸器症状を示すもの。
3)汗中塩化物イオン濃度が境界領域であり、膵外分泌不全、胎便性イレウス、家族歴のうち2つ以上を示すもの。
4)臨床症状のうちいずれか1つを示し、1つの病的なCFTR変異が確認されたもの。
 
<重症度分類>
以下の重症度Stage分類を用いてStage-3以上を対象とする。
 

 

Stage-0 呼吸器異常及び栄養障害が無い
Stage-1 呼吸器異常が無く栄養障害が軽度
Stage-2 呼吸器異常が軽度又は栄養障害が中等度
Stage-3 呼吸器異常が中等度又は栄養障害が重度
Stage-4 呼吸器異常が重度

 
 
呼吸器異常とは、以下の定義で%FEV1が90%未満の症例を指す。
さらに呼吸器異常の重症度は以下のように分類する。
%FEV1が、正常: > 90%、軽症: 70~89%、中等症: 40~69%、重症: < 40%
FEV1予測値は18歳から95歳までは
FEV1(L)=0.036 × 身長(cm) – 0.028 × 年齢 – 1.178 (男性)
FEV1(L)=0.022 × 身長(cm) – 0.022 × 年齢 – 0.005 (女性)
6歳から18歳までの幼児・未成年者では
FEV1(L)=3.347 – 0.1174 × 年齢(歳) + 0.00790 × {年齢(歳)}2 – 4.831 × 身長(m) + 2.977 × {身長(m)}2 (男児)
FEV1(L)=1.842 + 0.00161 × {年齢(歳)}2 – 3.354 × 身長(m) + 2.357 × {身長(m)}2 (女児)
6歳未満の症例に関しては、胸部単純レントゲンや胸部CTなどの画像所見による判定が試みられているが現時点では確定的なものはない。
 
栄養障害とは、BMI(Body mass index)が低下するものをいう。
さらに栄養障害の重症度は以下のように分類する。

 

18歳未満(%BMI)

18歳以上(BMI)

正常

50%以上

22以上

軽度

25%以上49%未満

18.5以上21.9未満

中等度

10%以上25%未満

16以上18.5未満

重度

10%未満

16未満

 
 
※診断基準及び重症度分類の適応における留意事項
1.病名診断に用いる臨床症状、検査所見等に関して、診断基準上に特段の規定がない場合には、いずれの時期のものを用いても差し支えない(ただし、当該疾病の経過を示す臨床症状等であって、確認可能なものに限る。)。
2.治療開始後における重症度分類については、適切な医学的管理の下で治療が行われている状態であって、直近6か月間で最も悪い状態を医師が判断することとする。
3.なお、症状の程度が上記の重症度分類等で一定以上に該当しない者であるが、高額な医療を継続することが必要なものについては、医療費助成の対象とする。

平成27年7月1日

  • 嚢胞性線維症登録制度
    http://www2.htc.nagoya-u.ac.jp/~ishiguro/lhn/cftr.html
  • 事務局(名古屋大学健康栄養医学研究室)には、2021年12月現在、47名の患者が登録されている。ウェブサイトでは、汗中Cl濃度測定(汗試験)とCFTR遺伝子解析を実施できる施設、CFの診療経験のある医師、治療薬の情報、CFに関する難治性膵疾患に関する調査研究班の研究報告書などを公開している。
  • 嚢胞性線維症(Cystic Fibrosis)患者と家族の会
    http://jcfn.jimdo.com/
情報提供者
研究班名 小児期発症の希少難治性肝胆膵疾患における医療水準並びに患者QOLの向上のための調査研究班
研究班名簿 研究班ホームページ
情報更新日 令和4年3月(名簿更新:令和5年6月)