家族性良性慢性天疱瘡(指定難病161)

かぞくせいりょうせいまんせいてんぽうそう
 

(概要、臨床調査個人票の一覧は、こちらにあります。)

1. 「家族性良性慢性天疱瘡(ヘイリー・ヘイリー病)」とはどのような病気ですか

腋(わき)の下や股(また)などに水疱(すいほう)という水ぶくれができる皮膚病です。中年以降に発症することが多く、治ったと思っても繰り返し同じ部位に再発する治りにくい病気です。腋の下や股間、肛門のまわりなど日頃から摩擦が多い部分にほとんどの患者さんで発症し、高温・多湿、摩擦(まさつ)、感染などで皮膚症状が悪化します。ATP2C1という 遺伝子の変異 によって起こる病気ですが、くわしい発病のしくみは完全に解明されていません。
治りにくいですが、再発をできるだけ抑えて症状を軽くする治療方法はあるため、初期の皮膚症状が軽いうちに早期に治療を始めることが大切です。

2. この病気の患者さんはどのくらいいるのですか

腋の下や股がただれたようになるため、患者さんの多くが受診をためらい医療機関を訪れないことから、きちんと診断される機会が少なく、正確な患者さんの実数は世界的によくわかっていません。
欧米では人口約5万人に1人の割合と推定されています。この病気の日本人の患者さんの数についての正確な統計はありませんが、日本ではいくつかの資料・文献を元に、現在通院中の方などを加えますと300名程度ですから、少なくとも数百名以上の患者さんが日本にいると推定されます。

3. この病気はどのような人に多いのですか

男女とも同程度で、青壮年期以降に発症することが多いとされています。

4. この病気の原因はわかっているのですか

ATP2C1という遺伝子にある 変異 が原因と考えられています。ATP2C1は皮膚の細胞のカルシウムポンプという箇所の遺伝子であることまでは解明されてきていますが、体内のカルシウムに関わる 遺伝子の変異 がある人では、なぜ皮膚に水疱が出来て治りにくくなるのかということまではまだ解明されていません。

5. この病気は遺伝するのですか

常染色体顕性遺伝(優性遺伝) と呼ばれる遺伝形式を示しますが、実際には、約3割の患者さんでは血縁者に発症者が見つかりません(孤発例と呼ばれます)。患者さんが孤発例の場合は、まだ発病していないその患者の弟や妹が将来的にかかる確率は極めて低くなります。しかし、両親のいずれかが発症者である場合は、男女に関係なく50%の確率で子供に遺伝します。また、孤発例のかたでも次の世代には遺伝の法則に従い50%の確率で遺伝します。

6. この病気ではどのような症状がおきますか

腋の下や股、肛門の周囲、女性では乳房の下などの摩擦が起こりやすく皮膚の柔らかい部位に、水疱と呼ばれる水ぶくれが出来て、じくじくと湿潤(しつじゅん)します(図)。一度よくなったと思っても再度摩擦や高温多湿、多汗、紫外線や感染といった条件がそろうと、何度も再発をくりかえします。
再発を繰り返して治りにくくなると、皮膚が水分を含んで肥厚した状態(浸軟と呼びます)になりかゆくなり、さらに亀裂が入ってびらんになり、衣類などが少し触れただけでも痛みを伴います。また、高温多湿の夏期に悪化し、湿潤した皮膚の状態がつづくと二次感染を来します。その結果、水疱やびらんは、膿をともなったかさぶた(痂皮;かひ)へと変化していき“とびひ”(膿痂疹)と似ることがあり、強いかゆみや灼熱(しゃくねつ)感などの自覚症状が出現します。色素沈着を残すこともあります。下着や衣類が膿や滲出液(しんしゅつえき)で汚れたり、悪臭を伴ったりすることもあります。
 

図 腋の下の皮疹

7. この病気にはどのような治療法がありますか

根本的治療法はありません。悪化時には出来るだけ早期に症状が軽くなるように、かつ日常生活に支障を来さない程度の健康な皮膚の状態を長期間保てるようにする治療(対症療法寛解 状態の維持)を行います。
皮膚の症状に応じて、軽症から中等症では、副腎皮質ステロイド外用薬(塗り薬)を主に使用します。重症例ではレチノイド内服やアプレミラスト内服が有効であるという報告もあります。

8. この病気はどういう経過をたどるのですか

冬に軽快を見せる一方で夏場に悪化する傾向にあります。経過は慢性で、急速に悪化と広がりを見せながら再発します。

9. この病気は日常生活でどのような注意が必要ですか

高温・多湿を避け、患部を不潔にしないように気をつけ、擦れない様に保護に努め、出来るだけ乾燥させます。
具体的には、普段から低刺激性の石けんを十分に泡立てこすらずに洗い流すなどの工夫が、刺激を与えずに清潔に保つために必要となります。
湿った環境でじくじくと悪化するため、常に擦れあう部分の皮膚をさらさらに保つことが大変重要です。下着や衣類は肌に優しく刺激が少なく通気性の良い生地で、風通しがよく汗をかいても蒸れにくいデザインのものを選んで着用します。夏場に悪化して治りにくい場合は、汗をかいたらすぐに拭き取って乾燥させ、乾いた洗濯済みの清潔な衣類に着替えができるようにすることも必要です。患部からの滲出液が多い場合は、水分吸収パッドなどを下着と併用します。
エアコンなどで室内や車内の湿度や温度調整をして、発汗を抑え出来るだけ乾いた状態に保ちます。車のシートはメッシュカバーなどを用いてお尻の蒸れを抑え、温水洗浄便座で肛門周囲を清潔に保つようにします。

10. 次の病名はこの病気の別名又はこの病気に含まれる、あるいは深く関連する病名です。 ただし、これらの病気(病名)であっても医療費助成の対象とならないこともありますので、主治医に相談してください。

別名:ヘイリー・ヘイリー病

【用語解説】

カルシウムポンプ:細胞表面の細胞膜や細胞内の膜様構造物などいろいろな膜の上に存在するタンパク質(膜タンパク)で、カルシウムを膜の内側に取り入れたり、くみ出したりして生理現象を調節しています。
 
常染色体顕性遺伝(優性遺伝)(じょうせんしょくたいけんせいいでん(ゆうせいいでん)):遺伝子の変異による遺伝のしかたを示します。常染色体に存在する1対の遺伝子の一方に変異があれば病気になります。
 
孤発例(こはつれい):両親から遺伝したのではなく、両親の精子または卵子、あるいは受精卵の遺伝子にたまたま変異が生じて発病した患者さんを「孤発例」といいます。
 
対症療法(たいしょうりょうほう):表面的な症状がなくなる、あるいは苦痛となる症状を和らげることを主な目的とする治療法です。日常生活を快適に、充実した時間を取り戻すことができます。
 
寛解(かんかい):病気が完全に治った「治癒(ちゆ)」という状態ではありませんが、病気による症状や検査異常が消失した状態を「寛解」と呼びます。

 

情報提供者
研究班名 皮膚の遺伝関連性希少難治性疾患群の網羅的研究班
研究班名簿 研究班ホームページ
情報更新日 令和4年12月(名簿更新:令和5年6月)