難治頻回部分発作重積型急性脳炎(指定難病153)

なんちひんかいぶぶんほっさじゅうせきがたきゅうせいのうえん
 

(概要、臨床調査個人票の一覧は、こちらにあります。)

○ 概要
 
1.概要
難治頻回部分発作重積型急性脳炎(acute encephalitis with refractory, repetitive partial seizures :AERRPS)は、極めて難治かつ頻回の焦点発作を特徴とする原因不明の疾患である。我が国で最初に確立された疾患概念であり、従来は「特異な脳炎・脳症後てんかんの一群(粟屋、福山型)」の名称が用いられてきた。Febrile infection related epilepsy syndrome (FIRES)、New onset refractory status epilepticus(NORSE)症候群とほぼ同義である。長期間にわたり痙攣が持続して重篤な状態が持続するため人工呼吸管理を含めた集中治療が長期に及び、また、神経学的予後も不良である。
 
2.原因
詳細は不明であるが、中枢神経系の炎症が発症に関与する特殊なてんかんと推定されている。
 
3.症状
発熱に伴い痙攣で発症する。痙攣の頻度は徐々に増加して1~2週間でピークに達し、群発型痙攣重積の状態に至る。痙攣の発作型は眼球偏位や顔面間代が多く、個々の痙攣の持続は短いが、急性期には5~15分間隔で規則的に反復する。他に意識障害、精神症状、不随意運動などを伴うことがある。このためICUで長期間にわたる集中管理を必要とする。ピークを過ぎると痙攣の頻度は徐々に低下するが、消失することなく難治てんかんに移行する。高い確率で知的障害を、重症例では痙性四肢麻痺など最重度の運動障害を伴う。
 
4.治療法
痙攣抑制のため抗てんかん薬が用いられるが、痙攣は極めて難治で通常の抗てんかん薬に不応性である。ピーク時にはバルビタール製剤の大量持続静注により脳波をバーストサプレッションの状態に保つ必要があり、人工呼吸管理や昇圧剤の投与を要する場合が多い。急性期以降はフェノバルビタール、ゾニサミド、レベチラセタム、臭化カリウム等の薬剤により発作が減少する例がある。免疫調整療法の効果は不明である。
 
5.予後
難治てんかんのため終生にわたり痙攣が持続し、知的障害、運動障害を伴う。突然死を来す例があり生命予後も不良である。
 
 
 
○ 要件の判定に必要な事項
1.  患者数
約100人
2.  発病の機構
不明(中枢神経系の炎症が発症に関与する特殊なてんかんである可能性。)
3.  効果的な治療方法
未確立(抗てんかん薬による対症療法のみ。)
4.  長期の療養
必要(長期にわたり難治てんかんが持続し、知的障害を伴う。)
5.  診断基準
あり(研究班作成の診断基準あり。)
6.  重症度分類
精神保健福祉手帳診断書における「G40てんかん」の障害等級判定区分及び障害者総合支援法における障害支援区分における「精神症状・能力障害二軸評価」を用いて、以下のいずれかに該当する患者を対象とする。
 

 

「G40てんかん」の障害等級

能力障害評価

1級程度

1~5全て

2級程度

3~5のみ

3級程度

4~5のみ

 
 
 
 
○ 情報提供元
「難治頻回部分発作重積型急性脳炎の診断基準作成のための疫学研究」
研究代表者 公益財団法人東京都医学総合研究所 脳発達・神経再生研究分野 主席研究員 佐久間啓
 
 
<診断基準>
Definite、Probableを対象とする。
 
難治頻回部分発作重積型急性脳炎の診断基準
 
A.症状
1.発症時(痙攣増悪時)の発熱
2.顔面を中心とする焦点発作(眼球偏位・顔面間代・無呼吸など)
3.群発型痙攣重積(15分に1回以上)
4.痙攣の著しい難治性(バルビタール酸又はベンゾジアゼピン系薬剤の大量投与を必要とする。)
5.慢性期のてんかん(発症後6か月以降も継続する繰り返す発作)
 
B.検査所見
1.髄液細胞数上昇
2.髄液中ネオプテリン・インターロイキン6などの炎症マーカーの高値
3.発作間歇時脳波で周期性の放電
4.発作時脳波(長時間記録)で周期的な発作の出現パターン
5.脳MRIで海馬・島周囲皮質・視床・前障・大脳基底核などに信号異常
6.慢性期の大脳皮質の萎縮
 
C.鑑別診断
以下の疾患を鑑別する。
ウイルス性脳炎、その他のウイルス関連急性脳症(痙攣重積型脳症など)、自己免疫性脳炎(急性辺縁系脳炎、抗NMDA受容体脳炎)、代謝性疾患、脳血管炎、その他のてんかん(ドラベ症候群、PCDH19関連症候群など)
 
<診断のカテゴリー>
Definite:Aのうち5項目全て+Bのうち2項目以上を満たしCの鑑別すべき疾患を除外したもの
Probable:Aのうち4項目以上+Bのうち2項目以上を満たしCの鑑別すべき疾患を除外したもの
Possible:Aのうち4項目以上+Bのうち1項目以上を満たすもの
 
 
 
 
 
 
 
 
 
<重症度分類>
精神保健福祉手帳診断書における「G40てんかん」の障害等級判定区分及び障害者総合支援法における障害支援区分における「精神症状・能力障害二軸評価」を用いて、以下のいずれかに該当する患者を対象とする。
 

「G40てんかん」の障害等級

能力障害評価

1級程度

1~5全て

2級程度

3~5のみ

3級程度

4~5のみ

 
精神保健福祉手帳診断書における「G40てんかん」の障害等級判定区分
 

てんかん発作のタイプと頻度

等級

ハ、ニの発作が月に1回以上ある場合             

1級程度

イ、ロの発作が月に1回以上ある場合
ハ、ニの発作が年に2回以上ある場合             

2級程度

イ、ロの発作が月に1回未満の場合
ハ、ニの発作が年に2回未満の場合  

3級程度

 
「てんかん発作のタイプ」
イ 意識障害はないが、随意運動が失われる発作
ロ 意識を失い、行為が途絶するが、倒れない発作
ハ 意識障害の有無を問わず、転倒する発作
ニ 意識障害を呈し、状況にそぐわない行為を示す発作
 
精神症状・能力障害二軸評価 (2)能力障害評価
○判定に当たっては以下のことを考慮する。
①日常生活あるいは社会生活において必要な「支援」とは助言、指導、介助などをいう。
②保護的な環境(例えば入院・施設入所しているような状態)でなく、例えばアパート等で単身生活を行った場合を想定して、その場合の生活能力の障害の状態を判定する。
 

精神障害や知的障害を認めないか、又は、精神障害、知的障害を認めるが、日常生活及び社会生活は普通に出来る。
○適切な食事摂取、身辺の清潔保持、金銭管理や買い物、通院や服薬、適切な対人交流、身辺 の安全保持や危機対応、社会的手続きや公共施設の利用、趣味や娯楽あるいは文化的社会的活動への参加などが自発的に出来るあるいは適切に出来る。
○精神障害を持たない人と同じように日常生活及び社会生活を送ることが出来る。

精神障害、知的障害を認め、日常生活又は社会生活に一定の制限を受ける。
○「1」に記載のことが自発的あるいはおおむね出来るが、一部支援を必要とする場合がある。
○例えば、一人で外出できるが、過大なストレスがかかる状況が生じた場合に対処が困難である。 ○デイケアや就労継続支援事業などに参加するもの、あるいは保護的配慮のある事業所で、雇
用契約による一般就労をしている者も含まれる。日常的な家事をこなすことは出来るが、状況や手順が変化したりすると困難が生じることがある。清潔保持は困難が少ない。対人交流は乏しくない。引きこもりがちではない。自発的な行動や、社会生活の中で発言が適切に出来ないことがある。行動のテンポはほぼ他の人に合わせることができる。普通のストレスでは症状の再燃や悪化が起きにくい。金銭管理はおおむね出来る。社会生活の中で不適切な行動をとってしまうことは少ない。

精神障害、知的障害を認め、日常生活又は社会生活に著しい制限を受けており、時に応じて支援 を必要とする。
○「1」に記載のことがおおむね出来るが、支援を必要とする場合が多い。
○例えば、付き添われなくても自ら外出できるものの、ストレスがかかる状況が生じた場合に対処することが困難である。医療機関等に行くなどの習慣化された外出はできる。また、デイケアや就労継続支援事業などに参加することができる。食事をバランスよく用意するなどの家事をこなすために、助言などの支援を必要とする。清潔保持が自発的かつ適切にはできない。社会的な対人交流は乏しいが引きこもりは顕著ではない。自発的な行動に困難がある。日常生活の中での発言が適切にできないことがある。行動のテンポが他の人と隔たってしまうことがある。ストレスが大きいと症状の再燃や悪化を来しやすい。金銭管理ができない場合がある。社会生活の中でその場に適さない行動をとってしまうことがある。

精神障害、知的障害を認め、日常生活又は社会生活に著しい制限を受けており、常時支援を要する。
○「1」に記載のことは常時支援がなければ出来ない。
○例えば、親しい人との交流も乏しく引きこもりがちである、自発性が著しく乏しい。自発的な発言が少なく発言内容が不適切であったり不明瞭であったりする。日常生活において行動のテンポが他の人のペースと大きく隔たってしまう。些細な出来事で、病状の再燃や悪化を来しやすい。金銭管理は困難である。日常生活の中でその場に適さない行動をとってしまいがちである。

精神障害、知的障害を認め、身の回りのことはほとんど出来ない。
○「1」に記載のことは支援があってもほとんど出来ない。
○入院・入所施設等患者においては、院内・施設内等の生活に常時支援を必要とする。在宅患
者においては、医療機関等への外出も自発的にできず、付き添いが必要である。家庭生活においても、適切な食事を用意したり、後片付けなどの家事や身辺の清潔保持も自発的には行えず、常時支援を必要とする。

 
 
 
 
 
※診断基準及び重症度分類の適応における留意事項
1.病名診断に用いる臨床症状、検査所見等に関して、診断基準上に特段の規定がない場合には、いずれの時期のものを用いても差し支えない(ただし、当該疾病の経過を示す臨床症状等であって、確認可能なものに限る。)。
2.治療開始後における重症度分類については、適切な医学的管理の下で治療が行われている状態であって、直近6か月間で最も悪い状態を医師が判断することとする。
3.なお、症状の程度が上記の重症度分類等で一定以上に該当しない者であるが、高額な医療を継続す
ることが必要なものについては、医療費助成の対象とする。

平成27年7月1日

情報提供者
研究班名 小児急性脳症の早期診断・最適治療・ガイドライン策定に向けた体制整備班
研究班名簿 
情報更新日 令和5年10月(名簿更新:令和5年6月)