成人発症スチル病(指定難病54)

せいじんはっしょうすちるびょう

(概要、臨床調査個人票の一覧は、こちらにあります。)

○ 概要
 
1.概要
小児の熱性疾患としてStill(1897)により記載されたスチル病(現在は、若年性特発性関節炎(juvenile idiopathic arthritis)の全身型と呼ばれる)と同様の病像は成人期にも発症することが、Bywaters(1971)の報告以来知られており、成人発症スチル病と命名されている。16歳以上を成人とし、これまで小児発症で成人まで遷延した例と合わせて成人スチル病と呼称していたが、本邦集計で成人スチル病の88%が成人発症型であった。
本邦にはおよそ5,000人の成人発症スチル病罹患者がいると推定されている。発症年齢は、本邦集計で20歳前後をピークに年齢とともに罹患者数は減少し、6割は16~35歳に分布するが、高齢発症もある。女性が男性の2倍である。不明熱の代表的疾患であり、悪性腫瘍、感染症、膠原病との鑑別が重要である。
 
2.原因
病因は未定であり、ウイルスを含む様々な病原体との関連を述べた症例報告が多数あるが、有力候補はない。特定のHLAアレルとの相関も報告はあるが、確定的なものがない。自己抗体は検出されないが、ステロイド治療が著効する炎症性疾患であり、感染症などを契機とした自然免疫系の異常な活性化状態の持続が本態であると推定され、多遺伝子性の自己炎症性疾患に分類される。血清中にインターフェロン、インターロイキン6(IL-6)、IL-1β、IL-18、腫瘍壊死因子(TNFα )などの炎症性サイトカインが増加している。血清IL-18が著増し、血清フェリチン上昇と相関する。マクロファージ活性化に起因すると考えられている。
 
3.症状
成人発症スチル病の主たる症状は、発熱、関節痛、皮疹である。
高い弛張熱ないし間欠熱は必発であり、悪寒を伴うこともある。初期あるいは再燃しつつある時期には、回帰的発熱(平熱の日を含む。)もみられる。
関節痛は、一過性のものを含めればほとんどの症例でみられる。破壊性ではないが、一部の症例には関節リウマチと類似した骨びらんや骨性強直もみられる。
サーモンピンク疹といわれる皮疹の“出没”が、スチル病の有力な証拠となる。膨疹又は隆起のない径数mmの桃色の皮疹の集簇である。瘙痒感は一般にない。発熱時に出現し、解熱時に消退する傾向があるが、無熱時にもみられても良い。
また、咽頭痛、リンパ節腫大がみられる。肝脾腫は高頻度にみられるが、遷延したウイルス感染症、悪性リンパ腫にもみられる非特異的な所見である。初発時、再燃時ともに血球貪食症候群又はマクロファージ活性化症候群や播種性血管内凝固症候群(DIC)など予後不良な合併症が発症する場合があり、注意が必要である。
その他の臨床像としては、 間質性肺炎、胸膜炎、心外膜炎が欧米症例で高頻度にみられ、本邦でも稀でない。極めて稀に腎障害、肉芽腫性肝炎、急性肝不全、心内膜炎、麻痺性イレウス、末梢神経障害、顔面神経麻痺、頭蓋内圧亢進、無菌性髄膜炎の報告がある。
検査所見としては、白血球の著明な上昇は特徴的である。CRP上昇、血沈亢進、肝機能異常及びLDH上昇、血清フェリチン著増、血小板数の増多などもみられる。
 
 
4.治療法
一般にステロイド治療に反応する良性疾患である。NSAIDsのみで寛解する例は少なく、ステロイドの中等量から大量(プレドニゾロン相当 1mg/kg/日、分割内服)が用いられるが、必要用量と期間は、症例ごとに異なるので一律のプロトコールは存在しない。初期量で熱性病態及び炎症反応(CRP)が消失することを目安に、減量を始め、維持量で管理する。
ステロイドで効果不十分な場合や減量困難な場合には、ステロイドに加えて保険適用のあるトシリズマブ(抗IL-6受容体モノクローナル抗体)や、以前から使用されている免疫抑制薬(メトトレキサート、シクロスポリン)などを使用する。
 
5.予後
良性疾患であるが、マクロファージ活性化症候群、DIC、前述の稀な合併症を生じたときは、重症化することがある。いずれも活動期にみられる。ときに、炎症が持続してアミロイドーシスを生じる例、関節炎遷延例がある。
 
○ 要件の判定に必要な事項
1.患者数(令和元年度医療受給者証保持者数)
3,446人
2.発病の機構
不明(病因は未定であり、有力候補はない。)
3.効果的な治療方法
未確立(根治療法なし。)
4.長期の療養
必要(合併症により重症化、炎症が持続する例がある。)
5.診断基準
あり(学会関与の診断基準等あり。)
6.重症度分類
研究班において作成されたものを用い、中等症以上を対象とする。
 
○ 情報提供元
「自己免疫疾患に関する調査研究班」
研究代表者 東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科生涯免疫難病学講座 教授 森 雅亮
 
 
 
<診断基準>
Definiteを対象とする。

Yamaguchiらの分類基準(1992年)

A:大項目 

1)

39℃以上の発熱が1週間以上続く

2)

関節症状が2週間以上続く

3)

定型的な皮膚発疹

4)

80%以上の好中球増加を伴う白血球増多(10000/mm3以上)

B:小項目 

1)

咽頭痛

2)

リンパ節腫脹あるいは脾腫

3)

肝機能障害

4)

リウマトイド因子陰性及び抗核抗体陰性

C:除外項目 

1)

感染症(特に敗血症、伝染性単核球症)

2)

悪性腫瘍(特に悪性リンパ腫)

3)

膠原病(特に結節性多発動脈炎、悪性関節リウマチ)

※16歳未満の症例に対しても上記診断基準は適用される。

<診断のカテゴリー>
Definite:Aの2項目以上を満たし、かつAとBを合わせて5項目以上に該当し、かつCを除外したもの。
 
 
 
<重症度分類>
中等症以上を対象とする。
 

成人発症スチル病重症度スコア

漿膜炎

無0 □

有1 □

DIC※1

無0 □

有2 □

血球貪食症候群※2

無0 □

有2 □

好中球比率増加(85%以上)

無0 □

有1 □

フェリチン高値(3,000 ng/mL以上)

無0 □

有1 □

著明なリンパ節腫脹

無0 □

有1 □

ステロイド治療抵抗性
(プレドニゾロン換算で0.4mg/kg以上で治療抵抗性の場合)

無0 □

有1 □

スコア合計点

0~9点
成人発症スチル病重症度基準
重症: 3点以上
中等症:2点以上

軽症: 1点以下

※1;日本血栓止血学会 「DIC診断基準2017年版」等を参考にする。
※2;小児慢性特定疾病 「血球貪食性リンパ組織症の診断の手引き(https://www.shouman.jp/disease/instructions/01_04_025/)」等を参考にする。
 
 
※診断基準及び重症度分類の適応における留意事項
1.病名診断に用いる臨床症状、検査所見等に関して、診断基準上に特段の規定がない場合には、いずれの時期のものを用いても差し支えない(ただし、当該疾病の経過を示す臨床症状等であって、確認可能なものに限る。)。
2.治療開始後における重症度分類については、適切な医学的管理の下で治療が行われている状態であって、直近6か月間で最も悪い状態を医師が判断することとする。
3.なお、症状の程度が上記の重症度分類等で一定以上に該当しない者であるが、高額な医療を継続することが必要なものについては、医療費助成の対象とする。

令和6年4月1日

  • 成人発症スチル病の治療は進歩しています。それを受けて、成人スチル病診療ガイドラインは2017年版を2023年版に更新しました。
情報提供者
研究班名 自己免疫疾患に関する調査研究班
研究班名簿 
情報更新日 令和6年4月(名簿更新:令和5年6月)