結節性多発動脈炎(指定難病42)

けっせつせいたはつどうみゃくえん
 

(概要、臨床調査個人票の一覧は、こちらにあります。)

○ 概要
 
1.概要
動脈は血管径により、大型、中型、小型、毛細血管に分類される。結節性多発動脈炎(polyarteritis nodosa)は、中型血管を主体として、血管壁に炎症を生じる疾患である。以前は一つの疾患群として捉えられていた顕微鏡的多発血管炎(microscopic polyangiitis:MPA)は、毛細血管を主体とする疾患であり、現在は、異なる疾患概念とされている。また、抗好中球細胞質抗体(antineutrophil cytoplasmic antibody:ANCA)も血清中には検出されず、現時点では、この疾患に対する特異性の高い診断マーカーは存在しない。フランスなどでは、B型肝炎ウイルス感染に伴って発症する症例が相当数報告されているが、本邦ではまれにしか認められない。
PANはMPAに比較して若干若い年齢層に多く、平均発症年齢は55歳で、男女比は3:1でやや男性に多い傾向がある。
 
2.原因
肝炎ウイルスや他のウイルス感染を契機に発症するという報告もあるが、多くの症例では原因は不明である。
 
3.症状
PANは全身諸臓器に分布する中型血管の血管炎であるため、症状は多彩である。その症状は、炎症による全身症状と罹患臓器の炎症及び虚血、梗塞による臓器障害の症状の両者からなる。
A.全身症状
全症例の中で、発熱(38~39℃)が80%に、体重減少が60%に、高血圧が20%の症例に認められる。発熱に悪寒・戦慄を伴うことはまれである。体重減少は数か月以内に6kg以上の減少を来すことが多い。高血圧は、糸球体虚血によるレニン・アンギオテンシン系の活性化により発症し、悪性高血圧の所見を呈する。
B.臓器症状
筋肉・関節症状を80%に、皮膚症状(紫斑、潰瘍、結節性紅斑)を60%に、腎障害(急性腎不全、腎炎)・高血圧を50%に、末梢神経炎を50%に中枢神経症状(脳梗塞、脳出血)を25%に、消化器症状(消化管出血、穿孔、梗塞)を20%に、それぞれ認める。また、心症状(心筋梗塞、心外膜症)や肺・胸膜症状、眼症状などを呈することもあるがまれである。
 
4.治療法
重篤な症例では、初めにステロイドパルス療法を施行し、その後は経口副腎皮質ステロイド治療となる。また、1か月後にはシクロホスファミド(cyclophosphamide:CY)の投与を行い、4~6回繰り返すのが一般的である。経口副腎皮質ステロイドは病状改善と共に漸減するが、再燃防止の為に少量を継続投与することが多い。軽症例では、経口副腎皮質ステロイドのみで治療する。なお、腎不全には血液透析を、腸管穿孔では腸切除を要する。
 
5.予後
早期に診断し、血管病変が重篤化しない時期に治療を開始することが重要である。早期に治療を行なうことで、完全寛解に至る症例もある。逆に治療開始が遅延すると、脳出血、消化管出血・穿孔、膵臓出血、心筋梗塞、腎不全で死亡する頻度が高くなる。
大半の症例は、多少の臓器障害を残し寛解に至る。特に知覚神経障害、運動神経障害、維持透析でQOL(quality of life)の低下を来す症例が多い。
 
○ 要件の判定に必要な事項
1.患者数(平成24年度医療受給者証保持者数)
9,610人(顕微鏡的多発血管炎との合計)
2.発病の機構
不明(何らかの感染の関与が示唆されている。)
3.効果的な治療方法
未確立(副腎皮質ステロイド治療などが必要だが、寛解、増悪を繰り返す。)
4.長期の療養
必要(合併症を含め長期療養が必要。)
5.診断基準
     あり
6.重症度分類
     結節性多発動脈炎の重症度分類を用いて、3度以上を対象とする。
 
○ 情報提供元
難治性疾患等政策研究事業「難治性血管炎に関する調査研究班」
研究代表者 杏林大学第一内科学教室 腎臓・リウマチ膠原病内科 有村義宏
 
 
 
<診断基準>
Definite、Probableを対象とする。
【主要項目】
(1)主要症候
①発熱(38℃以上、2週以上)と体重減少(6か月以内に6kg以上)
②高血圧
③急速に進行する腎不全、腎梗塞
④脳出血、脳梗塞
⑤心筋梗塞、虚血性心疾患、心膜炎、心不全
⑥胸膜炎
⑦消化管出血、腸閉塞
⑧多発性単神経炎
⑨皮下結節、皮膚潰瘍、壊疽、紫斑
⑩多関節痛(炎)、筋痛(炎)、筋力低下
(2)組織所見
  中・小動脈のフィブリノイド壊死性血管炎の存在
(3)血管造影所見
  腹部大動脈分枝(特に腎内小動脈)の多発小動脈瘤と狭窄・閉塞
(4)診断のカテゴリー
①Definite
主要症候2項目以上と組織所見のある例
②Probable
(a)主要症候2項目以上と血管造影所見の存在する例
(b)主要症候のうち①を含む6項目以上存在する例
(5)参考となる検査所見
①白血球増加(10,000/µL以上)
②血小板増加(400,000/µL以上)
③赤沈亢進
④CRP強陽性
(6)鑑別診断
①顕微鏡的多発血管炎
②多発血管炎性肉芽腫症 (旧称:ウェゲナー肉芽腫症)
③好酸球性多発血管炎性肉芽腫症(旧称:アレルギー性肉芽腫性血管炎)
④川崎病動脈炎
⑤膠原病(全身性エリテマトーデス(SLE)、関節リウマチ(RA)など)
⑥IgA血管炎(旧称:紫斑病性血管炎)
 
 
【参考事項】
(1)組織学的にI期変性期、II期急性炎症期、III期肉芽期、IV期瘢痕期の4つの病期に分類される。
(2)臨床的にI、II病期は全身の血管の高度の炎症を反映する症候、III、IV期病変は侵された臓器の虚血を反映する症候を呈する。
(3)除外項目の諸疾患は壊死性血管炎を呈するが、特徴的な症候と検査所見から鑑別できる。
 
 
<重症度分類>
結節性多発動脈炎の重症度分類において、3度以上を対象とする。

1度

 ステロイドを含む免疫抑制薬の維持量ないしは投薬なしで1年以上病状が安定し、臓器病変及び合併症を認めず日常生活に支障なく寛解状態にある患者(血管拡張剤、降圧剤、抗凝固剤などによる治療は行ってもよい。)。

2度

ステロイドを含む免疫抑制療法の治療と定期的外来通院を必要とするも、
臓器病変と合併症は併存しても軽微であり、介助なしで日常生活に支障のない患者。

3度

 機能不全に至る臓器病変(腎、肺、心、精神・神経、消化管など)ないし合併症(感染症、圧迫骨折、消化管潰瘍、糖尿病など)を有し、しばしば再燃により入院又は入院に準じた免疫抑制療法ないし合併症に対する治療を必要とし、日常生活に支障を来している患者。臓器病変の程度は注1のa~hのいずれかを認める。

4度

 臓器の機能と生命予後に深く関わる臓器病変(腎不全、呼吸不全、消化管出血、中枢神経障害、運動障害を伴う末梢神経障害、四肢壊死など)ないしは合併症(重症感染症など)が認められ、免疫抑制療法を含む厳重な治療管理ないし合併症に対する治療を必要とし、少なからず入院治療、時に一部介助を要し、日常生活に支障のある患者。臓器病変の程度は注2のa~hのいずれかを認める。

5度

 重篤な不可逆性臓器機能不全(腎不全、心不全、呼吸不全、意識障害・認知障害、消化管手術、消化・吸収障害、肝不全など)と重篤な合併症(重症感染症、DICなど)を伴い、入院を含む厳重な治療管理と少なからず介助を必要とし、日常生活が著しく支障を来している患者。これには、人工透析、在宅酸素療法、経管栄養などの治療を要する患者も含まれる。臓器病変の程度は注3のa~hのいずれかを認める。

  注1:以下のいずれかを認めること
a.肺線維症により軽度の呼吸不全を認め、Pa02が60~70Torr。
b.NYHA2度の心不全徴候を認め、心電図上陳旧性心筋梗塞、心房細動(粗動)、期外収縮あるいはST低下(0.2mV以上)の1つ以上認める。
c.血清クレアチニン値が2.5~4.9mg/dLの腎不全。
d.両眼の視力の和が0.09~0.2の視力障害。
e.拇指を含む2関節以上の指・趾切断。
f.末梢神経障害による1肢の機能障害(筋力3)。
g.脳血管障害による軽度の片麻痺(筋力4)。
h.血管炎による便潜血反応中等度以上陽性、コーヒー残渣物の嘔吐。
注2:以下のいずれかを認めること
a.肺線維症により中等度の呼吸不全を認め、PaO2が50~59Torr。
b.NYHA 3度の心不全徴候を認め、胸部X線上 CTR60%以上、心電図上陳旧性心筋梗塞、脚ブロック、2度以上の房室ブロック、心房細動(粗動)、人口ペースメーカーの装着、のいずれかを認める。
c.血清クレアチニン値が5.0~7.9mg/dLの腎不全。
d.両眼の視力の和が0.02~0.08の視力障害。
e.1肢以上の手・足関節より中枢側における切断。
f.末梢神経障害による2肢の機能障害(筋力3)。
g.脳血管障害による著しい片麻痺(筋力3)。
h.血管炎による両眼的下血、嘔吐を認める。
注3:以下のいずれかを認めること
a.肺線維症により高度の呼吸不全を認め、PaO2が50Torr 未満。
b.NYHA4度の心不全徴候を認め、胸部X線上 CTR60%以上、心電図上陳旧性心筋梗塞、脚ブロック、2度以上の房室ブロック、心房細動(粗動)、人口ペースメーカーの装着のいずれか2以上を認める。
c.血清クレアチニン値が8.0mg/dLの腎不全。
d.眼の視力の和が0.01以下の視力障害。
e.2肢以上の手・足関節より中枢側の切断。
f.末梢神経障害による3肢以上の機能障害(筋力3)、又は1肢以上の筋力全廃(筋力2以下)。
g.脳血管障害による完全片麻痺(筋力2以下)。
h.血管炎による消化管切除術を施行。
 
※診断基準及び重症度分類の適応における留意事項
1.病名診断に用いる臨床症状、検査所見等に関して、診断基準上に特段の規定がない場合には、いずれの時期のものを用いても差し支えない(ただし、当該疾病の経過を示す臨床症状等であって、確認可能なものに限る。)。
2.治療開始後における重症度分類については、適切な医学的管理の下で治療が行われている状態であって、直近6か月間で最も悪い状態を医師が判断することとする。
3.なお、症状の程度が上記の重症度分類等で一定以上に該当しない者であるが、高額な医療を継続することが必要なものについては、医療費助成の対象とする。
 

平成27年1月1日

情報提供者
研究班名 難治性血管炎の医療水準・患者QOL向上に資する研究班 
研究班名簿 研究班ホームページ
情報更新日 令和4年3月(名簿更新:令和5年6月)