ホモシスチン尿症(指定難病337)

ほもしすちんにょうしょう
 

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○ 概要
 
1.概要
ホモシスチン尿症は先天性アミノ酸代謝異常症の一種であり、メチオニンの代謝産物であるホモシステインが血中に蓄積することにより発症する。欠損酵素の種類により3病型があり、いずれも常染色体劣性遺伝疾患である。
ホモシスチン尿症Ⅰ型はシスタチオニンβ合成酵素(CBS)欠損症を指し、血中メチオニンを指標とする新生児マススクリーニングの対象疾患とされている。Ⅱ型はコバラミン代謝系コバラミンC(cblC)、Ⅲ型は葉酸代謝系メチレンテトラヒドロ葉酸還元酵素(MTHFR)の異常に起因するが、新生児マススクリーニングの対象疾患ではない。全身性に神経障害や血栓症による症状が出現し、病型により骨格異常、眼症状、血液異常が加わる。食事療法やビタミン補充などが対症療法として行われる。特に血栓症による合併症が生命及び長期的予後を不良とする。
 
2.原因
CBSはホモシステインからシスチンを合成する硫黄転移経路の律速酵素で、その活性低下によりホモシステインが蓄積する。ホモシステインはスーパーオキサイドによる血管内皮細胞障害を発生させ血栓症の成因となる。病名にあるホモシスチンは、ホモシステインの重合体であり、尿中に排泄される。蓄積したホモシステインは再メチル化経路によりメチオニンへ合成され、Ⅰ型(CBS欠損症)ではメチオニンが高値となる。また、これを指標として新生児マススクリーニングを実施している。CBS欠損症には補酵素であるビタミンB6の大量投与に反応する比較的予後の良いタイプ(ビタミンB6反応型)があるが、日本人では稀である。
再メチル化経路にはコバラミンと葉酸の代謝が関与しており、それぞれの酵素異常(cblC等、MTHFR)ではホモシステインからメチオニン合成が障害される。ⅡとⅢ型でもホモシステインが蓄積するが、新生児マススクリーニング受検時にはメチオニンが低値を示すため有効な検出方法がない。
 
3.症状
ホモシスチン尿症Ⅰ型では以下の①〜④を主要症状とする。
①中枢神経系異常:知的障害、てんかん、精神症状(パーソナリティ障害、不安、抑うつなど)
②骨格異常:高身長・クモ状指・側弯症・鳩胸などマルファン症候群様体型、骨粗鬆症
③眼症状: 水晶体脱臼 (無治療では10歳までに80%以上で 水晶体脱臼 を呈する)、緑内障
④血管系障害:冠動脈血栓症、肺塞栓症、脳血栓塞栓症
無治療の場合、小児期から上記①、②、③の症状を認め、思春期から成人期に④を発症する。無治療発症例に該当するのは新生児マススクリーニング導入前(1977年以前)の40歳代以上の症例や新生児マススクリーニングをすりぬけた症例である。
症状発現前に治療開始されても、成人期に至る過程で血中ホモシステインのコントロールに難渋する症例が多く、精神症状、骨粗鬆症(骨折)、血栓症等の発症に生涯を通じて注意を払う必要がある。
ホモシスチン尿症Ⅱ型では血中ホモシスチンに加え、血中メチルマロン酸の上昇による哺乳不良、嘔気、意識障害など有機酸代謝異常の症状出現と貧血など血液異常を伴うことが特徴である。以下の①〜④を主要症状とする。
①神経障害:乳幼児期の精神運動発達遅滞、体重増加不良、小頭症、水頭症、けいれん。学童期以降の遅発型では退行、学業成績悪化、性格や行動の異常などの精神症状
②眼症状:網膜症や視神経萎縮による視力障害
③血液異常:巨赤芽球性貧血、好中球減少、汎血球減少
④血栓症:溶血性尿毒症症候群、肺塞栓症、脳血栓塞栓症など
ホモシスチン尿症Ⅲ型では葉酸欠乏による中枢神経障害が加わり重篤な後遺症を残す。以下の(1)(2)を主要症状とする。
(1)神経障害:乳幼児期の精神運動発達遅滞、体重増加不良、小頭症、けいれん。学童期以降の遅発型では水頭症、歩行障害、けいれん、末梢神経障害、白質脳症、統合失調症。)
(2)血栓症:青年期以降の心血管血栓症、若年性脳梗塞
 
4.治療法
小児期・成人期を問わず、血中ホモシステイン値を50μmol/L以下で管理する。新生児マススクリーニングでの発見例は、無症状のうちに診断して治療することが原則である。Ⅰ型では食事療法(メチオニン摂取制限)により、血中メチオニン濃度を1mg/dL以下に保つ。ビタミンB6反応型においてはピリドキシンの大量投与を行う。Ⅱ・Ⅲ型では逆にメチオニン補充が必要となり、Ⅱ型ではヒドロキソコバラミン、Ⅲ型ではベタインやフォリン酸などが有効である。
どの病型も年長児や成人においてはベタイン(希少疾患用医薬品、2014年本邦承認)を併用することが多い。ベタインによるホモシステインの再メチル化作用により、血中ホモシステイン値が低下する。2014年〜2018年の市販後調査では48症例が登録され、投与開始時の年齢の中央値は20.5(0〜46)才、成人症例が過半数を占めた。
ベタイン投与のみで至適なコントロールは難しく、生涯に渡りメチオニン除去ミルク(特殊ミルク)やメチオニン除去アミノ酸粉末(海外製品)を用いた食事療法が必須である。成人期には脳血栓や心血管障害の発症、妊娠・出産による血栓症合併のリスクが高く、抗血栓療法を必要とする。
 
5.予後
Ⅰ型は新生児マススクリーニングの導入により発症前治療がなされた場合には知的予後、生命予後は導入前に比して改善したが、成人期にコントロール不良となる症例が多い。血栓症は思春期から成人期に起こり、重篤な合併症と生命予後を規定する因子となるため、生涯を通じて治療を継続する必要がある。Ⅱ型は早期発症例の1/3は生命予後不良であり、遅発例も含めて治療導入後も神経学的ならびに眼科的後遺症を残す。Ⅲ型は新生児期に死亡する症例から成人発症まで幅広い臨床像を認めるが、中枢及び末梢神経障害が顕著になると予後不良である。
 
○ 要件の判定に必要な事項
1.患者数
・Ⅰ型、CBS欠損症:約200人
・Ⅱ型:100人未満
・Ⅲ型:100人未満
2.発病の機構
不明(各病型の責任遺伝子機能喪失変異が原因であるが、同じ遺伝子変異でも未発症例や重症例があることなど、発病の機構、病態が未解明である部分が多い)
3.効果的な治療方法
未確立(食事療法、ビタミン補充療法などの対症療法のみである)
4.長期の療養
必要(神経学的な合併症を有することが多く長期の療養を要する)
5.診断基準
あり (中村班作成の診断基準)
6.重症度分類
日本先天代謝異常学会による先天性代謝異常症の重症度評価を用いて中等度以上を対象とする。

 
○ 情報提供元
厚生労働科学研究費補助金難治性疾患等政策研究事業(難治性疾患政策研究事業)「新生児スクリーニング対象疾患等の先天代謝異常症における生涯にわたる診療体制の整備に関する研究」班 
研究代表者 熊本大学大学院 教授 中村公俊
研究協力者 国立病院機構北海道医療センター 院長 長尾雅悦

日本医療研究開発機構 難治性疾患実用化研究事業「難プラ標準レジストリーを使用し、新生児マススクリーニング対象疾患等の遺伝子変異を考慮したガイドライン改定に向けたエビデンス創出研究」
研究代表者 岐阜大学大学院 助教 笹井英雄
 
 
<診断基準>
Definiteを対象とする。
Ⅰ型(CBS欠損症)

A. 症状
1.知的障害、てんかん、精神症状(パーソナリティ障害、不安、抑うつなど)
2.マルファン症候群様体型(高身長、クモ状指、側弯症、鳩胸、凹足、外反膝など)
3. 水晶体脱臼
4.血栓症(冠動脈血栓症、肺塞栓症、脳血栓塞栓症など)

B.検査所見
1.血中メチオニン高値:1.2 mg/dL (80 μmol/L) 以上
2.高ホモシステイン血症:60 μmol/L以上 
3.尿中ホモシスチン排泄 (通常は検出されない)

C.鑑別診断
以下の疾患を鑑別する。
メチオニンアデノシルトランスフェラーゼ欠損症、肝障害、メチオニン合成酵素欠損症、ホモシスチン尿症Ⅱ型およびⅢ型

D.遺伝学的検査
1.CBS遺伝子の両アレルに機能喪失型変異を認める
2.シスタチオニンβ合成酵素(CBS)活性低下:皮膚生検による培養皮膚線維芽細胞、末梢血から採取した培養リンパ芽球を用いて酵素活性を測定する

<診断のカテゴリー>
小児期及び成人期発症例の場合:Cの鑑別すべき疾患を除外し、下記のいずれかを満たしたものをDefiniteとする。
Definite:
・Aのうち1項目以上並びにB-1及びB-2
・Aのうち1項目以上並びにB-1及びB-3
・Aのうち1項目以上及びD-1
・Aのうち1項目以上及びD-2

新生児マススクリーニング又は家族検索などで無症状時に発見された場合:Cの鑑別すべき疾患を除外し、下記のいずれかを満たしたものをDefiniteとする。
Definite:
・B-1及びB-2
・B-1及びB-3
・D-1
・D-2


Ⅱ型(コバラミン代謝異常症cblC)
A症状
1.神経障害(乳幼児期の精神運動発達遅滞、体重増加不良、小頭症、水頭症、けいれん。学童期以降の遅発型では退行、学業成績悪化、性格や行動の異常などの精神症状)
2.眼症状(網膜症や視神経萎縮による視力障害)
3.血液異常(巨赤芽球性貧血、好中球減少、汎血球減少)
4.血栓症(溶血性尿毒症症候群、肺塞栓症、脳血栓塞栓症など)

B検査所見
1.血中メチオニンは正常または低値:正常範囲:0.3-0.6 mg/dL(20-40 μmol/L)
2.高ホモシステイン血症:60 μmol/L以上
3.尿中ホモシスチンおよびメチルマロン酸の排泄増多 (通常は検出されない)
4.血中プロピオニルカルニチン(C3)の上昇かつ、C3/C2(プロピオニルカルニチン/アセチルカルニチン)の上昇

C鑑別診断
以下の疾患を鑑別する。
ホモシスチン尿症Ⅰ型およびⅢ型、ビタミンB12欠乏症並びに葉酸欠乏症

D遺伝学的検査
1.MMACHC遺伝子の両アレルに機能喪失型変異を認める

<診断のカテゴリー>
乳幼児期および学童期以降遅発型の症例の場合:Cの鑑別すべき疾患を除外し、下記のいずれかを満たしたものをDefiniteとする。
Definite:
・Aのうち1項目以上並びにB-1、B-2及びB-3
・Aのうち1項目以上並びにB-1、B-2及びB-4
・Aのうち1項目以上及びD-1

新生児マススクリーニング(他疾患の精査過程)又は家族検索などで無症状時に発見された場合:Cの鑑別すべき疾患を除外し、下記のいずれかを満たしたものをDefiniteとする
Definite:
・B-1、B-2及びB-3
・B-1、B-2及びB-4
・D-1


Ⅲ型(MTHFR欠損症)
A症状
1.神経障害(乳幼児期の精神運動発達遅滞、体重増加不良、小頭症、けいれん。学童期以降の遅発型では水頭症、歩行障害、けいれん、末梢神経障害、白質脳症、統合失調症。)
2.血栓症(青年期以降の心血管血栓症、若年性脳梗塞)

B検査所見
1.血中メチオニンは正常または低値:正常範囲:0.3-0.6 mg/dL(20-40 μmol/L)
2.高ホモシステイン血症:60 μmol/L以上
3.尿中ホモシスチン排泄:通常は検出されない
4.メチルマロン酸排泄は認めない:通常は検出されない

C鑑別診断
以下の疾患を鑑別する。
ホモシスチン尿症Ⅰ型およびⅡ型、ビタミンB12欠乏症、葉酸欠乏症

D遺伝学的検査
1. MTHFR遺伝子の両アレルに機能喪失型変異を認める

<診断のカテゴリー>
乳幼児期および学童期以降遅発型の症例の場合:Cの鑑別すべき疾患を除外し、下記のいずれかを満たしたものをDefiniteとする。
Definite:
・Aのうち1項目以上及びB-1~4の全て
・Aのうち1項目以上及びD-1

新生児マススクリーニング(他疾患の精査過程)又は家族検索などで無症状時に発見された場合:Cの除外すべきの疾患を除外し下記のいずれかを満たしたものをDefiniteとする。
Definite:
・B-1~4の全て
・D-1


<重症度分類>
先天性代謝異常症の重症度評価(日本先天代謝異常学会)を用いて中等度以上を対象とする。

先天性代謝異常症の重症度評価(日本先天代謝異常学会)

   

点数

I

薬物などの治療状況(以下の中からいずれか1つを選択する)

a

治療を要しない

b

対症療法のために何らかの薬物を用いた治療を継続している

c

疾患特異的な薬物治療が中断できない

d

急性発作時に呼吸管理、血液浄化を必要とする

II

食事栄養治療の状況(以下の中からいずれか1つを選択する)

a

食事制限など特に必要がない

b

軽度の食事制限あるいは一時的な食事制限が必要である

c

特殊ミルクを継続して使用するなどの中程度の食事療法が必要である

d

特殊ミルクを継続して使用するなどの疾患特異的な負荷の強い(厳格な)食事療法の継続が必要である

e

経管栄養が必要である

III

酵素欠損などの代謝障害に直接関連した検査(画像を含む)の所見(以下の中からいずれか1つを選択する)

a

特に異常を認めない

b

軽度の異常値が継続している(目安として正常範囲から1.5SDの逸脱)

c

中等度以上の異常値が継続している(目安として1.5SDから2.0SDの逸脱)

d

高度の異常値が持続している(目安として2.0SD以上の逸脱)

IV

現在の精神運動発達遅滞、神経症状、筋力低下についての評価(以下の中からいずれか1つを選択する)

a

異常を認めない

b

軽度の障害を認める(目安として、IQ70未満や補助具などを用いた自立歩行が可能な程度の障害)

c

中程度の障害を認める(目安として、IQ50未満や自立歩行が不可能な程度の障害)

d

高度の障害を認める(目安として、IQ35未満やほぼ寝たきりの状態)

V

現在の臓器障害に関する評価(以下の中からいずれか1つを選択する)

a

肝臓、腎臓、心臓などに機能障害がない

b

肝臓、腎臓、心臓などに軽度機能障害がある
(目安として、それぞれの臓器異常による検査異常を認めるもの)

c

肝臓、腎臓、心臓などに中等度機能障害がある
 (目安として、それぞれの臓器異常による症状を認めるもの)

d

肝臓、腎臓、心臓などに重度機能障害がある、あるいは移植医療が必要である
(目安として、それぞれの臓器の機能不全を認めるもの)

VI

生活の自立・介助などの状況(以下の中からいずれか1つを選択する)

a

自立した生活が可能

b

何らかの介助が必要

c

日常生活の多くで介助が必要

d

生命維持医療が必要

総合評価

 

ⅠからⅥまでの各評価及び総点数をもとに最終評価を決定する。

 

(1)4点の項目が1つでもある場合

重症

 

(2)2点以上の項目があり、かつ加点した総点数が6点以上の場合

重症

 

(3)加点した総点数が3~6点の場合

中等症

 

(4)加点した総点数が0~2点の場合

軽症

  ※診断基準及び重症度分類の適応における留意事項
1.病名診断に用いる臨床症状、検査所見等に関して、診断基準上に特段の規定がない場合には、いずれの時期のものを用いても差し支えない(ただし、当該疾病の経過を示す臨床症状等であって、確認可能なものに限る。)。
2.治療開始後における重症度分類については、適切な医学的管理の下で治療が行われている状態であって、直近6か月間で最も悪い状態を医師が判断することとする。
3.なお、症状の程度が上記の重症度分類等で一定以上に該当しない者であるが、高額な医療を継続することが必要なものについては、医療費助成の対象とする。

令和3年11月1日

情報提供者
研究班名 新生児スクリーニング対象疾患等の先天代謝異常症における生涯にわたる診療体制の整備に関する研究班
研究班名簿 研究班ホームページ
情報更新日 令和3年11月(名簿更新:令和4年7月)