全身性エリテマトーデス(SLE)(指定難病49)

ぜんしんせいえりてまとーです
 

(概要、臨床調査個人票の一覧は、こちらにあります。)

○ 概要
 
1.概要
全身性エリテマトーデスはDNA-抗DNA抗体などの免疫複合体の組織沈着により起こる全身性炎症性病変を特徴とする自己免疫疾患である。症状は治療により軽快するものの、寛解と増悪を繰り返して慢性の経過を取ることが多い。
 
2.原因
一卵性双生児での全身性エリテマトーデスの一致率は25%程度であることから、何らかの遺伝的素因を背景として、感染、性ホルモン、紫外線、薬物などの環境因子が加わって発症するものと推測されている。その結果、自己抗体、特に抗DNA抗体が過剰に産生され、抗原であるDNAと結合して免疫複合体を形成される結果、組織に沈着して補体系の活性化などを介して炎症が惹起されると考えられる。
 
3. 症状
(1)全身症状:全身倦怠感、易疲労感、発熱などが先行することが多い。
(2)皮膚・粘膜症状
蝶形紅斑と円板状ループスが特徴的である。日光曝露で増悪する。円板状ループスは顔面、耳介、頭部、関節背面などによくみられ、当初は紅斑であるが、やがて硬結、角化、瘢痕、萎縮をきたす。この他凍瘡様皮疹、頭髪の脱毛、日光過敏も本症に特徴的である。
(3)筋・関節症状
筋肉痛、関節痛は急性期によくみられる。関節炎もみられるが、骨破壊を伴うことはないのが特徴。
(4)腎症状:糸球体腎炎(ループス腎炎)は約半数の症例で出現し、ネフローゼや腎機能障害をおこす。
(5)神経症状
中枢神経症状を呈する場合は重症である(精神神経ループス)。うつ状態、失見当識、妄想などの精神症状と痙攣、脳血管障害がよくみられる。
(6)心血管症状
心外膜炎はよくみられる。心筋炎を起こすと、頻脈、不整脈が出現する。
(7)肺症状
胸膜炎は急性期によくみられる。このほか、間質性肺炎、肺胞出血、肺高血圧症は予後不良の病態として注意が必要である。
(8)消化器症状:腹痛がみられる場合には、腸間膜血管炎やループス腹膜炎に注意する。
(9)血液症状:溶血性貧血、白血球減少や血小板減少も認められる。
(10)眼症状:網膜の病変に伴う視力低下がみられる。
(11)その他:リンパ節腫脹は急性期によくみられる。

4.治療法
(1)非ステロイド系消炎鎮痛剤(NSAIDs)
発熱、関節炎などの軽減に用いられる。
(2)グルココルチコイド(ステロイド)
全身性エリテマトーデスの免疫異常を是正するためにはグルココルチコイドの投与が必要不可欠である。一般には経口投与を行ない、臓器病変により初回量を決定する。ステロイド抵抗性の症例では、ステロイド・パルス療法が用いられる。
(3)ヒドロキシクロロキン
全身性エリテマトーデスの病態改善のため、広汎な病態で用いられる。長期内服による網膜病変の出現リスクがあるため、眼科と共同で診療しながら投与を行う。
(4)免疫抑制薬
臓器病変や重症度に応じて免疫抑制薬の投与を行う。生物学的製剤が用いられる場合もある。
(5)その他
高血圧を伴う場合には、腎機能障害の進行を防ぐためにも積極的な降圧療法が必要となる。腎機能が急速に悪化する場合には、早期より血液透析の導入を考慮する。
 
5.予後
本症は寛解と増悪を繰り返し、慢性の経過を取ることが多い。本症の早期診断、早期治療が可能となった現在、本症の予後は著しく改善し、5年生存率は95%以上となった。
予後を左右する病態としては、ループス腎炎、精神神経ループス、抗リン脂質抗体症候群、間質性肺炎、肺胞出血、肺高血圧症などが挙げられる。死因としては、従来は腎不全であったが、近年では日和見感染症による感染死が死因の第一位を占めている。
 
○ 要件の判定に必要な事項
1.患者数(令和元年度医療受給者証保持者数)
61,835人
2.発病の機構
不明
3.効果的な治療方法
未確立(根治療法なし。)
4.長期の療養
必要(再燃と寛解を繰り返し、慢性の経過となる。)
5.診断基準
あり
6.重症度分類
国際基準を基盤とし、SLEDAIスコア4点以上を医療費助成の対象とする。
 
○ 情報提供元
「自己免疫疾患に関する調査研究班」
研究代表者 東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科 生涯免疫難病学講座 教授 森雅亮
 
 
 
<診断基準>
Definiteを対象とする。
エントリー基準: 抗核抗体80倍以上(HEp-2細胞を用いるか、同等の検査)

臨床所見
① 全身症状:38.3℃をこえる発熱(2)
② 皮膚粘膜:非瘢痕性脱毛(2)、口腔内潰瘍(2)、亜急性皮膚ループスや円板状ループス(4)、急性皮膚ループス(蝶形紅斑や斑状丘疹状丘疹)(6)
③ 筋骨格:関節症状(2個以上の滑膜炎もしくは関節圧痛と30分以上の朝のこわばり)(6)
④ 精神神経:せん妄(2)、精神障害(3)、痙攣(5)
⑤ 漿膜:胸水または心嚢液(5)、急性心外膜炎(6)
⑥ 血液所見:4000/mm3未満の白血球減少(3)、10万/mm3未満の血小板減少(4)、自己免疫性溶血(4) 
⑦ 腎臓:0.5g/日以上の尿蛋白(4)、腎生検でクラスIIまたはVのループス腎炎(8)、クラスIIIまたはIVのループス腎炎(10)

免疫所見
特異抗体: 抗dsDNA抗体または抗Sm抗体(6)
補体:C3またはC4の低下(3)或いはC3及びC4の低下(4)
抗リン脂質抗体:抗カルジオリピン抗体、抗β2GPI抗体またはループスアンチコアグラント陽性を認める(2)

<診断のカテゴリー>
Definite: エントリー基準を満たし、臨床所見と免疫所見の陽性項目の点数の合計が10点以上の場合
※SLEよりもそれらしい解釈があれば、その項目の点数は計上しない。
同じ項目内で複数の小項目が陽性の場合は最も高い点数のみを加算する。
臨床所見は経過中に1項目以上の陽性化が必要である。
各項目は同時期に出現する必要はなく、経過中に1回出現すれば当該項目を加算する。
 
 
<重症度分類>
SLEDAIスコア:4点以上を対象とする。
下記の点数の合計を計算する。

重みづけ

項目

定義

痙攣

最近発症。代謝性、感染性、薬剤性は除外。

精神症状

現実認識の重度の障害による正常な機能の変化。幻覚、思考散乱、連合弛緩、貧困な思想内容、著明な非論理的思考、奇異な、混乱した、緊張病性の行動を含む。尿毒症、薬剤性は除外。

器質性脳障害

以下のA~Dの全てを満たす意識混濁がある。(A)見当識・記憶・他の知的機能の低下を伴う、(B)急性発症の変動する臨床症状を有する、(C)周囲の環境に対する注意維持力の低下、(D)以下の1~4の少なくとも2つを認める。1. 知覚障害、2. 支離滅裂な発言、3. 不眠症あるいは日中の眠気、4. 精神運動活動の増加あるいは減少。[除外]代謝性、感染性、薬剤性。

視力低下

SLEによる網膜の変化。軟性白斑、網膜出血、脈絡膜における漿液性の浸出あるいは出血、視神経炎を含む。高血圧性、感染性、薬剤性は除外。

脳神経障害

脳神経領域における感覚あるいは運動神経障害の新出。

ループス頭痛

高度の持続性頭痛:片頭痛様だが、麻薬性鎮痛薬に反応しない。

脳血管障害

脳血管障害の新出。動脈硬化性は除外。

血管炎

潰瘍、壊疽、手指の圧痛を伴う結節、爪周囲の梗塞、線状出血、生検又は血管造影による血管炎の証明。

関節炎

2関節以上の関節痛あるいは炎症所見(例:圧痛、腫脹、関節液貯留)。

筋炎

CK・アルドラーゼの上昇を伴う近位筋の疼痛/筋力低下、あるいは筋電図変化、筋生検における筋炎所見。

尿円柱

顆粒円柱あるいは赤血球円柱。

血尿

>5赤血球/HPF。結石、感染性、その他の原因は除外。

蛋白尿

>0.5g/24時間。新規発症あるいは最近の0.5g/24時間以上の増加。

膿尿

>5白血球/HPF。感染性は除外。

新たな皮疹

炎症性皮疹の新規発症あるいは再発。

脱毛

限局性あるいはびまん性の異常な脱毛の新規発症あるいは再発。

粘膜潰瘍

口腔あるいは鼻腔潰瘍の新規発症あるいは再発。

胸膜炎

胸膜摩擦音あるいは胸水、胸膜肥厚による胸部痛。

心膜炎

少なくとも以下の1つ以上を伴う心膜の疼痛:心膜摩擦音、心嚢水、あるいは心電図・心エコーでの証明。

低補体血症

CH50、C3、C4の正常下限以下の低下。

抗DNA抗体上昇

Farr assayで>25%の結合、あるいは正常上限以上。

発熱

>38℃、感染性は除外。

血小板減少

<100,000 血小板/mm3

白血球減少

<3,000 白血球/mm3、薬剤性は除外。

 
 
※診断基準及び重症度分類の適応における留意事項
1.病名診断に用いる臨床症状、検査所見等に関して、診断基準上に特段の規定がない場合には、いずれの時期のものを用いても差し支えない(ただし、当該疾病の経過を示す臨床症状等であって、確認可能なものに限る。)。
2.治療開始後における重症度分類については、適切な医学的管理の下で治療が行われている状態であって、直近6か月間で最も悪い状態を医師が判断することとする。
3.なお、症状の程度が上記の重症度分類等で一定以上に該当しない者であるが、高額な医療を継続することが必要なものについては、医療費助成の対象とする。
 

令和6年4月1日

情報提供者
研究班名 自己免疫疾患に関する調査研究班
研究班名簿 
情報更新日 令和6年4月(名簿更新:令和5年6月)