神経系疾患分野|Perry(ペリー)症候群(平成23年度)

ぺりーしょうこうぐん
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1. 概要

Perry(ペリー)症候群はパーキンソニズム、うつ、体重減少、低換気をきたし、予後不良の稀な遺伝性疾患である。これまでの報告では家族内で世代間発症があり、遺伝形式としては常染色体優性遺伝形式が考えられ、浸透率は高いと考えられている。2009年にDCTN1(ダイナクチン1)が原因遺伝子として報告されたが、報告症例は世界でもまだ数えるくらいしかない。日本においても、患者の実態、地域特異性、有病率等疫学的知見には乏しいが、複数家系が存在することが分かってきている。
Perry症候群は低換気を呈するとともにTDP-43の蓄積を示し、DCTN1変異はTDP-43プロテイノパチーとしての筋萎縮性側索硬化症(ALS)を引き起こすことも知られている。したがって本疾患は、稀で特殊と考えられている疾患から、広くパーキンソン病やALSなどの主要な神経変性疾患の根本的な病態解明の橋渡しとなる可能性をもつ極めて重要な位置づけにある疾患である。

2. 疫学

2009年にDCTN1が原因遺伝子として報告された後、遺伝子診断により確定されたのは本邦では4家系、世界で10家系となり、患者の報告が少しずつ増えてきている。本疾患の疫学的分布や頻度は明らかでないが、本邦では西日本に複数の家系を認めており、常染色体優性遺伝性パーキンソニズムの1%以下と考えられている。今後大規模な疫学調査の結果が待たれる。

3. 原因

原因はDCTN1遺伝子変異によることが報告されており、遺伝子解析が本疾患の診断の重要な部分を占める。DCTN1遺伝子変異がどのように発症に関わっているかの詳細なメカニズムは今のところよくわかっていない。他の遺伝子の関与、他の要因の関与については不明である。

4. 症状

これまで報告された症例からは、パーキンソニズム(振戦、無動、筋強剛、姿勢反射障害)、うつ、体重減少、低換気をきたすと報告されている。30~40歳代に運動障害やうつで初発し、急激な体重減少を伴い、運動障害の進行とともに夜間の無呼吸、呼吸不全を併発することが多く、全経過は5~10年くらいのことが多い。認知症は伴いにくく、呼吸補助、人工呼吸器管理で生命予後の改善が期待できる。パーキンソニズムに対しL-ドーパの効果により長期に渡り運動障害の改善が得られる症例もあり、突然の呼吸不全に対する治療の観点からもパーキンソン病との鑑別が大きな問題となる。呼吸障害の観点からはALSと類似している部分があるが、運動ニューロン徴候(深部腱反射亢進、病的反射、筋萎縮など)は明らかでない。頭部CT、MRIは基本的には正常で、MIBG心筋シンチで取り込みの低下を認める症例も多い。筋電図は正常のことが多く、ポリソムノグラフィーで中枢性無呼吸/低換気を認めることがある。

5. 合併症

精神症状(自殺企図、病的賭博、無為など)、転倒骨折、誤嚥、肺炎、尿路感染、褥創、呼吸不全など。

6. 治療法

パーキンソニズムに対しL-ドーパの効果が長期に渡ってあることがあり、抗パーキンソン病薬が適応になる。一方、病的賭博や妄想など精神症状の合併にも十分留意する必要があり、ドパミンアゴニストなど抗パーキンソン病薬をどのように使用していくのがよいかについては、今後治療を行いつつ検討していく必要がある。精神科的治療が必要になることもあり、特にうつがある場合は、自殺企図の予防のため抗うつ剤等も良い適応になる。呼吸補助、人工呼吸器管理で生命予後の改善が期待できるが、人工呼吸の装着適応は確定診断、告知の問題も含め本人の意志決定が不可欠であり慎重に検討されるべきである。根本治療は確立されていないが、分子標的は明らかになってきており、病態の解明から治療開発に向けての研究は確実な第一歩を踏み出すことができていると言える。

7. 研究班

Perry(ペリー)症候群の診断および治療方法の更なる推進に関する研究班