メニュー


HOME >> 難治性疾患研究班情報(研究奨励分野) >> 芳香族アミノ酸脱炭酸酵素(AADC)欠損症(平成23年度)

神経系疾患芳香族アミノ酸脱炭酸酵素(AADC)欠損症(平成23年度)

研究班名簿 一覧へ戻る

1. 概要

芳香族アミノ酸脱炭酸酵素(Aromatic L-amino acid decarboxylase ;AADC)はL-ドーパをドパミンに、5−ヒドロキシトリプトファンをセロトニンに脱炭酸化する酵素であり、神経伝達物質であるドパミン、ノルエピネフリン、セロトニンの合成に必須の酵素である。その欠損症の典型例は、乳児期早期からの発達遅滞および間歇的な眼球回転発作など眼球運動異常と四肢ジストニアで発症し、髄液中のHVAおよび5HIAAの低値など特徴的な所見で診断される。ドパミンアゴニストなどを用いた内服治療が試みられているが予後は不良で多くは寝たきりで発語の無い状態にとどまる。

2. 疫学

2009年度に施行した本研究班による全国調査では患者として明らかになったのは3人であった。

3. 原因

7p12.1-p12.3に存在するAADC遺伝子異常に起因する遺伝性疾患で常染色体劣性の遺伝形式を取る。AADC活性の欠損は①髄液検査、②血漿中酵素活性にて証明される。髄液検査では、AADCの基質(L-DOPAおよび5HTP)とその代謝産物である3-o-methyldopaの髄液中濃度が上昇し、生成物のモノアミンとセロトニンの代謝産物であるhomovanillic acid(HVA),5-hydroxyindolacetic acid(5HIAA)は著減している。血漿中ドーパ脱炭酸活性は低下し多くは測定感度以下となる。遺伝子変異は30数例の報告があり多くはミスセンス変異であるが、台湾においては単一のフレームシフト変異の集積(IVS6+4A>T)が報告されている。現在のところミスセンス変異の集積傾向は無い。L-DOPA反応性の軽症例で報告された基質結合部位でのアミノ酸置換をおこすG102S変異や軽症例のS250Fなど特徴的な変異も見つかってきている。画像検査では、ドパミン合成障害を反映して18F-dopa PET検査で線条体への取り込みが消失する。しかし頭部MRI検査では異常は認めず、TRODAT-1 SPECT検査では線条体への結合が確認できるなど、脳の構造とくに線状体のドパミン神経終末の構造は保たれていると考えられている。

4. 症状

典型例では6ヶ月以内に、間歇的な眼球回転発作(oculogyric crisis) と四肢のジストニアで発症し精神運動発達は遅滞する。その他に頻度の高い症状としては、随意運動の障害、易刺激性、Ocular convergence spasm、口腔顔面ジストニア、ミオクローヌスなどがある。診察上は筋緊張は低下し、深部腱反射は亢進するがバビンスキー反射は陰性である。多くは寝たきりで発語のない状態にとどまるが、一方で筋緊張低下と眼瞼下垂を主症状とし独歩と会話が可能であった軽症例の報告もあり症状の幅は広い。脳性麻痺との鑑別が困難な場合もあり、正しく診断を受けていない症例も多いと考えられる。この点については診断基準作成など本研究の課題である。病態としては、AADC欠損症例のFDG-PET検査でドパミン神経の投射が多い線条体と前頭前野での糖代謝低下の所見が報告されていることから、線条体の機能不全はAADC欠損症の主な運動症状であるジストニアと随意運動の障害の原因となり、前頭前野の機能不全が精神遅滞症状をひきおこす原因の一つとなっていると考えることができる。

5. 合併症

突発的な発汗、鼻閉、息止め、便秘や下痢、眼瞼下垂などの自律神経症状はほぼ全例で合併する。また低血糖による意識障害や痙攣が起こることがある。これらの症状は末梢のカテコラミン不足を反映したものである。睡眠障害の合併も多く、睡眠ホルモンであるメラトニンはセロトニンから合成されるためにメラトニンの合成が障害されているためと推測される。てんかんの合併頻度は高くないが脳波異常も伴う症例もあり、その場合はジストニアの診断が遅れることもある。また重症例においては症状の進行とともに嚥下困難や呼吸障害が出現し、最重症例では乳幼児期に肺炎で死亡する場合がある。またおよそ半数に、哺乳障害、低体温、低血糖などの新生児期の異常の既往を認めることも特徴の一つである。

6. 治療法

ドパミンアゴニスト、モノアミン酸化酵素阻害剤、補酵素であるビタミンB6などを用いた内服治療が行われているが、典型例に対してはわずかな効果しか期待できない。そのために現在は遺伝子治療に期待がかけられている。AADC欠損症では脳の構造がたもたれていること、さらにAADC遺伝子の導入はパーキンソン病の治療として研究されている手法が流用できることが有利な点である。適切な薬剤治療やリハビリテーションの知見を蓄積しながら、遺伝子治療の実現にむけた研究を進めて行くことが必要である。

7. 研究班

小児神経伝達物質病の診断基準の作成と新しい治療法の開発に関する研究班