神経系疾患|アレキサンダー病(平成23年度)

あれきさんだーびょう
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1. 概要

病理学的にグリア線維性酸性蛋白(GFAP)、αB-クリスタリン、熱ショック蛋白などから構成されるローゼンタル線維を星状膠細胞に認めることを特徴とする希な遺伝性神経変性疾患である。臨床的には従来は発症年齢により乳児型、若年型、成人型に分類していたが、本研究班では臨床症状、MRI画像所見より大脳優位型(1型)、延髄・脊髄優位型(2型)、中間型(3型)に分類する新分類を提唱している。アレキサンダー病の約90%ではGFAP遺伝子のミスセンス変異あるいは1塩基欠失が認められ、近年では遺伝子検査が確定診断法として主流である。1型ではR79、R88、R239がGFAP遺伝子変異の約75%を占めているが、2型では特に頻度の高い変異は認めない。病態については研究が進みつつあるが十分解明されておらず、治療は対症療法にとどまる。

2. 疫学

2009年に「アレキサンダー病の診断基準の作成、全国調査、病態解明・治療法開発のための研究」班で実施した全国有病者数調査の結果から、本邦での有病者数は約50名と推定される。男女差は1型では男児優位の傾向があるが2型、3型では性差は認めない。臨床病型別頻度は2型が約半数と最も多く、1型が約1/3、3型が約1/5である。GFAP遺伝子変異が約90%の症例で認められる。遺伝形式については2型は常染色体優性遺伝形式で家族内発症が約65%にみられる。1型は一卵性双胎例の報告が若干あるが、すべてが新生突然変異と思われる。

3. 原因

GFAP遺伝子変異による機能獲得が原因と考えられている。病態としてはGFAP凝集体がアストロサイトの機能障害(細胞内タンパク質分解系の異常、グルタミン酸受容体トランスポーターの機能障害など)やグルタミン酸-アストロサイトの相互作用を障害するといった研究報告がある。遺伝子変異と臨床型との関連については1型では約75%がR79,R88,R239の変異であるが、2型では明らかなhot spotは認めない。

4. 症状

①1型:主に乳幼児期発症で、神経学的所見としてけいれん、大頭症、精神運動発達遅滞、頭部MRI所見として前頭部優位の広範な大脳白質異常を認めることを特徴とする。機能予後不良の重症例が多い。また、新生児期発症で水頭症や頭蓋内圧亢進症状がみられる症例もある。
②2型:学童期あるいは成人期以降の発症で、神経学的所見として筋力低下、痙性麻痺、球症状、MRI所見として延髄・頚髄の信号異常あるいは萎縮を特徴とする。1型に比べると進行は緩徐である場合が多い。家族内発症が多く、無症候の症例も存在する。
②3型:1型および2型の両者の特徴を有する型。発症時期は幼児期から青年期まで幅広い。また、1型の長期生存例において2型の特徴がのちに現れることがあるが、これも本型に含める。

5. 合併症

特に本疾患で高頻度にみられる合併症の報告はない。

6. 治療法

根治的治療はない。対症療法としててんかんに対して抗てんかん薬、痙性麻痺に対して抗痙縮薬が用いられる。その他、TRH投与により臨床症状の改善が認められたという報告がある。また、海外では1例のみの検討であるが2型に対してセフトリアキソンが失調症状や構音障害に有効であったとする報告がある。

7. 研究班

「アレキサンダー病の診断基準および治療・ケア指針の作成、病態解明・治療法開発のための研究」班