循環器系疾患分野|ロイス・ディーツ症候群(平成22年度)

ろいす・でぃーつしょうこうぐん
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1. 概要

ロイス・ディーツ症候群(LDS)はTGFBR遺伝子変異による遺伝性 結合織疾患として新規に提唱された疾患で、大動脈病変を主に、心血管系、骨格系、皮膚他にも特徴的な症状を伴う全身性の遺伝性結合織疾患である。臨床像 は、マルファン症候群やShprintzen-Goldberg症候群に類似の骨格系病変を主とする症例から遺伝性大動脈瘤のみを呈する症例まで幅広い が、大動脈瘤・解離・動脈蛇行などの血管病変はほとんどの症例で認める。現時点では、確定診断には遺伝子解析が必須である。類縁の結合織疾患とは所見の共 通点が多い一方、疾患認知度も低いため、実際にはLDSとは異なる臨床診断がなされている症例が多いと予測され、症例報告数は全世界的に見てもまだ少な い。したがって、効果的な内科的・外科的治療法の選択基準も不明である。疾患管理や治療面では、LDSは他の類縁疾患に比べて若年で大動脈瘤や動脈解離を 発症する傾向があるといわれているため、若年期から慎重な心血管系管理が大切で、マルファン症候群などの他の類縁結合織疾患とは異なる対応が必要である。

2. 疫学

新規疾患であるため、疾患認知度も低く、マルファン症候群などの類縁の結合織疾患として診断されている症例も多い。したがって、患者数、発症率は不明。潜在的には1000-2000人程度(類縁のマルファン症候群との比較より推計)と予測される。

3. 原因

TGFβ受容体(1型あるいは2型)遺伝子の変異(機能異常)が病因である。発症機序は不明。TGFβシグナル伝達異常(機能亢進)による血管平滑筋機能維持およびリモデリングの障害という説もある。

4. 症状

主症状は、血管系症状(脳・胸・腹部動脈の動脈瘤・解離・血管蛇行)と 骨格系所見(漏斗胸または鳩胸、側彎、弛緩性関節、クモ状指趾、先天性内反足)である。血管病変は大動脈に限定せず、脳動脈を含む中小動脈にも認めること が多い。特徴的顔貌(眼間解離、二分口蓋垂・口蓋裂、頭蓋骨早期癒合症)や、特徴的皮膚所見(ビロード状で透過性の皮膚、アザができやすい、広範で萎縮性 の瘢痕)も高頻度で認める。その他、先天性心奇形、斜視、頸椎不安定症などを認めることがある。大動脈基部拡張、大動脈瘤・解離、側彎、脊髄硬膜拡張、ク モ状指などから、マルファン症候群との鑑別が問題になる症例も少なくないが、水晶体亜脱臼は通常みられず、高身長を認めない例が多い。マルファン症候群の 診断基準(ゲント基準)を満たす症例もあるため、LDSに特徴的な所見の確認と遺伝子検査による鑑別が重要である。

5. 合併症

大動脈解離による急性循環不全。大動脈弁閉鎖不全等による心不全。女性では、妊娠~産褥期の急性大動脈解離や子宮破裂。大動脈解離については、他の類縁疾患に比べ、より若年発症で、大動脈基部拡張がより軽度であっても解離を生ずる傾向が指摘されている。

6. 治療法

大動脈瘤、慢性大動脈解離に関しては内科的に降圧剤による血圧コント ロールが行われるが、大動脈弁閉鎖不全(逆流)、解離の予防、急性大動脈解離に対しては、弁置換術、大動脈置換術などの外科的治療が選択される。口蓋裂、 斜視、頭蓋骨早期癒合に対しては、外科的修復。頸椎不安定症、側彎症、内反足に対しては固定術あるいは整形外科的修復。

7. 研究班

ロイス・ディーツ症候群の診断・治療のガイドライン作成および新規治療法の開発に向けた臨床所見の収集と治療成績の検討に関する研究班