血液・凝固系疾患分野|一過性骨髄異常増殖症(平成22年度)

いっかせいこつずいいじょうぞうしょくしょう
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1. 概要

一過性骨髄異常増殖症(TAM)は主としてダウン症候群でみられる新生 児期に白血病様芽球が末梢血中に増加する疾患である。これまで、TAMは無治療経過観察のみで芽球は自然に消失し、比較的予後良好であると考えられてい た。しかし、小児の血液専門医がいない新生児施設で診断されることが多く、その実態は不明であった。近年臓器障害のために早期死亡する症例が20~30% にみられることが報告されており、必ずしも予後良好の疾患ではないことが明らかになってきた。

2. 疫学

ダウン症候群は1000人に1人の割合で出生し、その約10%(年間約100人)がTAMを発症するといわれているが、正確な数の把握はなされていない。

3. 原因

造血転写因子GATA1の遺伝子変異が起こっていることが明らかされ、 この結果、 TAMの細胞では転写活性化ドメインを欠く約40kDの変異GATA1タンパクのみが発現している。しかし、GATA1変異によるTAM発症のメカニズム はまだ解明されていない。TAM発症にはGATA1変異のほかに、21番染色体の片親性ダイソミー(uniparental disomy)の関与が考えられ、さらにエピジェネティックな転写制御機構などによりGATA1変異と協調して働く21番染色体上の遺伝子がTAMの発症 に重要な役割を果たしている可能性が示唆されている。

4. 症状

TAMの症状には、肝脾腫、白血球増多、血小板減少などがあり、肝脾腫 による著明な腹部膨満がみられることや著明な出血傾向がみられることがある。重症の場合は肝機能異常、閉塞性黄疸、播種性血管内凝固症候群、全身性浮腫を 呈することが多く、高サイトカイン血症による症状と考えられる。また、ダウン症候群では高頻度に先天性心疾患を合併するため、そのような患者ではTAMを きっかけにチアノーゼを呈し心不全に至ることもある。

5. 合併症

肝線維症、肝不全、播種性血管内凝固症候群などを合併する場合は炎症性 サイトカインが高値を示し、サイトカインストームの症状を呈する。特に重症例では高サイトカイン血症の制御が重要になる。肝不全、腎不全、心不全等で死亡 することもある。約20%の患者が1~3年後に急性巨核芽球性白血病を発症する。

6. 治療法

重篤な例は20~30%にみられ、その場合は支持療法とともに早期治療 介入が必要である。交換輸血、強心剤、ステロイド投与により一時的に芽球の数が減少し、症状が緩和されることもあるが、無効であることが多い。白血球数が 10万以上、全身性浮腫、肝機能障害が増悪傾向である場合は抗がん剤の投与を考慮する。少量キロサイド1mg/㎏を5日~7日投与することにより肝不全が 軽快、治癒する例も報告されている。無治療経過観察のみで自然治癒する例も多いが、患者ごとの治療の要否の判断は必ずしも容易でない。

7. 研究班

ダウン症候群の一過性骨髄異常増殖症の調査研究班