多発性内分泌腫瘍症(平成21年度)

たはつせいないぶんぴつしゅようしょう
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1. 概要

複数の内分泌臓器に異時性に良性、悪性の腫瘍が多発する疾患で、MEN1では副甲状腺機能亢進症、下垂体腺腫、膵消化管内分泌腫瘍 が三大病変であり、他に副腎や皮膚、胸腺などにも腫瘍が発生する。MEN2は甲状腺髄様癌、副腎褐色細胞腫、副甲状腺機能亢進症が三大病変で、MEN2B とよばれる亜型では眼瞼や口唇、舌に粘膜神経腫を合併する。

2. 疫学

1型(MEN1)、2型(MEN2)各3,000人程度と推測される。

3. 原因の解明

MEN1の大部分は腫瘍抑制遺伝子MEN1の、MEN2は癌原遺伝子RETの変異に起因することが明らかにされている。ただし遺伝子変異によって特定の臓器に腫瘍が形成される機序についてはいまだ不明な点が多い。

4. 主な症状

MEN1では、副甲状腺機能亢進症に伴う消化性潰瘍、尿路結石、易骨折性の他、下垂体腫瘍や膵消化管腫瘍では過剰に分泌されるホル モンによる臨床症状(先端巨大症、クッシング病、無月経、消化性潰瘍、低血糖など)や、腫瘍による圧迫症状(頭痛,視野狭窄など)を認める。MEN2では 褐色細胞腫による発作性の高血圧や副甲状腺機能亢進症による症状を呈するが、甲状腺髄様癌は頸部腫瘤として発見されるまで無症状であることが多い。また MEN2Bでは顔面の粘膜神経腫により特徴的な顔貌を呈する。

5. 主な合併症

MEN1における胸腺腫瘍は悪性度が高く有効な治療法が存在しないため、早期に骨や肝臓に転移し、病的骨折や疼痛を招き、直接死因 となる。また手術に伴い各臓器の機能不全を生じることも多く、特に膵腫瘍に対する治療では部分切除であっても術後の糖尿病罹患リスクが高い。MEN2にお いても甲状腺髄様癌は早期に治療を行わないと、骨、肺、肝臓などに早期に転移をきたす。褐色細胞腫も適切な診断と治療がなされないと、発作性高血圧や不整 脈を引き起こし、突然死の原因となる。

6. 主な治療法

現在のところ本症における腫瘍の発生や増殖を阻止する方法は存在せず、治療の原則は定期検査により病変を早期に発見し、外科的治療 を行うことにある。罹患臓器が多岐にわたるため、患者は通常複数回の手術が必要となる。MEN2では患者の子どもに対して遺伝学的検査を施行し、変異を有 する場合には発症前の予防的甲状腺全摘術を行なうことが推奨されている。

7. 研究班

わが国における多発性内分泌腫瘍症診療実態把握とエビデンスに基づく診療指針の作成班