β-ケトチオラーゼ欠損症(指定難病322)

べーたけとちおらーぜけっそんしょう
 

(概要、臨床調査個人票の一覧は、こちらにあります。)

○概要
 
1.概要
ミトコンドリアアセトアセチル-CoAチオラーゼ(T2)の欠損症で、反復性の重篤なケトアシドーシスを来す疾患である。常染色体劣性遺伝形式をとる。イソロイシンの中間代謝のステップとケトン体の肝臓外組織での利用ステップが障害される。
 
2.原因
ACAT1遺伝子の変異によりT2活性の低下が原因である。
 
3.症状
生後数か月から2歳頃に飢餓、発熱、感染などのストレス時に、著しいケトアシドーシスで発症することが多い。重篤な場合は急性脳症で発症し、後遺症として発達障害を来したり、ケトアシドーシス発作中に死亡することもある。
なお、症状が出る前(発症前)に、新生児マススクリーニングで発見されることがある。本疾患は、タンデムマスによる新生児マススクリーニングの2次対象疾患である。
 
4.治療法
根本的な治療法はない。対症的な治療としては、空腹時間を長くせず、発熱や嘔吐などケトン体産生ストレス時には早期のブドウ糖輸液で、発作を未然に防ぐことが重要である。カルニチンの補充、イソロイシン制限のための蛋白制限食も行われる。成人期以降は、カルニチン補充療法を継続することが望ましいが、食事制限は不要と一般に考えられている。本疾患は症例数が限られており、個別対応が必要である。
 
5.予後
発作の後遺症として発達の遅れを来して成人となることも多い。発作時に基底核病変が生じ、寝たきりとなる例も海外では報告されている。成人ではケトアシドーシスの発作の頻度は少なくなるが、同様の有機酸代謝異常症では1回の重篤なケトアシドーシス発作で成人期でも死亡することがある。偏頭痛様症状を訴える症例も報告されている。
 
○要件の判定に必要な事項
1.  患者数
100人未満
2.  発病の機構
不明(ACAT1遺伝子異常が原因であるが、発病の機構、病態が未解明である部分が多い。)
3.  効果的な治療方法
未確立(対症療法があっても根本治療法が確立していない。)
4.  長期の療養
必要(臨床的に安定していても酵素欠損は存在し、潜在的なリスクがあり、定期受診、検査が必要である。また成人期合併症について不明な点が多い。)
5.  診断基準
あり(研究班が作成し、学会が承認した診断基準)
6.  重症度分類
日本先天代謝異常学会による先天性代謝異常症の重症度評価を用いて中等症以上を対象とする。
 
○情報提供元
日本小児科学会、日本先天代謝異常学会
当該疾病担当者岐阜大学大学院医学系研究科教授深尾敏幸
 
厚生労働科学研究費補助金子ども家庭総合研究事業「タンデムマス等の新技術を導入した新生児マススクリーニング体制の研究」
研究代表者島根大学小児科教授山口清次
 
厚生労働省難治性疾患政策事業「新しい先天代謝異常症スクリーニング時代に適応した治療ガイドラインの作成および生涯にわたる診療体制の確立に向けた調査研究」
研究代表者熊本大学大学院教授遠藤文夫
 
日本医療研究開発機構難治性疾患実用化研究事業「新生児タンデムマススクリーニング対象疾患の診療ガイドライン改定、診療の質を高めるための研究」
研究代表者岐阜大学大学院医学系研究科教授深尾敏幸
 
 
<診断基準>
Definiteを対象とする。
 
A.主要症状および臨床所見
ケトアシドーシス発作(飢餓や感染を契機に嘔吐、多呼吸、意識障害を来す。)
 
B.参考となる一般検査・画像所見
1.代謝性アシドーシス
本症では急性期のケトアシドーシスが強い。したがって、アニオンギャップ開大性の代謝性アシドーシスとなる。典型例ではpH<7.2、HCO3<10mmol/Lを示す。
2.強いケトーシス
総ケトン体>7mM
遊離脂肪酸<<総ケトン体遊離脂肪酸/総ケトン体比は0.3を切ることが多い。
3.高アンモニア血症
軽度の高アンモニア血症(200~400µg/dL程度)を呈することがある。
4.低血糖
基準値<45mg/dL
本症では高血糖から低血糖まで様々であるが、著しい低血糖はまれである。
 
C.診断の根拠となる特殊検査
1.血中アシルカルニチン分析(タンデムマス法)
C5:1かつC5-OHの上昇が特徴的である。しかし本検査は有機酸代謝異常症においては確定診断ではなく、スクリーニング検査である。
2.尿中有機酸分析
典型例ではチグリルグリシン、2-メチル-3-ヒドロキシ酪酸、2-メチルアセト酢酸の排泄増加がみられる。2-メチルアセト酢酸は不安定で検出されないこともある。
3.酵素活性測定
リンパ球や皮膚線維芽細胞、臓器を用いて酵素活性測定で、ミトコンドリアアセトアセチル-CoAチオラーゼ(T2)の著しい低下(正常の20%以下)が認められれば確定診断となる。
 
D.鑑別診断
1.サクシニル-CoA:3-ケト酸CoAトランスフェラーゼ欠損症
2.2-メチル-3-ヒドロキシブチリル-CoAデヒドロゲナーゼ(2M3HBD, HSD10)欠損症
 
E.遺伝学的検査
ACAT1遺伝子の2アレルに病因となる変異が同定される。
 
 
<診断のカテゴリー>
Definite:
(1)A+Cの2、A+Cの3、A+Eのいずれかを満たすもの
(2)新生児マススクリーニング症例においてはCの1+Cの2、Cの1+Cの3、Cの1+Eのいずれかを満たすもの
Probable:
(1)A+Cの1を満たすもの
(2)新生児マススクリーニング症例においてはAを認めなくてもCの1を満たせばよい。
 
 
<重症度分類>
先天性代謝異常症の重症度評価(日本先天代謝異常学会)を用いて中等症以上を対象とする。
 

   

点数

I

薬物などの治療状況(以下の中からいずれか1つを選択する)

a

治療を要しない

b

対症療法のために何らかの薬物を用いた治療を継続している

c

疾患特異的な薬物治療が中断できない

d

急性発作時に呼吸管理、血液浄化を必要とする

II

食事栄養治療の状況(以下の中からいずれか1つを選択する)

a

食事制限など特に必要がない

b

軽度の食事制限あるいは一時的な食事制限が必要である

c

特殊ミルクを継続して使用するなどの中程度の食事療法が必要である

d

特殊ミルクを継続して使用するなどの疾患特異的な負荷の強い(厳格な)食事療法の継続が必要である

e

経管栄養が必要である

III

酵素欠損などの代謝障害に直接関連した検査(画像を含む)の所見(以下の中からいずれか1つを選択する)

a

特に異常を認めない

b

軽度の異常値が継続している(目安として正常範囲から1.5SDの逸脱)

c

中等度以上の異常値が継続している(目安として1.5SDから2.0SDの逸脱)

d

高度の異常値が持続している(目安として2.0SD以上の逸脱)

IV

現在の精神運動発達遅滞、神経症状、筋力低下についての評価(以下の中からいずれか1つを選択する)

a

異常を認めない

b

軽度の障害を認める(目安として、IQ70未満や補助具などを用いた自立歩行が可能な程度の障害)

c

中程度の障害を認める(目安として、IQ50未満や自立歩行が不可能な程度の障害)

d

高度の障害を認める(目安として、IQ35未満やほぼ寝たきりの状態)

V

現在の臓器障害に関する評価(以下の中からいずれか1つを選択する)

a

肝臓、腎臓、心臓などに機能障害がない

b

肝臓、腎臓、心臓などに軽度機能障害がある
(目安として、それぞれの臓器異常による検査異常を認めるもの)

c

肝臓、腎臓、心臓などに中等度機能障害がある
 (目安として、それぞれの臓器異常による症状を認めるもの)

d

肝臓、腎臓、心臓などに重度機能障害がある、あるいは移植医療が必要である
(目安として、それぞれの臓器の機能不全を認めるもの)

VI

生活の自立・介助などの状況(以下の中からいずれか1つを選択する)

a

自立した生活が可能

b

何らかの介助が必要

c

日常生活の多くで介助が必要

d

生命維持医療が必要

総合評価

 

ⅠからⅥまでの各評価及び総点数をもとに最終評価を決定する。

 

(1)4点の項目が1つでもある場合

重症

 

(2)2点以上の項目があり、かつ加点した総点数が6点以上の場合

重症

 

(3)加点した総点数が3~6点の場合

中等症

 

(4)加点した総点数が0~2点の場合

軽症

注意

診断と治療についてはガイドラインを参考とすること

 

疾患特異的な薬物治療はガイドラインに準拠したものとする

 

疾患特異的な食事栄養治療はガイドラインに準拠したものとする

 

 
 
※診断基準及び重症度分類の適応における留意事項
1.病名診断に用いる臨床症状、検査所見等に関して、診断基準上に特段の規定がない場合には、いずれの時期のものを用いても差し支えない(ただし、当該疾病の経過を示す臨床症状等であって、確認可能なものに限る。)。
2.治療開始後における重症度分類については、適切な医学的管理の下で治療が行われている状態であって、直近6か月間で最も悪い状態を医師が判断することとする。
3.なお、症状の程度が上記の重症度分類等で一定以上に該当しない者であるが、高額な医療を継続することが必要なものについては、医療費助成の対象とする。

平成29年4月1日

情報提供者
研究班名 新生児スクリーニング対象疾患等の先天代謝異常症の成人期にいたる診療体制構築と提供に関する研究班
研究班名簿 研究班ホームページ
情報更新日 令和3年9月(名簿更新:令和5年6月)