非ケトーシス型高グリシン血症(指定難病321)

ひけとーしすがたこうぐりしんけっしょう

(概要、臨床調査個人票の一覧は、こちらにあります。)

○概要
 
1.概要
アミノ酸の一つであるグリシンを分解する酵素である、グリシン開裂酵素系の活性が先天的に欠損しているために体内にグリシンが蓄積する、先天性アミノ酸代謝異常症の一つである。生後数日で意識障害、呼吸困難、など脳症様の症状で発症することが多い。中枢神経系の障害による症状が大部分を占め、肝臓や腎臓などの他の臓器障害は基本的に認めない。新生児期の急性期の症状は重篤であり、大部分の症例で人工呼吸器による呼吸管理が必要になる。急性期を脱した後は中枢神経の障害を残すことが多く、生涯にわたる療養が必要になる。発症に男女差はなく、我が国における発症頻度は50~100万出生に1人と推定される。
 
2.原因
中枢神経系、肝臓、腎臓のミトコンドリアに分布する、グリシン開裂酵素と呼ばれる複合酵素系がその構成酵素をコードする遺伝子の変異によりその活性を失うために発症する。グリシン開裂酵素はグリシン異化の主経路であるため、その欠損により血漿や髄液などの体液中に大量のグリシンが蓄積する。グリシン開裂酵素系は、4つの構成酵素(P-、T-、H-、L-蛋白質)からなる複合酵素である。P-、T-、H-、L-蛋白質は、それぞれGLDCAMTGCSHDLD遺伝子にコードされている(ただし、DLD遺伝子がコードしているL蛋白質は、ピルビン酸脱水素酵素複合体などの構成蛋白であるE3と共通で、この蛋白の異常は、高乳酸血症などを呈するリー(Leigh)脳症となりNKHにはならない。)。大部分の症例で、GLDC遺伝子またはAMT遺伝子の遺伝子変異を認める。グリシンは中枢神経系で神経伝達物質として働くため、中枢神経系でグリシンが蓄積することで神経障害を来すと推定されているが、その発症機序はいまだ明らかでない。
 
3.症状
新生児型と乳児型の2病型がある。
①新生児型
症例の80%を占め、典型と考えられる。出生後数時間から数日以内に哺乳力低下、昏睡、吃逆、筋緊張低下、呼吸障害、などの症状で気づかれ、NICUに入室することが多い。意識障害を伴う呼吸障害は重篤で、人工呼吸器による呼吸管理を要する症例が多い。NICUにおける血液や髄液のアミノ酸分析で本症と診断される。新生児の急性期を乗り切った大部分の症例は自発呼吸にもどるが、精神運動発達遅滞や痙攣は改善せず、重症心身障害を残す。
②乳児型
新生児期は無症状に過ごし、生後2~12か月で筋緊張低下、発達の遅れ、痙攣、などの症状が出現してくる非典型例を乳児型と呼んでいる。新生児型に比べ生命予後は良い。幼児~学童期には、衝動的行動、注意欠陥・多動性障害様行動、自閉症様行動、など行動面での異常を示す。軽度から中等度の知的障害を示す。大分部の症例はてんかんを持つが、欠く症例も存在する。
 
4.治療法
有効な治療法は未だ確立していない。急性期の対症療法として、安息香酸ナトリウム、NMDA型グルタミン酸受容体アンタゴニスト、抗痙攣薬、などが使われている。
①安息香酸ナトリウム:安息香酸と結合したグリシンは馬尿酸となって尿中に排泄されるため、体内に蓄積したグリシンを除去する目的で投与される。グリシンは脳脊髄関門を通過できないため、血中グリシン濃度が低下しても、髄液グリシン濃度の低下は軽度である中枢神経症状の改善に一定の効果を示すことが多い。
②NMDA型グルタミン酸受容体アンタゴニスト:高濃度のグリシンは、中枢神経系に存在するNMDA型グルタミン酸受容体を過興奮させると推定されている。その過興奮を抑制する目的で、同受容体のアンタゴニストである、デキストロメトルファンやケタミンが投与されている。哺乳力や脳波所見の改善の報告があるが、長期予後の改善効果は不明。
③抗痙攣薬:本症に伴う痙攣は、一般に抗痙攣薬治療に抵抗性である。フェノバール、ジアゼパム、クロバザム、ゾニサミド、などが用いられている。バルプロ酸ナトリウムは、その副作用として高グリシン血症が報告されているため使用されない。
 
新生児期を乗り切った新生児型症例や、乳児型では、抗痙攣薬による痙攣のコントロールと適切な療育の提供が治療目標となる。乳児型の学童期では、行動異常に対する薬物治療も行われている。
成人期においては、痙攣のコントロールや行動異常に対する薬物療法が行われる。
 
5.予後
新生児期を乗り切った新生児型症例の多くは、重症心身障害を伴う。乳児型症例では、成人期に至っても、知的障害や行動異常が生涯に渡り認められる。また、安息香酸ナトリウムおよび抗痙攣薬の服用が成人期にも必要となることが多い。
 
 
○要件の判定に必要な事項
1.  患者数
100人未満
2.  発病の機構
不明(GLDCAMTGCSH遺伝子変異が関与するが、発病の機構、病態が未解明である部分が多い)
3.  効果的な治療方法
未確立(根本治療法が確立していない。)
4.  長期の療養
必要(知的障害、運動発達遅滞、てんかん、行動異常が生涯に渡るため)
5.  診断基準
あり(研究班が作成し、学会が承認した診断基準)
6.  重症度分類
日本先天代謝異常学会による先天性代謝異常症の重症度評価を用いて中等症以上を対象とする。
 
 
○情報提供元
日本小児科学会、日本先天代謝異常学会
当該疾病担当者東北大学大学院医学系研究科小児病態学 教授呉繁夫
 
厚生労働省難治性疾患政策事業「新しい先天代謝異常症スクリーニング時代に適応した治療ガイドラインの作成及び生涯にわたる診療体制の確立に向けた調査研究」
研究代表者熊本大学生命科学研究部小児科学分野教授遠藤文夫
 
日本医療研究開発機構難治性疾患実用化研究事業「新生児タンデムマススクリーニング対象疾患の診療ガイドライン改定、診療の質を高めるための研究」
研究代表者岐阜大学大学院教授深尾敏幸
 
 
<診断基準>
発症時期により新生児型と乳児型とに分類し、各診断カテゴリーのDefiniteを対象とする。
 
①新生児型
A.症状
新生児期に次の症状を呈する。
1.筋緊張低下
2.痙攣重積
3.意識障害(多くは呼吸障害を伴う昏睡)
B.検査所見
1.脳波所見が、サプレッション・バーストまたはヒプス・アリスミア
2.尿有機酸分析で異常を認めない。
3.髄液グリシン濃度が18µmol/L以上であり、かつ髄液/血漿グリシン濃度比が0.07以上
C.特殊検査
1.13Cグリシン呼気試験で、異常低値
  2.肝組織を用いたグリシン開裂酵素系の活性が異常低値
D.遺伝学的検査
遺伝子変異検索で、GLDCAMTGCSHいずれかの遺伝子に病因と考えられる変異を認める。
<診断のカテゴリー>
Definite:
(1)Aのいずれか+Bの全てを満たす。
(2)Aのいずれか+Bの2と3+Cのいずれかを満たす。
(3)Aのいずれか+Bの3+Dを満たす。
Probable:Aのいずれか+Bの2と3のみを満たす。
 
②乳児型
A.症状
乳児期以降に次の症状を呈する(新生児期は、原則無症状)。
1.筋緊張低下
2.痙攣
3.精神発達遅滞
4.行動異常(多動、自閉症様症状など)
B.検査所見
1.尿有機酸分析で異常を認めない。
2.髄液グリシン濃度が15µmol/L以上であり、かつ髄液/血漿グリシン濃度比が0.03以上
C.特殊検査
1.13Cグリシン呼気試験で、異常低値
2.肝組織を用いたグリシン開裂酵素系の活性が異常低値
D.遺伝学的検査
遺伝子変異検索で、GLDCAMTGCSHいずれかの遺伝子に病因と考えられる変異を認める。
<診断のカテゴリー>
Definite:
(1)Aのいずれか+Bの全て+Cのいずれかを満たす。
(2)Aのいずれか+Bの2+Dを満たす。
Probable:Aのいずれか+Bの1と2を満たす。
 
 
<重症度分類>
先天性代謝異常症の重症度評価(日本先天代謝異常学会)を用いて中等症以上を対象とする。
 

 

 

 

点数

I

 

薬物などの治療状況(以下の中からいずれか1つを選択する)

 

 

a

治療を要しない

 

b

対症療法のために何らかの薬物を用いた治療を継続している

 

c

疾患特異的な薬物治療が中断できない

 

d

急性発作時に呼吸管理、血液浄化を必要とする

 

 

 

 

II

 

食事栄養治療の状況(以下の中からいずれか1つを選択する)

 

 

a

食事制限など特に必要がない

 

b

軽度の食事制限あるいは一時的な食事制限が必要である

 

c

特殊ミルクを継続して使用するなどの中程度の食事療法が必要である

 

d

特殊ミルクを継続して使用するなどの疾患特異的な負荷の強い(厳格な)食事療法の継続が必要である

 

e

経管栄養が必要である

 

 

 

 

III
 

 

酵素欠損などの代謝障害に直接関連した検査(画像を含む)の所見(以下の中からいずれか1つを選択する)

 

 

a

特に異常を認めない

 

b

軽度の異常値が継続している(目安として正常範囲から1.5SDの逸脱)

 

c

中等度以上の異常値が継続している(目安として1.5SDから2.0SDの逸脱)

 

d

高度の異常値が持続している(目安として2.0SD以上の逸脱)

 

 

 

 

IV

 

現在の精神運動発達遅滞、神経症状、筋力低下についての評価(以下の中からいずれか1つを選択する)

 

 

a

異常を認めない

 

b

軽度の障害を認める(目安として、IQ70未満や補助具などを用いた自立歩行が可能な程度の障害)

 

c

中程度の障害を認める(目安として、IQ50未満や自立歩行が不可能な程度の障害)

 

d

高度の障害を認める(目安として、IQ35未満やほぼ寝たきりの状態)

 

 

 

 

V

 

現在の臓器障害に関する評価(以下の中からいずれか1つを選択する)

 

 

a

肝臓、腎臓、心臓などに機能障害がない

 

b

肝臓、腎臓、心臓などに軽度機能障害がある
(目安として、それぞれの臓器異常による検査異常を認めるもの)

 

c

肝臓、腎臓、心臓などに中等度機能障害がある
 (目安として、それぞれの臓器異常による症状を認めるもの)

 

d

肝臓、腎臓、心臓などに重度機能障害がある、あるいは移植医療が必要である
(目安として、それぞれの臓器の機能不全を認めるもの)

 

 

 

 

VI

 

生活の自立・介助などの状況(以下の中からいずれか1つを選択する)

 

 

a

自立した生活が可能

 

b

何らかの介助が必要

 

c

日常生活の多くで介助が必要

 

d

生命維持医療が必要

 

 

 

 

 

 

総合評価

 

 

 

IからVIまでの各評価及び総合点をもとに最終評価を決定する。

 

 

 

(1)4点の項目が1つでもある場合

重症

 

 

(2)2点以上の項目があり、かつ加点した総点数が6点以上の場合

重症

 

 

(3)加点した総点数が3~6点の場合

中等症

 

 

(4)加点した総点数が0~2点の場合

軽症

 

 

 

 

 

 

注意

 

 

診断と治療についてはガイドラインを参考とすること

 

 

疾患特異的な薬物治療はガイドラインに準拠したものとする

 

 

疾患特異的な食事栄養治療はガイドラインに準拠したものとする

 

 
 
※診断基準及び重症度分類の適応における留意事項
1.病名診断に用いる臨床症状、検査所見等に関して、診断基準上に特段の規定がない場合には、いずれの時期のものを用いても差し支えない(ただし、当該疾病の経過を示す臨床症状等であって、確認可能なものに限る。)。
2.治療開始後における重症度分類については、適切な医学的管理の下で治療が行われている状態であって、直近6か月間で最も悪い状態を医師が判断することとする。
3.なお、症状の程度が上記の重症度分類等で一定以上に該当しない者であるが、高額な医療を継続することが必要なものについては、医療費助成の対象とする。
 


情報提供者
研究班名先天代謝異常症の生涯にわたる診療支援を目指したガイドラインの作成・改訂および診療体制の整備に向けた調査研究班
研究班名簿 研究班ホームページ
情報更新日令和元年6月