左肺動脈右肺動脈起始症(指定難病314)

ひだりはいどうみゃくみぎはいどうみゃくきししょう
 

(概要、臨床調査個人票の一覧は、こちらにあります。)

1.左肺動脈右肺動脈起始症とは

正常の肺動脈は、右心室から主肺動脈がでて、気管支の前で左右に分かれます。本症では左肺動脈が右肺動脈から起始し、左肺動脈が右気管支と気管分岐部の右側を迂回し、気管の後ろ、および食道の前を通り左肺に向かいます(図1)。

図1:左肺動脈右肺動脈起始症。左肺動脈が気管の右側から分岐し、気管を取り巻くために、気管が圧迫されている。

この異常な走行により右気管支と気管下部が圧迫されます。気管圧迫の程度は、胎児期からの圧迫で気管が高度に低形成になる重症なものから、比較的軽度なものまで様々です。気管が低形成だと、出生直後から 重篤 な呼吸器症状を引き起こします。その場合、早期の外科治療が必要となることがあります。重篤な気管・気管支 狭窄 合併の 予後 は良くありません。成人期に治療が必要となる比較的軽症な例でも、治療後に呼吸障害が残存することが多く、生涯にわたる経過観察が必要な病気です。
外科治療は、左肺動脈を右肺動脈からの起始部で切断し、気管・気管支の前面に移動させて、主肺動脈に 吻合 する手術(左肺動脈再建術)を行います。左肺動脈再建術後も呼吸器症状が改善しない場合には気管・気管支の再建術やステントを留置して気管狭窄部位の拡大術を行う場合もあります。気管が重度の低形成だと、既述した気管手術を同時に施行することがあります。
また、他の心疾患の合併も多く、動脈管開存、心房中隔欠損、心室中隔欠損、ファロー四徴症、両大血管右室起始などが見られます。

2.この病気の患者さんはどのくらいいるのですか

まれな疾患で、発生頻度は不明ですが、先天性心疾患の0.14%程度という報告があります。

3.この病気はどのような人に多いですか

現時点で、「このような場合に左肺動脈右肺動脈起始症の赤ちゃんが生まれることが多い」と断定できる環境、要因は見つかっていません。

4.この病気の原因はわかっているのですか

この病気は先天性の心疾患であり、現時点で「このような場合に左肺動脈右肺動脈起始症の赤ちゃんが生まれることが多い」と断定できる環境、要因は見つかっておらず、多くは原因不明です。胎児期早期に肺動脈は正常に形成されるものの、左肺動脈近位部が閉じてしまい、左肺動脈末梢と右肺動脈間に 側副血行路 を生じ、本症が形成されるという説があります。

5.この病気は遺伝するのですか

この病気では明らかに強い遺伝性は認められていません。一般的に先天性心疾患の親から子へ何らかの先天性心疾患が遺伝する確率は、父親で3-5%程度、母親で5-10%程度とされています。

6.この病気ではどのような症状がでますか

1) 気管・気管支の圧迫による症状
吸気性喘鳴や呼吸困難などの呼吸器症状は、気管・気管支狭窄の程度によります。気管・気管支狭窄が重篤であれば、出生直後から窒息、呼吸促迫、 チアノーゼ などの症状が出現し、意識消失や突然死をきたすこともありますが、狭窄が軽度の場合はほとんど無症状のこともあります呼吸困難は、風邪などの気道感染や体位の変換等により発作性に出現することもあります。
2)  食道圧迫に伴う症状
食道圧迫による 嚥下障害 などの消化器症状も見られますが、比較的軽いです。

7.この病気にはどのような治療法がありますか

圧迫による症状がある場合は、早期の外科治療が必要です。左肺動脈を右肺動脈からの起始部で切断し、気管・気管支の前面に移動させて、主肺動脈に吻合する手術(左肺動脈再建術)を行います。左肺動脈再建術後も呼吸器症状が改善しない場合には気管・気管支の再建術やステントを留置して狭窄部位の拡大術を行う場合もあります。

8.この病気はどのような経過をたどるのですか

外科治療により気管・気管支圧迫症状が消失するような場合の予後は良好です。ただ、外科治療後も気管・気管支狭窄症状が持続することがあります。普段は調子が良くても風邪をひいたときなどに呼吸困難が強くなることがあります。呼吸器症状が極めて重篤な場合には呼吸器感染などの合併により死に至る場合もあります。

9.この病気は日常生活でどのような注意が必要ですか

手術後の症状や手術後の状態によって異なります。呼吸器症状が残存している場合には、激しい競技スポーツは制限されることがあります。風邪の予防に留意することが必要なこともあります。

10. 次の病名はこの病気の別名又はこの病気に含まれる、あるいは深く関連する病名です。 ただし、これらの病気(病名)であっても医療費助成の対象とならないこともありますので、主治医に相談してください。

肺動脈スリング
血管輪

11. この病気に関する資料・関連リンク

① 小児・成育循環器学. 日本小児循環器学会編集. 診断と治療社, 2018.
② 先天性心疾患並びに小児期心疾患の診断検査と薬物療法ガイドライン(2018年改訂版)
https://www.j-circ.or.jp/cms/wp-content/uploads/2020/02/JCS2018_Yasukochi.pdf
③ 成人先天性心疾患診療ガイドライン(2017年改訂版)
https://www.j-circ.or.jp/cms/wp-content/uploads/2020/02/JCS2017_ichida_h.pdf
④ 先天性心疾患術後遠隔期の管理・侵襲的治療に関するガイドライン(2022年改訂版)
https://www.j-circ.or.jp/cms/wp-content/uploads/2022/03/JCS2022_Ohuchi_Kawada.pdf

情報提供者
研究班名 先天性心疾患を主体とする小児期発症の心血管難治性疾患の救命率の向上と生涯にわたるQOL改善のための総合的研究班
研究班名簿 
情報更新日 令和5年11月(名簿更新:令和5年6月)