筋萎縮性側索硬化症(ALS)(指定難病2)
1. 筋萎縮性側索硬化症とは
筋萎縮性側索硬化症(ALS)とは、手足・のど・舌の筋肉や呼吸に必要な筋肉がだんだんやせて力がなくなっていく病気です。しかし、筋肉そのものの病気ではなく、筋肉を動かし、かつ運動をつかさどる神経(運動ニューロン)が主に障害をうけます。その結果、脳から「手足を動かせ」という命令が伝わらなくなることにより、力が弱くなり、筋肉がやせていきます。その一方で、体の感覚、視力や聴力、内臓機能などはすべて保たれることが普通です。
2. この病気の患者さんはどのくらいいるのですか
1年間で新たにこの病気にかかる人は人口10万人当たり平均2.2人です。全国では、令和5年度の特定医療費(指定難病)受給者証所持者数によると9,727人がこの病気にかかっています。
3. この病気はどのような人に多いのですか
性別では男性が女性に比べて1.3~1.5倍であり、男性にやや多く認めます。この病気は中年以降いずれの年齢の人でもかかることがありますが、最もかかりやすい年齢は60~70代です。まれにもっと若い世代での発症もあります。
4. この病気の原因はわかっているのですか
原因はまだ十分解明されていませんが、神経の老化との関連や興奮性アミノ酸の代謝異常、酸化ストレス、タンパク質の分解障害、あるいはミトコンドリアの機能異常といったさまざまな学説があります。次の項目にあります通り、 家族性 ALSでは40近くの原因遺伝子が見つかっています。日本人の家族性ALSでは、SOD1という遺伝子に原因があることがもっとも多く(約3割)、そのほかFUS,TARDBP,VCP,OPTNといった遺伝子と関連する場合があります。一方、欧米の家族性ALSではC9ORF72という遺伝子に原因がある例が多く、人種や国による違いが指摘されています。
5. この病気は遺伝するのですか
多くの場合(約95%)は遺伝しません。両親のいずれかあるいはその兄弟・姉妹、祖父母など血のつながった親族に同じ病気のひとがいなければまず遺伝の心配をする必要がありません。その一方で、ALS全体の約5%は家族内で発症することが分かっており、家族性ALSと呼ばれています。この場合は両親のいずれかあるいはその兄弟・姉妹、祖父母などに同じ病気のひとがいることがほとんどです。そのうちの約3割は上で触れたSOD1遺伝子に原因が見つかります。
6. この病気ではどのような症状がおきますか
多くの場合、手指の使いにくさや、肘から先の筋肉がやせて力が弱くなることで始まります。話しにくい、食べ物がのみ込みにくいという症状や、足の筋肉がやせて力が弱くなる、足先が上がりにくい(下垂足)、足が突っ張って歩きにくいといった症状で始まることもあります。通常左右いずれかから症状が出現しますが、両側の肩周りの筋肉がやせて力が入らない症状から始まることもあります。また、体の様々な部位で筋のぴくつき(線維束性収縮)や筋けいれんが起こります。どこから症状が始まった場合でも、やがては呼吸の筋肉を含めて全身の筋肉がやせて力がはいらなくなり、身体を動かすことが難しくなります。のどの筋肉に力が入らなくなると発音しにくくなり(構音障害)、水や食べ物の飲み込みも難しくなります(嚥下障害)。また、唾液・よだれや痰(たん)が増えることがあります。呼吸筋が弱まると日常の動作でも息切れをおぼえ、呼吸も十分にできなくなります。一方、進行しても通常は視力や聴力、体の感覚などは問題なく、目やまぶたを動かす筋肉や排尿・排便に必要な筋肉の症状は発症早期には出にくいことが知られています。もの忘れは目立ちませんが、言語(ことば)や行動の症状を中心とした認知症状がみられる場合があります。
7. この病気にはどのような治療法がありますか
1.ALSの進行を遅らせる作用のある薬:リルゾール、エダラボン、メコバラミンが使われています。SOD1遺伝子変異のある患者さんではトフェルセンも使われています。また、病気がみつかったときに体重が減っている患者さんでは、体重を維持するための高カロリー栄養療法が大切であることが分かっています。
2.対症療法(さまざまな症状をやわらげる方法)
1)ALSにともなって起こる筋肉や関節の痛みに対してはリハビリテーションを早期からはじめることがとても大切です。リハビリを行う方法や施設については、主治医、地域の保健師、介護保険のケアマネージャー、あるいは各都道府県にある難病医療連絡協議会の専門員(難病の医療提供体制)と相談してください。
なお、HAL医療用下肢タイプが医療機器承認され歩行運動処置(ロボットスーツによるもの)として保険適用となっています。
2)体の自由が利かないことや、病気に対する不安等から起こる不眠には睡眠薬や安定剤を使いますが、お薬によっては呼吸のはたらきに影響することがありますので、不明な場合は専門医と相談してください。
呼吸苦や痛みなどの苦痛の緩和には早期であってもオピオイドの導入を検討することがあります。
3)呼吸困難に対しては、マスクを用いる非侵襲的な呼吸の補助(NIVといいます。装置の設定方法であるBiPAP [バイパップ] という表現する場合もあります)と、気管切開をして人工呼吸器を用いる方法(TIVといいます)があります。一般的には気管切開が必要な時期になると定期的に痰(たん)の吸引が必要になりますので、そのやり方など医療従事者との相談が必要です。
人工呼吸器を使用する場合であっても基本的には在宅での生活になります。在宅での療養の際は、介護事業所からの訪問看護師やヘルパー、訪問診療など様々な公的介護・医療支援がうけられます。ケアマネジャーや都道府県の難病相談支援センター、地域の難病拠点病院に相談して下さい。また、人工呼吸器や吸引器には電源が欠かせませんので、地震や台風などの災害時におこる停電に備えて予めの準備も必要です。
4)飲み込みにくさがある場合には、後に述べるように食物の形態を工夫(原則として柔らかく水気の多いもの、味の淡泊なもの、冷たいものが 嚥下 しやすい)する、少量ずつ口に入れて嚥下する、顎を引いて嚥下するなど摂食・嚥下の仕方に注意することが有用です。口からの食事で栄養が十分でない場合、鼻から食道を経て胃に入れた管やお腹の皮膚から胃に通した管(胃ろう;PEGともいいます)を通じた栄養補給(経管栄養)や、点滴による栄養補給を行います。現在は胃ろうで栄養補給する方法が一般的です。呼吸機能が悪くなってからの胃ろうの造設はより危険が伴いますので、早めに主治医と相談することをお勧めします。ALSでは体重が減ると病状が悪化することが知られており、胃ろうは体重維持のために有効と考えられています。また胃ろうを造設した場合でも、嚥下機能が保たれている場合は、食事を口からとることは可能です。
5)話しにくい、手の力が入らないなどの症状が進行すると家族や他の人とのコミュニケーションが大変になります。早めに新たなコミュニケーション手段の習得を行うことが大切です。文字盤とよばれるコミュニケーションボードを使用するには最初に練習が必要です(日本ALS協会新潟県支部のホームページに文字盤入門がありますhttp://www.jalsa-niigata.com/)。体や目の動きが一部でも残存していれば、適切なコンピューター・マルチメディア(意思伝達装置)および入力スイッチの選択により、コミュニケーションが可能です。主治医、地域の保健師、介護保険のケアマネージャー、あるいは各都道府県にある難病医療連絡協議会の専門員(難病の医療提供体制)等と相談してください。
8. この病気はどういう経過をたどるのですか
この病気は進行性で、症状はだんだん進んでいきます。症状が体のどの部分の筋肉から始まっても、やがてはほかの部分の筋肉も侵され、呼吸の筋肉(呼吸筋)も働かなくなり、大多数の方は自力で呼吸をすることが困難となります。人工呼吸器を使わない場合、病気になってから死亡までの期間はおおよそ2~5年です。なかには人工呼吸器を使わずに10年以上にわたってゆっくり進行する例もある一方、1年ほどの速い経過で呼吸不全となる例もあります。とくに、高齢での発症、話しにくい・飲み込みにくい症状や呼吸筋からの発症、早い時期に体重が大きく減ったり首の筋力が弱ったりする患者さんでは、進行が速いことがわかっています。このように、ALSは発症のしかたや経過には大きな個人差があることから、個々の患者さんに応じた柔軟な対応が必要です。
9. 今後の治療法の開発に必要なこと
わが国ではALS患者さんの自然経過(自然歴)をきちんと調査したデータが少なく、今後限られた患者数の中で有効な臨床研究あるいは臨床試験を計画・実行していく上で重要な課題となっています。この問題の解決を目的の一つとして、JaCALSとよばれる全国調査が行われています(中央事務局:愛知医科大学、https://www.jacals.jp/)。JaCALSでは、ALS研究で今まで世界的にもあまり行われてこなかった、さまざまな臨床情報と遺伝子と細胞を併せた大規模な調査研究を行っています。この研究により新しい知見が生まれつつあり、これらは病態の解明、将来の新規治療法につながる可能性があります。2025年8月現在でALS患者さんの登録症例は2625名となり、2000名を超えています。また家族性ALS患者さんの自然歴を調査し今後実施が期待される臨床試験に対応するために、J-FASTと呼ばれる全国調査も行われています(中央事務局:東北大学、http://www.neurol.med.tohoku.ac.jp/)。JaCALSおよびJ-FASTは厚生労働省神経変性班(研究代表者:戸田達史)と連携しています。理念にご賛同いただけるALS患者さんはぜひご協力ください。
筋萎縮性側索硬化症(ALS)の食事・栄養について
私たちは毎日炭水化物、脂肪、タンパク質、ビタミンなどの栄養素と水分を十分にとる必要があります。ALSにかかると、通常量の栄養を摂取しても体重が減り続けることが知られていました。その後の研究によって、体重減少の程度が大きいとALSの進行も速いことが明らかとなり、さらに体重を維持するために十分な栄養をとることは有効な治療の一つであると考えられています。ALS患者さんの場合、次のようなことがもとでこれらの栄養や水分が不足しがちになります。第一は、飲み込む働きそのものが悪くなること(嚥下障害)です。そうなりますと食事に時間がかかって疲れてしまい、食べ物が気管に入って(誤嚥)むせて苦しむようになります。そのために食事の楽しみは失われ、逆に患者さんは食事をいやがるようになり、その結果、十分な量の食べ物や水分がとれなくなります。第二に、手や腕の力が弱く疲れやすくなってしまい、十分な量の食べ物や水分を口に運べなくなります。三番目には、手足の力が弱くなってトイレに介助が必要になりますと、トイレの回数を減らそうとして飲水量を意識的に減らしがちになります。
ここでは、栄養不足・水分不足の最大の原因である嚥下障害の対策について述べます。その目標は十分なカロリー、栄養、水分をとることと誤嚥を防ぐことです。そのためには、少量で必要な栄養がまかなえるように高カロリー、高蛋白の食べ物をとることが大切です。同時にビタミンやミネラルもとるようにします。
誤嚥を防ぐには食事の仕方を工夫する方法と、食べ物の形態を工夫する方法とがあります。
(1)食事の仕方
食事時にはできるだけ体を起こし、食事を終えた後も1時間位その姿勢でいると、食べたものが気管に入りにくくなります。座れない人はあおむけで上体を30~40度起こし、頭の下に枕をして頭が少し持ち上がるようにすると良いでしょう。一度に口に入れる食べ物や汁物は少なくし、固形物と汁物を交互にとるのが大切です。あごを引いて飲み込むとむせが少なくなります。飲み込むときには「さあー、飲み込むぞ」と飲み込むことに意識を集中することが大事です。テレビを観たり、話をしながら飲み込みますと、むせやすくなります。食事回数を増やして1回の食事量を減らすのも良い方法です。特に呼吸困難のある場合は、食べ物で胃が張りますと呼吸が苦しくなりますので、食事回数を増やすことで息苦しさが軽くなります。
(2)食べ物の形態
最も良いのは柔らかくて水気があり、かつ、つぶつぶしたものが入っていない滑らかな食べ物です。肉や果物はピューレにして柔らかくします。パンはミルクその他の適当な飲み物に浸してから食べるようにします。缶詰は柔らかくて水分が多いため良い食品です。さらさらした液よりもとろみのある液の方が飲み込みやすいので、すり潰したじゃがいもを加えるなどして汁物にはとろみを持たせるのが良い方法です。また、増粘剤(とろみをつける食材)が薬局等で手に入ります。液体は熱いと飲みにくいので、冷やすことをお勧めします。
10. 次の病名はこの病気の別名又はこの病気に含まれる、あるいは深く関連する病名です。 ただし、これらの病気(病名)であっても医療費助成の対象とならないこともありますので、主治医に相談してください。
ALS
11. この病気に関する資料・関連リンク
筋萎縮性側索硬化症(ALS)診療ガイドライン2023
https://www.neurology-jp.org/guidelinem/als_2023.html
筋萎縮性側索硬化症(ALS)診療ガイドライン2023追補版2025
https://www.neurology-jp.org/guidelinem/als_tuiho2025.html
https://minds.jcqhc.or.jp/summary/c00821/
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