筋萎縮性側索硬化症(ALS)(指定難病2)

きんいしゅくせいそくさくこうかしょう
 

(概要、臨床調査個人票の一覧は、こちらにあります。)

1. 筋萎縮性側索硬化症とは

筋萎縮性側索硬化症(ALS)とは、手足・のど・舌の筋肉や呼吸に必要な筋肉がだんだんやせて力がなくなっていく病気です。しかし、筋肉そのものの病気ではなく、筋肉を動かし、かつ運動をつかさどる神経(運動ニューロン)だけが障害をうけます。その結果、脳から「手足を動かせ」という命令が伝わらなくなることにより、力が弱くなり、筋肉がやせていきます。その一方で、体の感覚、視力や聴力、内臓機能などはすべて保たれることが普通です。

2. この病気の患者さんはどのくらいいるのですか

1年間で新たにこの病気にかかる人は人口10万人当たり約1~2.5人です。全国では、平成26年度の特定疾患医療受給者数によると約9,950人がこの病気をわずらっていて、徐々に増えています。

3. この病気はどのような人に多いのですか

性別では男性が女性に比べて1.2~1.3倍であり、男性にやや多く認めます。この病気は中年以降いずれの年齢の人でもかかることがありますが、最もかかりやすい年齢は60~70代です。まれにもっと若い世代での発症もあります。特定の職業の人に多いということはありません。

4. この病気の原因はわかっているのですか

原因はまだ十分解明されていませんが、神経の老化との関連や興奮性アミノ酸の代謝異常、酸化ストレス、タンパク質の分解障害、あるいはミトコンドリアの機能異常といったさまざまな学説があります。次の項目にあります通り、 家族性 ALSでは20を超える原因遺伝子の変化が見つかっています。日本人の家族性ALSでは、スーパーオキシド・ジスムターゼ(SOD1)という遺伝子に原因があることがもっとも多く(約2割)、そのほかFUSTARDBPVCPOPTNといった遺伝子と関連する場合があります。一方、欧米の家族性ALSではC9ORF72という遺伝子に原因がある例が多く、人種や国による違いが指摘されています。

5. この病気は遺伝するのですか

多くの場合(約95%)は遺伝しません。両親のいずれか、叔父や叔母、祖父母など血のつながった親族に同じ病気のひとがいなければまず遺伝の心配をする必要がありません。その一方で、ALS全体の約5%は家族内で発症することが分かっており、家族性ALSと呼ばれています。この場合は両親のいずれかあるいはその兄弟、祖父母などに同じ病気のひとがいることがほとんどです。そのうちの約2割は上で触れたスーパーオキシド・ジスムターゼ(SOD1)の遺伝子に原因が見つかります。

6. この病気ではどのような症状がおきますか

多くの場合、手指の使いにくさや肘から先の筋肉がやせ、力が弱くなることで始まります。話 しにくい、食べ物がのみ込みにくいという症状や、足の筋肉がやせて力が弱くなる症状で始まることもあります。どこから症状が始まった場合でも、やがては呼吸の筋肉を含めて全身の筋肉がやせて力がはいらなくなり、身体を動かすことが難しくなります。のどの筋肉に力が入らなくなると発音しにくくなり(構音障害)、水や食べ物の飲み込みも難しくなります( 嚥下障害 )。また、唾液(よだれ)や痰(たん)が増えることがあります。呼吸筋が弱まると呼吸も十分にできなくなります。進行しても通常は視力や聴力、体の感覚などは問題なく、目やまぶたを動かす筋肉や排尿・排便に必要な筋肉には症状が出にくいことが知られています。一方で、もの忘れは目立ちませんが、言語(ことば)や行動の症状を中心とした認知症状がみられる場合があります。

7. この病気にはどのような治療法がありますか


1.ALSの進行を遅らせる作用のある飲み薬:リルゾール(商品名 リルテック)、あるいは点滴注射薬:エダラボン(商品名 ラジカット)が使われています。また、病気がみつかったときに体重が減っている患者さんでは、体重を維持するための栄養療法が大切であることが分かっています。

2.対症療法(さまざまな症状をやわらげる方法)
1)ALSにともなって起こる筋肉や関節の痛みに対しては毎日のリハビリテーションがとても大切です。リハビリを行う方法については、主治医の先生や地域の保健師さん、介護保険のケアマネージャーさんあるいは各都道府県にある難病医療連絡協議会の専門員(難病医療連絡協議会・難病診療連携拠点病院等)と相談してください。
なお、HAL医療用下肢タイプが、本疾患における治験結果(https://doi.org/10.1186/s13023-021-01928-9)に基づき、2015年医療機器承認され、2016年から歩行運動処置(ロボットスーツによるもの)として保険適用されています。
2)体の自由が利かないことや、病気に対する不安等から起こる不眠には睡眠薬や安定剤を使います。
3)呼吸困難に対しては、鼻マスクによる非侵襲的な呼吸の補助と気管切開による侵襲的な呼吸の補助があります。一般的には気管切開が必要な時期になると定期的に痰(たん)の吸引が必要になりますので、そのやり方など医療従者との相談が必要です。
人工呼吸器を使用する場合であっても基本的には在宅での生活になります。人工呼吸器や吸引器には電気が欠かせませんので、地震や台風などの災害時におこる停電に備えて予めの準備も必要です。
4)のみ込みにくさがある場合には、後に述べるような食物の形態を工夫(原則として柔らかく水気の多いもの、味の淡泊なもの、冷たいものが 嚥下 しやすい)する、少量ずつ口に入れて嚥下する、顎を引いて嚥下するなど摂食・嚥下の仕方に注意することが有用です。飲み込みにくさがさらに進行した場合には、お腹の皮膚から胃に管を通したり(胃ろう)、鼻から食道を経て胃に管をいれて流動食を補給したり、点滴による栄養補給などの方法があります。現在は「胃ろう」(PEGとも云います http://www.bostonscientific.com/jp-JP/health-conditions/peg/peg-01.html)で栄養補給する方法が一般的です。呼吸機能が悪くなってからの「胃ろう」の造設はより危険が伴いますので、早めに主治医の先生と相談をお願いします。
5)話しにくい、手の力が入らないなどの症状が進行すると家族や他の人とのコミュニケーションが大変になります。早めに新たなコミュニケーション手段の習得を行うことが大切です。文字盤とよばれるコミュニケーションボードを使用するには最初に練習が必要です(日本 ALS協会新潟県支部のホームページに文字盤入門がありますhttp://www.jalsa-niigata.com/)。 体や目の動きが一部でも残存していれば、適切なコンピューター・マルチメディア(意思伝達装置)および入力スイッチの選択により、コミュニケーションが可能です。主治医の先生や地域の保健師さん、介護保険のケアマネージャーさんあるいは各都道府県にある難病医療連絡協議会の専門員(難病医療連絡協議会・難病医療拠点病院)等と相談してください。

8. この病気はどういう経過をたどるのですか

この病気は常に進行性で、一度この病気にかかりますと症状が軽くなるということはありません。 体のどの部分の筋肉から始まってもやがては全身の筋肉が侵され、最後は呼吸の筋肉(呼吸筋)も働かなくなって大多数の方は呼吸不全におちいります。人工呼吸器を使わない場合、病気になってから死亡までの期間はおおよそ2~5年です。なかには人工呼吸器を使わずにゆっくり10数年にわたって進行する経過をたどる例もある一方、1年ほどの速い経過で呼吸不全となる例もあります。とくに高齢での発症、話しにくい・のみ込みにくい症状や呼吸の筋肉からの発症、そして早い時期に体重が大きく減ったり首の筋力が弱ったりする患者さんでは、進行が速いことがわかっています。このように、ALSは発症のしかたや経過には大きな個人差があることから、個々の患者さんに柔軟に応じた対応が必要です。

9. 今後の治療法の開発に必要なこと

わが国ではALS患者さんの自然経過(自然歴)をきちんと調査したデータが少なく、今後限られた患者 数の中で有効な臨床研究あるいは治験をデザインしていく上でとても重要な課題となっています。この問題の解決を目的の一つとしたALS患者さんの JaCALSとよばれる全国調査が厚生労働省「 神経変性 疾患に関する調査研究」班(研究者代表者 東京都立神経病院長 中野今治先生)で開始されました( http://www.jacals.jp  中央事務局は名古屋大学神経内科になります)。現在、JaCALSでは、ALS研究で今まで世界的にもあまり行われてこなかった、さまざまな臨床情報と遺伝子を併せた大規模な調査研究を行っています。この研究により、新しい知見が生まれつつあり、これらは病態の解明、将来の新規治療法につながる可能性があります。2015年1月現在でALS患者さんの登録症例は 1041名となり、1000名を超えました。ALSと診断され告知されているすべての患者さんが対象となっており、JaCALSの理念にご賛同いただけるALS患者さんはぜひご協力ください。

筋萎縮性側索硬化症(ALS)の食事・栄養について

私たちは毎日炭水化物、脂肪、タンパク質、ビタミンなどの栄養素と水分を十分にとる必要があります。ALS患者さんの場合、次のようなことがもとでこれらの栄養や水分が不足しがちになります。第1には、のみ込む働きそのものが悪くなること(嚥下障害と言います)です。そうなりますと食事に時間がかかって疲れてしまい、食べ物が気管に入ってむせて苦しむ(誤嚥と言います)ようになります。そのために食事の楽しみは失われ、逆に患者さんは食事をいやがるようになり、その結果、十分な量の食べ物や水分がとれなくなります。第2には、手や腕の力が弱くなるためにすぐ疲れてしまい、十分な量の食べ物や水分を口に運べなくなります。3番目には、手足の力が弱くなってトイレに介助が必要になりますと、トイレの回数を減らそうとして飲水量を意識的に減らしがちになります。

ここでは、栄養不足・水分不足の最大の原因である嚥下障害の対策について述べます。その目標は十分なカロリー、栄養、水分をとることと誤嚥を防ぐことです。栄養をとるためには少量で必要な栄養がまかなえるように高カロリー、高蛋白の食べ物をとることです。同時にビタミンやミネラルもとるように注意します。

誤嚥を防ぐには食事の仕方を工夫する方法と、食べ物の形態を工夫する方法とがあります。

(1)食事の仕方

食事時にはできるだけ体を起こし、食事を終えた後も1時間位その姿勢でいることが望まれます。一度に口に入れる食べ物や汁物は少なくし、固形物と汁物を交互にとるのが大切です。あごを引いて呑み込むとむせが少なくなります。座れない人はあおむけで上体を30~40度起こし、頭の下に枕をして頭が少し持ち上がるようにすると良いでしょう。飲み込むときには「さあー、飲み込むぞ」と飲み込むことに意識を集中することが大事です。テレビを観たり、話をしながら飲み込みますと、むせやすくなります。食事回数を増やして1回の食事量を減らすのも良い方法です。特に呼吸困難のある場合は、食べ物で胃が張りますと呼吸が苦しくなりますので、食事回数を増やすことで息苦しさが軽くなります。

(2)食べ物の形態

最も良いのは柔らかくて水気があり、かつつぶつぶしたものが入っていない滑らかな食べ物です。肉や果物はピューレにして柔らかくします。パンはミルクその他の適当な飲み物に浸してから食べるようにします。缶詰は柔らかくて水分が多いため良い食品です。さらさらした液よりもとろみのある液の方がのみ込みやすいので、すり潰したじゃがいもを加えるなどして汁物にはとろみを持たせるのが良い方法です。また、増粘剤(とろみをつける食材)が薬局等で手に入ります。液体は熱いとのみにくいので、冷やすことを勧めます。

10. 次の病名はこの病気の別名又はこの病気に含まれる、あるいは深く関連する病名です。 ただし、これらの病気(病名)であっても医療費助成の対象とならないこともありますので、主治医に相談してください。

ALS

 

情報提供者
研究班名 神経変性疾患領域の基盤的調査研究班
研究班名簿 研究班ホームページ
情報更新日 令和4年3月