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アトピー性脊髄炎(指定難病116)

あとぴーせいせきずいえん
 

(概要、臨床調査個人票の一覧は、こちらにあります。)

○ 概要
1.概要
アトピー性脊髄炎とは、アトピー性皮膚炎、気管支喘息、アレルギー性鼻炎・結膜炎などのアトピー素因を有する患者で見られる脊髄炎である。四肢の異常感覚(ジンジン感)や疼痛、及び運動麻痺(片麻痺や左右差のある四肢麻痺)を主徴とし、頚髄後索を主病変とすることが多い脊髄炎を呈する。長期間を経ても脊髄炎以外の中枢神経病変(多発性の脳白質病巣など)を呈することは稀である点で、多発性硬化症とは異なる。また3椎体以上の長大脊髄病変を呈することは稀である点で、視神経脊髄炎スペクトラム障害とは異なる。
 
2.原因
本疾患はアトピー疾患・アレルギー疾患を合併し、その増悪時に発症したり再発・増悪したりすることが多いので、病態にはアレルギー機転が関わっていると考えられるが、機序は不明である。患者末梢血ではTh2細胞が優位で、髄液では好酸球を動員させるChemokine (C-C motif) ligand 11 (CCL11, eotaxin)や、Th2からTh9への分化を誘導するIL-9が増加している。Th2細胞のシグナルは形質細胞からのIgE産生を促進し、IgEは肥満細胞からヒスタミンなどを遊離させ、血管透過性の亢進を起こす。CCL11やIL-9の作用により、好酸球やTh9細胞などが脊髄に浸潤して炎症を惹起すると推測されている。また、本疾患では脊髄小型痛覚ニューロンに対する自己抗体である抗plexin D1抗体が陽性になることがあり、このような例ではこれらの痛覚ニューロンが活性化されることで、本疾患の強い神経障害性疼痛をきたすと考えられている。
 
3.症状
アトピー性脊髄炎は、基礎となるアトピー性疾患の増悪後に発症する傾向がある。発症様式は、突発発症が約10%、急性から亜急性の発症が約60%、慢性発症が約30%である。再発を繰り返したり動揺性に経過したりする例が約60%、階段状増悪や慢性増悪を示す例が約20%で、単相性は約20%である。初発症状は四肢の異常感覚や疼痛、運動麻痺(片麻痺、単麻痺、四肢麻痺)が多い。経過中に、異常感覚は90%、感覚鈍麻が80%、神経障害性疼痛が約70%でみられる。運動麻痺や錐体路徴候も約70%でみられる。膀胱直腸障害が30%、慢性疲労感が25%程度でみられる。ピーク時の総合障害度は、平均4.4(中央値3.5)と比較的重症例が多い(ピーク時の総合障害度4.5以上の重症例が45%)。
検査所見では、運動誘発電位検査異常が約60%、体性感覚誘発電位検査異常が約1/3でみられる。電流知覚閾値検査で約半数で疼痛を伝えるc線維の異常がみられるのが特徴である。また脊髄MRIでは約半数で病巣を認め、その中では頚髄病巣が約60%と高率である。3椎体以上の長大脊髄病巣がみられない点で、視神経脊髄炎スペクトラム障害とは異なる。一方、脳MRI検査で病巣を認める例は、10%未満である点で多発性硬化症とは異なる。髄液検査では細胞増多(20%)や蛋白増加(10%)などがみられることは少なく、大部分は正常所見である。また、髄液オリゴクローナルバンドは陰性で、IgG indexの上昇がみられない点で、多発性硬化症とは異なる。
 
4.治療法
第3回全国調査(2023年)によれば、メチルプレドニゾロンパルス療法が90%で行われ、85%の有効率であった。経口ステロイド療法も60%で実施され、90%程度の有効率であった。血漿交換が約半数で実施され、95%の高い有効率であった。免疫グロブリン大量静注療法は30%で試みられ、75%の有効率であった。また、各種免疫抑制薬(シクロスポリン、アザチオプリン、タクロリムス、ミコフェノール酸モフェチル等)は、30%で試みられ、80%の有効率だった。各種抗アレルギー薬も約半数で使用され、約80%の有効率であった。神経障害性疼痛にはプレガバリンやミロガバリンが約半数で試みられ、80%の有効率であった。したがって、急性期・または初回の治療にはパルス療法を含むステロイド療法、血漿交換、免疫グロブリン大量静注療法を用い、再発の防止には免疫抑制薬や抗アレルギー薬、神経障害性疼痛にはプレガバリンやミロガバリンを用いることが一般的である。 しかし、治療後も平均約10年の罹病期間で、総合障害度は平均3.5(中央値3.0)と寛解には至らず、後遺症を残したり慢性炎症が持続したり例が少なくない(最終総合障害度4.5以上の重症例が36%)。

○ 要件の判定に必要な事項
1.  患者数(令和元年度医療受給者証保持者数)
100人未満
2.  発病の機構
不明(アレルギー性疾患と同様の機序による可能性があるが詳細は不明。)
3.  効果的な治療方法
未確立(ステロイド治療、免疫グロブリン療法、血漿交換などが試みられている。)
4.  長期の療養
必要(再発を繰り返す症例が多い。)
5.  診断基準
あり(研究班作成の診断基準あり。)
6.  重症度分類
多発性硬化症で広く一般的に用いられるKurtzkeの総合障害度(EDSS)スケールを重症度分類に用いて、4.5以上を対象とする。(Kurtzke Expanded Disability Status Scale(EDSS))
 
○ 情報提供元
「神経免疫疾患のエビデンスに基づく診断基準・重症度分類・ガイドラインの妥当性と患者QOLの検証」班
研究代表者 千葉大学大学院医学研究院 脳神経内科学 教授 桑原 聡
研究分担者 東北医科薬科大学医学部 老年神経内科学 教授 中島一郎
研究協力者 国際医療福祉大学大学院医学研究科 教授 吉良潤一

 
<診断基準>
Definite、Probableを対象とする。
 
A.絶対基準:以下を全て満たす。
(1) 原因不明の脊髄炎(下記の除外すべき疾患が除外されていること。)
(2) 抗原特異的IgE陽性
(3) Barkhofの多発性硬化症の脳MRI基準を満たさない。
(4) 脊髄MRIで3椎体以上の長大病変を認めない。
 
B.病理基準:
脊髄生検組織で、血管周囲リンパ球浸潤や好酸球の浸潤を認め、肉芽腫を伴う事もある。
 
C.相対基準:
(1) 現在又は過去のアトピー性疾患歴
(2) 高IgE血症(>240U/mL)
(3) 髄液中IL9又はCCL11の増加、あるいは抗plexin D1抗体が陽性*
(4) オリゴクローナルバンドなし
 
D.鑑別診断
寄生虫性脊髄炎、多発性硬化症、膠原病・血管炎、HTLV-1関連脊髄症、サルコイドーシス、視神経脊髄炎、神経梅毒、頸椎症性脊髄症、脊髄腫瘍、脊髄血管奇形・動静脈瘻
 
<診断のカテゴリー>
Definite:1:絶対基準+病理基準
     2:絶対基準+相対基準(1~3)のうち2個以上+相対基準(4)
Probable:1:絶対基準+相対基準(1~3)のうち1個+相対基準(4)
     2:絶対基準+相対基準(1~3)のうち2個以上

*抗plexin D1抗体は、小径線維ニューロパチーや有痛性三叉神経ニューロパチーなどの神経障害性疼痛でも陽性になることがある。抗plexin D1抗体が陽性であっても上記基準を満たさない場合は、アトピー性脊髄炎に含めない。

<重症度分類>
Kurtzkeの総合障害度(EDSS)スケールを用いて4.5以上を対象とする。
総合障害度(EDSS)の評価基準
機能別障害度(FS:Functional system)の評価基準
 
※診断基準及び重症度分類の適応における留意事項 1.病名診断に用いる臨床症状、検査所見等に関して、診断基準上に特段の規定がない場合には、いずれの時期のものを用いても差し支えない(ただし、当該疾病の経過を示す臨床症状等であって、確認可能なものに限る。)。
2.治療開始後における重症度分類については、適切な医学的管理の下で治療が行われている状態であって、直近6か月間で最も悪い状態を医師が判断することとする。
3.なお、症状の程度が上記の重症度分類等で一定以上に該当しない者であるが、高額な医療を継続することが必要なものについては、医療費助成の対象とする。
 

令和8年4月1日

  • Kira J, et al.Nationwide survey of atopic myelitis and plexin D1-immunoglobulin G-related pain.Ann Clin Transl Neurol, 2025;0 : 1-14.
    https://doi.org/10.1002/acn3.70232
  • 吉良潤一. アレルギーと中枢神経疾患の接点:アトピー性脊髄炎におけるアレルギーの意義.アレルギー・リウマチ性疾患 2026; 46 (2): 18-24.
  • 吉良潤一. アトピー性脊髄炎・Hopkins症候群.日本臨牀「免疫性神経疾患の病態・診断・治療の最新知見80(増刊号5): 347-353, 2022
  • Fujii T, et al. A novel autoantibody against plexin D1 in patients with neuropathic pain. Ann Neurol 84(2): 208-224, 2018.
  • N. Isobe et al., First diagnostic criteria for atopic myelitis with special reference to discrimination from myelitis-onset multiple sclerosis. J Neurol Sci 316, 30-35 (2012).
  • H. Murai et al., Effect of immunotherapy in myelitis with atopic diathesis. J Neurol Sci 227, 39-47 (2004).
情報提供者
研究班名 神経免疫疾患領域における難病の医療水準と患者のQOL向上に資する研究班
研究班名簿 
情報更新日 令和8年4月(名簿更新:令和7年6月)

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