筋ジストロフィー(指定難病113)

きんじすとろふぃー
 

(概要、臨床調査個人票の一覧は、こちらにあります。)

1. 「筋ジストロフィー」とはどのような病気ですか

筋ジストロフィーとは骨格筋の 壊死 ・再生を主病変とする遺伝性筋疾患の総称です。筋ジストロフィーの中には多数の疾患が含まれますが、いずれも筋肉の機能に不可欠なタンパク質の設計図となる遺伝子に 変異 が生じたためにおきる病気です。遺伝子に変異が生じると、タンパク質の機能が障害されるため、細胞の正常な機能を維持できなくなり、筋肉の 変性 壊死が生じます。その結果筋萎縮や脂肪・ 線維化 が生じ、筋力が低下し運動機能など各機能障害をもたらします。

遺伝子変異から機能障害に至るプロセス

 

筋ジストロフィーの症状は、骨格筋障害による運動機能低下が主なものですが、拘縮・変形、呼吸機能障害、心筋障害、 嚥下 機能障害、消化管症状、骨代謝障害、内分泌代謝障害、眼症状、難聴、中枢神経障害等の様々な機能障害や合併症を伴い、疾患ごとの特徴があります。
筋ジストロフィーには臨床症状の特徴や発症年齢、遺伝形式等に基づいて分類される、下記のような古典的病型分類があります。

臨床病型 遺伝形式 臨床症状(罹患筋部位・その他)
ジストロフィノパチー X染色体連鎖 近位筋優位
肢帯型 常染色体顕性(優性)/潜性(劣性) 近位筋優位、歩行能獲得(1歳以後発症)
先天性 常染色体顕性(優性)/潜性(劣性) 近位筋優位、歩行能獲得困難(1歳未満発症)
顔面肩甲上腕型 常染色体顕性(優性) 肩甲帯・上腕・顔面筋優位
筋強直性 常染色体顕性(優性) 筋強直現象、遠位筋・咀嚼筋・胸鎖乳突筋優位
エメリー・ドレフュス型 X染色体連鎖, 常染色体顕性(優性)/潜性(劣性) 肩甲帯・上腕・下腿優位、心伝導障害、強直性脊椎・拘縮(肘・足首)
眼咽頭型 常染色体顕性(優性) 眼瞼下垂、咽頭筋優位

近年、病気の原因となる遺伝子が多数発見され、責任遺伝子・蛋白に基づいた分類もなされるようになってきました。これにより、同じ遺伝子に変異が起こっても異なる病型を示す場合(表現型多様性といいます)や、異なる遺伝子に生じた変異でも似通った症状を示す場合(遺伝的多様性といいます)が存在することが分かってきました。一方、現在も責任遺伝子が 同定 されていない分類不能な疾患も多く存在します(これらの多くは肢帯型・先天性に分類されます)。治療が病気の発症メカニズムに基づいて開発されることから、責任遺伝子に基づいた分類方法への変更も検討されています。現時点(2023年10月)における、臨床病型、責任遺伝子、病名等については資料「筋ジストロフィー病型・病名一覧表」を参照ください。
※2017年にオランダのNaardenで開かれたENMC workshopにおいて、肢帯型筋ジストロフィーの再定義と新分類が提唱されました。これによると、一部の疾患が肢帯型筋ジストロフィーから除外されたり、新しく追加されたりしていますが、旧分類法で指定難病を取得されている方は、そのまま旧分類法の病名での指定難病継続が可能です(新分類法の病名に切り替えて取得し直すことも可能です)。
「筋ジストロフィー病型・病名一覧表」
「LGMD新旧命名法比較表」

2. この病気の患者さんはどのくらいいるのですか

本邦全体における筋ジストロフィーの患者数について正確な統計はありません。特に運動機能障害が軽度な方は受診率が低いため把握が困難です。地域医療機関で患者数調査が行われている秋田県・長野県・鹿児島県のデータや過去の調査、海外の文献等を参考にすると、筋ジストロフィーの 有病率 は人口10万人当たり17-20人程度(ジストロフィノパチー:4-5人、肢帯型:1.5-2.0人、先天性:0.4-0.8人、顔面肩甲上腕型:2人、筋強直性:9-10人、エメリー・ドレフュス型:0.1人未満、眼咽頭型:0.1人未満)程度と推測されます。

3. この病気はどのような人に多いのですか

一部の疾患は人種や国によって有病率に違いがあります。例えば、福山型先天性筋ジストロフィーは、本邦で先天性筋ジストロフィーの中で最も多い疾患ですが、本邦と韓国・中国以外ではほとんど見られません。逆に筋強直性ジストロフィー2型は本邦ではほとんど見られません。常染色体潜性遺伝(劣性遺伝)形式の疾患は、血縁関係のある男女の結婚で発生する確率が高くなるため、近親婚の多い民族(アラブ等)や地理的に隔離された地域では多く見られることがあります。

4. この病気の原因はわかっているのですか

ここれまでに見つかった筋ジストロフィーの責任遺伝子の機能には、細胞膜に関連するもの、細胞の外側に存在する基底膜に関連するもの、筋線維の収縮・弛緩に関与する筋原線維(サルコメア)に関連するもの、タンパク質の糖修飾に関連するもの、核膜に関連するもの、など多様なものがあります。遺伝子の変異から細胞の機能障害に至る過程までは疾患ごとの特異性が高いですが、筋肉が変性壊死を生じて以後の過程は共通性が高いため臨床症状は類似した形となります。筋ジストロフィーの研究は、責任遺伝子を同定し、責任遺伝子・タンパク質の機能を明らかにすること、変異によってどのような障害を来すか解明することにより進んできています。

5. この病気は遺伝するのですか

疾患の原因となる遺伝子変異は、親の世代から引き継がれる場合と、突然変異によって新しく生じる場合があります。例えば、デュシェンヌ型筋ジストロフィーでは、本邦の患者様の4割程度は突然変異によって生じていることが報告されています。
疾患によって遺伝の仕方(遺伝形式)は異なります。筋ジストロフィーで見られる遺伝形式は主にX染色体連鎖性遺伝、常染色体顕性遺伝(優性遺伝)形式、常染色体潜性遺伝(劣性遺伝)形式です。一般的な遺伝形式を図で示しましたが、個別の疾患等により事情が異なる場合があるため、具体的には主治医や遺伝診療部のある機関でご相談下さい。

6. この病気ではどのような症状がおきますか

骨格筋障害による運動機能障害が主ですが、それ以外にも様々な機能障害・合併症が見られます。骨格筋の障害は、運動機能障害以外にも呼吸機能の低下、咀嚼・嚥下・構音機能の低下、眼瞼下垂・眼球運動の障害や表情の乏しさ等を引き起こします。これらに付随して生じる二次的障害として、拘縮(関節が硬くなって可動域が狭くなる)・変形、骨粗鬆症、歯列不正、呼吸不全、誤嚥・栄養障害等があります。心筋の障害により心不全や不整脈が起きるほか、平滑筋の障害により胃腸の機能も障害されます。一部の疾患では中枢神経や眼・耳も冒されるため、知的障害・発達障害・けいれん、白内障や網膜症を合併することもあります。


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機能障害や合併症は疾患によって特徴が有り、骨格筋障害が軽度な段階から心不全や 嚥下障害 など他の機能障害が見られることがあります。特に、筋強直性ジストロフィーは全身に多彩な合併症を伴うことが特徴で、合併症が運動機能障害より先に出現することも少なくありません。

7. この病気にはどのような治療法がありますか

現時点で筋ジストロフィーに対する根本的な治療薬はありませんが、研究の進歩により新しい薬の開発が進められており、2020年にはエクソン・スキッピング治療薬ビルトラルセンが保険承認されました。複数の疾患で治験が進められており、今後も新規治療薬が出現することが期待されています。筋ジストロフィーの医療においては、今できる医療をきちんと行うこと、新しい治療薬を現実のものにするための努力を行うことの双方が重要です。
今できる医療については、定期的な機能評価と合併症の検索、集学的で予見的な対応が基本です。
デュシェンヌ型筋ジストロフィーではステロイドの骨格筋障害への有効性(歩行期間の延長、呼吸機能の維持等)が確立しており、保険適用となっています。運動機能がピークに達した頃から投与を開始するのが一般的ですが、服薬するかどうか、投与方法等については主治医と相談の上選択下さい。
リハビリテーションは、早期には拘縮・変形予防のための関節可動域訓練や転倒・事故予防対策が、進行に伴い装具や(電動)車いす処方などによる生活範囲の維持拡大、肺を柔らかくきれいに保つことを目的とした呼吸理学療法、摂食嚥下訓練、社会参加の支援を目的としたIT訓練等が中心となります。健康維持や生活の質を維持する上で早期からの導入が重要です。筋ジストロフィーでも軽度の運動が有効であるとのデータが蓄積されつつありますが、筋力増強を目指した高負荷の筋力トレーニングは、筋肉を痛めるリスクが高いので勧めていません。新しいデバイスを用いたリハビリテーションとしては、HAL医療用下肢タイプが医療機器承認を受け、2016年に筋ジストロフィーを含む神経・筋8疾患に保険適用となりました。短期間の集中的な訓練で、歩行パターンや歩行速度が改善され一定期間維持される方も多く、薬物治療との併用療法も期待されています。
脊椎・胸郭の変形が強くなると、座位の維持が困難になる、呼吸への影響が大きい等の問題から手術による矯正も行われています。手術を受けた方の満足度は高いですが、広範囲に及ぶ手術で侵襲も大きいため手術時期が限られます。早めに整形外科と相談して適切な時期に選択することが重要です。
呼吸機能が低下すると人工呼吸器の装着を考慮します。通常マスクを用いて送気する非侵襲的呼吸管理を実施します。筋ジストロフィーでは呼吸器管理期間が長期間に及ぶため、肺をきれいに保つこと(二次性肺障害の予防)がきわめて重要です。在宅で人工呼吸器を使用される神経筋疾患患者様には排痰補助装置が保険適用となっていますので、積極的にご利用ください。長期間の在宅生活の中では予期せぬトラブルや災害が起こりえます。非常時に備えた救急対応訓練や電源や予備物品の確保、家族・支援者・医療機関との連絡方法、緊急避難の方法等を予め検討しておきましょう。
心機能低下については心保護剤を中心とした対応を行います。不整脈については薬剤の他、ペースメーカー・除細動器などの埋込式機器や心臓カテーテルによる焼灼術(アブレーション)が適用になることもあります。筋ジストロフィーでは運動機能の低下や呼吸器装着のため、心機能が低下しても心不全症状が分かりにくく見過ごされていることも少なくありません。このような患者様でも、感染等で負荷が高くなると、急激な心不全の悪化を来して 重篤 な事態に至ることがあります。定期的な評価で経時的な変化を把握して適切な投薬、生活指導などを受けるようにしましょう。
咀嚼・嚥下能力が低下すると、十分な栄養が摂取できない、食べたものや唾液が気管に入る(誤嚥)を生じるようになります。臨床症状や嚥下機能評価に基づき、嚥下訓練や食形態の調整、補食等を考慮します。十分な栄養が摂取できない、誤嚥リスクが高い場合は代替栄養法(経管栄養や胃瘻造設)の導入も考慮します。筋ジストロフィーでは変形や心肺不全のため 胃瘻 造設が困難な場合が少なくありません。嚥下機能に問題がある場合、胃瘻造設について早い時点から主治医と相談されることをお勧めします。
 
筋ジストロフィーの領域では新しい治療薬の開発が盛んに行われています。新しい薬が保険承認されるためには、条件のできるだけそろった多数の患者様で薬の有効性と安全性を確認すること(治験)が必要です。筋ジストロフィーのような希少疾病では治験を円滑に進める上で様々な障害があります。これを解決する目的で、複数の疾病(ジストロフィノパチー、福山型先天性筋ジストロフィー、筋強直性ジストロフィー、先天性筋疾患、顔面肩甲上腕型筋ジストロフィー)で国際協調的な患者登録が稼働しています(対象疾患拡大予定)。このような患者登録は、治験推進だけで無く、疫学的情報の蓄積、疾患の自然歴の解明、臨床試験の推進、標準的医療の確立にも有効です。対象となる患者様は、主治医とご相談の上登録をご検討下さい。

8. この病気はどういう経過をたどるのですか

筋力低下と運動機能障害は慢性に進行します。筋力が低下すると関節をしっかり動かせないため、拘縮・変形が生じます。デュシェンヌ型や先天性など小児期発症の疾患では、成長期に座位を保つことが困難になり脊椎・胸郭変形を生じやすくなります。呼吸不全は一般的に運動機能障害が進行してから生じますが、筋強直性ジストロフィーなど一部の疾患では肺活量が保たれていても血中の酸素濃度が低い、歩行可能な時期から呼吸不全が生じることがあります。呼吸不全の初期は就寝時のみ異常が見られるため、睡眠時の呼吸評価が大切です。心不全は心臓の耐容力と負荷のバランスが破綻することによって生じるため、運動機能の保たれている症例では心不全が初発症状になる場合もあります。不整脈にも注意が必要で、筋強直性やエメリー・ドレフュス型では心伝導障害・不整脈が高頻度に見られ突然死の原因としても重要です。嚥下障害は末期に出現する疾患が多いですが、筋強直性や眼咽頭型では病初期から出現することが多いため要注意です。筋強直性ジストロフィーでは多彩な合併症が見られますが、どの合併症がいつ発症するかについて決まったパターンはありません。
運動機能とそれ以外の機能障害・合併症については、疾患毎の特徴はあるものの、決まった順序で生じるとは限りません。定期的な機能評価・合併症検索により問題を早期に発見し、適切な対応を図ることが大切です。
キャリア は一般に発症しないと思われていますが、ジストロフィノパチーでは加齢と共に心筋障害や骨格筋障害が見られることがある、エメリー・ドレフュス型筋ジストロフィーでも心伝導障害や不整脈が見られることがあります。気になる症状がある場合は医療機関を受診されることをお勧めします。

9. この病気は日常生活でどのような注意が必要ですか

疲労や筋肉痛が生じない範囲であれば、原則的に日常生活の制限は行いません。筋力トレーニングは筋肉を痛めるおそれがあります。外傷や骨折で動けない時期を作ると廃用による筋萎縮を来すため、転倒しやすい患者様ではプロテクターや環境整備、介助等により事故を防ぐことが大切です。規則正しい生活やバランスのとれた食生活を心がけ、体重の変化にも目を配りましょう。感染予防も大切な注意点です。デュシェンヌ型でステロイドを使用する場合、ステロイド開始前に生ワクチン(麻疹・風疹、おたふく風邪、水痘など)を済ませておくことが望まれます。不活化ワクチン(インフルエンザなど)はステロイド使用中でも通常通り接種して問題ありません。
合併症は早期発見と早期対処が原則です。進行が緩やかだと重篤になるまで症状に気付かないことが多いので、症状が無いからといって大丈夫と過信しないようにしましょう。専門医療機関を定期的に受診し、機能評価や合併症の検査を受けることが大切です。問題が発見された場合は主治医の先生とよく相談して、適切な時期からの治療導入を図りましょう。
筋ジストロフィーの患者様は咳をする力が弱いため、呼吸器感染をこじらせやすい問題があります。痰が取りきれない場合は早期に受診しましょう。栄養や水分の蓄積も不十分なため、高熱や下痢、食事・水分摂取が困難な場合も早期に受診し点滴などの処置を受けることが大切です。福山型先天性筋ジストロフィーでは感染による発熱が治まった時期に、急性の脱力を生じることがあります。呼吸や嚥下にも障害を来す場合があるので、発熱時だけで無く、解熱後もしばらく注意して観察下さい。
全身麻酔を伴う手術を受ける場合は、トラブルを避けるためどんなに軽症であっても病気の存在を主治医に伝え、術前に心肺機能検査を受けましょう。これらの情報は適切な麻酔方法や術式の選択に不可欠です。必要に応じ、手術前に呼吸理学療法( 咳嗽 訓練など)や非侵襲的呼吸管理の練習を行います。呼吸不全や心不全、嚥下機能障害の強い患者様では歯科治療にも特別な配慮が必要な場合があります。抜歯等の処置においては、予め主治医と相談されることを勧めます。
筋ジストロフィーで生じる課題は多岐にわたるため、こうした問題に熟知して適切なアドバイスをしてくれる専門医は貴重です。専門医療機関への定期受診を考慮下さい。

10. 次の病名はこの病気の別名又はこの病気に含まれる、あるいは深く関連する病名です。 ただし、これらの病気(病名)であっても医療費助成の対象とならないこともありますので、主治医に相談してください。

病型、責任遺伝子(遺伝子座)、病名、関連する指定難病を「筋ジストロフィー病型・病名一覧表」に掲載しています。

11.  この病気に関する資料・関連リンク

■関連資料
デュシェンヌ型筋ジストロフィー診療ガイドライン2014南江堂 東京 2014
筋強直性ジストロフィー診療ガイドライン2020 南江堂 東京 2020
知っておきたい筋強直性ジストロフィー ~患者さん、ご家族、支援者のための手引き~ 診断と治療社 東京 2020
 
■研究班ホームページ
 厚生労働科学研究委託費 難治性疾患政策研究事業「筋ジストロフィーの標準的医療普及のための調査研究」
 一般向けホームページ:Muscular Dystrophy Clinical Station (MDCST)
 https://mdcst.jp/
 医療者向けホームページ:Muscular dystrophy Clinical Station for Doctors (MDCST for Drs.)
 https://doctors.mdcst.jp/
 日本医療研究開発機構 難治性疾患実用化研究事業「レジストリと連携した筋強直性ジストロフィーの自然歴およびバイオマーカー研究」http://www.dmctg.jp/
 
■患者登録サイト
神経筋疾患登録サイトRemudy (http://www.remudy.jp)
ジストロフィノパチー、筋強直性ジストロフィー、先天性筋ジストロフィー、顔面肩甲上腕型筋ジストロフィー 神経・筋疾患医学情報登録・管理機構 (https://www.jmda.or.jp/manager-dna/) 福山型先天性筋ジストロフィー
■患者団体
日本筋ジストロフィー協会 (http://www.jmda.or.jp/)
筋強直性ジストロフィー患者会(https://www.dm-family.net)

 

情報提供者
研究班名 筋ジストロフィーの標準的医療普及のための調査研究班
研究班名簿 研究班ホームページ
情報更新日 令和5年11月(名簿更新:令和6年7月)