先天性核上性球麻痺(指定難病132)

せんてんせいかくじょうせいきゅうまひ
 

(概要、臨床調査個人票の一覧は、こちらにあります。)

○ 概要
 
1.概要
先天性核上性球麻痺(ウースター・ドロート症候群)は、胎児から新生児期の非進行性脳障害により咽頭喉頭部(球筋)の運動障害を来し、嚥下、摂食、会話、唾液コントールの機能が低下する。症状は成長に伴って変化するが、消失することはない。経過は脳性麻痺に似るが、上下肢の運動障害はないか、あっても軽度である。先天性傍シルビウス裂症候群とは異なり、画像上病変を伴わない。
 
2.原因
原因は解明されていない。家族例が6%程度に認められ、染色体異常(mosaic trisomy 9など)のほか、胎生期の環境因子や周産期脳障害が背景として報告されている。
 
3.症状
嚥下障害(重度の場合、経管栄養が必要)、唾液コントロールの障害(年齢不相応の流涎)、構音障害(重度の場合、発語不可)。
合併症として、胃食道逆流症、誤嚥・誤嚥性肺炎、小奇形(高口蓋、顎関節拘縮、内反足など)、四肢の拘縮、運動発達遅滞、軽度四肢麻痺、錐体路症状、上肢の巧緻性低下、精神発達遅滞、知能障害、学習障害、模倣能力の低下、注意欠陥・多動性障害(AD/HD)、広汎性発達障害(PDD)、眼球運動障害、てんかん発作・脳波異常を併発することがある。
 
4.治療法
乳児期には嚥下障害に対して経管栄養が行われる。成長に伴って言語療法、摂食訓練、運動療法などの機能訓練を要する。発達障害に対して認知行動療法などが行われる。てんかん発作に対しては主として薬剤治療が行われる。
 
5.予後
症状は年齢によって変化し、軽減する場合もあるが、重症のまま経過することもある。予後は様々であり、合併症による影響を受ける。
 
 
 
 
○ 要件の判定に必要な事項
1.  患者数(令和元年度医療受給者証保持者数)
100人未満
2.  発病の機構
不明(胎内感染、遺伝子変異、血管障害が想定)
3.  効果的な治療方法
4.  未確立(対症療法のみ。)長期の療養
必要(言語や摂食、発達障害が持続)
5.  診断基準
あり(研究班作成の診断基準あり。)
6.  重症度分類
modified Rankin Scale(mRS)、食事・栄養、呼吸のそれぞれの評価スケールを用いて、いずれかが3以上
を対象とする。
 
○ 情報提供元
「傍シルビウス裂症候群の実態調査と診断基準の作成に関する研究」
「傍シルビウス裂症候群の病態に基づく疾患概念の確立と新しい治療法の開発に関する研究」
研究代表者 昭和大学医学部 小児科学講座 教授 加藤光広
 
 
<診断基準>
疾患概念
画像上シルビウス裂周辺の構造異常を伴わず、先天性に構音障害や嚥下障害など偽性球麻痺を示す。症状の経過は脳性麻痺に似るが、上下肢の運動障害はないか、あっても軽度である。
(元来、先天性核上性(偽性)球麻痺全体を指す症候群名であったが、その中で画像所見から先天性傍シルビウス裂症候群が明確に区別されるため、それ以外を指す症候群名と規定した。初期脳発達の非進行性障害による嚥下、摂食、会話、唾液コントールの持続的な困難をきたす球筋の運動障害である。)
 
診断必須所見
先天性に嚥下障害と構音障害の偽性球麻痺症状を呈する。嚥下障害は、年齢不相応の流涎、食事時間の延長から経管栄養まで程度に幅がある。構音障害も、声が鼻に抜ける開鼻声からタ行(歯茎音)やパ行(唇音)が発音しづらいもの、発語が認められないものまで程度に幅がある。頭部MRIまたはCTにてシルビウス裂周辺に異常を認めない。
 
診断参考所見
偽性球麻痺以外に、胃食道逆流症、誤嚥、小奇形(高口蓋,顎関節拘縮,内反足など)、四肢の拘縮、運動発達遅滞、錐体路症状、上肢の巧緻性低下、精神発達遅滞,知能障害,学習障害,模倣能力の低下、注意欠陥・多動性障害,自閉症、眼球運動障害、てんかん発作・脳波異常など、様々な症状を伴うことがある。四肢麻痺はあっても軽度で、3歳以上では歩ける程度である。
 
除外基準
下位ニューロン又は筋疾患による球麻痺(舌の弱力・線維束攣縮・萎縮の存在,下顎反射の消失)。口腔・舌・咽頭の構造異常のみによる口腔機能異常(舌小帯短縮,粘膜下口蓋裂など)。
 
診断のカテゴリー
診断必須所見(偽性球麻痺と画像所見の両者)を認め、除外基準を満たす症例。
 


 
<重症度分類>
modified Rankin Scale(mRS)、食事・栄養、呼吸のそれぞれの評価スケールを用いて、いずれかが3以上を対象とする。
 

日本版modified Rankin Scale (mRS) 判定基準書

modified Rankin Scale

参考にすべき点

全く症候がない

自覚症状及び他覚徴候が共にない状態である

症候はあっても明らかな障害はない:
日常の勤めや活動は行える

自覚症状及び他覚徴候はあるが、発症以前から行っていた仕事や活動に制限はない状態である

軽度の障害:
発症以前の活動が全て行えるわけではないが、自分の身の回りのことは介助なしに行える

発症以前から行っていた仕事や活動に制限はあるが、日常生活は自立している状態である

中等度の障害:
何らかの介助を必要とするが、歩行は介助なしに行える

買い物や公共交通機関を利用した外出などには介助を必要とするが、通常歩行、食事、身だしなみの維持、トイレなどには介助を必要としない状態である

中等度から重度の障害:
歩行や身体的要求には介助が必要である

通常歩行、食事、身だしなみの維持、トイレなどには介助を必要とするが、持続的な介護は必要としない状態である

重度の障害:
寝たきり、失禁状態、常に介護と見守りを必要とする

常に誰かの介助を必要とする状態である

死亡

 
日本脳卒中学会版
注)構音障害によるコミュニケーション障害についてはmRSを用いて評価し、介助を必要とする場合については、構音障害によるコミュニケーション障害に対して何らかの介助が必要な場合を含む。
 
食事・栄養 (N)
0.症候なし。
1.時にむせる、食事動作がぎこちないなどの症候があるが、社会生活・日常生活に支障ない。
2.食物形態の工夫や、食事時の道具の工夫を必要とする。
3.食事・栄養摂取に何らかの介助を要する。
4.補助的な非経口的栄養摂取(経管栄養、中心静脈栄養など)を必要とする。
5.全面的に非経口的栄養摂取に依存している。
呼吸 (R)
0.症候なし。
1.肺活量の低下などの所見はあるが、社会生活・日常生活に支障ない。
2.呼吸障害のために軽度の息切れなどの症状がある。
3.呼吸症状が睡眠の妨げになる、あるいは着替えなどの日常生活動作で息切れが生じる。
4.喀痰の吸引あるいは間欠的な換気補助装置使用が必要。
5.気管切開あるいは継続的な換気補助装置使用が必要。
 
 
※診断基準及び重症度分類の適応における留意事項
1.病名診断に用いる臨床症状、検査所見等に関して、診断基準上に特段の規定がない場合には、いずれの時期のものを用いても差し支えない(ただし、当該疾病の経過を示す臨床症状等であって、確認可能なものに限る。)。
2.治療開始後における重症度分類については、適切な医学的管理の下で治療が行われている状態であって、直近6か月間で最も悪い状態を医師が判断することとする。
3.なお、症状の程度が上記の重症度分類等で一定以上に該当しない者であるが、高額な医療を継続す
ることが必要なものについては、医療費助成の対象とする。

令和6年4月1日

情報提供者
研究班名 稀少てんかんの診療指針と包括医療の研究班
研究班名簿 研究班ホームページ
情報更新日 令和6年4月(名簿更新:令和5年6月)