サルコイドーシス(指定難病84)

さるこいどーしす
 

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サルコイドーシス(サ症)の原因は何でしょうか?

今まで、結核菌、非結核性抗酸菌、アクネ菌、その他の物質など,原因物質としてたくさんの説がありました。何らかの物質が、多くは経気道的に侵入してマクロファージに貪食され、素因のある人ではマクロファージの活性化の後にTh1免疫反応が惹起されて、肉芽腫病変ができるわけです。現在では、東京医科歯科大学の江石先生たちの研究によって、キューティバクテリウム アクネス(旧名プロピオニバクテリウム アクネス、通称アクネ菌)というニキビの原因となる菌によるという説が最も有力です。しかし、海外では依然として結核菌感染説を支持している人もいます。

どのように検査、診断を行っていくのでしょうか。

サ症の特徴として、血液中のアンギオテンシン変換酵素 酵素 (ACE)やリゾチームという酵素、および血清可溶性インターロイキン-2受容体(sIL-2R)というタンパクが増えてきます。以前は、蛋白分画中のガンマグロブリンや血中・尿中カルシウムが高値になるというということや、ツベルクリン反応が陽性(赤くなる)であったのが、サ症に罹患するとその反応が弱くなり、多くは陰転化することも参考になりましたが、すべての患者さんでそれらが増加するわけではなく、現在の診断には用いられなくなりました。病変の広がりや活動性をみるためには、ガリウムシンチグラムで全身の検査を行います。1日目にガリウムを注射して3日目に撮影しますが、サ症に罹患している部位に集積してきます。最近はさらに感度の高いFDG- PET検査 も同じ意味で行われています(悪性腫瘍以外では心臓サルコイドーシス診断後にのみ保険適用となります)。
また、気管支鏡で肺胞洗浄を行なうと、洗浄液中の総細胞数やCD4陽性Tリンパ球が増加している所見が認められ、診断の参考になります。しかし、サ症の確定診断のためには、生検によって、病巣の組織の中に類上皮細胞肉芽腫を見つけることが必要です。皮膚や筋肉や表在リンパ節などは外来でも生検ができますが、目、心臓、肝臓、脳・脊髄などの体の奥にある臓器の生検は難しくなります。呼吸器内科では、気管支鏡で肺の生検を行うことが一般的で(経気管支的肺生検)、前述の肺胞洗浄とあわせて行います。

治療はどのように行なうのでしょうか。

現在のところ、治療薬はステロイドを単独で治療することが多いですが、難治の症例ではステロイドと免疫抑制薬(メトトレキサートなど)の併用で治療するのが一般的です。メトトレキサートは関節リウマチの治療でよく使われている治療薬ですが、実はサ症には保険適応がありません。しかし、海外ではサ症に一般的に使われていて、日本でも使う先生が増えてきました。
サ症は自然に改善することが多い疾患ですので、症状の軽い例では自然改善を期待して経過をみるのが一般的です。しかし、強い症状のある場合、病状が進行してきた場合、検査値で大きく異常がある場合には、積極的な治療が必要です。とくに心臓病変があるときには必ず治療が必要です。肺に病変があってもあまり症状が出ないという特徴がありますので、経過をみて悪化して、医師が治療必要と判断したときには、あまり症状がなくとも治療を受けたほうがよいのです。サ症の治療は罹患臓器の診療科が協働して、各々の専門性を発揮してかつ全人的(包括的)に行われることが大切です。とくに、生命予後を左右する心臓病変を合併する場合には、薬物および非薬物療法の進歩が著しいので、循環器内科の専門性が重要となります。「薬の副作用が怖いから」といって飲み薬の治療を拒否する患者さんがおられますが、治療が必要と判断されたら、早めに治療を始めたほうがよいでしょう。妊娠を希望している女性でも、サ症が安定していれば通常通り可能ですが、念のため早めに主治医に相談してください。最近ではアクネ菌を標的にして、抗菌剤による治療も行われてきていますが、有効率はそれほど高くありません。しかし、抗菌剤がとても有効な例があるのも事実です。

日常生活で注意することはありますか?

ビタミンDがサ症の病態を悪化させるので、ビタミンDを多く含む食物や日光をできるだけ避けたほうがよいと主張している人がいますが定かではありません。特定の食事やサプリメントなどがサ症に効果があるとする証拠はありません。
受診の頻度は、自覚症状がなければ半年に1度の経過観察でよいでしょう。心臓に変化がないか、心電図の検査を続けることは大切です。
女性の患者さんは、出産後にサ症が悪化することがあり、注意が必要です。また、ステロイドを使っている場合は、妊娠してよいか医師に相談することをおすすめします。メトトレキサートなどを使用している場合には、服薬中および服薬中止後6か月間は妊娠をしないようにします。
発病して症状があれば、無理をせず、ストレスをさけて、規則正しい生活でともかく心身を休めることが大切です。

非特異的全身症状は具体的にどのようなものですか。

  • 疲れと息切れ
    「疲れ」と「息切れ」は、大体セットで訴える患者さんが多いです。臓器病変としては、両側肺門リンパ節腫脹(BHL)しかなくて、医師から「咳も痰もないでしょう。放っておけば自然に治りますよ」と言われて、悶々と「疲れて息が切れて」という症状に悩まれている方がいます。こちらから聞くと、「とくに階段で息がきれる」「疲れてともかく横になってしまう」などといわれます。この「疲れと息切れ」の原因ははっきりわかっていませんが、最近の研究でサ症の患者さんでは、呼吸筋を中心とする筋肉の力が低下している人が多いことがわかってきました。そのために動くと息が切れて、また疲れが出るのだと思われます。 
  • 痛み
    痛みもサ症の患者さんがよく訴えられる全身症状です。一番多い痛みは胸痛といわれています。米国胸部疾患学会と欧州呼吸器学会、それから世界サ症と肉芽腫性疾患学会の合同で作成した「サ症に関する合同ステートメント」というものがありますが、その中にも「胸痛は胸骨下に局在するが、普通胸郭の漫然としたしめつけ感のみである。ただ、時に激烈で心臓痛と区別できないこともある」(日本サ症/肉芽腫性疾患学会雑誌編集委員会訳)と書かれてあります。痛みが強いときは患者さん自身が訴えてくれますが、医師が「サ症では胸痛がおこることがある」ことを知らずにいると、心臓が原因の痛みかどうかだけ調べて、異常がなければ「サ症の病気とは関係ない」という結論で終わってしまうかもしれません。また、軽度から中等度の痛みでは患者も訴えづらいし医師も関心をもたない、となるでしょう。もっとも、胸の痛みの訴えは、はじめは強くても次第に弱くなってきて、そのうちほとんど気にならない程度になるのが普通です。中には、非常に強い胸痛だけを訴えられる場合もあります。ステロイドはあまり効果がなく、モルヒネなどの麻薬を使うこともあります。
    胸痛以外では、関節痛、頭痛、背部痛、筋肉痛などがあります。
    関節痛は関節リウマチに似た、多くは左右対称性の痛みです。サ症の関節病変というものはありますが、その場合は関節の腫脹や変形、骨の破壊などを伴いますので、レントゲン写真などで異常が認められます。しかし、「全身症状」としての関節痛は、腫脹、変形、XPでも骨の変化はなく、ただ痛みだけを訴えられます。ガリウムシンチグラムや骨シンチグラムで陽性所見を呈することもあります。ステロイドが有効なことが多いのですが、減らすと再発することが多く辛抱強くつきあうしかありません。
    頭痛は脳内のサ症病変や髄膜炎所見がないか、背部痛は脊髄病変がないか、筋肉痛は筋肉内サ症病変がないか、を調べる必要があります。しかし、そのような臓器特異的な所見がなくても、 頭痛、背部痛、筋肉痛などという、いわゆる全身症状としての痛みを訴える患者さんは多くおられます。
  • 発熱
    発熱を訴えるサ症患者さんはそれほど多くはありませんが、ときに遭遇します。あまり強い炎症所見はなく、高熱は少なくて微熱が多く、それほど長くは続かずに自然におさまるのが一般的です。
  • 耳鳴、難聴
    耳鳴や難聴を訴える患者さんも多く、「これはサ症が聴神経に浸潤したためである」と書かれた論文もあります。これは耳鼻咽喉科で対応していただくことになります。
  • 手足などのシビレ、温痛覚の低下、自律神経障害
    患者さんの訴えの中には、手足のシビレ、温痛覚の低下、排尿障害、自律神経障害などもあります。これは、詳しく調べてみるとかなり頻度の高いもののようで、約40%にこのような症状があるという論文もあります。この原因は、「小径線維神経障害」といって、神経線維の中でも非常に細い末端の知覚神経や自律神経が侵されたための障害であることがわかっています。サ症では血管の障害もおこることがわかっていますので、この小径線維ニューロパチーは、血流障害によってさらに細い神経の障害がおこってきているものと推測されます。治療としては、末梢神経炎の薬やテンカンの薬、三叉神経痛の薬、うつ病の薬などが使われます。最近、抗TNF阻害薬(関節リウマチの治療薬。サ症には保険適用なし)や、大量のステロイドパルス治療が有効であったとする論文もあります。
    今までに述べた、疲労感や息切れ、からだのアチコチの痛み、耳鳴などは、すべてこの小径線維ニューロパチーによるものだろう、とする論文もありますが、確かなことはわかっていません。
    どちらにしても、サ症の患者さんでこれらのいわゆる「全身症状」を訴える方は非常に多いのですが、医師も患者さんもそういう病気であることを認識していなくて、患者さんも訴えずに医師も対応できないということがあります。ときにステロイドが有効なことがありますので試してみるのも一法です。

出産は大丈夫でしょうか。また、遺伝するのでしょうか。

サ症の女性が妊娠すると、ホルモン作用によって一時的に症状が改善することが知られていますが、逆に、多くの例が出産後は悪化します。出産後は、約一年間は慎重に経過をみてもらうべきで、必要があれば、母乳を人工乳に替えてステロイド治療を行なうこともあります。
遺伝性は少しあって、ときに家族発生の例があります。

心臓サルコイドーシスと診断されました。日常生活ではどのようなことに気をつけたらよいでしょうか。

一口に心臓サルコイドーシスといっても、実際には、軽症から重症まで、また、不整脈を主体とするものから心不全を主な病態とする場合まで、極めて多様性の高いのがこの疾患の特徴のひとつです。従って治療内容も、お薬による治療から、ペースメーカーなどの非薬物(デバイス)療法まで、各々の病態にあったいわゆる「テーラーメイド」の治療になります。
 日常生活においても、注意するべき点は各々の患者さんによって、ほとんど普通にされて良い方から、心不全が悪くならないように一定の活動制限が必要な方、またペースメーカーなどデバイス植込み後の注意が必要な方まで、軽重があると思われます。主治医の先生と相談しながら、適切な治療を続けることで、生活の質(quality of life: QOL)を保って通常の生活を送ることが大切です。

サルコイドーシスは自然治癒することがあると聞きましたが、心臓サルコイドーシスは治癒することはないのでしょうか? 悪くなるか、今のままを維持の二つでしょうか?

心臓サルコイドーシスも、全身サルコイドーシスと同様に、組織の炎症が自然寛解することは想定されます。
 ただし、組織の炎症が治癒する過程において、通常「線維化」がおこります。従って、一度低下した(障害された)心臓の機能が、完全にもとに戻ることは少ないのが現状です。また、不整脈が持続することや、新たに出現することもあります。
 ですので、「悪くなるか、今のままを維持の二つでしょうか?」は、病因論(病理)的にはある意味正しいと思われます。もちろん適切な治療を開始することによって、臨床的に心臓の機能を改善することや、不整脈を予防することができます

心臓サルコイドーシスと診断されました。プレドニンは一生飲み続ける必要がありますか?

海外と日本での考え方にはやや違いがあります。海外では、PET検査が陰性になったら一度中止してみるという報告もあります。
日本では、ステロイドを中止すると、再発することが稀ならず経験されてきましたので、副作用や合併症などが障壁にならない場合には、少量の維持量を長期間継続していただいていることが多いのが現状と思われます。

心臓サルコイドーシスと診断されました。今後、ペースメーカーや植込み型除細動器の埋込みをする必要はありますか。

現在はペースメーカーや植込み型除細動器(implantable cardioverter defibrillator: ICD)の埋込みをされていないということですね。回答としては、今後必要が生じれば、これらの植込みを行うということになります。お薬による治療を継続しても、重篤な(生命に係わる)不整脈がおこったり、ハイリスク(失神や高度心機能低下など)と考えられるようになった場合には、これらの植込みが勧められます。また、心機能低下が極めて重症になった場合には、心臓再同期療法(cardiac resynchronization therapy: CRT)の目的で、専用のペースメーカーを植え込むこともあります。

高度房室ブロック症例に対するステロイド治療とペースメーカー適応の優劣と治療の順番について教えて下さい。

ステロイド治療により房室伝導の回復はある程度期待できますが、ステロイド開始前に房室ブロックの改善は予測できないこと、心臓サルコイドーシスは進行性の場合もあるため再発が起こりうることを考慮すると恒久ペースメーカー治療が望ましいと思われます。また、ステロイド内服下のデバイス治療では感染リスクの上昇が懸念されることを考慮すると、原則としてペースメーカーなどのデバイス植込み後にステロイド治療を開始することが望ましいと考えられます。

心臓サルコイドーシスの患者に心臓移植はできますか。

心臓サルコイドーシスの末期心不全においては、心臓移植および補助人工心臓も考慮されますが、全身性炎症性疾患である病態の性質上、その適応については十分に検討、評価される必要があります。

 

情報提供者
研究班名 びまん性肺疾患に関する調査研究班
研究班名簿 
情報更新日 令和4年12月(名簿更新:令和5年6月)