網膜色素変性症(指定難病90)

もうまくしきそへんせいしょう

(概要、臨床調査個人票の一覧は、こちらにあります。)

私と同じ病名の方のお話を聞くと私より症状が重いようです。私も同じように進行して失明しますか?

網膜色素変性症の原因遺伝子は多数あり、患者さんによってそれぞれ異なると考えてもよいぐらいです。したがって進行度や重症度にも個人差がありますので、あまり他の患者さんと症状を比較して悲観的にならず、自分自身の重症度と進行度を専門医に診断してもらいましょう。
進行を考える上で重要なのは視野と矯正視力(眼鏡で矯正した視力)です。裸眼視力は関係ありません。ご自分の矯正視力の変化を記録しておかれるとどのくらいの進行速度かわかります。
また、失明とは必ずしも光をまったく感じない状態(医学的失明)を意味するわけではありません。字が読みにくくなる状態(矯正視力0.1以下ぐらい)を社会的失明と呼びます。網膜色素変性症の方は社会的失明となる方が多くいらっしゃいますが、医学的失明になる方はむしろ少ないです。矯正視力0.1以下でも補助具を使用すれば字の読み書きはできますので、ロービジョン外来などで相談し早くから生活の幅を広げる努力をする事が大切です。

万能細胞のニュースが報道されていますが、網膜色素変性症の治療に、将来応用される可能性はありますか?

iPS細胞は従来の多能性幹細胞(ES細胞)と同様に体の中のあらゆる細胞になる能力を秘めた細胞です。ES細胞と異なるのは作り方で、ES細胞は受精卵がある程度分裂したところで壊してその中の細胞を使って作るのに対し、iPS細胞は大人の皮膚や血中の細胞に遺伝子を数種類入れて作りますので受精卵に手を加えるという倫理的な議論を回避できます。性質はES細胞とほとんど同じで、細胞治療の材料としてもES細胞と同じです。最近はES細胞やiPS細胞から網膜の細胞を作る技術が開発されています。その中で網膜色素上皮細胞という細胞を加齢黄斑変性に使用する臨床研究が実施され、移植する細胞や移植手術の安全性が確認されました。
網膜色素変性症については、失われていく視細胞を移植で補い視機能を回復する治療が将来行われる可能性が出てきています。視細胞は中枢神経の一部ですので、移植した細胞が次の神経細胞とつながり脳まで信号が伝わらなければなりません。視細胞移植によって視機能が回復する可能性が動物実験で示され、細胞の安全性など様々な検討が行われました。
また、ひとつの問題は網膜色素変性症の患者さんの細胞から作ったiPS細胞は病気の原因となる遺伝子変異を持っているということです。そのため、患者さん本人の細胞ではなく京都大学が準備を進めているiPS細胞バンクの細胞が使われ、2020年に重度の網膜色素変性症の患者さんへの視細胞移植の臨床研究が安全性確認の目的で開始されました。視細胞移植が成功した場合、矯正視力が少し改善する、視野を少し広げるという効果が期待されますが、現時点で視力や視野が元に戻る訳ではありません。

先日、母が網膜色素変性症との診断をされました。私は、結婚しており、現在、子供を授かることを希望しています。この病気は、50%が遺伝するとの内容が記載されていましたが、もし、子供を授かった場合、どの程度の確率で遺伝するのでしょうか。遺伝するのかを調べる手段は、今の医療でありますでしょうか。または、そこまで心配する必要はないのでしょうか。気になり、なかなか気持ちが晴れないので、伺いたく思いました。

網膜色素変性症の遺伝形式には、常染色体顕性遺伝(優性遺伝)、常染色体潜性遺伝(劣性遺伝)、X連鎖性遺伝があり、どの遺伝形式かを判断するには家族歴(家系内で誰が同じ病気に罹っているか)を細かく調べる必要があります。したがって残念ながら、お母様が網膜色素変性症という情報だけでは、お子さんへの影響を判断するのは困難です。なお遺伝カウンセリングが受けられる医療機関もありますので、担当医にご相談ください。

情報提供者
研究班名網膜脈絡膜・視神経萎縮症に関する調査研究班
研究班名簿 
情報更新日令和5年1月(名簿更新:令和5年6月)