遠位型ミオパチー(指定難病30)

えんいがたみおぱちー
 

(概要、臨床調査個人票の一覧は、こちらにあります。)

○ 概要
 
1.概要
遠位筋が好んで侵される遺伝性筋疾患の総称。世界的には少なくとも9つの異なる疾患が含まれるとされているが、これまでのところ、本邦では「縁取り空胞を伴う遠位型ミオパチー」(常染色体劣性)、「三好型ミオパチー」(常染色体劣性)、「眼咽頭遠位型ミオパチー」(遺伝形式不明)の3疾患しか見いだされていない。いずれも本邦において発見された疾患である。
 
2.原因
「縁取り空胞を伴う遠位型ミオパチー」は、シアル酸生合成経路の律速酵素をコードするGNE遺伝子のミスセンス変異によりシアル酸合成能が低下することで発症する。「三好型ミオパチー」は、筋鞘膜修復に関係する蛋白質ジスフェルリンの欠損症である。「眼咽頭遠位型ミオパチー」の一部の患者は、実際には、臨床病理学的に類似する眼咽頭型筋ジストロフィーに罹患しているが、大半の患者では原因不明である。
 
3.症状
「縁取り空胞を伴う遠位型ミオパチー」は、10代後半~30代後半にかけて発症し、前脛骨筋を特に強く侵すが、進行すると近位筋も侵される。病理学的に縁取り空胞の出現を特徴とする。「三好型ミオパチー」は、10代後半~30代後半に発症し、主に下腿後面筋群が侵されるが進行すると近位筋も侵される。病理学的には筋線維の壊死・再生変化が特徴であり、血清CK値が高度に上昇する。「眼咽頭遠位型ミオパチー」は、通常成人期~老年期にかけて発症し、眼瞼下垂、眼球運動障害、嚥下障害に加えて、特に前脛骨筋を侵すミオパチーを呈する。筋病理学的には縁取り空胞を認める。
4.治療法
転倒による外傷(歩行障害のため)「眼咽頭遠位型ミオパチー」では、嚥下障害による誤嚥性肺炎などに対しては対症療法を行う。
5.予後
歩行障害、嚥下障害、嚥下性肺炎などが生じる。
 
○ 要件の判定に必要な事項
1.患者数
400人(研究班による)
2.発病の機構
不明(遺伝子異常が示唆されている。)
3.効果的な治療方法
未確立(根本的治療法なし。)
4.長期の療養
必要(進行性である。)
5.診断基準
あり(遠位型ミオパチー(MIM# 600737, Distal myopathy with rimmed vacuoles:DMRV)診断基準)
6.重症度分類
Barthel Indexを用いて、85点以下を対象とする。
 
○ 情報提供元
「希少難治性筋疾患に関する調査研究」
研究代表者 東北大学大学院医学系研究科神経内科学 教授 青木正志
 
 
 
<診断基準>
「遠位型ミオパチー」診断基準
Definite、Probableを対象とする。
遠位型ミオパチーとして下記の各疾患群を含める。
 
(1)三好型ミオパチー
(2)縁取り空胞を伴う遠位型ミオパチー(DMRV/GNE myopathy)
(3)眼咽頭遠位型ミオパチー
(4)その他の遠位型ミオパチー
 
(1)三好型ミオパチー(MIM# 254130, Miyoshi myopathy, Distal dysferlinopathy)診断基準
●診断に有用な特徴
A.臨床的特徴(a~cは必須)
a.常染色体劣性遺伝又は孤発性
b.進行性の筋力低下及び筋萎縮:下肢後面特に腓腹筋が侵される。
c.歩行可能な時期に血清CK値が異常高値(1,000IU/L以上)を示す。
(以下は参考所見)
・発症年齢は30歳までに多い。
・進行すれば近位筋の筋力低下が出現する。
・針筋電図で筋原性変化
B.dysferlinの評価(a又はbが必須)
a.dysferlin欠損(骨格筋免疫染色又はウェスタンブロット解析)
b.DYSF (dysferlin)遺伝子のホモ接合型又は複合ヘテロ接合型変異
(以下は参考所見)
・CD14陽性リンパ球のウェスタンブロット解析でdysferlin欠損
 
●除外すべき疾患
臨床的鑑別
・遠位筋を侵し得る他の筋疾患(他の遠位型ミオパチーを含む。)
・神経原性疾患
病理学的鑑別
他の筋ジストロフィー
・多発性筋炎
 
●診断のカテゴリー
Definite:A+Bを満たす例 
Probable:Aを満たすが、Bが実施されていない例
 
(2)縁取り空胞を伴う遠位型ミオパチー(MIM# 600737, Distal myopathy with rimmed vacuoles:DMRV, GNE myopathy*)診断基準
●診断に有用な特徴
A.臨床的特徴
a.常染色体劣性遺伝又は孤発性
b.進行性の筋力低下及び筋萎縮:前脛骨筋や大腿屈筋群、大内転筋が侵されるが、大腿四頭筋は多くは保たれる。
(以下は参考所見)
・発症年齢は15歳から40歳までが多い。
・5~20年の経過で歩行不能となることが多い。
・血清CK値は正常から軽度高値(1,500IU/L以下)
・針筋電図で筋原性変化(fibrillation potentialや高振幅MUPが認められることがある。)
B.筋生検所見(aは必須)
a.縁取り空胞を伴う筋線維
(以下は参考所見)
・通常強い炎症反応を伴わない。
・筋線維内のβ-アミロイド沈着
・筋線維内のユビキチン陽性封入体
・筋線維内のp62陽性凝集体
・筋線維内のリン酸化タウ
・(電子顕微鏡にて)核又は細胞質内の15~20nmのフィラメント状封入体(tubulofilamentous inclusions)の存在
 
C.遺伝学的検査
GNE遺伝子のホモ接合型又は複合へテロ接合型変異
 
●除外すべき疾患
臨床的鑑別
・遠位筋を侵し得る他の筋疾患(他の遠位型ミオパチーを含む。)
・神経原性疾患
病理学的鑑別
・縁取り空胞を来す他のミオパチー
 
●診断のカテゴリー
Definite:A又はBの少なくとも一方を満たし、かつCを満たすもの。 
Probable:A+Bを満たすもの。
* DMRV又はNonaka Myopathyは国際的にGNE myopathyと統一呼称する動きがある(Huizing et al. Neuromuscul Disord 2014)が、本診断基準中には現在通用されている呼称と併記した。
(3)眼咽頭遠位型ミオパチー(Oculopharyngodistal myopathy)診断基準
●診断に有用な特徴
A.臨床的特徴(a、bは必須)
a.眼瞼下垂を呈する。
b.前脛骨筋の筋力低下・筋萎縮を呈する。
(以下は参考所見)
・緩徐進行性である。
・外眼筋麻痺、嚥下・構音障害を呈する。
・常染色体遺伝の家族歴を認めることがある。
 
B.一般的検査(aは必須)
a.血清CK値は正常から軽度高値(1,000 IU/L以下)
(以下は参考所見)
・針筋電図で筋原性変化(fibrillation potentialや高振幅MUPが認められることがある。)
 
C.筋生検所見
縁取り空胞を伴う筋線維の存在
 
●除外すべき疾患
臨床的鑑別
・遠位筋を侵し得る他の筋疾患(他の遠位型ミオパチーを含む。)
・眼咽頭型筋ジストロフィー(OPMD)
病理学的鑑別
・縁取り空胞を来す他のミオパチー
 
●診断のカテゴリー
Definite:A+B+Cを満たすもの。 
Probable:A+Bであるが、Cを満たさないもの。
 
(4)その他の遠位型ミオパチー診断基準
●疾患概念
その他の遠位型ミオパチーは原因遺伝子の同定されていないものを含めて、各種の報告がある。ここでは、その他の遠位型ミオパチー例を以下A+Bの全てを満たすものと定義する。
 
A.臨床的特徴
a.遠位筋が優位に侵される。
b.両側性である。
c.日内変動を伴わず、固定性又は進行性である。
d.2年以上の経過である。
 
B.筋生検所見
a.筋原性変化の存在
b.神経原性変化はないか、あっても筋力低下を全て説明できるものではない。
 
●原因遺伝子
原因遺伝子が明らかになった場合には、それを明記する(原因不明の場合は、「原因不明」と記載する)。以下は、比較的疾患概念が確立しつつ代表的遠位型ミオパチーであり、臨床的特徴、遺伝形式、原因遺伝子を列記する。今後、疾患概念や分類が変わり得ることに留意する。
 
l  Distal anterior compartment myopathy(DACM):dysferlin欠損による。臨床経過は三好型に似るが、下腿前面の筋肉が好んで侵される。 AR、DYSF
l  Non-dysferlin distal muscular dystrophy :三好型に似た臨床・病理所見を呈する。AR、ANO5
l  Welander distal myopathy*:40代以降に発症し、手指伸筋の筋力低下を示す。 AD、TIA1
l  Early-onset distal myopathy*:小児発症で前脛骨筋・手指伸筋群及び頚部屈筋群の筋力低下を示す。 AD、MYH7
l  Distal myopathy with CAV3 mutation:若年発症で手内筋の筋力低下を示し、腓腹筋肥大を呈することがある。AD、CAV3
l  Vocal cord and pharyngeal dysfunction with distal myopathy(VCPDM):声帯および咽頭筋力低下を示す。 AD、MATR3
l  Distal VCP(valosin containing protein)-mutated myopathy*:骨パジェット病と前頭側頭型認知症を伴う。しばしば神経原性変化を伴う。 AD、VCP
l  Distal nebulin(NEB) myopathy*:小児から若年成人発症で前脛骨筋の筋力低下を示す。AR、NEB
l  Tibial muscular dystrophy(TMD)*: 前脛骨筋の筋力低下を示す。 AD、TTN
l  筋原線維性ミオパチー(myofibrillar myopathy):病理学的に筋線維内の様々な蛋白質蓄積を特徴とする。通常AD、TTID, LDB3, CRYAB, DES, FLNC
AD:常染色体優性遺伝、 AR:常染色体劣性遺伝、*:本邦で患者未同定
 
●除外診断
先天性ミオパチー:遠位型ミオパチーの臨床型をとることもあるが、生下時より症状がみられる場合は先天性ミオパチーとして分類する。
 
 
<重症度分類>
機能的評価:Barthel Index
85点以下を対象とする。

 

質問内容

点数

食事

自立、自助具などの装着可、標準的時間内に食べ終える

10

部分介助(例えば、おかずを切って細かくしてもらう)

全介助

車椅子からベッドへの移動

自立、ブレーキ、フットレストの操作も含む(歩行自立も含む)

15

軽度の部分介助又は監視を要する

10

座ることは可能であるがほぼ全介助

全介助又は不可能

整容

自立(洗面、整髪、歯磨き、ひげ剃り)

部分介助又は不可能

トイレ動作

自立(衣服の操作、後始末を含む。ポータブル便器などを使用している場合はその洗浄も含む)

10

部分介助、体を支える、衣服、後始末に介助を要する

全介助又は不可能

入浴

自立

部分介助又は不可能

歩行

45m以上の歩行、補装具(車椅子、歩行器は除く)の使用の有無は問わず

15

45m以上の介助歩行、歩行器の使用を含む

10

歩行不能の場合、車椅子にて45m以上の操作可能

上記以外

階段昇降

自立、手すりなどの使用の有無は問わない

10

介助又は監視を要する

不能

着替え

自立、靴、ファスナー、装具の着脱を含む

10

部分介助、標準的な時間内、半分以上は自分で行える

上記以外

排便コントロール

失禁なし、浣腸、坐薬の取扱いも可能

10

ときに失禁あり、浣腸、坐薬の取扱いに介助を要する者も含む

上記以外

10

排尿コントロール

失禁なし、収尿器の取扱いも可能

10

ときに失禁あり、収尿器の取扱いに介助を要する者も含む

上記以外

 
 
 
※診断基準及び重症度分類の適応における留意事項
1.病名診断に用いる臨床症状、検査所見等に関して、診断基準上に特段の規定がない場合には、いずれの時期のものを用いても差し支えない(ただし、当該疾病の経過を示す臨床症状等であって、確認可能なものに限る。)。
2.治療開始後における重症度分類については、適切な医学的管理の下で治療が行われている状態であって、直近6か月間で最も悪い状態を医師が判断することとする。
3.なお、症状の程度が上記の重症度分類等で一定以上に該当しない者であるが、高額な医療を継続することが必要なものについては、医療費助成の対象とする。
 

平成27年1月1日

情報提供者
研究班名 希少難治性筋疾患に関する調査研究班
研究班名簿 
情報更新日 令和4年3月(名簿更新:令和5年6月)