自己貪食空胞性ミオパチー(指定難病32)
○ 概要
1.概要
骨格筋の筋線維内に特徴的な自己貪食空胞が出現する極めて稀少な遺伝性の筋疾患で、原因不明で治療法も未確立である。致死性心筋症と進行性のミオパチー(筋力低下・筋萎縮)を来す予後不良な進行性疾患である。
2.原因
自己貪食空胞性ミオパチーの代表疾患:ダノン(Danon)病と過剰自己貪食を伴うX連鎖性ミオパチー(X-linked myopathy with excessive autophagy:XMEA)では原因遺伝子が発見されたが、その他の臨床病型は原因不明である。また病気の発症のメカニズムは依然未解明である。特徴的な自己貪食空胞が共通して出現することから、筋変性過程に自己貪食(オートファジー)が関与することが疑われ、何らかの共通の分子病態との関連が推測される。
3.症状
(1)骨格筋障害による緩徐進行性の四肢筋力低下と筋萎縮や筋痛
(2)心筋障害による進行性の心筋症(肥大型、拡張型)、不整脈
(3)精神遅滞
但し、臨床病型によっては、(2)、(3)を伴わないことがある。発症年齢は様々で、生下時から50歳台まで報告がある。男女ともに発症するが、男性の方が早い場合が多い。
4.治療法
治療法は確立していない。心筋障害は予後決定因子で致死性であり、心臓移植のみが根治療法である。他の症状や合併症については、対症療法が主体である。
5.予後
男女ともに発症年齢を問わず、心臓移植を行わない場合、心不全症状の出現から平均2年で急速に死 に至る(Sugie et al. Neurology 2002)。けいれんなどの中枢神経障害や肝障害、腎障害、肺水腫、網膜症など多臓器障害を来すことがある。また、自閉症や脳血管障害、末梢神経障害を有する症例の報告もある。筋障害が進行すると、呼吸困難や嚥下困難、筋緊張低下を来す。生下時より発症した場合は、運動発育遅延を呈する。
○ 要件の判定に必要な事項
1.患者数
100人未満(研究班による)
2.発病の機構
不明(筋変性過程に自己貪食が関与することが疑われる。)
3.効果的な治療方法
未確立
4.長期の療養
必要(進行性である。)
5.診断基準
あり(日本神経学会及び小児神経学会承認の診断基準等あり。)
6.重症度分類
Barthel Indexを用いて85点以下またはNYHA分類を用いてII度以上を医療費助成の対象とする。
○ 情報提供元
「希少難治性筋疾患に関する調査研究」
研究代表者 東北大学大学院医学系研究科神経内科学 教授 青木正志
<診断基準>
Definite、Probableを対象とする。
(1)ダノン病診断基準
(MIM# 300257, Danon disease, LAMP-2 deficiency)
Definite
●診断に有用な特徴
A.臨床的特徴(男性はa、b必須、女性はa必須、c~gは参考所見)
a.肥大型又は拡張型心筋症
b.進行性の筋力低下及び筋萎縮
(以下は参考所見)
c.X連鎖性優性遺伝又は孤発性
d.発症年齢は、男性は10代から、女性は30代からが多い。
e.知的遅滞を伴うことが多い。
f.血清CK値は、正常から軽度高値(1,000IU/L以下)
g.針筋電図で筋原性変化(fibrillation potentialや低振幅MUP)が認められることがある。
B.筋生検所見(a、bは必須、c、dは参考所見)
a.自己貪食空胞を伴う筋線維
b.空胞膜上でのアセチルコリンエステラーゼ活性
(骨格筋での組織化学染色)
(以下は参考所見)
c.空胞膜上での筋鞘膜蛋白(ジストロフィン、サルコグリカン、ラミニンα2、カベオリン-3など)発現
(骨格筋での免疫組織化学染色)
d.(電子顕微鏡にて)自己貪食空胞周囲の基底膜の存在
C.LAMP-2の評価(a又はb)
a.LAMP-2欠損(免疫組織化学染色又はウェスタンブロット解析)
b.LAMP-2遺伝子変異
●除外すべき疾患
臨床的鑑別
・他のミオパチーや筋ジストロフィーなどの筋疾患
・神経原性疾患
・他の原因の確定している心筋症
病理学的鑑別
・自己貪食空胞を来す他のミオパチー
●診断のカテゴリー
Definite:A又はBの少なくとも一方を満たし、かつCを満たすもの
Probable:A+Bを満たすもの
(2)過剰自己貪食を伴うX連鎖性ミオパチー診断基準
(MIM# 310440, X-linked Myopathy with excessive autophagy:XMEA)
●診断に有用な特徴
A.臨床的特徴(aは必須、b~fは参考所見)
a.緩徐進行性の筋力低下及び筋萎縮
(以下は参考所見)
b.X連鎖性遺伝又は孤発性
c.発症は幼児期
d.心筋障害や知能低下は伴わない。
e.血清CK値は、正常から中等度高値(1,500IU/L以下)
f.針筋電図で筋原性変化(fibrillation potentialや低振幅MUP)が認められることがある。
B.筋生検所見(a,bは必須、c~fは参考所見)
a.自己貪食空胞を伴う筋線維
b.空胞膜上でのアセチルコリンエステラーゼ活性の上昇(骨格筋での組織化学染色)
(以下は参考所見)
c.空胞膜上での筋鞘膜蛋白(ジストロフィン、サルコグリカン、ラミニンα2、カベオリン-3 など)発現
(骨格筋での免疫組織化学染色)
d.筋鞘膜への補体C5b-9の沈着(骨格筋での免疫組織化学染色)
e.筋線維の基底膜の重層化(電子顕微鏡)
f.自己貪食空胞膜上の基底膜(電子顕微鏡)
C.遺伝子解析
a.VMA21遺伝子変異
●除外すべき疾患
臨床的鑑別
・他のミオパチーや筋ジストロフィーなどの筋疾患
・神経原性疾患
病理学的鑑別
・自己貪食空胞を来す他のミオパチー
●診断のカテゴリー
Definite:A又はBの少なくとも一方を満たし、かつCを満たすもの。
Probable:A+Bを満たすもの。
<重症度分類>
1.身体機能的評価:Barthel Index
85点以下を対象とする。
|
質問内容 |
点数 |
|
1 |
食事 |
自立、自助具などの装着可、標準的時間内に食べ終える |
10 |
部分介助(例えば、おかずを切って細かくしてもらう) |
5 |
||
全介助 |
0 |
||
2 |
車椅子からベッドへの移動 |
自立、ブレーキ、フットレストの操作も含む(歩行自立も含む) |
15 |
軽度の部分介助又は監視を要する |
10 |
||
座ることは可能であるがほぼ全介助 |
5 |
||
全介助又は不可能 |
0 |
||
3 |
整容 |
自立(洗面、整髪、歯磨き、ひげ剃り) |
5 |
部分介助または不可能 |
0 |
||
4 |
トイレ動作 |
自立(衣服の操作、後始末を含む、ポータブル便器などを使用している場合はその洗浄も含む) |
10 |
部分介助、体を支える、衣服、後始末に介助を要する |
5 |
||
全介助又は不可能 |
0 |
||
5 |
入浴 |
自立 |
5 |
部分介助又は不可能 |
0 |
||
6 |
歩行 |
45m以上の歩行、補装具(車椅子、歩行器は除く)の使用の有無は問わず |
15 |
45m以上の介助歩行、歩行器の使用を含む |
10 |
||
歩行不能の場合、車椅子にて45m以上の操作可能 |
5 |
||
上記以外 |
0 |
||
7 |
階段昇降 |
自立、手すりなどの使用の有無は問わない |
10 |
介助又は監視を要する |
5 |
||
不能 |
0 |
||
8 |
着替え |
自立、靴、ファスナー、装具の着脱を含む |
10 |
部分介助、標準的な時間内、半分以上は自分で行える |
5 |
||
上記以外 |
0 |
||
9 |
排便コントロール |
失禁なし、浣腸、坐薬の取扱いも可能 |
10 |
ときに失禁あり、浣腸、坐薬の取扱いに介助を要する者も含む |
5 |
||
上記以外 |
0 |
||
10 |
排尿コントロール |
失禁なし、収尿器の取扱いも可能 |
10 |
ときに失禁あり、収尿器の取扱いに介助を要する者も含む |
5 |
||
上記以外 |
0 |
2.心機能評価:NYHA分類
II度以上を対象とする。
I度 |
心疾患があるが、身体活動には特に制約がなく日常労作により、特に不当な呼吸困難、狭心痛、疲労、動悸などの愁訴が生じないもの |
II度 |
心疾患があり、身体活動が軽度に制約されるもの; |
III度 |
心疾患があり、身体活動が著しく制約されるもの; |
IV度 |
心疾患があり、いかなる程度の身体労作の際にも上記愁訴が出現し、また、心不全症状又は狭心症症候群が安静時においてもみられ、労作によりそれらが増強するもの |
※診断基準及び重症度分類の適応における留意事項
1.病名診断に用いる臨床症状、検査所見等に関して、診断基準上に特段の規定がない場合には、いずれの時期のものを用いても差し支えない(ただし、当該疾病の経過を示す臨床症状等であって、確認可能なものに限る。)。
2.治療開始後における重症度分類については、適切な医学的管理の下で治療が行われている状態であって、直近6か月間で最も悪い状態を医師が判断することとする。
3.なお、症状の程度が上記の重症度分類等で一定以上に該当しない者であるが、高額な医療を継続することが必要なものについては、医療費助成の対象とする。
- 厚⽣労働省 難治性疾患政策研究事業 希少難治性筋疾患に関する調査研究班 自己貪食空胞性ミオパチーの診療の手引き
https://www.neurology-jp.org/guidelinem/pdf/avm_tebiki.pdf
研究班名 | 希少難治性筋疾患に関する調査研究班 研究班名簿 |
---|---|
情報更新日 | 令和6年10月(名簿更新:令和6年6月) |