進行性多巣性白質脳症(PML)(指定難病25)

しんこうせいたそうせいはくしつのうしょう(PML)
 

(概要、臨床調査個人票の一覧は、こちらにあります。)

○ 概要
 
1.概要
多くの人に潜伏感染しているJCウイルスが、免疫力が低下した状況で再活性化して脳内に多発性の脱髄病巣を来す疾患である。
本邦での進行性多巣性白質脳症(Progressive Multifocal Leukoencephalopathy:PML)の基礎疾患としては、HIV感染症や血液系悪性腫瘍が多く、膠原病/結合織病などが続く。
欧米ではPMLの基礎疾患の多くをHIV感染症が占めるが(約85%)、本邦ではその基礎疾患は比較的多岐にわたる結果である。
JCウイルスの初感染は幼・小児期に起こり、成人の抗体保有率は全人口の80%程度である。
 
2.原因
JCウイルスの初感染は無症候で、その後、主に腎臓の集合管上皮に持続感染していると考えられており、健常人でも尿中にJCウイルス遺伝子DNAを検出できる。また、骨髄や末梢血B細胞中にもウイルスDNAが検出され、潜伏持続感染しているものと考えられている。これらの細胞に持続感染しているJCウイルスが宿主個体の免疫不全(特に細胞性免疫不全)により再活性化され、PMLを発症すると考えられる。
 
3.症状
PMLの臨床症状は病名である「多巣性」を反映して多彩であるが、よく見られる初発症状は片麻痺・四肢麻痺・認知機能障害・失語・視覚異常などである。その後、初発症状の増悪とともに四肢麻痺・構音障害・嚥下障害・不随意運動・脳神経麻痺・失語などが加わり、失外套状態に至る。
また、治療に伴う免疫再構築により中枢神経内のJCウイルス排除の免疫反応が起こり、治療介入後に臨床症状(及び画像所見)の増悪を見ることがある(免疫再構築症候群(immune reconstitution inflammatory syndrome:IRIS))。
4.治療法
JCウイルスに対する特異的な治療はない。そのため、PMLの治療は基礎疾患に伴う免疫能低下を回復/正常化を目指すことが主体となる。つまり、HIV-PMLではHAART療法、非HIV-PMLでは原因薬剤の中止や血漿交換による生物学的製剤の排除が行われる。DNA合成阻害薬を中心とした抗ウイルス薬やインターフェロンなどは現時点でJCウイルスに明らかに効果があるとのエビデンスレベルの高い研究報告はない。近年、マラリアの治療薬であるメフロキンが有効だった報告もあり、多数例での検討が望まれる。
 
5.予後
一般に週単位から月単位で進行するが、治療効果や患者の免疫力の改善などにより進行が止まり、回復する場合もある。HIVを基礎疾患としたPMLの中央生存期間は1.8年、その他の疾患を基礎疾患としたPMLは中央生存期間が3か月とされており、生命予後が非常に悪い疾患である。
○ 要件の判定に必要な事項
1.患者数
100人未満(研究班による)
2.発病の機構
不明(JCウイルスの再活性化が示唆されている。)
3.効果的な治療方法
未確立(根本的治療法なし。)
4.長期の療養
必要(進行性である。)
5.診断基準
あり(研究班の診断基準あり。)
6.重症度分類
Barthel Indexを用いて、85点以下を対象とする。
 
○ 情報提供元
「プリオン病及び遅発性ウイルス感染症に関する調査研究班」
研究代表者 金沢大学医薬保健研究域医学系脳老化・神経病態学(神経内科学) 教授 山田正仁
 
 
 
<診断基準>
Definite、Probableと診断されたPMLを対象とする。
 
診断のカテゴリー
Definite PML:下記基準項目の5を満たす。
Probable PML:下記基準項目の1、2、3及び4を満たす。
Possible PML:下記基準項目の1、2及び3を満たす。
 
1.成人発症の亜急性進行性の脳症(1)
2.脳MRI で、白質に脳浮腫を伴わない大小不同、融合性の病変が散在(2)
3.白質脳症を来す他疾患を臨床的に除外できる(3)
4.脳脊髄液からPCR でJCV DNA が検出(4)
5.剖検又は生検で脳に特徴的病理所見(5)とJCV 感染(6)を証明
 

(1)免疫不全(AIDS、抗癌剤・免疫抑制剤投与など)の患者や生物学的製剤(ナタリズマブ、リツキシマブ等)を使用中の患者に後発し、小児期発症もある。発熱・髄液細胞増加などの炎症反応を欠き、初発症状として片麻痺/四肢麻痺、認知機能障害、失語、視力障害、脳神経麻痺、小脳症状など多彩な中枢神経症状を呈する。無治療の場合、数か月で無動性無言状態に至る。
(2)病巣の検出にはMRI が最も有用で、脳室周囲白質・半卵円中心・皮質下白質などの白質病変が主体である。病変はT1 強調画像で低信号、T2 強調画像及びFLAIR 画像で高信号を呈する。拡散強調画像では新しい病変は高信号を呈し、古い病変は信号変化が乏しくなるため、リング状の高信号病変を呈することが多くなる。ガドリニウム増強効果は陰性を原則とするが、まれに病巣辺縁に弱く認めることもある。
(3)白質脳症としては副腎白質ジストロフィーなどの代謝疾患やヒト免疫不全ウイルス(HIV)脳症、サイトメガロウイルス(CMV)脳炎などがある。しかし、AIDS などPMLがよく見られる病態には、しばしばHIV脳症やCMV 脳炎などが合併する。
(4)病初期には陰性のことがある。経過とともに陽性率が高くなるので、PML の疑いがあれば再検査する。
(5)脱髄巣、腫大核に封入体を有するグリア細胞の存在、アストログリアの反応、マクロファージ・ミクログリアの出現
(6)JCV DNA、mRNA、タンパク質の証明又は電子顕微鏡によるウイルス粒子の同定
 
 
<重症度分類>
機能的評価:Barthel Index 85点以下を対象とする。

 

質問内容

点数

食事

自立、自助具などの装着可、標準的時間内に食べ終える

10

部分介助(例えば、おかずを切って細かくしてもらう)

全介助

車椅子からベッドへの移動

自立、ブレーキ、フットレストの操作も含む(歩行自立も含む)

15

軽度の部分介助又は監視を要する

10

座ることは可能であるがほぼ全介助

全介助又は不可能

整容

自立(洗面、整髪、歯磨き、ひげ剃り)

部分介助又は不可能

トイレ動作

自立(衣服の操作、後始末を含む、ポータブル便器などを使用している場合はその洗浄も含む)

10

部分介助、体を支える、衣服、後始末に介助を要する

全介助又は不可能

入浴

自立

部分介助又は不可能

歩行

45m以上の歩行、補装具(車椅子、歩行器は除く)の使用の有無は問わず

15

45m以上の介助歩行、歩行器の使用を含む

10

歩行不能の場合、車椅子にて45m以上の操作可能

上記以外

階段昇降

自立、手すりなどの使用の有無は問わない

10

介助又は監視を要する

不能

着替え

自立、靴、ファスナー、装具の着脱を含む

10

部分介助、標準的な時間内、半分以上は自分で行える

上記以外

排便コントロール

失禁なし、浣腸、坐薬の取扱いも可能

10

ときに失禁あり、浣腸、坐薬の取扱いに介助を要する者も含む

上記以外

10

排尿コントロール

失禁なし、収尿器の取扱いも可能

10

ときに失禁あり、収尿器の取扱いに介助を要する者も含む

上記以外

 
 
 
 
Karnofsky score

患者の状態

スコア

1.正常。疾患に対する患者の訴えがない。 臨床症状なし。

100

2.軽い臨床症状はあるが、正常活動可能

90

3.かなり臨床症状あるが、努力して正常活動可能

80

4.自分自身の世話はできるが、正常の活動・労働することは不可能

70

5.自分に必要なことはできるが、時々介護が必要

60

6.症状を考慮した看護及び定期的な医療行為が必要

50

7.動けず、適切な医療及び看護が必要

40

8.全く動けず、入院が必要だが死は差し迫っていない。

30

9・非常に重症、入院が必要で精力的な治療が必要

20

10.死期が切迫している。

10

11.死

0

 
 
 
※診断基準及び重症度分類の適応における留意事項
1.病名診断に用いる臨床症状、検査所見等に関して、診断基準上に特段の規定がない場合には、いずれの時期のものを用いても差し支えない(ただし、当該疾病の経過を示す臨床症状等であって、確認可能なものに限る。)。
2.治療開始後における重症度分類については、適切な医学的管理の下で治療が行われている状態であって、直近6か月間で最も悪い状態を医師が判断することとする。
3.なお、症状の程度が上記の重症度分類等で一定以上に該当しない者であるが、高額な医療を継続することが必要なものについては、医療費助成の対象とする。
 

平成27年1月1日

 

情報提供者
研究班名 プリオン病及び遅発性ウイルス感染症に関する調査研究班
研究班名簿 研究班ホームページ
情報更新日 令和5年11月(名簿更新:令和5年6月)