全身性アミロイドーシス(指定難病28)

ぜんしんせいあみろいどーしす
 

(概要、臨床調査個人票の一覧は、こちらにあります。)

○ 概要
 
1.概要
全身性アミロイドーシス(amyloidosis)は、線維構造をもつ蛋白質であるアミロイドが、全身臓器に沈着することによって機能障害を引き起こす一連の疾患群である。
アミロイドは、病理学的にコンゴーレッド染色で橙赤色に染まり、偏光顕微鏡下でアップルグリーン色の複屈折を示すものである。蛋白質が立体構造(コンフォメーション)を変化させてアミロイドとして凝集し疾患を引き起こすことから、コンフォメーション病の1つとして捉えられている。
 
2.原因
これまでに 36 種類のアミロイドーシスが報告されており、それぞれにおけるアミロイドの形成、沈着機序に違いがあるものの、全てに共通すると考えられているアミロイド線維形成機序は、まずアミロイド原因(前駆体)蛋白質が産生され、次にそれがプロセッシングを受け、重合、凝集してアミロイド線維となるというものである。
 
3.症状
アミロイドーシスの症状は、アミロイドの沈着による臓器・組織の障害に基づくもので、病型ごとに異なる臨床症状を示す。全身性アミロイドーシスで特に注目すべき症状は全身衰弱、心アミロイド沈着による心症状、消化器障害、腎症状(ネフローゼなど)、末梢神経障害(手足のしびれや麻痺)などである。
認知症の原因の過半数は脳にアミロイド沈着(老人斑)を起こすアルツハイマー病であること、また、高齢者では脳血管壁へのアミロイド沈着(アミロイドアンギオパチー)により、脳葉型の脳出血や皮質、皮質下に微小出血を引き起こすことも知っておくべき重要な知識である。
 
4.治療法
これまで対症療法が主体であったが、近年病気を治す療法が可能になりつつある。全身性免疫グロブリン軽鎖(AL)アミロイドーシスに対しては、自己末梢血幹細胞移植を併用した大量化学療法あるいはボルテゾミブ、ダラツムマブなどの骨髄形質細胞を標的とした化学療法の有効性が示されている。遺伝性トランスサイレチン(ATTRv)アミロイドーシスに対しては、肝移植に加え、トランスサイレチン(TTR)四量体安定化薬であるタファミジスと核酸医薬(siRNA 製剤)であるパチシランの有効性が証明され、本邦でも保険収載されている。タファミジスに関しては全身性野生型トランスサイレチン(ATTRwt)アミロイドーシスの心症状に対する有効性も証明され、適応追加となっている。透析アミロイドーシスの予防として透析膜が改良され効果を挙げている。全身性アミロイド A(AA)アミロイドーシスでは抗リウマチ作用を示す様々な生物製剤に加えて、抗 IL-6 受容体抗体を用いた治療が有効であることが明らかになってきている。
 
5.予後
病型により異なり、個人差もあるが、基本的に進行性の経過をたどり、治療をしなければ予後不良である。
 
○ 要件の判定に必要な事項
1.患者数(令和元年度医療受給者証保持者数)
3,131 人
2.発病の機構
不明(アミロイド蛋白質が原因だが、その機序は不明である。)
3.効果的な治療方法
未確立(一部の患者で寛解状態を得られることはあるが、継続的な治療が必要である。)
4.長期の療養
必要(進行性である。)
5.診断基準
あり
6.重症度分類
アミロイドーシスの重症度分類を用いて2度以上を対象とする。
 
○ 情報提供元
「アミロイドーシスに関する調査研究班」
研究代表者 福井大学医学部分子病理学分野 教授 内木宏延
<診断基準>
全身性アミロイドーシスが対象。二次性の病態によるアミロイドーシスは対象外。
 
1. AL/AH アミロイドーシス(免疫グロブリン性アミロイドーシス)(多発性骨髄腫に続発するものは除く)
2. ATTRwt アミロイドーシス(旧病名 senile systemic amyloidosis: SSA)(腱・靭帯のみに限局する病態は除く)
3. ATTRv アミロイドーシス(旧病名 familial amyloid polyneuropathy: FAP)
4. ATTRv 以外の遺伝性全身性アミロイドーシス(旧病名 FAP から独立、他の遺伝性全身性アミロイドーシスを追加、単一臓器に生じる限局性アミロイドーシスは除外)
※ ゲルソリン(GSN)、アポリポ蛋白(A-I (APOA1)、A-II (APOA2)、C-II (APOC2)、C-III (APOC3) )、リゾチーム(LYZ)、フィブリノーゲン(FGA)、シスタチンC(CST3)、β 2-ミクログロブリン(B2M)、プリオン蛋白(PRNP)など



1.免疫グロブリン性アミロイドーシス(AL/AH アミロイドーシス)診断基準
① 全身性 AL アミロイドーシス


疾患概念
AL アミロイドーシスは、モノクローナルな免疫グロブリン軽鎖由来のアミロイドが全身諸臓器に沈着して機能障害を生じる病態である。沈着臓器は主として腎臓、心臓、肝臓、消化管、神経であるが、全身のどの臓器も障害されうる。複数の臓器が障害されることもあれば、単一の臓器(心臓・腎臓・肝臓)のこともある。モノクローナル な免疫グロブリン軽鎖は主として骨髄内の形質細胞から産生されると考えられるが、微量な場合は検出が困難なこともある。一方、限局した局所にのみアミロイド沈着を認めることがあり、限局性アミロイドーシスと呼ばれ全身性と区別される。多発性骨髄腫などの B 細胞性腫瘍に続発しないものを原発性 AL アミロイドーシス、多発性骨髄腫などの B 細胞性腫瘍に伴うものを続発性 AL アミロイドーシスという。いずれも、モノクローナルな免疫グロブリンを産生する細胞を標的とする治療が行われる。



全身性 AL アミロイドーシスの診断基準
Definite、 Probable を対象とする。

A. 臨床症候及び検査所見
AL アミロイドーシスによると考えられる臨床症候又は検査所見を認める(表1)。

B. 病理検査所見
組織生検でコンゴーレッド染色陽性、偏光顕微鏡下にアップルグリーン色の複屈折を呈するアミロイド沈着を認める(注1)。

C. アミロイドタイピング
アミロイド沈着は免疫グロブリン軽鎖陽性である(注2)。

D. M 蛋白
血液あるいは尿中に M 蛋白が証明される(免疫電気泳動法、免疫固定法、フリーライトチェインのいずれかで検出される)(注3)。

E. 鑑別診断 
A の臨床症候や検査所見を来す可能性のある他疾患を十分に除外する。特に心アミロイドーシスの場合、MGUS(monoclonal gammopathy of undetermined significance)を伴う ATTRwt アミロイドーシスを否定できないので、ATTRwt の診断基準・診断フローチャートにより ATTRwt アミロイドーシスを確実に除外する。 
 
 
 
〈診断のカテゴリー〉 
Definite: A の 1 項目以上+B+C+D+E を満たす。もしくは、A の 2 項目以上+B+C+E を満たす。ただし心臓、腎臓、肝臓にA の該当項目があり、さらに B+C+E を満たす場合は、1 臓器でも全身性として扱う。
Probable: A の 1 項目以上+B+D+E を満たす。 
 
 
 
(表1*)各項目はアミロイドーシスに特異的な所見ではなく、診断の入り口と考える。 

項目

臨床症候

検査所見

心アミロイドーシスによるもの

心不全症状(息切れ、浮腫)、眩暈や失神

心房細動、刺激伝導系障害(房室ブロック、脚ブロック、心室内伝導障害)、心室性不整脈、肢誘導低電位、胸部誘導 QS パターン(V1-3)
心室壁肥厚**(右心室も含む)、心房中隔肥厚、著しい心室拡張能障害、心室のエコー輝度亢進(granular sparkling appearance)、心膜液貯留、弁肥厚、左室基部の longitudinal strain 低下(apical sparing)
血中 BNP/NT-proBNP 高値、血中心筋トロポニン T/I 高値心臓 MRI における左室心内膜下のびまん性遅延造影、T1 マッピングにおける native T1 遅延、ECV 上昇

腎アミロイドーシスによるもの***

浮腫、体重増加

蛋白尿(>0.5g/day 又は 0.5g/gCr、アルブミンが主)
血清クレアチニン増加、eGFR 低下、尿 NAG 増加、尿2-ミクログロブリン増加

肝アミロイドーシスによるもの

肝腫大

最大肝縦径>15cm(心不全を除外)
アルカリフォスファターゼ増加(>正常上限の 1.5 倍)

末梢神経アミロイドーシスによるもの

小径線維優位のポリニューロパチー症状(四肢末梢の温痛覚を主体とした低下)

軸索型の神経伝導検査異常

自律神経アミロイドーシスによるもの

起立性低血圧、下痢、便秘、排尿障害

消化管アミロイドーシスによるもの

下血、嘔気、食欲不振、腸閉塞、吸収不良症候群

腱・靭帯アミロイドーシスによるもの

手根管症候群症状(手のしびれ、疼痛)

神経伝導検査における手根管部の伝導遅延

関節アミロイドーシスによるもの

Shoulder pad sign、関節腫大

舌アミロイドーシスによるもの

巨舌

皮膚アミロイドーシスによるもの

強皮症様肥厚や結節、紫斑

その他の臓器アミロイドーシスによるもの

甲状腺や唾液腺、リンパ節などの硬性腫大;跛行(血管アミロイドによる);筋症(仮性肥大)

CT 上びまん性間質性肺疾患パターン

  *表中下線は、国際コンセンサスオピニオンに記載された臓器障害の指標(Gerz et al. Am J Hematol 79:319– 328, 2005)。 
**上記コンセンサスオピニオンでは「心室中隔及び左室後壁肥厚(>12mm)」 
*** MGRS(monoclonal gammopathy of renal significance)の一部は腎アミロイドーシスによる。 
 
 
(注1) 臓器生検は、腹壁脂肪、口唇唾液腺、消化管、骨髄などから採取したものを用いてよく、必ずしも障害臓器から採取する必要はない。消化管病変のみで無症状の場合は限局性消化管アミロイドーシスの可能性があり、下血、下痢、便秘などの症状の出現、増悪について定期的な観察が必要である。限局性アミロイドーシスは無症状のことも多く、M 蛋白も検出されない場合が多いため、B+C で診断確定となる。 
 
(注2) MGUS とATTRwt の併発例があるため、アミロイドが免疫グロブリン軽鎖陽性であること、血清あるいは尿中にM蛋白が証明される場合はコンゴーレッド陽性部位にM蛋白と一致したタイプの免疫グロブリン軽鎖を証明する必要がある。免疫染色により Alκ 又は Alλ (+)、ATTR (-)、AA (-)を確認すること、もしくは、質量分析法 
(LMD-LC-MS/MS)でアミロイド原因蛋白を確認する。自施設での実施が困難な場合は、「アミロイドーシスに関する調査研究 http://amyloidosis-research-committee.jp/」に解析依頼が可能である。 
 
(注3) M 蛋白の検出には、血清免疫固定法、血清フリーライトチェイン(κ / λ 比)及び尿免疫固定法の実施が 推奨される。免疫固定法は免疫電気泳動法より検出感度が高い。 
 
② AH アミロイド-シス 
 
疾患概念 
AH アミロイドーシスは、モノクローナルな免疫グロブリン重鎖由来のアミロイドが全身の臓器に沈着して機能障害を生じる病態である。ごく稀な病態であり、病態、徴候についてのまとまった調査はなく、散発的な症例報告にとどまるため詳細は不明である。アミロイドの沈着臓器は、腎臓、神経、心臓などの病変が多く、予後は AL アミロイドーシスより良いと考えられている。血液中には完全型の M 蛋白が証明されることが多い。 
 
 
 
全身性 AH アミロイドーシスの診断基準
Definite を対象とする。 
 
A. 臨床症候及び検査所見 
AH アミロイドーシスによると考えられる臨床症候又は検査所見を認める(表1)。 
 
 
B. 病理検査所見 
組織生検でコンゴーレッド染色陽性、偏光顕微鏡下にアップルグリーン色の複屈折を呈するアミロイド沈着を認める(注1)。 
 
C. アミロイドタイピング 
アミロイド沈着は免疫グロブリン重鎖陽性である(注2)。 
 
 
D. M 蛋白 
血液あるいは尿中に M 蛋白が証明される(免疫電気泳動法、免疫固定法、フリーライトチェインのいずれかで検出される)(注3)。 

E. 鑑別診断 
A の臨床症候や検査所見を来す可能性のある他疾患を十分に除外する。特に心アミロイドーシスの場合、MGUS を伴うATTRwt アミロイドーシスを否定できないので、ATTRwt の診断基準・診断フローチャートによりATTRwt アミロイドーシスを確実に除外する。 
 
 
 
〈診断のカテゴリー〉 
Definite: A の 1 項目以上+B+C+D+E を満たす。もしくは、A の 2 項目以上+B+C+E を満たす。ただし心臓、腎臓、肝臓にA の該当項目があり、さらに B+C+E を満たす場合は、1 臓器でも全身性として扱う。 
 
(表1*)AHアミロイドーシスはごく稀な疾患であり、病態、徴候についてのまとまった調査はなく詳細は不明である。従って以下の表のとおり、臨床徴候と検査所見はALアミロイドーシスに準じて判断する。 
 

項目

臨床症候

検査所見

心アミロイドーシスによるもの

心不全症状(息切れ、浮腫)、眩暈や失神

心房細動、刺激伝導系障害(房室ブロック、脚ブロック、心室内伝導障害)、心室性不整脈、肢誘導低電位、胸部誘導 QS パターン(V1-3)
心室壁肥厚**(右心室も含む)、心房中隔肥厚、著しい心室拡張能障害、心室のエコー輝度亢進(granular sparkling appearance)、心膜液貯留、弁肥厚、左室基部の longitudinal strain 低下(apical sparing)
血中 BNP/NT-proBNP 高値、血中心筋トロポニン T/I 高値心臓 MRI における左室心内膜下のびまん性遅延造影、T1 マッピングにおける native T1 遅延、ECV 上昇

腎アミロイドーシスによるもの***

浮腫、体重増加

蛋白尿(>0.5g/day 又は 0.5g/gCr、アルブミンが主)
血清クレアチニン増加、eGFR 低下、尿 NAG 増加、尿2-ミクログロブリン増加

肝アミロイドーシスによるもの

肝腫大

最大肝縦径>15cm(心不全を除外)
アルカリフォスファターゼ増加(>正常上限の 1.5 倍)

末梢神経アミロイドーシスによるもの

小径線維優位のポリニューロパチー症状(四肢末梢の温痛覚を主体とした低下)

軸索型の神経伝導検査異常

自律神経アミロイドーシスによるもの

起立性低血圧、下痢、便秘、排尿障害

消化管アミロイドーシスによるもの

下血、嘔気、食欲不振、腸閉塞、吸収不良症候群

腱・靭帯アミロイドーシスによるもの

手根管症候群症状(手のしびれ、疼痛)

神経伝導検査における手根管部の伝導遅延

関節アミロイドーシスによるもの

Shoulder pad sign、関節腫大

舌アミロイドーシスによるもの

巨舌

皮膚アミロイドーシスによるもの

強皮症様肥厚や結節、紫斑

その他の臓器アミロイドーシスによるもの

甲状腺や唾液腺、リンパ節などの硬性腫大;跛行(血管アミロイドによる);筋症(仮性肥大)

CT 上びまん性間質性肺疾患パターン

   *表中下線は、国際コンセンサスオピニオンに記載された臓器障害の指標(Gerz et al. Am J Hematol 79:319– 328, 2005)。
**上記コンセンサスオピニオンでは「心室中隔及び左室後壁肥厚(>12mm)」
*** MGRS(monoclonal gammopathy of renal significance)の一部は腎アミロイドーシスによる。

(注1) 臓器生検は、腹壁脂肪、口唇唾液腺、消化管、骨髄などから採取したものを用いてよく、必ずしも障害臓器から採取する必要はない。

(注2) 免疫染色によりAlκ (-)、Alλ (-)、ATTR (-)、AA (-)を確認する。稀少疾患であり、通常の抗重鎖抗体を用いた免疫染色による本疾患の診断は確立していないため、必ず質量分析法(LMD-LC-MS/MS)により重鎖の沈着を確認する。なお重鎖と軽鎖の両方が検出された場合は、AHL (AH+AL)アミロイドーシスと診断する。自施設での実施が困難な場合は、「アミロイドーシスに関する調査研究班(http://amyloidosis-research-committee.jp/)」に解析依頼が可能である。
(注3) M 蛋白の検出には、血清免疫固定法、血清フリーライトチェイン(κ / λ比)及び尿免疫固定法の実施が推奨される。免疫固定法は免疫電気泳動法より検出感度が高い。




2.全身性野生型トランスサイレチン (ATTRwt) アミロイドーシス診断基準
旧病名:老人性全身性アミロイドーシス(senile systemic amyloidosis: SSA)

疾患概念
ATTRwt アミロイドーシスは、野生型 TTR が原因となり、主として心臓、腱・靭帯組織(手根管、黄色靭帯など)、腎、甲状腺、末梢神経、肺など諸臓器に病態を生じる。60 歳以上の男性に多い。加齢が発症に関与していると考えられているが、詳細な病態は不明である。国内には本症と適切に診断されていない症例が多く存在すると考えられる。TTR 四量体安定化が本疾患の心症候の予後を改善すると報告されている。



全身性 ATTRwt アミロイドーシスの診断基準
Definite、 Probable を対象とする。

A. 臨床症候及び検査所見
ATTRwt アミロイドーシスによると考えられる臨床症候又は検査所見を認める(表1)。


B. 病理検査所見
心筋もしくは他の組織でコンゴーレッド染色陽性、偏光顕微鏡下にアップルグリーン色の複屈折を呈するアミロイド沈着を認める(注1)。

C. アミロイドタイピング
アミロイド沈着はトランスサイレチン(TTR)陽性である(注2)。


D. シンチグラフィー
99mTc ピロリン酸あるいは99mTcヒドロキシメチレンジホスホン酸シンチグラフィーで心臓に陽性像が確認される(注3)。

E. 遺伝学的検査
TTR遺伝子にアミノ酸の変化を伴う変異を認めない。

F. M 蛋白を認めない(注4)。


G. 鑑別診断

1. 腱・靱帯組織のみに限局する限局性 ATTRwt は除外する。
2. A の臨床症候や検査所見を来す可能性のある他疾患を十分に除外する。ただし心肥大を来しうる諸疾患とATTRwt アミロイドーシスとの合併例が存在することにも注意が必要である。



〈診断のカテゴリー〉
Definite: A+B+C+E+G1 を満たす。
Probable: A+D+E+F+G2 を満たす。



(表1)以下をみたす場合などに本症を疑うが、非典型例が疑われる場合はこの限りでない。各項目はアミロイドーシスに特異的な所見ではなく、診断の入り口と考える。

項目

臨床症候

検査所見

心アミロイドーシスによるもの

心不全症状(息切れ、浮腫)、眩暈や失神

心房細動、刺激伝導系障害(房室ブロック、脚ブロック、心室内伝導障害)、心室性不整脈、肢誘導低電位、胸部誘導 QS パターン(V1-3)
心室壁肥厚**(右心室も含む)、心房中隔肥厚、著しい心室拡張能障害、心室のエコー輝度亢進(granular sparkling appearance)、心膜液貯留、弁肥厚、左室基部の longitudinal strain 低下(apical sparing)
血中 BNP/NT-proBNP 高値、血中心筋トロポニン T/I 高値心臓 MRI における左室心内膜下のびまん性遅延造影、T1 マッピングにおける native T1 遅延、ECV 上昇

末梢神経アミロイドーシスによるもの

小径線維優位のポリニューロパチー症状(四肢末梢の温痛覚を主体とした低下)

軸索型の神経伝導検査異常、皮膚生検における表皮内神経線維密度の低下

腱・靱帯アミロイドーシスによるもの

手根管症候群症状(手のしびれ、疼痛)、脊柱管狭窄症状(腰痛、歩行障害)

神経伝導検査における手根管部の伝導遅延、脊椎 MRI

  
(注1)本症では、腹壁脂肪吸引生検、皮膚生検、消化管生検、口唇生検等のアミロイド陽性率は低いため、これらの生検部位でアミロイドが検出されない場合は、心筋生検を考慮する。また臨床症候や他の検査所見から本症が強く疑われる場合は、各組織部位からの生検を繰り返し行うことで検出される場合がある。本症のアミロイド沈着はコンゴーレッドの染色性が弱く、偏光でアップルグリーン色の複屈折も弱い場合がある。

(注2)免疫染色により ATTR (+)、Alκ (-)、Alλ (-)、AA (-)を確認すること、もしくは、質量分析法(LMD-LC- MS/MS)でアミロイド原因蛋白を確認する。自施設での実施が困難な場合は、「アミロイドーシスに関する調査研究班(http://amyloidosis-research-committee.jp/)」に解析依頼が可能である。

(注3)3時間後撮影正面プラナー画像を用いた視覚的評価法(Grade 0 心臓への集積なし、Grade 1 肋骨よりも弱い心臓への軽度集積、Grade 2 肋骨と同等の心臓への中等度集積、Grade 3 肋骨よりも強い心臓への高度集積:Grade 2 以上を陽性とする)、あるいは1時間後撮影画像の定量的評価法(heart-to-contralateral [H/CL]比:1.5 以上を陽性とする)等により評価する。

(注4)免疫グロブリン遊離軽鎖(フリーライトチェイン) κ/λ 比に異常を認めない。加えて、血清免疫固定法、尿中 M 蛋白(免疫固定法)を解析し、M 蛋白が検出されないことを確認する。


3.遺伝性トランスサイレチン (ATTRv) アミロイドーシス診断基準
旧病名:家族性アミロイドポリニューロパチー(familial amyloid polyneuropathy: FAP)


疾患概念
トランスサイレチン(TTR)の遺伝子変異が原因となり、TTR がアミロイドを形成し組織の細胞外へ沈着することで、神経、心臓、消化管、腎臓、眼など諸臓器の障害を生じる遺伝性疾患である。熊本、長野に大きな患者集積がある。常染色体顕性の遺伝性疾患であるが、熊本、長野以外の非集積地から報告されている症例は約半数で家族歴が明確でない。発症年齢(集積地では 20~40 歳代、非集積地では 50 歳以後)や症候が多様である。各種治療法(肝移植、TTR 安定化剤、遺伝子治療)の効果は病初期に期待できるため早期診断が重要である。



全身性 ATTRv アミロイドーシスの診断基準
Definite、 Probable を対象とする。

A. 臨床症候及び検査所見
ATTRv アミロイドーシスによると考えられる臨床症候又は検査所見を認める(表1)。

B. 病理検査所見
組織生検でコンゴーレッド染色陽性、偏光顕微鏡下にアップルグリーン色の複屈折を呈するアミロイド沈着を認める(注 1)。

C. アミロイドタイピング
アミロイド沈着はトランスサイレチン(TTR)陽性である(注 2)。

D. シンチグラフィー

99mTcピロリン酸あるいは99mTcヒドロキシメチレンジホスホン酸シンチグラフィーで心臓に陽性像が確認される(注 3)。

E. 遺伝学的検査
TTR 遺伝子にアミノ酸の変化を伴う変異を認める。


〈診断のカテゴリー〉
Definite: A+B+C+E を満たす。
Probable: A+B+E を満たす。もしくは、A+D+E を満たす。



(表1)以下の項目を参考に本症を疑う。TTR 遺伝子変異型により多様な症候(末梢神経型、心臓型、脳髄膜血管型・眼型など)を呈すことに注意が必要である*。また同一家系内でも発症年齢が大きく異なる場合がある。

項目

臨床症候

検査所見

末梢神経アミロイドーシスによるもの

小径線維優位の感覚・運動ポリニューロパチー症状(四肢末梢の温痛覚を主体とした低 下、四肢末端の筋萎縮・筋力低下)

軸索型の神経伝導検査異常、皮膚生検における表皮内神経線維密度の低下、MR neurography (MRN)における後根神経節や坐骨神経近位部の腫大

自律神経アミロイドーシスによるもの

起立性低血圧、嘔吐、下痢、便秘、排尿障害、陰萎、発汗異常など

MIBG 心筋シンチグラフィーにおける心取り込みの低下、レーザードプラ皮膚血流検査、発汗機能検査、R-R 間隔検査(心拍数変動検査)、シェロング試験、胃電図など

腱・靭帯アミロイドーシスによるもの

手根管症候群症状(手のしびれ、疼痛)

神経伝導検査における手根管部の伝導遅延

心アミロイドーシスによるもの

心不全症状(息切れ、浮腫)、眩暈や失神

心房細動、刺激伝導系障害(房室ブロック、脚ブロック、心室内伝導障害)、心室性不整脈、肢誘導低電位、胸部誘導 QS パターン(V1-3)
心室壁肥厚(右心室も含む)、心房中隔肥厚、著しい心室拡張能障害、心室のエコー輝度亢進(granular sparkling appearance)、心膜液貯留、弁肥厚、左室基部の longitudinal strain 低下(apical sparing)
血中 BNP/NT-proBNP 高値、血中心筋トロポニン T/I 高値心臓 MRI における左室心内膜下のびまん性遅延造影、T1 マッピングにおける native T1 遅延、ECV 上昇

腎アミロイドーシスによるもの

浮腫、体重増加

蛋白尿など

眼アミロイドーシスによるもの

ドライアイ、硝子体混濁、緑内障、瞳孔の不整など

眼圧の上昇など

中枢神経アミロイドーシスによるもの

一過性中枢神経症状(TFNE)、意識障害、脳出血など

頭部、脊椎造影 MRI における髄膜造影、微小出血を含めた脳出血など

その他の臓器アミロイドーシスによるもの

低血糖発作、甲状腺機能低下症状など

  

*末梢神経型が最も多く、次いで心臓型が多い。


(注 1)腹壁脂肪吸引、消化管生検、皮膚生検、口唇生検、神経生検、心筋生検などで認める。消化管粘膜下層の血管壁にアミロイド沈着を認める場合が多いため、消化管生検は粘膜下層まで採取することが望ましい。複数臓器部位の複数箇所で生検を繰り返し行うことで、アミロイド沈着の検出率を高めることが期待できる。

(注 2)免疫染色により ATTR (+)、 Alκ (-)、 Alλ (-)、 AA (-)を確認すること、もしくは、質量分析法(LMD-LC- MS/MS)でアミロイド原因蛋白を確認する。自施設での実施が困難な場合は、「アミロイドーシスに関する調査研究班(http://amyloidosis-research-committee.jp/)」に解析依頼が可能である。

(注 3)3時間後撮影正面プラナー画像を用いた視覚的評価法(Grade 0 心臓への集積なし、Grade 1 肋骨よりも弱い心臓への軽度集積、Grade 2 肋骨と同等の心臓への中等度集積、Grade 3 肋骨よりも強い心臓への高度集積:Grade 2 以上を陽性とする)、あるいは1時間後撮影画像の定量的評価法(heart-to-contralateral [H/CL]比:1.5 以上を陽性とする)等により評価する。



4.遺伝性全身性アミロイドーシス(ATTRv を除く)診断基準
注:遺伝性トランスサイレチンアミロイドーシスを除く

疾患概念
ゲルソリン(GSN)、アポリポ蛋白(A-I (APOA1)、A-II (APOA2)、C-II (APOC2)、C-III (APOC3) )、リゾチーム(LYZ)、フィブリノーゲン(FGA)、シスタチンC(CST3)、β 2-ミクログロブリン(B2M)、プリオン蛋白(PRNP)などの遺伝子変異が原因となり、これらの遺伝子産物などを前駆蛋白とするアミロイドが組織の細胞外へ沈着することで、神経、腎臓、心臓、皮膚など諸臓器の障害を生じる稀な遺伝性疾患である。単一臓器に生じる限局性アミロイドーシスは含めない。



遺伝性全身性アミロイドーシスの診断基準
Definite を対象とする。


A. 臨床症候及び検査所見
遺伝性全身性アミロイドーシスによると考えられる臨床症候を認める(表1)。


B. 病理検査所見
組織生検でコンゴーレッド染色陽性、偏光顕微鏡下にアップルグリーン色の複屈折を呈するアミロイド沈着を認める(注 1)。

C. アミロイドタイピング
アミロイドを構成する蛋白が同定され、その結果が遺伝学的検査の結果と一致する(注 2)。


D. 遺伝学的検査
遺伝学的検査で本症の原因として報告されている遺伝子に変異を認める(注 3)。


E. 鑑別診断
AL、 ATTR、 AA アミロイドーシスが除外できる(注 4)。



〈診断のカテゴリー〉
Definite: A+B+C+D+E を満たす。



(表 1)各疾患でこれまで報告されている主要な臨床症候は以下の通りである。
① 遺伝性ゲルソリンアミロイドーシス

項目

臨床症候

眼アミロイドーシスによるもの

角膜格子状変性、緑内障

脳神経アミロイドーシスによるもの

両側性顔面神経麻痺、三叉神経障害(角膜反射消失、顔面感覚低下)、難聴、嗅覚低下、舌下神経障害(舌萎縮、舌線維束 収縮)、構音障害、嚥下障害、外眼筋麻痺など

舌アミロイドーシスによるもの

巨舌、舌萎縮、舌線維束収縮

皮膚アミロイドーシスによるもの

皮膚弛緩症、アミロイド苔癬、発汗障害

末梢神経アミロイドーシスによるもの

四肢末梢に手袋・靴下型の異常感覚、アキレス腱反射の消失、振動覚、位置覚の低下など

自律神経アミロイドーシスによるもの

起立性低血圧、発汗障害

腱・靭帯アミロイドーシスによるもの

手根管症候群

腎アミロイドーシスによるもの

蛋白尿、ネフローゼ症候群、腎不全

心アミロイドーシスによるもの

刺激伝導系障害

② 遺伝性アポリポ蛋白 A-I アミロイドーシス

項目

臨床症候

心アミロイドーシスによるもの

心不全

腎アミロイドーシスによるもの

腎不全(尿蛋白は稀)

肝・脾臓アミロイドーシスによるもの

肝脾腫

咽頭アミロイドーシスによるもの

嚥下違和感

末梢神経症候

感覚障害

③ 遺伝性アポリポ蛋白 A-II アミロイドーシス

項目

臨床症候

腎アミロイドーシスによるもの

ネフローゼ症候群、腎不全

④ 遺伝性アポリポ蛋白 C-II アミロイドーシス

項目

臨床症候

腎アミロイドーシスによるもの

ネフローゼ症候群、腎不全

⑤ 遺伝性アポリポ蛋白 C-III アミロイドーシス

項目

臨床症候

腎アミロイドーシスによるもの

ネフローゼ症候群、腎不全

口腔内アミロイドーシスによるもの

口腔乾燥症

⑥ 遺伝性リゾチームアミロイドーシス

項目

臨床症候

腎アミロイドーシスによるもの

ネフローゼ症候群、腎不全

⑦ 遺伝性フィブリノーゲンアミロイドーシス

項目

臨床症候

腎アミロイドーシスによるもの

ネフローゼ症候群、腎不全

末梢神経アミロイドーシスによるもの

感覚障害

皮膚アミロイドーシスによるもの

点状出血

⑧ 遺伝性シスタチンC アミロイドーシス

項目

臨床症候

中枢神経アミロイドーシスによるもの

脳出血


⑨ 遺伝性β 2-ミクログロブリンアミロイドーシス

項目

臨床症候

末梢神経アミロイドーシスによるもの

感覚障害

自律神経アミロイドーシスによるもの

交代性下痢・便秘、起立性低血圧

⑩ 遺伝性全身性PrP アミロイドーシス

項目

臨床症候

末梢神経アミロイドーシスによるもの

感覚障害

自律神経アミロイドーシスによるもの

下痢・便秘、起立性低血圧

中枢神経アミロイドーシスによるもの

認知機能低下、けいれん発作

(注 1)機能障害を認める臓器(神経、腎臓、心臓など)から生検することが困難な場合は、腹壁脂肪吸引、消化管生検、皮膚生検、口唇生検などでアミロイド沈着の検出を試みる。消化管粘膜下層の血管壁にアミロイド沈着を認める場合が多いため、消化管生検は粘膜下層まで採取することが望ましい。複数臓器部位の複数箇所で 生検を繰り返し行うことで、アミロイド沈着の検出率を高めることが期待できる。

(注 2)免疫染色によりアミロイドが原因蛋白(ゲルソリン、アポリポ蛋白(A-I、A-II、C-II、C-III)、リゾチーム、フィブリノーゲン、シスタチンC、β 2-ミクログロブリン)陽性となることを確認する。もしくは、質量分析法(LMD-LC- MS/MS)でアミロイド原因蛋白を確認する。自施設での実施が困難な場合は、「アミロイドーシスに関する調査研究班(http://amyloidosis-research-committee.jp/)」に解析依頼が可能である。

(注 3)ゲルソリン(GSN)、アポリポ蛋白(A-I (APOA1)、A-II (APOA2)、C-II (APOC2)、C-III (APOC3) )、リゾチーム(LYZ)、フィブリノーゲン(FGA)、シスタチンC(CST3)、β 2-ミクログロブリン(B2M)、プリオン蛋白(PRNP)などに、本症の原因と考えられるアミノ酸の変化を伴う遺伝子変異を認める。

(注 4)免疫染色もしくは質量分析法(LMD-LC-MS/MS)で ATTR (-)、 Alκ (-)、 Alλ (-)、 AA (-)を確認する。

<重症度分類>
2度以上を対象とする。
 

1度

組織学的にアミロイド沈着が確認される又はアミロイド沈着を疑わせる検査所見があるが、アミロイド沈着による明らかな臓器機能障害を認めない。

2度

組織学的にアミロイド沈着が確認される又はアミロイド沈着を疑わせる検査所見があり、かつ、アミロイド沈着による軽度の臓器機能障害を単一臓器に認める。

3度

組織学的にアミロイド沈着が確認される又はアミロイド沈着を疑わせる検査所見があり、かつ、アミロイド沈着による複数の臓器機能障害を認める。

4度

組織学的にアミロイド沈着が確認され、かつ、アミロイド沈着による中等度以上の臓器機能障害を単一又は複数の部位に認める。

5度

組織学的にアミロイド沈着が確認され、かつ、アミロイド沈着による重度の臓器機能障害を複数の部位に認める。

注1:アミロイド沈着を確認された部位は、臓器障害を認める部位と必ずしも一致する必要はない。
注2:臓器障害は、神経、心臓、腎臓、消化管、呼吸器、泌尿器、眼、骨・関節、内分泌など。
 
 
※診断基準及び重症度分類の適応における留意事項
1.病名診断に用いる臨床症状、検査所見等に関して、診断基準上に特段の規定がない場合には、いずれの時期のものを用いても差し支えない(ただし、当該疾病の経過を示す臨床症状等であって、確認可能なものに限る。)。
2.治療開始後における重症度分類については、適切な医学的管理の下で治療が行われている状態であって、直近6か月間で最も悪い状態を医師が判断することとする。
3.なお、症状の程度が上記の重症度分類等で一定以上に該当しない者であるが、高額な医療を継続することが必要なものについては、医療費助成の対象とする。
 

令和6年4月1日

情報提供者
研究班名 アミロイドーシスに関する調査研究班
研究班名簿 研究班ホームページ
情報更新日 令和6年4月(名簿更新:令和5年6月)