進行性腎障害に関する調査研究

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1. 研究班の紹介

<班名>    厚生労働省難治性疾患克服事業 進行性腎障害調査研究班
<班長>    松尾清一(名古屋大学大学院医学系研究科腎臓内科学)
<対象疾患>    IgA腎症、急速進行性糸球体腎炎(RPGN)、難治性ネフローゼ症候群、多発性嚢胞腎
<目的>    上記4疾患について、新規治療法の可能性を検討する臨床研究を行うとともに、疫学データ(有病率、治療内容、予後など)を疾患登録による追跡研究を実施することにより把握し対策に役立てる。また、エビデンス(科学的な根拠)をもとにした診療指針を作成することも目的としている。

2. これまでの主な研究成果の概要

A) 疫学研究(福島県立医大・渡辺毅): (1)2008年度の新規受療患者数を推計した。IgA腎症=5,200~6,300例、RPGN=1,500~1,800例、難治性ネフローゼ=1,000~1,200例、多発性嚢胞腎=1,000~1,200例であった。(2)2008年度における腎生検数の推計を行い、17,000~20,000件と推計された。

B) 疾患登録(金沢医大・横山仁、長崎大・田口久): (1)腎生検を行った患者のウエブ登録を開始し、2009年末までに6476名が登録された。横断的な分析が開始され、疾患別、年代別、性別などの基本情報の把握が可能になった。(2)疾患ごとの前向き観察研究のシステムが構築され、運用を開始した。

C) IgA腎症(順天堂大・冨野康比古、慈恵医大・川村哲也、仙台社保病院・城謙輔): (1)病理学的および臨床的重症度分類を加味した透析導入リスクの層別化(低・中等・高・超高リスク群)を行い、新たな予後分類として提示した。(2)この新しい予後分類を検証するための前向き観察研究を開始した。(3)我が国独自の治療である扁桃摘出+ステロイドパルス療法の効果に関する臨床研究を推進中である。

D) 急速進行性糸球体腎炎(筑波大・山縣邦弘、岡山大・槇野博史): (1)ウエブを利用したRPGNの疾患登録システム(JRPGN-CS)を構築し、運用を開始した。

E) 難治性ネフローゼ(名古屋大・今井圓裕、産業医大・斉藤喬雄): (1)ネフローゼ症候群患者のウエブ疾患登録による前向き観察研究(JNSCS)を開始した。(2)プレドニソロン(PSN)とシクロスポリン(CyA)併用における、CyA一括投与と分割投与の優位性を比較し、一括投与群で完全寛解率が多いことが明らかになった。

F) 多発性嚢胞腎(帝京大・堀江重郎、杏林大・奴田原紀久夫): (1)疾患登録前向き観察研究システムであるJ-PKDを構築し疾患登録を開始した。(2)腎容積と腎機能の関係を研究し両者が逆相関の関係にあることを後方視的研究で明らかにした。

3. 研究班としてトピックス的な話題など

A) 腎機能の評価方法について
(ア) 腎機能をGFR(糸球体濾過値または濾過量)で表わすことが世界的な標準になっています。
(イ) GFRは年齢、性別、血清クレアチニン値(血液検査で簡便にできます)の三つから、推算式を用いて計算できます。
(ウ) この推算式は 日本腎臓学会が作成したものですが、この式を用いて多くの施設で血清クレアチニン値を測定すると、自動的にGFRを計算してくれます。ぜひ自分の腎機能(GFR)がいくつであるか知っておきましょう。
(エ) 健康な人でも腎機能は加齢により徐々に悪くなります。GFR正常値は90以上ですが、腎臓専門医受診の目安は70歳以下の方では50未満、70歳以上の方では40未満です。主治医と相談して早めの腎臓専門医受診をおすすめします。
(オ) 蛋白尿が持続することも将来腎機能が低下することを示唆する重要な所見です。早めに腎臓専門医に相談しましょう。

B) 検診で血尿や蛋白尿があると言われたら
(ア) 蛋白尿が0.5g/日以上(または検尿試験紙で蛋白++以上、が)持続する場合や、蛋白尿と血尿が同時に存在するばあいには、慢性腎炎の可能性が高いです。
(イ) 慢性腎炎はいくつかの病型に分かれて治療法が異なります。
(ウ) 慢性腎炎が疑われた場合には、腎生検という検査をして病型を確かめる必要があります。腎生検により確定診断ができると有効な治療法が選択できます。
(エ) かかりつけ医の先生とよく相談をして、早めに腎臓専門医を受診しましょう。

C) 本研究班では対象としている4つの進行性腎障害にたいして的確な治療法を選択できるようにするために、実態を調査し前向きに追跡することによって必要なデータの蓄積をすることにしています。それには患者の皆様のご理解と同意が必要です。主治医の先生からお話がありましたらご協力のほど、よろしくお願いいたします。