皮膚疾患分野|発汗異常症・色素異常症(平成24年度)

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1. 概要

発汗異常症・色素異常症は、ともに致死的疾患ではないが仕事、勉強効率の低下、対人関係への支障など精神的苦痛を受けQOLを著しく低下させる疾患だが既存の班会議がない。発汗異常症は、多汗症と無汗症に分類。原発性局所多汗症は、原因不明で局所の発汗過剰を認める疾患である。難一方、無汗症は無汗のため、高温の環境下において容易に熱中症を発症し発熱、脱力感さらには意識障害など重篤な症状が出現することもある。発汗異常症の重症度基準、診療ガイドラインも策定した。原発性掌蹠多汗症患者では前頭葉の血流増加、遺伝子異常を解明。現在、既存の治療法に関してEBMの高い臨床研究を試行中。今後、発汗異常症の重症度に応じた治療法の確立、病態を系統的に解明して新規治療法を開発する予定である。一方、色素異常症では先天性白皮症が1748名/年間新患数である希少疾患であることを明らかにした。遺伝性色素異常症の中で、高い疾患として、1.眼皮膚白皮症(症候性型、および非症候性型)、2.まだら症、3.ワールデンブルグ症候群、4.遺伝性対側性色素異常症を対象疾患としする。現在、いずれの疾患も有効な治療法は確立されていない。1、3では、種々の重篤な合併症を伴うため、早期に診断を下し、合併症の早期発見治療が急務である。そこで全国的な疫学調査を行い、実態を十分把握する。特に今回は、白斑・白皮症研究班で研究開発した遺伝性色素異常症への新規薬剤の臨床研究、患者のQOLを著しく損なう皮膚症状のみならず眼科的合併症の頻度や視力低下についても眼科医の参加により、詳細に検討する。その上で、実践的な生活指導・治療ガイドラインを作成し、診断と治療法の確立し、患者と家族のQOLの向上を目指す。一方で遺伝子改変マウスを確立した治療実験、新規治療法を確立し、最終的には臨床応用を目指す。発汗異常症・色素異常症班は腎臓内科、神経内科、精神科、小児科、眼科、生理学との多くの科の共同研究で横断的に系統的に解析できる点で本研究は独創的で有意義な研究であるといえる。

2. 疫学

治疾患克服事業の全国的な疫学調査にて掌蹠多汗症のうち常時、耐えがたい苦痛を感じ保存的治療法に抵抗する難治性重症原発性掌蹠多汗症が4.5万人存在する希少性疾患であること48%の労働生産性が損失することが判明。特発性後天性全身性無汗症は研究班にて過去5年間に全国で145症例のみと希少疾患である。先天性白斑の推定患者数は、48,000 人であり、内訳は眼皮白皮症の推定患者数5,300人、結節性硬化症の推定患者数17,000人、後天性白斑の推定患者数176,000人、尋常性白斑の推定患者数153,000人。

3. 原因

原発性多汗症:責任部位としては前頭葉、海馬、扁桃核ともいわれるがまだ解明されてはいない。責任病巣について脳血流シンチ(SPECT)を用いて解析する。無汗症の一疾患であるidiopathic pure sudomtor fairlure (IPSF)は血中のIgEが高値で全身性ステロイド投与により軽快することが知られているため、エクリン汗腺のアセチルコリン受容体に対する自己免疫疾患である可能性が推測されている。
尋常性白斑の病因としては自己免疫説、自己細胞障害説、末梢神経異常説等が唱えられているが、不明な点も多い。最近では、自己免疫性白斑の疾患感受性遺伝子に注目が集まっており、その解析が進められている。先天性・遺伝性の白斑・白皮症に関しては、眼皮白皮症では一部の症例については病因遺伝子が明らかにされているが、メラニン色素合成の調節機序については未だ多くの点が未知である。結節性硬化症では原因遺伝子TSC1、TSC2の同定はされているが、色素異常の発現に関わる病態は不明である。

4. 症状

原発性多汗症:幼少児期ないし思春期ころに発症し、手掌、足底は精神的緊張により多量の発汗を認める病的状態である。症状の重い例では時にしたたり落ちる程の多汗がみられ、手、足は絶えず湿って指先が冷たく、紫色調を帯びていることがある。腋窩は精神性発汗と温熱性発汗の共存する特殊な環境下にあり、左右対称性に腋窩の多汗がみられ、下着やシャツにしみができる程である。無汗症は発汗の欠如のため、皮膚は常時乾燥し、時には痛みを伴いコリン性蕁麻疹を発症することもある。無汗症の最も大きな問題点は無汗のため、高温の環境下において容易に熱中症を発症し発熱、脱力感、疲労感、めまい、動悸さらには意識障害など重篤な症状が出現することもあるため、夏には外出できなくなるなどの生活の制限がありQOLが著しく損なわれる疾患である。白斑、白皮症:全身性あるいは限局性の白斑・白皮症。白毛。弱視、視力障害。

5. 合併症

原発性多汗症:うつ病
無汗症:熱中症、コリン性蕁麻疹
ワーデンベルグ症候群では感音性難聴を、シェディアックーヒガシ症候群では免疫不全を、ヘルマンスキーパドラック症候群では間質性肺炎、出血傾向などを認める。結節性硬化症では、心横紋筋腫、脳腫瘍、精神運動発達遅滞、てんかん、自閉症、皮膚腫瘍、腎嚢腫や腎血管筋脂肪腫、肺病変、消化管腫瘍、骨病変などを認める。伊藤白斑では精神発達遅滞、小脳性運動失調などの神経症状、小頭症、骨筋症状に加えて眼症状を認める。後天性の尋常性白斑では自己免疫性の甲状腺炎、シェーグレン症候群などの自己免疫疾患、自己炎症性疾患の合併が見られ、NALP1遺伝子との関連性が報告されている。

6. 治療法

原発性多汗症:塩化アルミニウム液外用療法、イオントフォレーシス、ボツリヌス毒素局所注射療法、内視鏡的交感神経遮断術、抗うつ薬など内服療法
無汗症:ステロイドパルス療法、ステロイド内服療法、免疫抑制剤
尋常性白斑に対しては、ステロイド外用、カモフラージュ、活性型ビタミンD3軟膏、タクロリムス軟膏外用、ナローバンドUVB、外用PUVAさらには種々の植皮術、エキシマレーザ、内服、PUVA 等が施行されるが何れも確立された確実な治療法ではな区、長期安全性も確立されていない。

7. 研究班

特発性発汗異常症・色素異常症の病態解析と新規治療薬開発に向けた戦略的研究班