皮膚疾患分野|水疱性類天疱瘡(平成24年度)

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1. 概要

水疱性類天疱瘡は表皮基底膜部抗原(ヘミデスモソーム構成蛋白であるBP180とBP230)に対する自己抗体(IgG)の関与により、表皮下水疱を生じる自己免疫性水疱症の代表的疾患である。臨床的には、皮膚に多発するそう痒性紅斑と緊満性水疱を特徴とする。通常、ニコルスキー現象は陰性で、口腔内病変を生じる場合もある。水疱性類天疱瘡の診断には、臨床症状、病理組織学的所見、蛍光抗体法、免疫ブロット法、ELISAが用いられる。その他、特殊な病型として、限局性類天疱瘡、小水疱性類天疱瘡、結節型類天疱瘡、増殖性類天疱瘡などが知られている。またその他の類天疱瘡の疾患群として、粘膜類天疱瘡、後天性表皮水疱症、抗ラミニンガンマ1類天疱瘡などがある。

2. 疫学

最も頻度の高い自己免疫性水疱症で、年齢的には60-90歳の高齢者に多く、近年の高齢化に伴い増加している。まれに小児例もある。性差はない。(正確な統計はないが天疱瘡の約3-5倍と推定される。約15,000-20,000人)。

3. 原因

IgG抗表皮基底膜部抗体による自己免疫性疾患である。BP180は膜通過蛋白、BP230は細胞内接着板蛋白であり、抗BP230抗体には直接水疱を誘導する病原性はなく、抗BP180抗体が病原性を有すると考えられている。主にBP180のNC16a部位(基底細胞の下面細胞膜に最も近い細胞外部位)に存在するエピトープに対する抗体が病原性を有すると考えられている。活動期の患者の85%-90%がBP180のNC16a部位のリコンビナント蛋白に反応する。その他の類天疱瘡の疾患群として、粘膜類天疱瘡ではBP180C末端部またはラミニン332に、後天性表皮水疱症ではVII型コラーゲンに対する自己抗体を有する。

4. 症状

水疱性類天疱瘡は高齢者に好発し、全身の皮膚に多発する瘙痒を伴う浮腫性紅斑や大型の緊満性水疱・びらんを特徴とし、時に粘膜病変を認めることがある。通常、ニコルスキー現象は陰性である。粘膜類天疱瘡では、口腔内,眼粘膜にびらんを生じ瘢痕を残し、時に眼瞼粘膜や喉頭粘膜の癒着により失明や呼吸困難をきたす。抗ラミニン332型粘膜類天疱瘡では慢性に経過する眼瞼・口腔粘膜病変を呈するほか、胃癌を中心とした内臓癌を合併することがしばしば報告されており、その精査を要する。ジューリング疱疹状皮膚炎では、環状配列する小水疱を生じ、肘、膝、殿部に好発する。後天性表皮水疱症では、主として外力に当たる部位に難治性の水疱を形成し、治癒後に瘢痕と稗粒腫の形成をみる。抗ラミニンガンマ1類天疱瘡は、尋常性乾癬に合併する場合と小水疱型類天疱瘡の臨床症状を呈することが多い。

5. 合併症

全身に水疱やびらんが多発して、分泌液と血清蛋白の持続的漏出を伴い低蛋白血症に陥る可能性があり、広範な熱傷に類似する臨床像を呈し厳重な全身管理を要することがある。さらに、免疫抑制療法もあいまって、全身のびらんより細菌感染を起こし、敗血症およびDIC を併発することがある。高齢者に好発するため、ステロイド内服の副作用としての合併症がおきやすい。また水疱性類天疱瘡の患者では内臓悪性腫瘍の合併頻度が高いが、明確な関連性は不明である。

6. 治療法

治療はステロイド内服が主体であるが、軽症例では、ロキシスロマイシン内服療法またはテトラサイクリン(あるいはミノサイクリン)とニコチン酸アミドの併用内服療法やDDSが奏功することがある。中等症または重症例では、これらの併用内服と少量のステロイド内服(20~30mg/日程度)の追加でコントロールできることが多い。また難治例ではステロイドパルス療法、各種免疫抑制剤、血漿交換療法、大量ガンマグロブリン静注療法などを併用する。国外ではリツキシマブ(抗CD20抗体)も用いられている。

7. 研究班

皮膚の遺伝関連性希少難治性疾患群の網羅的研究