その他の分野|ヒトTリンパ向性ウイルス1型(HTLV-1)感染に関連する、成人T細胞白血病(ATL)・脊髄症(HAM)以外の希少疾患(平成24年度)

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1. 概要

ヒトTリンパ向性ウイルス1型(HTLV-1)は成人T細胞白血病(ATL)やHTLV-1関連脊髄症(HAM)の原因であるが、ATL、HAM以外にもぶどう膜炎、関節炎、膠原病、慢性肺疾患、慢性皮膚疾患など種々の慢性炎症疾患との関連が示唆されている。ぶどう膜炎については(HTLV-1関連ぶどう膜炎、HU)として確立されているが、関節炎、シェーグレン症候群の様な膠原病、慢性気管支炎や肺胞隔炎の様な慢性炎症性肺疾患、紅皮症や乾癬のような慢性皮膚疾患についてはHTLV-1感染がどのような機序で病気を引き起こしうるのか、また予後や治療反応性がHTLV-1陰性の患者と異なるのか否か等については不明である。さらにこれらの慢性炎症性疾患を有する患者においてATL、HAMの発症率が異なるのかについても不明であり、重要な疑問である。このようにHTLV-1感染と慢性炎症性疾患の関連についてはいまだ解明されていない点が多く、検討が必要である。

2. 疫学

本邦におけるHTLV-1感染者(無症候性キャリア)は、2007年の全国調査では約108万人と推定されている。年間のATL発症者は7000人程度、HAM、HUはそれ以下の頻度であると推定されている。しかしHTLV-1感染に関連した関節炎、膠原病、慢性肺疾患、慢性皮膚疾患など種々の慢性炎症疾患の正確な頻度は不明である。シェーグレン症候群についての長崎県における調査では患者の25%がHTLV-1陽性であり、陽性率が一般健康人に比して著しく高いことが判明している。

3. 原因

HTLV-1はリンパ球に感染するウイルスであり、感染リンパ球の増殖や表面抗原の変化、遺伝子異常やサイトカインの異常を促すことが判明している。関節炎、膠原病、慢性肺疾患、慢性皮膚疾患などの慢性炎症疾患においては免疫異常が基礎としてあることが推定されており、HTLV-1感染リンパ球が病態に影響を与えることは充分に考えられる。しかしその詳細は依然不明である。

4. 症状

HUにおいては霧視などぶどう膜炎の症状がある。HTLV-1陽性の関節炎、膠原病、慢性肺疾患、慢性皮膚疾患患者においてHTLV-1陰性の患者と異なった症状があるか否かについては不明であるが、いくつかの研究においてシェーグレン症候群や関節炎において症状や臨床経過が異なるのではないかと報告されている。

5. 合併症

HTLV-1陽性の関節炎、膠原病、慢性肺疾患、慢性皮膚疾患患者においてHTLV-1陰性の患者と異なった合併症があるか否かについては不明である。重要な疑問としてこれら疾患を有するHTLV-1感染者ではATLやHAMの発症率が高いのかどうかということがあり、検討が必要である。HUに関しては甲状腺疾患の合併の報告がある。

6. 治療法

現在のところHTLV-1陽性の関節炎、膠原病、慢性肺疾患、慢性皮膚疾患患者においてHTLV-1陰性の患者と異なった治療法は提唱されていない。しかしこれらの疾患にしばしば用いられる免疫抑制剤がATLやHAMの発症率に影響を与えないかどうかということについては検討を要する課題である。

7. 研究班

HTLV-1感染に関連する非ATL非HAM希少疾患の実態把握と病態解明研究班