神経系疾患分野|肥厚性硬膜炎(平成24年度)

ひこうせいこうまくえん
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1. 概要

肥厚性硬膜炎は、脳、脊髄硬膜の部分的またはびまん性の肥厚により、硬膜の肥厚部位に応じて頭痛、うっ血乳頭、脳神経麻痺、小脳失調、対麻痺などの神経症状を呈する。診断にはMRIが非常に有用であり、肥厚硬膜を認めることで診断可能となる場合が多い。再発寛解を繰り返す場合があり、その経過を年単位で長期的に観察する必要がある。

2. 疫学

平均発症年齢は58.7±16.0歳であった。発症形式は亜急性が多く、経過は再発寛解型が最も多かった。性別では男:女は1.2:1であり、特発性、続発性にも性差はなかった。

3. 原因

原因不明の特発性と、続発性に分類される。続発性の場合、ANCA関連血管炎、ウェゲナー肉芽腫やサルコイドーシスなどの炎症性疾患や、細菌、真菌、結核などの感染、多臓器線維症などが原因として考えられている。また、近年では生検硬膜組織からIgG4陽性の形質細胞を認める例もあり、IgG4関連疾患との関係も示唆されている。

4. 症状

神経学的所見としては、初発症状として頭痛をもっとも多く認める。そのほか脳神経症状として、視力障害や複視が多くみられた。経過中には、硬膜肥厚に起因する意識障害、けいれん発作や、その他脊髄硬膜の肥厚による神経根や脊髄の圧迫からおこる、神経根症状や脊髄症状(神経根に一致したしびれや感覚障害、筋力低下、失調症状、膀胱直腸障害など)を認める。

5. 合併症

中耳炎や副鼻腔炎などの耳鼻科系疾患の合併も多く認める。その他、眼窩偽腫瘍、後腹膜線維症、硬化性胆管炎の合併が報告されている。

6. 治療法

続発性の場合は、原疾患の治療が重要となる。細菌、真菌や結核菌が原因の場合、抗生剤や抗真菌薬、抗結核薬を使用する。私たちの調査の結果、特発性や血管炎などの炎症性疾患に続発する場合、第一選択として副腎皮質ステロイド療法が行なわれることが多いことが判明した。大量静注療法を行った後に経口維持療法を行うが、不十分な改善しか認めず、減量に伴い再発を繰り返す事もある。ステロイド薬の効果が不十分な場合、免疫抑制剤の併用が有効であることもある。
また、外科的治療としてシャント術や、肥厚硬膜による圧迫の除圧目的に肥厚硬膜の切除が施行される。もっとも効果があったのは、肥厚硬膜摘出術であった。また、放射線療法も試みられる場合もあるが、その有用性は明らかではない。

7. 研究班

肥厚性硬膜炎の診断基準作成とそれに基づいた臨床疫学調査の実施ならびに診療指針の確立に関する研究班