(11)整形外科疾患|骨パジェット病(平成24年度)

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1. 概要

局所で、異常に亢進した骨吸収とそれに引き続く過剰な骨形成(骨リモデリングの異常)が生ずる結果、骨微細構造の変化と骨の形態的な腫大・変形とそれに伴う局所骨強度の低下を来す疾患である。

2. 疫学

欧米での高い有病率であるのに比較して、アジアではその有病率は極めてきわめて低い。2002年から2003年にかけて行われた本邦での調査では全年齢での人口比で100万人に2.3名の有病率で、日本で数百名程度の患者数であった。その90%以上が45歳以上、24歳以下の症例はこの調査ではとらえられなかった。また本邦での家族集積性は6.3%で、欧米の15-40%に比較して少ないことも明らかとなっている。したがって、本邦で成長期より症状を呈する若年性の骨パジェット病はきわめて稀であるといえる。しかし、稀なゆえに診断に至っていない可能性も考えられ、本研究班によりその実態が明らかになることが望まれる。

3. 原因

高齢者に発症する通常の散発性の骨パジェット病の一部で、また家族性発症骨パジェット病の多くの例で破骨細胞の働きが活性化される結果となるさまざまの遺伝子の変異が確認されている。また、家族性や若年性骨パジェット病では全身多骨性の患者が多くより重症の病型である。さらに若年性骨パジェット病では、筋障害とデメンチアを伴う症候性の骨パジェット病もあり、また家族性筋委縮性側索硬化症で骨パジェット病の遺伝子異常が確認される例もある。

4. 症状

罹患骨の疼痛と変形が主な症状であり、頭蓋骨、顎骨、鎖骨など目立つ部位の腫脹・肥大や大腿骨の彎曲がみられる。四肢の罹患骨は骨折を、顎骨の変形はかみ合わせの異常や開口障害などの歯科的な障害、頭蓋骨の肥厚・肥大は難聴、視力障害、脊柱の肥大は脊柱管狭窄症などの神経学的な障害を来す原因となる。若年性、症候性の骨パジェット病は多骨性あるいは全身性で骨の変形も強く、高齢者に散発性に生ずる骨パジェット病に比較して変形や機能障害が強い。症候性のものに関しては骨変形に伴う機能障害に加えて他の症状を重複する点でより支障は大きい。

5. 合併症

罹患骨から骨肉腫や骨原発悪性線維性組織球腫MFHなどの悪性腫瘍の発生がある(本邦の調査では1.8%)。

6. 治療法

本邦では、リセドロネート、エチドロネート、カルシトニンが治療薬として認可されているが、第一選択薬はリセドロネート17.5mg/日×56日間投与であり、血清骨型アルカリホスファターゼ値を下げ、骨の疼痛を軽減する効果が得られる。

7. 研究班

重症骨系統疾患の予後改善に向けての集学的研究
遺伝性、家族性に若年者に生ずる骨パジェット病に関する疫学的情報、あるいは成長期からどのような骨変形や機能障害をきたすのかに関する情報は世界的にも乏しく、本邦では全くない。若年で全身の骨変形や高ALP血症がみられる例で骨パジェット病の可能性はないか、あるいは筋障害やデメンチア、あるいは筋委縮性側索硬化症がみられる例で骨の変形や高ALP血症が合併していないかという観点での調査を行う。全身の骨変形やさまざまな症候性の病態で苦しむ患者の骨病変が患者の機能に与える負の影響、それに対しての治療介入の有用性の有無が、本研究班により明らかとなることで、このような患者の機能改善に寄与できると考える。