眼科疾患分野|加齢黄斑変性(平成23年度)

かれいおうはんへんせい
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1. 概要

網膜は眼の中の奥にありカメラのフィルムに相当する組織です。カメラのフィルムとは異なり、中心部分ではよく見えますが、周辺ではあまり良い視力が得られないという特徴があります。網膜の中心の直径6mmの範囲は黄斑とよばれ、物を見るときに最も良い視力が出るところで、この部で文字を読んだり、色の判別を行っています。この黄斑が年齢を重ねて(加齢)さまざまな異常をきたしてくる病気が加齢黄斑変性です。加齢黄斑変性は滲出型と萎縮型があります。萎縮型は徐々に組織が痛んで弱っていくタイプで、黄斑に地図状の萎縮病巣ができます。視力も急には落ちず、ゆっくりと低下しますが、現在のところ有効な治療法がありません。もう一つのタイプである滲出型は脈絡膜新生血管という異常な血管が網膜の下に生じ、そこから水がにじみ出てきたり(滲出)、出血を生じたりして黄斑に障害が生じるタイプです。急激に進行して、著しく視力が低下しますが、いくつかの治療方法があります。

2. 疫学

日本では社会の高齢化と生活様式の欧米化にともなって、この病気は増加傾向がみられるとされています。九州の福岡県の久山町の住民を対象にして、1998年に行われた研究では、50歳以上の住民の0.87%に少なくとも1眼に加齢黄斑変性がみられました。日本全体の人口に換算すると 約37万人と推定されます。このうち、滲出型が0.67%でした。9年後に行われた再調査では加齢黄斑変性は1.3%(その内、滲出型は1.2%)にみられました。日本全体では、加齢黄斑変性の推定患者数は69万人であり、9年間で約2倍に増加していると推定されます。
高齢者にみられる病気ですが、高齢になればなるほど多くみられます。男女で比較すると女性に比べ男性で約3倍多くみられます。また、喫煙は危険因子であると考えられています。

3. 原因

網膜の外側にある脈絡膜という組織から脈絡膜新生血管という異常な血管が網膜の下に発育してくることによって、この病気は生じますが、脈絡膜新生血管が生じる詳しいメカニズムはわかっていません。網膜の一部である網膜色素上皮と脈絡膜の間にブルッフ膜という膜があり、老化に伴って沈着物の貯まり厚くなり、栄養や酸素を脈絡膜から網膜に十分に送ることができなくなると、血管内皮増殖因子(VEGF)という因子が分泌され、新生血管が生じると考えられています。この新生血管は正常の血管とは異なり、血液中の水分が漏れ出し黄斑に腫れを起こしたり、破れて出血を起こしたりします。それにより網膜の機能が傷害され視力が低下します。加齢黄斑変性の起こりやすりさには、喫煙、食習慣に加えて、遺伝的要因も関係あることが指摘されています。

4. 症状

網膜の中心部である黄斑が傷害されますので、まず視野の真ん中すなわち最も見ようとするところに症状がでます。物がゆがんで見えたり、小さく見えたり、暗く見えたりします。その後に視力が低下しますが、視力の低下の速さは人により異なり、ゆっくりと進行する人もありますし、急に視力が低下する場合もあります。このように視力の低下は生じますが、ほとんどの場合に痛みなどは感じません。また、片眼のみに生じた場合には、その眼の視力が低下しても気づきにくいこともあります。

5. 合併症

網膜の下に大量の出血を生じると網膜剥離となり、ほぼ完全な失明になることがあります。加齢黄斑変性は眼の病気であり、全身の合併症はないと考えられています。

6. 治療法

滲出型にはいくつかの治療法があります。新生血管を促進する因子である血管内皮増殖因子(VEGF)を抑える作用のある抗血管内皮増殖因子(VEGF)薬が第一選択になります。抗VEGF薬にはルセンティスとマクジェンという2種類の薬があり、どちらの薬も眼の中の硝子体というところに注射します(硝子体注射)。硝子体注射は一度で終るのではなく、何度か注射し、様子をみて、再発があれば再度注射するという治療方法です。もう一つの治療法は光線力学療法(PDT)という治療法で、ビスダインという薬を点滴し、その後専用のレーザーを照射し、新生血管を詰まらせる方法です。こちらも繰り返して治療が必要となることもありま す。病状によっては、抗VEGF薬と光線力学療法を組み合わせて治療することもあります。
萎縮型は現在のところ治療法がありません。
加齢黄斑変性を予防するためにサプリメントが有効であるという報告があります。それ以外にも緑黄色野菜や禁煙が有効であると言われています。

7. 研究班

大路正人 (研究代表者、滋賀医科大学)
辻川元一 (研究分担者、大阪大学)
白神文雄 (研究分担者、香川大学)
高橋寛二 (研究分担者、関西医科大学)