神経系疾患|セピアプテリン還元酵素(SR)欠損症(平成23年度)

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1. 概要

2001年、Bonafeらにより、髄液中の5ヒドロキシ酢酸(5HIAA)とホモバニリン酸(HVA)の低値、ビオプテリンとジヒドロビオプテリンの高値を示す小児期発症の進行性精神・運動遅滞として初めて報告された。2005年、Nevilleらによるマルタ島の家系7症例の検索から病像が明らかにされた。

2. 疫学

主に地中海周辺で患者の報告が多く、地中海地域に患者血統が存在する可能性が示唆されている。本邦での報告例はまだなく、2009年度に施行した本研究班による全国調査でも患者は見いだされなかった。遺伝形式は常染色体劣性遺伝を呈する。

3. 原因

培養皮膚線維芽細胞の分析により、セピアプテリン還元酵素(SPR)の不活性化が明らかにされ、2p14-p12に位置するSRR遺伝子異常が病因として解明された。

4. 症状

Nevileらの報告では全例で乳児期からの運動発達遅滞と言語発達遅滞を含む認知機能発達遅滞を示した。そのうち6例では日内変動を伴う運動障害や早期からの眼球回転発作を示し、5例には初期に低緊張を伴うジストニア、2例にパーキンソン様の振戦が認められた。乳児期には全例が躯幹の筋緊張低下を示した。乳児期後半から幼児期には舞踏運動や球麻痺症状を認めた症例もあった。睡眠により一部の運動障害の改善がみられ、眼球回転発作の消失をみた症例もあった。

5. 合併症

症例により症状の強度が異なり、眼球回転発作、書痙が認められるが、これらは主病変の程度、ひろがり、また、年齢に起因するもので、合併症とはいえない。診断は髄液HVA、5HIAAの低下とビオプテリンとセピアプテリンの上昇でなされる。確定診断は遺伝子検索による。

6. 治療法

運動症状には脱炭酸酵素阻害剤を含むL-Dopaが著効を呈す。球症状、眼症状、振戦は完全に消失する。全例で歩行は可能となるが、歩行パターンは改善しない。これは、ロコモーションの障害の存在を示す。しかし、振戦、ジストニアは軽度であるが残り、また症例によっては振戦が出現したり、治療前に振戦をみた症例ではL-Dopa投与後に書痙を示した例がある。L-Dopaは認知機能を改善させない。また、2歳に筋緊張低下、軽度認知機能の低下で発症、6歳で車いす使用となり、14歳でジストニアが発現した症例では、14歳時のL-Dopaと5ヒドロキシ・トリプトファンが劇的効果を示したことが報告されている。SPR欠損ではドパミン(DA)とともにセロトニンの低下が示唆され、また、運動症状からは瀬川病action typeと類似の病変、すなわち視床下核へ入力する黒質線条体終末部のDA欠失が予想される。これらの解明が病態、治療法の解明につながる。

7. 研究班

小児神経伝達物質病の診断基準の作成と新しい治療法の開発に関する研究班