神経系疾患分野|牟婁病:筋萎縮性側索硬化症/パーキンソン認知症複合 (ALS/PDC)(平成23年度)

むろびょう:きんいしゅくせいそくさくこうかしょうぱーきんそんにんちしょうふくごう
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1. 概要

紀伊半島南部とグアム島は、筋萎縮性側索硬化症 (ALS) の世界的な多発地域として知られている。これらの地域には、パーキンソニズムと認知症を主症状とする特異な神経変性疾患であるパーキンソン認知症複合 (parkinsonism-dementia complex、PDC) も多発している。ALSとPDCは、同一家系内に発症者がみられるなど密接な関連があり、同一疾患の異なる表現型と考えられ、両者はまとめて牟婁病 (ALS/PDC) と呼称される。

2. 疫学

数十人〜100人程度。紀伊半島南部出身もしくは居住歴のある、認知症、パーキンソン症候群もしくは運動ニューロン疾患を呈する患者では、牟婁病の可能性を考える必要がある。

3. 原因

これまでに、遺伝説、環境因説 (微量ミネラル/重金属説、ソテツに含まれる神経毒)、ウイルス説などが提唱されたが、確立したものはない。牟婁病の中枢神経系には、異常にリン酸化されたタウ蛋白が多量に蓄積しており、神経細胞死との関連が推察されている。また、近年、前頭側頭型脳葉変性症と筋萎縮性側索硬化症で同定されたTDP-43とパーキンソン病に出現するα-synuclein の蓄積も認めら、複合蛋白質蓄積病のひとつと考えられる。家族内発症が多いことから、環境要因と遺伝要因の複合作用によって発症するものと考えられる。

4. 症状

紀伊半島のALSの臨床像は、基本的にその他の地域の通常のALSと大差がない。すなわち、球麻痺、四肢筋萎縮、錐体路徴候が主症状で、病期の進行とともに呼吸筋麻痺が出現する。発症年齢は、平均60.0歳で、球麻痺で発症するものが多い。約30%にALSもしくは、PDCの家族歴がある。一方、PDCの主症状は、物忘れや意欲低下を主徴とする認知症とパーキンソン症状で、多くの症例で運動ニューロン徴候を合併する。PDC症例の70%以上にALSもしくはPDCの家族歴があり、平均発症年齢は66.5歳である。

5. 合併症

転倒などによる外傷、嚥下障害による誤嚥性肺炎や寝たきり後の尿路感染症、褥瘡など。

6. 治療法

有効な治療法はない。L-dopaは、一部の症例のパーキンソン症状に対して有効なことがある。
症状は緩徐進行性で、平均余命は、ALSタイプが3〜5年、PDCタイプが約7年である。

7. 研究班

牟婁病の実態の把握と治療指針作成班