筋疾患分野|筋強直性ジストロフィー(筋緊張性ジストロフィー)(平成23年度)

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1. 概要

成人で最も頻度の高い筋ジストロフィー症であり、病名のごとく筋強直および筋萎縮を特徴とする。しかし骨格筋だけではなく、多臓器を侵す全身疾患である。常染色体優性遺伝であるが、子の世代のほうが症状が重くなるという表現促進現象を認める。軽症例では本症と気づかれないことも多い。また、出生時より著明な筋力低下を示す先天型筋強直性ジストロフィーというやや特殊な病態もある。平均寿命は55歳程度とここ20年間改善がみられていない。

2. 疫学

筋強直性ジストロフィー1型(DM1)は人口10万人当たり7人程度とされる。2型(DM2)は本邦では1家系のみ同定されている。

3. 原因

1型と2型の二つのタイプが存在する。本邦ではほとんどが1型であり、19番染色体に存在するミオトニンプロテインキナーゼ(DMPK)遺伝子の3’非翻訳領域に存在するCTG反復配列の異常な伸長が原因である。反復が35回以下が正常、50回以上が異常とされ、先天型では数千以上と非常に増加している。反復配列が異常に伸長したmRNAが、他のmRNAのスプライシングに影響をおよぼし多彩な症状を呈することが近年明らかとなってきている。

4. 症状

側頭筋・胸鎖乳突筋や四肢遠位優位の筋力低下や萎縮を示す。手を強く握ったり、診察用ハンマーで母指球を叩打した時に、筋強直現象が生じる。また、心病変(心伝導障害、心筋障害)、中枢神経症状(認知症状、性格変化、傾眠)、眼症状(白内障、網膜変性症)、内分泌異常(耐糖能障害、高脂血症)などを示す。軽症例では、筋症状が目立たず、白内障・耐糖能異常のみを示すことがある。西洋斧様の顔貌、前頭部脱毛は診断に役立つ特徴である。

5. 合併症

呼吸筋筋力低下に加え、呼吸中枢の障害も加わり、呼吸不全を来しやすい。誤嚥をしやすく肺炎を合併しやすい。呼吸・嚥下障害による呼吸不全・肺炎と心伝導障害による致死性不整脈が生命予後に最も関与する。突然死による死亡も多い。種々の良性・悪性腫瘍も合併しやすい。不妊症・早産・死産などの周産期異常も認めやすい。本症であると気づかれないまま麻酔・手術を受け、抜管困難など術後合併症を起こした後に本症と判明することもある。

6. 治療法

現時点では根本的な治療は存在せず、対症療法にとどまる。筋力低下については装具や車いすの使用、拘縮予防のためのリハビリテーションを行う。筋強直が非常に強い時には抗不整脈薬・抗てんかん薬などによる薬物投与を行うこともある。不整脈についてはペースメーカーや植え込型除細動器(ICD)の適応となることもある。呼吸障害に対しては非侵襲的人工呼吸法が用いられる。

7. 研究班

筋チャネル病および関連疾患の診断・治療指針作成および新規治療法開発に向けた基盤整備のための研究班